第2892話 大空遺跡編 ――探索室――
ソラと瞬の二人が習得した飛空術の実用試験を兼ねた救援活動への参加。それに監督役として同行したカイトであったが、そんな彼が見付けたのは大空に浮かぶ謎の遺跡であった。
そんな遺跡に噂を聞き付け調査隊への参加を申し出たルークを加えて調査に赴いたカイトは紆余曲折を経て施設の再起動に成功。再起動の最中にこの施設の機能をおおよそ把握したティナの案内を受けて、この施設を使うための部屋に向かう事になっていた。
「これは……こんなに部屋があったのか」
「そりゃ、流石にあれだけなわけがあるまい。それならこんな大きくなくて良いからの」
制御室からこの施設を使うための部屋に向かう道中であるが、その道中は幾つもの部屋があった。ちなみに、流石に今回はスルーしていたしここの調査は冒険部から報告を受けたマクダウェル家が組織する調査隊が行うのでカイト達が入る予定は今のところなかった。というわけで、そんな幾つもの扉を横目に見ながらカイトが問いかける。
「この部屋は何なんだ?」
「そうじゃのう……例えば施設の使用者やら神官が寝泊まりするための寝室という所か。無論様々な備品を収めた倉庫やらもあるじゃろうし、使用者用の食堂やらも整備はされておろう……多分じゃが」
「流石にそこははっきりとはわからんか」
「流石にの」
一応施設の大まかな機能やら部屋割りやらは再起動の折りに掴んでいたティナであるが、あくまでも大雑把にである。なので部屋の詳細などは流石に把握しておらず、それに関してはカイトも今後の調査の結果に期待としておく事にしたようだ。
「まぁ、そりゃ良い。とりあえずここは施設に関連する者たちの部屋という所じゃ。それを考えればこの施設の構造は至ってシンプルと言えよう。警備のゴーレムやらさえおらんからのう」
「そうか。施設の構造材そのものがゴーレムの役割を果たすから、現代文明やルナリア文明の様に専用の調整室やら製造室を設けなくても良いのか」
「そうじゃ……まぁ、お主もわかろうがそれは逆説的に言えば施設が機能停止に陥ればこの通り防衛機能さえ使えぬ状態になってしまったり、経年劣化などで誤作動を……おお、そういえばそこらの話をし忘れておったか」
カイトの言葉に応じながら話をしていたティナであったが、忘れていたと手を叩く。そうして彼女は先の制御室で手に入れた情報の一部を手持ち式のハンディターミナル――再起動の後に情報をコピーしておいた――を使って表示させた。
「これは再起動の際にログを確認したんじゃが、どうやら上にゴーレムが倒壊しておったのは施設の経年劣化によるバグで出現してしまったためらしい。この遺跡を拵えた者たちも流石に数千年単位で放置は考えておらんかったから、それは仕方がない事じゃろうが」
「そりゃそうか……そのバグに関しては?」
「防衛機構を停止しておるので問題はない。また再起動の際にもそこらのバグやらエラーのチェックは入る。問題はなかろう」
「そうか」
それなら遺跡の本格的な再起動に際して調査隊に被害が出る事はなさそうか。カイトはティナの言葉にそう判断する。というわけで、そこらの話を更に繰り広げながら歩く事暫く。一同は通路の果てにあった扉の前にたどり着いた。
「ここが、この施設で最も重要な部屋になる」
「ここだけ扉が両開きか」
「明らかに重要です、と言っておるじゃろう?」
今までは開き戸のような人一人が通れるサイズの扉のみであったが、たどり着いた部屋の扉のみ両開きで数人同時に出入りが出来そうな扉だった。それを見て楽しげに笑うティナであったが、気を取り直して扉の開閉を行うコンソールを立ち上げる。
「よし……これにさっきパクっておいた神官の情報を読み込ませて……」
いつの間に手に入れていたんだ。カイトは先程のハンディターミナルをコンソールに接続するティナの様子を見守りながら、内心でそうため息を吐く。まぁ、言うまでもなくデータをダウンロードした際一緒にダウンロードしていたのである。というわけでデータの読み込みが行われて暫く。重苦しい扉が音を立てて動いた。
「ん……良し。開いたな」
「……なんだ? さっきの制御室前の部屋と似たような感じだが……」
「みたいじゃな。流石に部屋の構造までは余もわからなんだ」
開いた扉の先にあったのは、九個の扉がある部屋に似たような台座とその周囲にある幾つものコンソールだ。そして外でああだこうだ言う意味もなかったので、一同はとりあえず部屋の中に入ってみる。
「で? 使い方の説明をするのにここに、というわけだったが……結局この施設はなんのために存在しているんだ?」
「うむ……では準備状態の画面を見せる事にしよう。おおよそこのコンソールの想像は出来るのでの」
どうやら部屋の構造こそわからなかったものの、どこでどうやればこの施設を使用出来るかはわかっているらしい。ティナはカイトの問いかけに応ずると、中央の台座ではなくその周辺にあるコンソールの幾つかを確認。その中で一番メインとなる物を見付けると、そこの前に腰掛ける。
「さて……うむ。案の定じゃな。これでこれをこうして……」
カタカタカタ。ティナはおおよそが自分の想定通りである事を確認すると、コンソールを操って施設のメインとなるシステムを起動。すると彼女の操作に合わせて中央の台座の上部中心が開いて、中からガラスのような物が顔を覗かせる。そしてそれが光り輝いたかと思うと、部屋の中心に巨大な一枚の地図が表示された。
「これは……世界地図か?」
「当時の、じゃのう。まぁ、大きくは変わってはおるまい」
「それでこの光点は……現在地というわけか。が、こんなもの何の意味があるんだ?」
「うむ。システムチェックの中で移動ユニット応答なしという記載があったので、おそらく本来はこの施設は自分で位置を動かせたのじゃろう。なので現在位置を知る必要がある、というわけじゃ」
「移動ユニット?」
「詳細はわからぬ。が、外周部に該当する装置は見当たらなかったので、経年劣化で失われたのやもしれん。外周部ではこの構造材でも劣化が激しい。何より移動ユニットがどのような物かはわからぬが、この構造材でない可能性は十分にあり得る。脱落が見られても不思議はあるまい」
カイトの問いかけに対して、ティナは一つ首を振る。どうやらこの劣化に強い構造材でない可能性が高いのではないか、というのが彼女の推測のようだ。
とはいえ、ここらについては今後マクダウェル家の組織する調査隊本隊が調べる物なので、今はまだ推測に過ぎなかった。そしてそもそもの話、この話は本筋ではない。なのでティナは本題であるこの施設の機能について言及する。
「まぁ良い。それは一旦横に置いておこう……メインシステム起動。と言っても探査ユニットは現在システムの再調整中じゃが」
「探査ユニット……? この施設は何かを探すための施設だったのか」
「うむ……まぁ、諸々探せる様にはなっておるらしい。今は経年劣化もあり流石にほぼ運用は不可能な状態じゃがな。探査ユニットも物理的・魔術的に調整せねば使う事は出来まいて」
そう言うティナは更にコンソールを操って、中央に表示される映像に探索可能範囲やらの情報を表示させる。やはりこの施設の規模やら当時の技術力の高さがあるからか相当広大な範囲を探索出来るようで、カイトの思う以上に広範囲での探索が出来る様子だった。とはいえ、そうなるとそうなるで一つ気になる事があった。
「で、結局のところこの施設は何を探すために存在するんだ?」
「何でもじゃな。台座中央にサンプルをセットするための部分がある様子じゃ。それからサンプリングを行い、施設周辺を探索するという感じか」
「なるほどね……ウチで使う物の巨大版という所か」
「そういう感じじゃな……ただし」
「ただし?」
「この施設の最大の要素はそこではない。まさかそんな事を考える文明がおったとはと余もびっくりじゃが」
小首を傾げるカイトに対して、ティナは楽しげに。されど少しだけ困ったような様子で笑う。というわけで、彼女は再度コンソールを操ってこの施設最大の機能を表示させた。
「大神殿探索機能?」
「うむ……この施設に蓄積される全エネルギーを使用し、大精霊様の神殿を探索する機能じゃ。全エネルギーというても単独の属性のエネルギーじゃがな。この施設の構造材が各属性に分割出来る様になっておったのはそういうわけじゃったらしい」
「はぁ? そんなものまで探索出来るのか」
「上手くいった試しはないじゃろうがの。そんなものが出来るほど大神殿とは甘くはあるまい」
驚きを露わにしたカイトに対して、ティナはあくまでも機能上は可能であるだけと明言する。そして彼女が少し困ったような顔をしていたのもそのためで、この機能はぶっちゃけてしまえばカイト率いるマクダウェル家には意味がないからだ。ある意味それよりはるかに高性能な探索能力を有する男が率いているのだから、当然だろう。
「ま、とはいえ使えぬわけではない。再調整やらの次第では今後上手く使えるかもしれん」
「何か用途が考えられるのか?」
「『振動石』じゃよ。あれの探索にもしかしたら活用出来るかもしれん。探査範囲がかなり広いみたいじゃからのう」
「なるほど……でも間に合いそうなのか?」
「びっみょーじゃな」
無理かもしれない。ティナはこれまた困った様に笑う。まぁ、今からシステムの再調整と物理的な再調整もしなければならないのだ。いくらマクダウェル家といえど、人員は有限なので間に合わないでも無理はなかった。
「ま、後はなんか探したい時にでも探せる様にしておいて、というので良いやもしれん。その探したい物が何か、という所やら色々とはあるがのう」
「そうか……まぁ、それに関しては本当のそのタイミングにならんとなんともか」
「そうじゃな」
結局今は使えないのだし、使える様になったタイミングにならないと何か探したい物はあるかと言われてもわからなかった。というわけで、一応施設の再起動は出来た事なので一同は部屋を後にする事にするのだった。
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