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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第98章 演習編

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第2894話 大空遺跡編 ――その後――

 カイトがソラと瞬に付き合って飛空術の試運転に出たその帰り道。彼が見付けたのはルナリア文明よりも更に昔。もはや情報もほとんど残っていない超古代の文明が遺した遺跡だった。

 調査の結果その遺跡が大精霊の聖域さえ探索出来る優れた探査装置を有する施設である事を掴んだカイトはその後、数日掛けて報告書を取りまとめて第一次調査結果を皇国上層部に報告していた。


「以上が今回発見された古代文明の遺跡の調査結果となります。。まだ経年や風化による施設の劣化があるので使用こそ出来ないが、今後を考えれば十分に有効活用可能な遺跡であるかと」

「ほぅ……このご時世にサンプルさえあれば探索可能な超大規模の探索施設か。このご時世に有り難いものだ」

「かと」


 まぁ、カイトが直接報告する相手なぞ皇帝レオンハルトを置いて他にはいない。なので彼もやはり今回の遺跡は様々な用途で活用出来るかもしれない、と興味を示していた。そしてそれは勿論彼だけではなかった。


「陛下。それであればまず探索するべきは『振動石(ヴァイブ・ストーン)』かと。あれを用いた防衛装置の量産は何よりもの急務。我ら五公爵二大公の領地の重要拠点はすべてカバーできましたが、まだ貴族達の中でさえ配備出来ていない者は少なくない」

「少なくない、というよりもまだほぼ未配備と言って良いだろう?」

「……まぁ」


 笑う皇帝レオンハルトの指摘に、アベルは少しだけ言葉を濁しつつも認める。やはり彼らにとって最も急務なのは邪神達の復活に如何に対応するかだ。陽動程度での動きは見えていても、すでに大々的な動きが見えなくなって久しい。復活まで秒読み段階と思われた。


「うむ……我が国でさえこれだ。他国であれば何をか言わんやだろう。同士討ちを防ぐためには必須と厄介な話ではあるが……むぅ。どうしたものかな。ハイゼンベルグ公。各国の動きはどうなのだ?」

「ある程度の技術協力と技術供与はしております。また先ごろサンドラ政府より公式的に本件に関しては全面的に協力するとして、防衛装置に関する基幹技術の公開もありました」

「そうか。あれらも動いたか」


 やはりどこの国も邪神の復活は警戒しているか。ハイゼンベルグ公ジェイクから報告される各国の現状に関してを聞きながら、皇帝レオンハルトは少しだけ苦い顔だ。というわけで、彼はその原因を口にする。


「やはり巨大『振動石(ヴァイブ・ストーン)』は見付からんか。マクダウェル公。どうだ?」

「こればかりは如何とも。なにせ『振動石(ヴァイブ・ストーン)』も自然物ですので……」


 当然の話であるが、大きければ大きいだけ耐久性は高い。なので皇都やマクスウェルのような大都市を全面的に防衛しようとすると必要となる『振動石(ヴァイブ・ストーン)』は巨大となり、そもそもの産出量の少なさも相まってこれで手一杯だったのだ。


「か……それでも貴公らの尽力により最低限は手に入れられているだけ良しとするべきかもしれんな……」

「ある程度の被害はもはや目を瞑らねばならぬのかもしれません」

「かもしれんか……」


 あまり許容したい話ではないのだが。皇帝レオンハルトはハイゼンベルグ公ジェイクの厳しい一言に、苦い顔でため息を吐いた。


「リデル公。引き続き『振動石(ヴァイブ・ストーン)』の転売や横流しは見張ってくれ。一つでも、どんな欠片でも今は欲しい。俗物共に金稼ぎの道具にされるのは困る」

「かしこまりました。引き続き、裏の流通ルートの警戒を続けます」

「うむ……さて。それはそれで良いとして。ふむ……実に興味深い。構造材もだが、その機能もか」


 『振動石(ヴァイブ・ストーン)』については言ってしまえば今まで通り頑張って探して頑張って防衛装置を作っていきましょう、と言っているに等しい。なので皇帝レオンハルトとしてもあくまでも現状確認程度でしかなかったのだが、そんな彼は改めて今回発見された遺跡に視線を向ける。


「マクダウェル公。先にサンドラの麒麟児の魔導書は何も知らぬとの事だったな?」

「あれは嘘は無いでしょう。実際、あの性能を鑑みればそういう事も十分にあり得るのかと」

「そうだな。元より魔導書がそれぞれの分野に特化している事は俺も十分理解しているつもりだ……どれぐらい時間があれば解析出来そうだ?」

「優先度をどうするか、という所になります」

「高くはないな。優れているとはいえ、所詮構造材一つ。代用は色々と出来よう。どちらかと言えば施設の修繕に使う分を確保するのにどれぐらい必要か、という所か」


 確かにあの施設の構造材は優れていたが、あれで既存の建物のすべてを作り変えるとなると膨大な時間と予算が必要になる。その必要はないと皇帝レオンハルトは考えていたようだ。しかし施設の修繕は急ぎ目で行わせたいらしい。カイトは皇帝レオンハルトの言外の意図をそう読み解く。


「何か喫緊で探すべきものでも?」

「というより、気になる所ではあってな。まぁ、公はおそらくわからんよ。公の場合はあまりに異例過ぎるのでな」

「はぁ……」


 異例過ぎると言われている所を見ると、おそらく自分が勇者カイトである事かつ地球人である事を指摘されているのだろうな。カイトは苦笑気味な皇帝レオンハルトの様子にそう思う。というわけで、皇帝レオンハルトが教えてくれた。


「大精霊様の聖域を施設として探そう、という試みは今まで多くの国が行ってきた。それこそ公が世界を平和にした後であれば、金と時間を持て余したどこぞの貴族が探索隊を組織したという話も伝え聞く。それぐらいは公も聞いた事があろう?」

「まぁ、噂であれば。成功した事は無いだろうと思い詳しくは調べてはおりませんが」

「それはそうだろう。無論、我が皇国でも何人もの子息達が家督を継ぐ箔付けに契約者にならんとして失敗してきた。その事例は枚挙にいとまがない……正直俺も成功するとはとてもではないが思っていない」


 おそらくどれだけ時間と手間を掛けても、大精霊の契約者はなれるものではないだろう。皇帝レオンハルトは皇国の頂点に立ち七百年の歴史を受け継ぐ者であるからこそ、そう理解していた。

 彼は語らなかったが、皇族とて何人も同じ様に挑んで失敗してきたのだ。どこぞの王侯貴族が成し得るものではないだろう、という彼の判断は普通なものだろう。が、だからこそ興味が湧いたのだ。


「が、だからこそ興味が湧いた」

「だからこそ?」

「普通に考えれば到底無理な話だろう。俺もおそらく提案があれば即座に何を馬鹿な事をと却下する。が、おそらく公が見つけ出した施設は国や政府機関が主体となり作り上げたものだ。ならば何かしらの見込みがあったのでは、と思ったのだ」

「なるほど……確かにそれは一理あるやもしれませんね」


 カイト――ひいてはティナ達もまた――は自身が大精霊達を、そして聖域を詳しく知ればこそ頭ごなしに無理と断じていたが、政府が動いた可能性があればこそ何かしらのそこに可能性が見出されていたのではという皇帝レオンハルトの指摘は道理でもあった。


「うむ。となれば、その何かは俺や貴公さえ気付いていない何かである可能性がある。貴公がわからなかった何か……そう言われれば興味も湧こう?」

「なるほど……」

「確かに……」


 皇帝レオンハルトの同意を求める声に、カイトを除いた全員が賛同を露わにする。これが皇国であればたとえ皇帝レオンハルトに奏上されても、おそらくカイトの助言を受けて即座に却下されるだろう試みが実施されているのだ。


「一度……いや、数度。それで良い。試してみる事は出来るか? 邪神のみならず今後を……それこそ何百年も先さえ考えれば防衛装置の拡充と共に、戦力の拡充も必須。技術面であれば問題なかろうが……それ以外に必要であれば各貴族に必要な人員を要請する許可を与える。また、契約者になるにおいてその資格がソラくん達であった場合にもその許可を与える。可能性の有無を探れ」

「……は」


 先にも言われているが、契約者となるならば金や地位があれば良いわけではない。様々な要因が重なってなれるものなのだ。それがソラ達ならばそれはそれで皇帝レオンハルトは認める、との事であった。と、そんな彼はカイトの様子を見て苦笑を浮かべる。


「少し不満そうだな」

「彼らにそこまでの重責を担わせるのは心苦しいのでしょう。特にマクダウェル公の場合、自身の事もありますからな」

「なるほど……それはそうだが、今ならば公が居るだろう。勿論、必要なフォローを行う事は許可する。可能であれば契約者の確保を。これは公にしか出来ん事だろう」


 皇帝レオンハルトとてカイトに命じて契約者が増やせるわけではない事はわかっている。なので彼は改めて、可能であればとはっきり明言する。これにカイトも少しだけ渋々ではあったが了承を示した。


「かしこまりました。彼女らに相談してもどうにもならない時世ではありますので、施設の活用を前提として動きましょう」

「頼む……では、次の議題だ」


 これはどうやらいよいよ本格的に契約者の件で動かねばならないらしいな。カイトは内心で盛大にため息を吐く。そうして、そんな彼の鎮痛な面持ちを他所に、報告会は更に続いていくのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

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