第2893話 大空遺跡編 ――帰路――
ソラと瞬の二人が習得した飛空術の実用試験を兼ねた救援活動への参加。それに監督役として同行したカイトであったが、そんな彼が見付けたのは大空に浮かぶ謎の遺跡であった。
そんな遺跡の再起動を果たしたカイト達であったが、そんな彼らは遺跡の再起動を果たすと遺跡の最深部へと潜入。そこでティナから説明を受けて、この施設がサンプルやら大精霊達の大神殿を探したりするための施設である事を理解。おおよその調査が終わりを迎えた事もあり、遺跡を後にする事にしていた。
「……なぁ、カイト。一つ聞いて良いか?」
「ん? なんだ?」
施設最深部からの帰り道。聞かれたくないのか少しだけ声のトーンを落としたソラの問いかけに、カイトが小首を傾げる。
「大神殿、ってあれだよな? 契約者になる人が探すってやつ」
「そうだな……探すのも試練の一環という所はあるから、システムとして探そうとしても難しいかもしれん」
「難しいのか」
「わからんよ、流石に……が、少なくとも現代の文明では不可能と断じて良い」
少しだけ残念そうなソラに対して、カイトははっきり明言する。とはいえ、不可能ではないかもしれないというのがカイトの意見ではあったようだ。
「とはいえ……絶対に不可能かと言われりゃそれもまた違うだろう。結局大神殿とてこちら側の世界に接続されている。そこには必ず痕跡があるはずだから、その痕跡をなんとかサンプリング出来れば探せない事はないはずだ」
「ならそのサンプル数さえ確保出来てれば、ってわけか」
「そういうことだな……まぁ、そんなサンプル数をゲット出来るかと言われりゃそれもまた別の話ではあるが」
ここでカイトが述べていたのはあくまでも技術的に可能か不可能かというだけだ。理論上可能であっても現実問題で可能であるかはまた別問題なのであった。というわけで、そんな話を聞いたソラがふと問いかける。
「そういえばずっと疑問だったんだけど一つ良いか?」
「うん?」
「大神殿って結局どんな所なんだ? どんな書物を調べても、契約者の事は記載があっても大神殿? 聖域についての記載は一切無いんだ」
ここでソラの言う聖域というのは神々の住まう聖域ではなく、大精霊達が各個で保有する聖域だ。この聖域は完全に別の異空間として存在しており、ここにたどり着かねば契約者となる事は不可能なのであった。
「そりゃまぁ、そうだろうさ。聖域にたどり着いた奴なんて歴史上でも数える限り。契約者になったからって文章が書ける様になるわけでもない。執筆の才能はまた別だ」
「そりゃそうだろうけどさ……でもなんにも無し、っておかしくね?」
大抵どんなものだろうと何かしらの情報は残っているのだ。にも関わらず、大精霊達の聖域に関する情報はほぼ一切残っていないと言って過言ではなかった。というわけで、これにカイトが言及した。
「そうだなぁ……でもまぁ、仕方のない事ではあるだろう。ぶっちゃけてしまえば聖域の情報も完全に皆無というわけじゃあないんだ」
「だろうな……ってことは誰かが意図的に出ない様にしてる、ってわけだろ? お前?」
「オレか……まぁ、オレもその一人と言えばその一人か」
現代で情報を出さない様にしている根源は自身ではないか。そんなソラの問いかけに、カイトは笑う。実際、彼が意図的に出していない情報は山のようにある。それこそ語られない四体の大精霊なぞその筆頭と言っても過言ではないだろう。が、彼がすべての根源というわけではなかった。
「ただ完全にオレが情報を出さない様に通達を出している、というわけじゃない。お前も知ってるだろうが、大精霊達の眷属はわかるよな?」
「エルフとかドワーフとかだろ?」
「そ。シルフィならエルフ。ノームならドワーフって塩梅だな……その彼らの中には聖域がどこにあるか、と知っている奴らは居る。眷属だからな」
「そうなのか? それにしちゃエルフの風の契約者とかドワーフの土の契約者とかほとんどいないみたいだけど」
「そりゃお前……契約者だぞ? 彼らにしてみれば神にも等しい……いや、神以上の存在と言っても過言じゃない。おいそれと挑むわけがない」
それならもっと簡単かつ多くの契約者が居ても不思議じゃないのではないか。そんな疑問を口にするソラに、カイトは何をおかしな事をとばかりに笑う。
これについては完全に彼が眷属達が大精霊の事をどれだけ重要視しているかをわかっていない発言と考えても過言ではなかった。そしてやはりそうだったらしい。カイトの言葉に少しだけ彼は驚いたような様子を見せる。
「そんなもんなのか」
「そうだ……だから実はクズハは風の聖域の場所を知ってる。あいつはエルフの女王様だからな」
「エルフの……というかハイ・エルフの王族に伝わる秘密、ってわけか」
「そう……でもそんな塩梅なんだ。知っているのは眷属の中でもごく一握り。眷属達の中でも信望の厚い神官とか王族とかそのレベルだ」
「ってことは当然、よそ者は教えてもらえない、と」
「そういうことだな」
おそらくそういう者たちほど排他的である事は間違いないだろう。そんな予想を行ったソラに、カイトもまたはっきりとそうである事を認める。とはいえ、そうなるとそうなるでソラはやはりこれが気になったようだ。
「でもてことはお前良くそんな中で全員と契約出来たな」
「まぁ、だからこそって所はある。大精霊の契約者になってる、ってのは言ってしまえばそれだけで彼らからすると絶対的な信頼が出来る証みたいなもんだ。だからエルフだろうとドワーフだろうと、勿論人間だろうと無関係に顔パスだ」
「今のお前の状態と」
「そうだな……と言っても、流石に契約者の力なんて本来はどれか一つだけで十分だ。多重に契約するなんて馬鹿げた発想だし、後にも先にもオレぐらいしかやらんだろう。契約者になるための試練ってのも楽じゃないからな」
「お前は遊び感覚でやってた、って聞いてるけどな」
「あはは」
それについては否定できないから困る。ソラの少しだけ冗談めかした言葉にカイトもまた楽しげに笑う。とはいえ、これについては大精霊達もカイト達が必死になっている姿を見て楽しんでいるので、彼らなりのお遊びという所で良いのだろう。まぁ、その結果彼の身内が試練に挑む場合はカイト基準になってしまったりしてしまうので良い事ばかりではなかった。
「それは良いとしてだ……で、どうしたんだ急に」
「いや、純粋に興味があっただけ。どんな書物にも大精霊に関しての記載無いからさ。で、こんな施設見ると昔から情報ってなかったのかなー、って」
「そうだなぁ……流石にこの時代の文明についてはオレもわからんが、人なんてそう簡単に変わらないもんだ。それを考えりゃ、この時代もほとんど情報はなかったんだろう。まぁ、だからといってこんな機械的に探せるかと言われりゃそうでもないんだろうが」
ソラの言葉にカイトは当時の事に思い馳せながらも、おそらくこの施設の試みが成功した事はなかっただろうと口にする。ティナ同様にカイトもこの施設が大精霊達の聖域を探せた事はないだろうと考えていたようだ。
「そういやティナちゃんも同じ事言ってたな。上手く行った試しはないだろうが、って」
「だろう……考えてもみろ。大精霊達がその属性を司ってるんだぞ? その属性の力をどれだけ集めようと、あいつらが集められる力には到底及ばない。そして集めた所でそれをキャンセルする事だって出来る。上手くいくとすりゃ、そもそも向こうが招いてくれる場合ぐらいだ……それでも、こんなものに縋りたい事態が起きたのかもしれんがな」
「そっか……当時の人もそれぐらいわかってそうだもんな……」
一体当時に何があったのだろうか。カイト同様にソラも当時の事に思い馳せる。そうして、ふとした事から当時の事に思い馳せた二人は少しだけしんみりとした様子で遺跡についてを話し合いながら戻っていくのだった。
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