第2901話 闇で蠢く者編 ――依頼――
ソラと瞬の飛空術の実用試験の最中に発見された大空に浮かぶ謎の巨大な遺跡。それは『星神』により滅ぼされた超古代の文明の遺跡であった。
その調査報告を纏め皇国に提出したカイトであったが、そんな彼は遺跡に興味を持った皇帝レオンハルトにより遺跡の早期復旧を命ぜられる事になり、今度はそれに向けてマクダウェル家として動き出す事になってしまう。
というわけで改めてマクダウェル家として調査隊を組織したカイトは学者達に調査を任せると共に駐屯する軍に種々の注意点を伝達。後は現地の部隊に任せて自身はマクスウェルに戻って日常へと戻る事にするのであったが、そこに舞い込んできたのは殺し屋ギルドがついに動いたという一報であった。とまぁ、動いたわけなのであるが。カイトからすると別に特に気にする事なく日常をというわけであった。
「で、お前結局またあの遺跡で何やってんのさ」
「皇帝陛下からの勅命で遺跡の早期復旧をせにゃならんようになった……ああ、事前に言っておくとお前や先輩にも追々手伝って貰わないとダメかもしれん」
「どゆこと?」
ここ暫くまた足繁く遺跡に通っていたカイトの言葉に、ソラが驚いた様に目を見開く。一応冒険部からするとあの案件はもう終わった話だ。なのになぜいまさら、と彼が思っても無理はないだろう。
「色々とあるんだよ……まぁ、あの遺跡の機能に陛下が興味を持たれてな。それを使う上でお前らが必要になるかもしれん、となったんだ」
「なんで俺らが」
「どうにもあの遺跡を使うと契約者になるのに必要な聖域を探す事が出来るかもしれないみたいでな……オレからすると眉唾ものでしかないんだが」
「出来るのか?」
若干の辟易を滲ませるカイトに、ソラは驚きと僅かな期待を滲ませる。これにカイトは首を振った。
「上手くいくとは思わんよ……が、それでも何かしらの見込みはあるのではないか、というのが陛下の見立てだ。ぶっちゃけ陛下自身上手くいくとは思っていない様子ではあったが」
「ってことは完全無駄骨確定してるみたいなもんをやってんのか?」
「まぁ……無駄骨確定かはやってみんとわからんが。無駄骨の可能性が高いんじゃないかなー、とは全員が思ってる。まぁ、だからぶっちゃけ失敗しても問題はない。誰もがそりゃそうだ、で終わるからな」
「はー……貴族ってのも大変だなー……」
貴族といえば好き放題やっているようなイメージがあるし、一部には好き放題やっている貴族も確かにいる。が、カイト達最高位の貴族達は言ってしまえば中間管理職みたいなものだ。
好き勝手は勿論出来ないし、皇帝の無茶振りを直接受けるのは彼らなのであった。というわけである意味そんな無茶振りを受けているカイトにソラは大変だな、と思うばかりであった。
「ま、そういうわけでな。遺跡の起動というか遺跡の運転でどうしても加護を持つ奴が必要になる可能性が高いというのが推測だ。となるとマクダウェル領……いや、マクダウェル家近辺で誰が使いやすいか、となるとお前らになっちまうんでなぁ」
「そういや、マクダウェル家で加護を持ってる人って居ないのか?」
「居るよ。ただ……あー……まぁ、色々とあってな。そこいらが使えないんでお前らって話だ」
「ふーん……?」
なぜ使えないのかはわからないが、取り敢えず使えない事は事実らしい。何故か言葉を濁したカイトにソラはそんなものなのか、と思考を放棄していた。まぁ、彼らにしてもこういった事への協力は今に始まった事でもない。カイトがやれと言われればやるだけで、気にする意味もなかったようだ。
(まぁ……ウチの奴で何かがあって面倒が引き起こされたら面倒だからつぶしが利く冒険者を使えってのがあるんだが……流石にそれは言えんわなぁ)
「どした?」
「なんでもない……あ、そうだ。ソーニャ。この間の依頼だが精査はどうなった?」
僅かな内心の苦笑を目ざとく見て取ったソラの追求から逃れる様に、カイトは先に遺跡から戻ってきた時に精査していたという大規模な依頼についてをソーニャに問いかける。これに彼女は一通の依頼書とそれに付随する書類の束をカイトへと提出した。
「完了しています。こちら依頼書と、それに伴う見積書などです」
「よし……ふむ……ほぅ。領土を跨いでの依頼か。デカいキャラバンだな。この規模は割りと珍しいな……」
「冬に備えた備蓄を皇都へ移送する商隊の護衛任務ですね」
「なるほどな……」
確かにそうなるとユニオンとしては依頼はなるべく信頼の置けるギルドに頼みたいだろう。カイトは今回の輸送物資が非常に重要なものである事を理解する。
今回の物資は冬の皇都の民の糊口をしのぐのに重要な食料だ。量が量なので下手なギルドに任せると横流しの危険も有り得たし、規模が規模なので依頼出来るギルドも相当限られるのであった。
「ふむ……あ、ソラ」
「おう?」
「お前、この依頼頼むわ」
「え? あ、俺? なんで?」
「これ、ミナド村が経由地に入ってる。冬になるとあそこらに行く用事ってのはめっきり減っちまうから、下手をすると年末まで行く機会ないぞ。顔見せて来い」
「あ、そういうこと……わかった。そういう事なら有り難くそうさせて貰うよ」
やはり農村になると冬は閑散期となり、動きがあまりなくなってしまう。運ぶ物がないのだから当然だろう。そうなるとどうしても向かう理由がなくなってしまうため、年末年始の挨拶などでもないと行けなくなってしまうのだ。そうなる前の最後の機会の可能性があったので、ソラに率いさせる事にしたのであった。
「頼む……ああ、規模が規模だし、今回のキャラバンだといくつかに分かれて物資を回収。最終的に一つになって皇都を目指すルートだ。先輩」
「ん?」
「すまんがソラのフォローを頼む。部長連も何人か連れて行ってくれ。かなりデカい依頼だ。総指揮と商隊との折衝はソラに任せて実務の担当を」
「わかった」
どうやら冬前の最後のデカい依頼になりそうだな。カイトは依頼書をソラに回しながら、それなら自身はどうするかと考える。流石にソラが総司令官として動く以上、彼まで動く意味はない。なので彼はフリーになるのであった。
「ソーニャ。何か手頃な依頼はあるか? 割りとデカい依頼ならオレがやるか、とも思ったんだが……」
「……面倒な依頼ですか?」
「そうであれば有り難いね。高額な報酬があればなおよし」
「はぁ……探しますので暫くお待ち下さい。先の依頼以外にもいくらか依頼がありましたので、その中から探させて頂きます」
「頼む」
何度か触れられているが、面倒な依頼は長くユニオンに残ってしまうのでユニオンとしてはあまり良い顔が出来ない。そしてマクダウェル家としても領内の困りごとが放置されてしまっているというのはあまり良い状況とは言い得ず、それならとカイトが処理するという流れが出来上がりつつあった。
「……まぁ、そこら何か考えなきゃならんのだがなぁ……」
「何がですか?」
「ああ、いや……こっちの話だ」
これまた今更であるが、カイトはマクダウェル公カイト。領主だ。その領主でないと対応出来ない、もしくは領主が対応してくれるというのは領民達からすればこれ以上なく頼もしい事だろうが、ユニオンとしてもマクダウェル家としてもあまり良い顔は出来ないだろう。
というわけで、こういった高難易度の依頼の攻略が可能な人材の育成は今のカイトの悩みの一つという所であった。そんな彼はそれについてどうするか、と少し考えるわけであるが、そこにソーニャがいくつかの依頼書を持ってくる。
「……今回、お眼鏡に叶いそうなのはこれぐらいかと。良かったですね、仕事があって」
「本当にな」
ソーニャの言葉にカイトは笑う。というわけで、ソラ達に大規模な依頼の処理を任せたカイトは自身は面倒な依頼を達成するべく動く事にするのだった。
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