第2888話 大空遺跡編 ――八個の試練――
ソラと瞬の二人による飛空術の実用試験を兼ねた救援行動。それに監督役として参加したカイトであったが、そんな彼がその帰り道に見付けたのは大空に浮かぶ超古代の文明の遺跡だった。
そんな遺跡の調査を竜騎士部隊を独自に保有する事から冒険部で請け負う事を決めた彼は、噂を聞き付けたルークを調査隊に加え本格的に調査を開始。風が吹き荒ぶ間を乗り越え九個の扉がある部屋にたどり着き、遺跡の再起動方法を入手。再起動に必要という八個の試練の突破に向けて動いていた。
「たっだいまー……流石にまだオレだけか」
「流石にお主レベルの速度で攻略出来りゃ十分過ぎる実力を持っておると言えるがの。が、それを求めるにはいくらなんでも若すぎるわ」
「そか……まぁ、次はルークあたりか」
「そうじゃのう。まぁ、まだ決め手に欠けた状況という所じゃから押し切れてはおらぬが、遠からず押し込むじゃろうて」
ティナはカイトの言葉を受け、彼にも見える様に表示されている闇の試練の間の映像を拡大する。そこではルーファウスが前衛となりルークを守り、その後ろでルークは敵の攻撃を解析して無力化したりカウンターを叩き込んでいる様子があった。
「あれは連戦を見越して余力を残してるな、どちらも」
「そうじゃのう。そういう意味で言えばある意味瞬の方がやはり戦士向きと言える」
「長引けば長引くほど疲労は蓄積されるからな……まぁ、同時に長引かせれば長引かせるほど情報は手に入る。どちらに重きを置くか、という所か」
「そうじゃのう。瞬のやり方は数をこなし、というものじゃから適正が高い者は良いが適正が低い者は慣れる前に潰れてしまうからの」
特にこの試練に関係があるわけではなかったが、映像を見ながらなのでやはり各々の戦い方への論評にどうしても話は向いてしまったらしい。二人はそんな事を口にする。
とはいえ、別にこれを話したくて外に出たわけでもないし、ティナとて自分の分がある。カイトと駄弁って無駄な時間が過ぎれば過ぎるほど、自分の終わりが遅くなる。そしてそれは即ち再起動が遅くなるという事だ。良い話ではない。
「ま、それは良かろうて。カイト。とりあえず次の試練じゃ」
「あいよ……じゃ、行ってきま」
何度目かになるが、カイトにとって属性に特化した敵というのは敵にならない。なので再び試練の間へ向かう彼の背に気負いは一切なく、いっそ武蔵やらとの模擬戦の方が気合が入っていたほどであった。というわけでカイトは再び試練に戻って、ティナもまた各所のフォローに戻るのだった。
さて次の試練にカイトが挑んだ一方その頃。戦闘力であれば最も低いソラと瞬の二人はというと、やはりこちらはそこそこ苦戦を強いられていた。
「やっべぇ!」
迸る超巨大な雷を目の当たりにして、ソラは思わず声を荒げる。その通った後は灼熱地獄と化しており、その火力が如何ほどのものかを露わにしていた。そんな彼の真横を、こちらも雷と化した瞬が駆け抜ける。
「おぉおおおおお!」
紫電と化して駆け抜ける瞬であるが、そんな彼を同じく紫色の雷で出来た雷の守護者が一つ目で捉える。そうして雷の守護者の腕が動いて、彼に指先を向けた。
「っ」
まずい。この立ち位置では自分が回避しようものならソラが直撃する事を瞬は即座に理解する。が、雷の守護者は容赦なく指先から巨大な雷を解き放ち、彼を飲み込んだ。
「ソラ!」
「うっす! <<伝導棒>>!」
巨大な雷に飲み込まれた様に見えた瞬であったが、雷が解き放たれる瞬間に槍を地面に突き立てその上で片手で逆立ち。自身はその攻撃範囲からは逃れつつ、僅かな間ではあったが雷を受け止めていた。そこに彼からの要請を受けたソラが避雷針の役割を果たす力を槍に付与。その全てを地面へと受け流す。
「はっ」
雷が地面に流れたのを見て、瞬は腕の力だけで大きく舞い上がる。そうして彼は改めて雷の守護者を正面に見据える。
(おそらくあの模様の中の輝く球体がコア! あれを穿てば!)
誰に教えられるでもなく、瞬もまた守護者のコアとやらが顔の部分にある球体と気付いていた。というわけで、彼は虚空を踏みしめ総身に力を込める。
「おぉおおおお!」
雄叫びと共に強大な力が瞬の槍に収束。海老反りとなってまっすぐに雷の守護者のコアを狙い定める。
「はぁ! っ!」
外れた。瞬は雷の守護者が自身が槍を投げ放つ直前に消え去ったのを直感的に理解し、顔を顰める。そして事実、彼の投げた槍は虚空を切り裂き空間を捻じ曲げるだけで、何も貫く事はなかった。と、そんな彼の纏う雷が一方方向に引き寄せられるのを彼は知覚する。
「っ」
「先輩!」
「っ! すまん!」
背後で響いた雷鳴の音に、瞬は降下しながら背後でソラが防いでくれたのだと理解する。そうして身を捩りながら改めて周囲を確認。雷の守護者を確認する。が、そうして確認した雷の守護者の居場所に、彼は思わず顔を顰める事になった。
「またか」
「遠いっすね」
「近接攻撃をしてこないのが厄介だ」
自身の真横に着地したソラの言葉に、瞬もまた盛大にため息を吐く。雷の守護者であるが、基本的な攻撃方法は先程の指先からの雷による砲撃が中心だった。ということはつまり距離を詰めねばならないのであるが、攻撃に入ろうとした瞬間には雷の速度で逃げられて今の様に背後から攻撃を受ける事になっていた。
「流石にこのままじゃ駄目っすね……何か手を考えないと」
「か……とはいえ、どうする? 流石に俺達だけでは遠距離攻撃なんて出来ないぞ」
「っすよねぇ……いや、そもそも倒す必要は無いんっすけど」
「ん?」
「いや、コアさえなんとかしちまったらそれで良いんで、別に倒すってのはまた別なんじゃないかと」
今回、一見すると守護者の討伐が絶対条件に思えるがその実無力化してコアさえ回収できればそれで良い。なので最悪は倒せないでも行動不能にしてしまうのも手だった。勿論、今の彼らではそういう事は出来ないのだが。
「それはそうだが……だがどうする?」
「それっすよねー……」
何か手はないか。ソラはどうやらこちらが攻めてこない事で一旦の様子見状態に陥ったらしい雷の守護者を見ながら、次の策を考える。ここらやはり守護者という所で、こちらがある程度の魔力を纏わない限りは積極的な攻勢は仕掛けてこない様子だった。
「……あ」
「どうした?」
「……やれりゃ儲けものって手を考えたんっすけど……ただやろうとするとむっちゃ時間掛かりそうっす」
「……どんな手だ?」
瞬の問いかけに、ソラは今しがた自身が思い付いた作戦を伝達する。これに、瞬は思わずなるほどと思わされた。
「なるほど……確かに不可能ではないだろうが。ないだろうが、相当数を用意しないと駄目じゃないか?」
「なんで時間掛かるって話なんっすよ。マジで真面目に魔術の勉強やっときゃよかった、って話で」
それでも可能性が無いよりまだあるだけマシっちゃマシなんっすけどね。瞬の問いかけに答えたソラは、そう言って笑う。そんな彼に、瞬が告げた。
「……良し。それで行こう。流石にこのままやってもこっちが不利になっていくだけだからな」
「うっす……じゃあ、準備に入ります。少しの間任せて良いっすね?」
「ああ」
これをやるにはすごい時間が必要。ソラから先に作戦を聞いた瞬はそれを理解した上で了承を示したのだ。彼にも異論はなかった。というわけで、ソラの作戦の沿って二人は行動を開始するのだった。
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