第2896話 大空遺跡編 ――再起動――
昨日はご心配をお掛けしました。一応ちょっと復帰しました。
ソラと瞬の飛空術の実用試験の帰路でカイトが発見した大空に浮かぶ謎の遺跡。それは『星神』により滅ぼされた数千年前の超古代の文明の遺跡であった。
というわけで、その調査を行ったカイトは第一次報告を皇国に提出したわけであるが、そこで彼は契約者の確保を目的として皇帝レオンハルトより遺跡の早期復旧を命ぜられる事になってしまっていた。
「で、私まで駆り出されたってわけなー」
「しゃーないだろ、陛下のご命令なんだから」
「まー、そうだなー」
どこか辟易とした様子のカイトに対して、アンブラが楽しげに笑う。ティナの言った通り、再起動を行うためにはまず外壁の修繕を行う必要がある。今のところ自壊する可能性は低いそうなのだが、使用するとなると話は別。使用した衝撃で外壁が吹き飛んでおかしくないからだ。
「で、こいつがその素材かー……確かに面白い組成になってるなー」
「そうなんだよ……で、ティナからの依頼としてはこいつの組成をもっとしっかり割り出してほしい、って話」
「そうだなー。組成が正確にわかれば錬金術でどうやったら作れるかはおおよそ分かるからなー……でも難しいぞー? こいつには吸魔石が使われてる。吸魔石が使われてる素材の解析ってのは容易じゃないんだなー、これが」
「知ってる。あいつもそれがわかってるからお前に回したってわけだろ」
何度も触れられているが、吸魔石は魔力を吸収し魔術を無効化してしまう効果がある。一応錬金術の解析の段階で表面ぐらいは見通せるのだが、内部まで見通そうとするとその力が邪魔をして相当に高度な腕を持っていないと出来ないのであった。
「だろうなー……で、いつまでにとかってあんのかー?」
「急ぎは急ぎだが、超特急ってわけじゃない」
「んー? そうなのかー? 皇帝陛下のご命令って話なら急がなきゃと思うんだけどなー」
「一応そいつの解析が終わる終わらないに関わらず外壁の補修工事は行うし、そいつの量産が間に合うとは到底思わん。間に合ったら相性の良い補修材を用意出来る、って程度になる」
「あー……確かにこいつの量産は間に合いそうにないなー」
カイトの言う事は尤もだ。アンブラはカイトから提出されたサンプルを見ながら、こいつの量産は現状では到底時間が足りない事を理解する。
「まー、でも急ぎは急ぎなんだろー?」
「そうだなー。急げるなら急いで貰った方が有り難い」
「有り難いって顔じゃないなー」
「あははは。本音を言えば面倒くさい物を遺しやがって、って思ってるからな」
「あはは。あんたらしいなー」
本音を隠すことなく明かしたカイトに、アンブラが楽しげに笑う。と、そんな彼女がふと問いかけた。
「そういや、その遺跡ってそのままにしとくのかー?」
「どういうことだ? そのままも何も修繕やるって話だろ?」
「あー、そうじゃなくてなー。高度に関してだー。相当高い所にあるんだろー?」
「あー……それな。流石に今のまま放置はやってられん」
あの遺跡は全長で数百メートルもあるのだ。それが数千メートルの高度から落下すればその衝撃がどれほどのものかは考えたくもない。特にこの近くにはマクスウェルがあり、良く行商人達が通り掛かる。万が一の場合にその被害を考えれば、到底許容出来るわけがなかった。
「一応、高度は自由に変えられるらしい。ティナ曰く広範囲の探索をしようとすれば高高度に上げる必要がある、って塩梅だそうだ。逆に地中深くの鉱石資源とかを探したいなら地上付近の方が良いんじゃないか、とも言ってたな」
「なるほどー。そいつは道理だなー」
言われてみればそれはそうだ。アンブラは探したい物によってどこを探せば良いか異なる事を思い出し、それなら高度を自由に変更出来ねばおかしいと理解する。とはいえ、そうなると気になる点があった。
「でもそうなると高高度にあった理由ってなんなんだろうなー」
「それはわからん。航海日誌みたいなものでもあれば、とは思うんだが……流石にそこまで調査は出来てなくてな」
「あー……あ、そういや今回はあんたの所で詳細な調査やらなかったんだなー」
基本冒険部では未知の遺跡だろうと内部の調査までしっかり行う事が多い。が、今回は表層部の調査と施設の再稼働が可能かどうか。その程度しか調べていなかった。
「ああ、それか。いや、流石に今回の遺跡はウチの専門じゃなかったからな。後は超古代の文明に関しちゃ調べたいって学者が多すぎてなぁ……噂を聞き付けた学者の先生方が調査させろ、ってうるさくてな」
「あー……確かにあの時代の遺跡って見付かるのが極稀過ぎるからなー。専門家からすりゃ再稼働まで出来た遺跡なんて垂涎ものだろなー」
「だろうな……まぁ、そういうわけで安全性の確保ができ次第引き継ぎ、って感じになったわけ」
本当に学者の先生達は危険性も関係なしに突っ込んでくるから困る。カイトはいつもの事と言えばいつもの事な話にため息を吐いた。とはいえ、かといって冒険部にメリットがなかったわけでもなかったらしい。
「でもまぁ、ウチとしても助かったは助かった。あの遺跡はどう見てもウチの活動に関係がありそうな遺跡じゃなかったからな。一応、ウチが遺跡探索を専門にしてるのと竜騎士部隊を独自に保有してるからウチで請け負うしかなかったが……あまり時間を掛けたいわけじゃなかった」
「そうなのかー?」
「ウチの上層部をほぼ全員駆り出したんだ。あまり時間は掛けたくなかった」
というわけで、ウチも引き継げた方が有り難かったってわけ。カイトはアンブラに対してそう続ける。
「なるほどなー……ってことは今度行く時は学者達も一緒って事かー?」
「まぁな……まぁ、先に高度は下げて飛空艇……この場合は横付け出来るタイプの物か。そいつやらを用意してる所だから、そいつが整ってからだな。後は軍の用意やらも必要だし」
「あー……軍になると流石にすぐには動かせんかー」
「だからウチが事前調査を請け負ったわけだからな」
今回カイトが冒険部に調査を依頼した理由の一つには軍よりも冒険者達の方がフットワークが軽い事があった。マクスウェルに近い所で見付かっていたため、早急に危険性を判断しなければならなかったからだ。そうなると軍より冒険部の方が良かったのである。
「そっかー……で、どうするんだー?」
「何が?」
「契約者。増やさないと駄目なんだろー?」
「駄目っていうか……試練に挑むにせよ何にせよ、契約者なんてそう簡単になれるもんじゃない。それは流石に陛下もわかっている。それが出来るなら今頃契約者なんて特に珍しいものでもなんでもなくなってる」
「そりゃそうだろうけどなー。それの可能性を僅かでも上げられるんじゃないか、って期待されてるわけだろー?」
「嫌な話だ」
確かに本気でやろうとすれば不可能ではない。カイトは内心そう思いながらも、それはあくまでもかつての様にもはやそれをするしかない状況に追い込まれた場合にしかしないと決めていた。契約者とはおいそれと増やして良いものではないのだ。
「……まぁ、そりゃ良いわ。で、そっちの方こそどうよ。学生達は育ってるのか?」
「んー。今期は普通だなー。光る時はぴかっと光ってるんだけどなー。こいつはばかりは世代ってのもあるんだろうけどなー」
一応、カイトは魔導学園の創設者という立ち位置だ。なのでそこで教職を務めるアンブラには定期的に学生の育ち具合などを聞いていた。というわけで、その後は少しだけ魔導学園の事や雑談に走ってカイトは改めて遺跡の調査の準備に取り掛かっていくのだった。
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