第2895話 大空遺跡編 ――再起動――
ソラと瞬による飛空術の実用試験の帰り道にカイトが発見した謎の遺跡。それはかつて存在したという超古代の文明が作り上げた遺跡であった。それの調査の結果カイトは遺跡がかつて様々なものを探索するために作られたものであると知り、領主の責務としてそれを皇国へと報告。
皇帝レオンハルトより、遺跡を活用した契約者を増やす事は出来ないかと探る様に命令をくだされる事になっていた。というわけで、そんな命令を受けたカイトは報告会の後に皇城の客室にて盛大に溜息を吐いていた。
「はぁ……探せるか、って言われりゃ無理なんじゃないかと思うんだがねぇ……また厄介な物を遺してくれた」
『そんな楽に見付かるならもっと契約者増えてるはずだけどねー』
「ってことは案の定見付からなかったと」
『一応、取っ掛かりぐらいはある……かなぁ』
「マジかよ」
尚更厄介な話になりやがって。カイトはシルフィの言葉に盛大に顔を顰める。というわけで、そんな彼がシルフィにそのまま問いかけた。
「どんな原理を使えば聖域を探し出せるなんてなるんだ? オレみたいにパスを通じて聖域が感知出来る、ってわけでもないだろう」
『原理としては似てるよ……ただ規模が馬鹿みたいに大きくなるけど』
「とどのつまり、オレが一人でやってる事を施設にサポートさせて探そう、って腹か?」
『そういう事だね。カイトみたいな巨大パスが無いから施設で増幅してやろう、ってこと』
「また無茶苦茶な事をするなぁ……」
それでやっても上手くいくかどうかは完全に賭けだろうに。カイトはかつて存在した文明が考えたらしい手法に盛大にため息を吐く。とはいえ、そう言われてみればわからないではない事は幾つかあった。
「とはいえ……それならわかりもする。なるほど。あの構造材が各属性で魔力を分割出来る様になっていたのは、増幅するために必要だからか。単一の属性の、それも相当膨大な魔力が必要になるぞ。どんな貯蔵施設を持ってるんやら」
『さぁ。それは僕も知らない』
「興味もないだろうに」
『無いねー』
知ろうと思えば今の様に自分達が関わらない事でも知る事の出来るシルフィであるが、だからこそ興味がなければこの様に興味無いの一言で終わるのだった。
「にしても厄介だな。契約者か……」
『別に僕らはたどり着ければ試練を誰でも受けて良いよ?』
「契約者になったらなったで厄介事が山のように降りかかる」
『人の世はいつも面倒だね』
「面倒なんだよ、人の世ってのは」
他世界への隠居という選択肢があるにも関わらずそれをしていないカイトはそんな自身を自嘲気味に笑いつつ、それだからこそ人の世なのだとあるがままを受け入れていた。と、そんな彼にふとシルフィが問いかける。
「そういえば時々思うんだけど」
「何だよ、実体化して」
「気分だよ、気分」
「まぁ、良いけどさ……で、何だよ」
「魔王に戻りたい、とか思わない?」
「……あっははははは! なるほど。確かに魔王であった頃はこんな人の世の悩みなんて無縁だったもんなぁ」
当たり前であるが、カイトが魔王であった頃にも大精霊達は普通に存在している。なんだったら歴代の勇者達の何人かは大精霊達と契約を交わし、カイトと戦ってきた。
そして勿論、大精霊達はカイトの真実を知っている。あの頃のある種の自由気ままさが懐かしくないか、と思ったのだろう。というわけで、一頻り笑った後。カイトは首を振った。
「思わんよ、別に。戦いに明け暮れる日々ってのは存外面倒だしな。いや、自由奔放にやれる、っていうのなら魔王に戻りたいというのも一理あるが……人の世は面白い。それに巻き込まれこうやってため息を吐くというのも良い経験だ」
「その昔願った?」
「……いや、流石にこんな面倒事は願ってないが。それを考えりゃ、もっと楽に生きてぇなぁ……」
どこでどう間違った結果こうなったんだろう。カイトはかつて冒険者だった頃を思い出し、再び盛大にため息を吐く。こうして、カイトの皇都での夜は更けていくのだった。
さてカイトが皇都で一夜を明かした翌日。彼はマクスウェルに戻ると、今回の皇帝レオンハルトからの指示をティナに伝えて相談を行っていた。
「はぁ? あの施設をなるべく早い内に使え?」
「そういう命令なんだからしょうがないだろ」
「無茶苦茶を言うでないわ。あの施設がどれだけ長い年月放置されておったかはお主も見てわかろう。確かに施設の構造材が風化や劣化に強いおかげである程度は保全されておったが、それでも外周部はボロボロ。いつ自然崩落してもおかしゅうないぞ」
盛大に顔を顰めるカイトに、ティナもまた盛大に顔を顰めながら無茶振りも過ぎると口にする。そんな彼女に、カイトは問いかける。
「外側の臨時的な補修を行う場合、どれだけ時間が必要だ? 物資と人員に関しては必要ならば各貴族から供与させると皇帝陛下のお言葉だ」
「つまり必要な物資と人員はやるからやれと言うわけか……まぁ、それであるのなら話は若干変わってくる」
いつもみたいにマクダウェル家だけでやれと言われるのならティナも無理というが、他の所からも人を使えるのなら事情は変わったらしい。カイトの言葉に僅かだが前向きな姿勢を見せる。
「必要な人員はリストアップする。主にドワーフ族やらを中心とした石材の扱いに長けた種族の助力が欲しい。使う場合はまず何を差し置いても施設全体の修繕をやらねば、施設の起動の衝撃で自壊しかねん。後は当然、皇都の中央研究所も駆り出す。探査ユニットと思われる施設最下部に取り付けられたユニットを取り外し、修繕なり新造なりせねばならん。カバーはあったが、内側がどれだけ傷んでおるか……わかったものではない。修繕で良いならあちらで良いじゃろうし、新造となると余が動かねばなるまいて」
「わかった。必要な人員についてはリストを。中央研究所に関してはこちらから陛下に申し出よう」
「言うたからにはやってもらわねば困る」
流石にティナとしても現状でそこまで余裕はない。なので任せられる所は他所に任せるつもりだったようだ。
「そうしてもらおう……で、次の問題は貯蔵施設か」
「そこはまだ見付かっておらんが……どれだけ蓄積されておるかに応じて話は変わろう。もし守護者同様に最大までチャージされておるのであれば、それは余らにとって勿怪の幸い。すぐにでも使用可能じゃろうて」
「はぁ……ってことはまた数日はあの施設の中に籠もって探索の日々か。さほど広くないから良いがな」
「お主がやるのか?」
「オレが陣頭指揮執らにゃならんだろう。大精霊案件だし」
「なるほどのう……まぁ、トラップの危険性はほぼ無い施設じゃったから、防衛機構が再稼働せぬ今なら特に問題無いじゃろ。引き続き冒険部でやるのか?」
「流石に陛下の命令で巻き込むわけにゃいかん」
何より依頼でもないからな。カイトはここからは冒険部ではなくマクダウェル公としての動きとする事をはっきり明言する。まぁ、マクダウェル家を介して改めて依頼を出すのも一つ手ではあったが、カイトとしてはしないつもりだったようだ。
「妥当としちゃオレが冒険部からの案内役として同行する形でオレだけに依頼を出しておけば冒険部側としても問題はないだろう。後はまぁ、軍と大学やらの研究者達を動員して一気に探しちまう。流石にこの案件にそこまでの時間は掛けてられん」
「そうか……まぁ、とりあえず。余は余で施設の再稼働に向けて必要な準備を行っておこう」
「頼む」
兎にも角にもこれは皇帝レオンハルトの指示なのだ。となれば優先的に動くしかなく、カイトとしても無茶振りとは思うがやるしかなかった。というわけで、カイトは改めて超古代の遺跡の調査に赴く用意を行う事になるのだった。
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