第2889話 大空遺跡編 ――八個の試練――
ソラと瞬による飛空術の実用試験を兼ねた救援活動。それに監督役として同行する事になったカイトであるが、そんな彼がその帰り道に見付けたのは大空に浮かぶ謎の遺跡であった。
調査の結果それがルナリア文明より更に昔。もはや情報もほとんど無い超古代の文明の遺跡である事を確認したカイトは竜騎士部隊を独自に保有する事から冒険部での本格的な調査の実施を決定。噂を聞き付けたルークを調査隊に加え、本格的な調査に乗り出していた。
というわけで、遺跡の再起動を目指して八個の試練に挑んでいたわけであるが、ソラと瞬の両名は雷の守護者を相手に苦戦を強いられるもソラの作戦に沿って活動を再開させていた。
「ふぅ……」
兎にも角にもソラの作戦には時間が掛かる。しかもその準備の間、ソラは身動きこそ取れるが戦闘は不可能になる。が、これ以上どうやっても攻める事が出来ない事もまた事実だ。というわけで、瞬はここからは一人での戦いと覚悟を決める。
「よし。ソラ。魔術の準備は任せる。どれぐらい掛かりそうだ?」
「多分、五分ぐらいかと。問題なのは数なんで……しかも二個三個とかじゃなく俺の限界超えないと駄目なんで、保存とかにどうしても結構時間使わないとなんっす」
「意外と掛からないな」
「いや、結構と思うんっすけど……」
戦闘中に五分というとかなり長い時間に感じられるかもしれないが、そこは感覚の差という所なのかもしれない。とはいえ、実際に何かをしていれば五分なぞあっという間だ。瞬としてはそこまで不安視していなかった。
「問題ない。まぁ、若干不安点が無いわけじゃあないが……それでも五分ならなんとかなる」
「すんません、頼んます」
瞬としては敵の攻撃がほぼ自分に通じない属性である以上、特段気負いというものは感じられなかったらしい。ソラとしてもそれならそれの方が良いと考え、そのままやってもらう事にする。というわけで<<地母儀典>>片手に何かの魔術の準備に取り掛かるソラを横目に、瞬は気合を入れ直す。
「さぁ、やるか」
こちらの出方を伺う雷の守護者を正面に見据え、瞬は改めて槍を構え魔力を総身に漲らせる。そしてそれに触発されたかの様に、雷の守護者の全身から僅かな紫電が迸り周囲を威嚇するかの様にばちんばちんと音が鳴り響く。
「……」
瞬間、両者動きを見せず停止する。そうして先に動きを見せたのは、瞬だった。
「はぁ!」
<<雷炎武・参式>>を起動した瞬は一瞬で雷の守護者の正面に肉薄すると、そのまま魔力で編んだ槍を投げつける。こんなものは当然の様に雷の守護者に避けられるのだが、瞬としてはそれで良かった。
「っ」
予想通り。瞬は自分とソラを一直線に据えるような形で移動した雷の守護者の姿を見て、僅かにほくそ笑む。馬鹿正直に一直線に肉薄したのはこのためだ。
ソラと瞬は一緒の場所に居た。そこから雷の守護者の真正面に移動した以上、彼ら二人を同時に狙える場所は二つ。それはソラの真後ろか、瞬の正面。即ちそのまま後ろへのスライドだけだ。そしてここで雷の守護者が選んだのは、そのまま真後ろへの移動だった。
「ふぅ……」
雷の守護者の指先に宿る巨大な紫電の塊を見ながら、瞬は一度だけ深呼吸する。当然だが、彼に避けるという選択肢はない。なのでこの次の攻撃はなんとかしなければならなかった。
「はっ」
瞬は自らに宿っていた雷を編んだ槍に宿すと、雷の槍と化したそれを天高く放り投げる。そしてその直後だ。雷の守護者の指先に宿っていた紫電が解き放たれ、半ばまで瞬をめがけて直進。が、ある瞬間に瞬が放り投げた雷の槍へとまるで吸い寄せられる様に昇っていった。
「よし」
さっき自分が吸い寄せられるような感じがあったから出来るのではないか。瞬はそう思ってやってみた思い付きが思いの外上手くいった事に満足げだ。そんな彼は今度は地面を蹴って雷の守護者の雷を吸収した槍を回収。再度地面に降り立つ。
「っ……いくらほぼ無効化でもこのレベルになると若干キツイな……」
あくまでもほぼ無効化というわけか。瞬は自分がまだ属性を完全に無効化や無力化出来るわけではない、と改めて実感する。とはいえ、それは制御できないほどではなく十分に気合で賄える範疇だ。故に彼は雷の守護者の雷を吸収した槍の穂先を雷の守護者へと向ける。
「いけ!」
槍の穂先を照準の様にして、瞬は魔力で無数の槍を編み出してそれを一斉に雷の守護者へと発射する。そうして発射された無数の槍は一直線に雷の守護者めがけて直進。それに対して雷の守護者はいつもの様に逃げるのではなく、まるでそれさえ飲み込むような巨大な雷を指先に蓄積。瞬目掛けて発射する。
「っ」
来る。瞬は少し自身の想定とは違った――彼の想定では移動する予定だった――ものの発射された雷に、瞬は手にした槍を指揮棒の様に操って投じた無数の槍を地面に突き立てる。
それら一つ一つには微弱だが雷が宿っており、一つ一つは大した事はないものの幾重にも渡って吸収して地面へと流し、瞬へと到達する頃には大した威力も残っていなかった。
「さぁ、どうする……?」
瞬がやれば良いのは時間稼ぎだ。なので無理に攻め込む必要は一切なく、故に彼は獰猛でそれでいて楽しげに笑いながら雷の守護者に投げかける。これに応じたわけではないだろうが、その瞬間。雷の守護者の姿が掻き消える。
「だろうと思ったぞ!」
おそらく移動するのはソラの後ろ。そう読んでいた瞬はソラを中心として正反対の場所へと移動。再度無数の槍を投じて雷の守護者の雷を無力化する。
「ふぅ……」
とりあえずこれで自分とソラを同時に狙い撃つ事は出来なくなったな。瞬は呼吸を整えながら、そう判断する。というわけで瞬は次の出方を伺うわけであるが、そんな彼が見ている前で雷の守護者が一瞬だけ消える。
「むっ!」
今までとは違う現象。瞬は一瞬だけ消えてこちらに迫ってきていた雷の守護者に、僅かに目を見開く。そうして驚きを露わにした彼に対して、雷の守護者はその身体に纏う雷を周囲に解き放った。
「っ……む?」
危険かもしれない。そう考え身構えた瞬であるが、雷の守護者から解き放たれた雷は一切瞬に届いていなかった。これに瞬は困惑を露わにするも、すぐにその意図を理解する事となる。
「なっ……いや、出来るか」
一瞬だけ驚きを露わにした瞬だったが、そんな彼はすぐに不可能ではないと首を振る。彼が目の当たりにしたのは、自身が突き立てた無数の槍を雷を利用して空中へと持ち上げる雷の守護者の姿だ。
雷の守護者の雷が吸い寄せられた以上、逆もまた可能だったのだ。というわけで、雷の守護者は今までの返礼とばかりに無数の槍を瞬へと発射する。
「この程度!」
そもそもこの槍の土台を編んだのは瞬その人だ。故に彼は投じられた槍を上回る数の槍を編み出し、発射された槍を相殺。余剰分を地面に突き立て、雷の守護者の雷を牽制する。これに雷の守護者は地面に突き立てられた槍を回収し再度応戦。無数の槍の応酬が繰り広げられる。
「っ」
繰り広げられた槍の応酬であるが、それは雷の守護者が消えて守護者の居た場所に無数の槍が突き立てられる事により終わりを迎える。とはいえ、今までの流れから瞬は雷の守護者がどこに逃げたかおおよそを理解していた。
「まだまだ!」
次に雷の守護者が移動していたのは、ソラを挟んで逆方向の場所。先程瞬が無数に槍を突き立てた場所だ。そうして再度無数の槍が発射され、その応酬が繰り返される。そうして槍の応酬が繰り広げられること暫く。ついにソラが声を上げた。
「出来た! 先輩! 行けます!」
「よし! 次の移動に合わせてくれ!」
「了解っす!」
ソラは魔術の構築を行いながらも、瞬と雷の守護者の戦いはしっかりと確認していた。故にどうするのが現状では最善かもしっかり理解出来ており、後はそのタイミングを見定めるだけだった。
というわけで、ソラが声を上げて暫く。瞬と槍の応酬を繰り広げていた雷の守護者の姿がかき消え、二人の背後へと移動する。そしてそれが、雷の守護者の終わりだった。
「<<誘導棒>>!」
雷の守護者が消えると同時。ソラが口決を唱え、今まで準備されていた無数の魔術が同時に起動。瞬が地面に突き立てていた無数の槍を避雷針へと変貌させる。そして雷の守護者は丁度槍を操るべく総身の雷を無数の槍に接続した所だ。すると、どうなるか。簡単だろう。
「……終わったな」
「すね」
雷の守護者は自らを構築する雷を無数の避雷針に接続したのだ。流石に一つ二つならなんとかなっただろうが、避雷針に接続した数があまりにも多すぎた。
雷の守護者を構築する雷はあっという間に地面に流れ込み、雷の守護者の身体は完全に消失してしまっていた。そうして地面に落下したコアへと瞬が槍を突き立て、二人の戦いは終わる事になるのだった。
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