第2887話 大空遺跡編 ――八個の試練――
ソラと瞬の飛空術の実用試験に付き合ったその帰路にカイトが発見した大空に浮かぶ謎の遺跡。それはルナリア文明よりも更に昔。もはや歴史にさえほとんど情報の残っていない超古代の文明の遺産であった。
というわけで、場所の特異性などから竜騎士部隊を独自で保有する冒険部での調査を決めた彼は話を聞き付けたルークを調査隊に含め調査を開始。内部の調査の中で遺跡の再起動方法を入手すると、そのために必要という八個の試練の攻略に臨んでいた。
「おー……こりゃ結構見事だなー。この景観、オレ割りと好きかも」
『まぁ、水の遺跡って感じはするのう』
「ん? ティナか……こっちが見えてるのか?」
試練の間全域に響いたティナの声に、カイトは周囲を見回しながら問いかける。これに再度ティナの声が響いた。
『一応神官に偽装したおかげで、各試煉をモニター出来る様になっておるようじゃ……その流れで助言なども可能、という事なんじゃろ。他にも情報としてはエイチピー、もといエネルギー残量も見えておる』
「オレらの?」
『いや、守護者とやらのじゃ。全試練挑戦前じゃから、まだ何の変化も無いがの』
「なるほど。そっちから見てる分にはゲームみたいな感じだな……まぁ、わかれば便利は便利か」
挑んでいる当人からは何も見えないので特に関係があるわけではない様に思えるが、外で支援してくれる者が後どれぐらいとわかればペース配分を助言する事は出来るだろう。カイトとティナにとってはほぼ無意味に等しいが、ソラや瞬の所であれば有用だった。
「で、だ……問題となる守護者さんですが。どこにいらっしゃるんですかねぇ」
『水の守護者というぐらいなんじゃから、左右の水に偽装しておるとかないか?』
「そんな気配はないんだよね」
カイトの流派は神陰流。たとえゴーレムだろうとそこに存在があれば流れが出来るため、隠れていようが意味がない。もしそれが感じられないのであれば、それは即ちまだ起動していないという事だった。というわけで、彼は改めて周囲の状況を確認する。
「周囲の状況は……この長い一本道の石の足場以外はすべて水。所々に柱が見えるぐらい……向こうの果ては見えない、と」
『こちらからも奥までは確認出来んから、おおよそ単なる舞台効果というものじゃろう』
「だと良いがな」
まさか流石にこの周囲の水全部が守護者を構築する身体というわけはないだろう。カイトはそうあってくれと少しだけ願う様にそう思う。というわけでそんな彼は更に少しだけ石の通路を歩いていき、何かの紋様が刻まれた所で立ち止まった。
「これは……水のマークか」
『みたいじゃの……む?』
「どうした?」
『なるほど……どうやらこの遺跡の再稼働には神官が必須じゃったようじゃ。こちらに試練の開始の是非を問うメッセージが表示されておる』
「なるほど。とどのつまり、挑戦者が所定の場所に立った上で神官が試練を開始させるわけか。そのルールを守れない限り、神官に偽装した侵入者の可能性を判断され守護者は起動しないと」
『良い様に考えたのう。悪けりゃそのまま本気モードの守護者が出てきて迎撃戦じゃ』
「それは嫌だな」
まるで毛ほども嫌とは感じていない。そんな様子でカイトは笑う。彼としてはいっそ本気モードの守護者とやらと戦ってみたい気持ちは無いではなかったが、その結果他の所まで侵入者と判断されて被害が出ては元も子もない。なのでその気持ちはぐっと飲み込んで、改めて前を向く。
「ティナ。こちらに一切問題はない。後、他の所に被害が出るのも面倒だから、他の面子もさっさと誘導してやってくれ」
『もうやっとるよ……良し。ではそちらは問題無いな?』
「そう言った」
『良かろう……では水の守護者起動……起動プロセス……問題無し。すごいのう。数千、下手すりゃ数万年ぶりの起動なのに問題なく起動しおるか。どういう仕組みか、後で調べるか……』
この遺跡は数千年の間放置され続けていたのだ。構造材が特殊な素材だったのである程度機能が維持されていても不思議はないかもしれなかったが、それでも数千年も守護者の機能が維持出来ていた事はすごい事だろう。というわけで起動プロセスの推移を見守るティナの声を聞きながら、カイトは水の守護者の出現を待つ。
「……おっと。こりゃまた……嫌なパターンで来るか」
『それぐらいゲームでよう表現されておるじゃろ』
段々と盛り上がっていく水の塊を見ながら、二人はそんな呑気な事を口にする。そうして二人の見ている間に、巨大な水の守護者が出来上がる。そんな水の守護者を見てカイトは、獰猛に牙を剥く。
「……超古代の超技術の文明にしちゃ、雑魚に見えるが? まさか、そんな……ねぇ」
言うなれば顔の部分に見える奇妙な紋様とその中央で水色に輝く球体を見ながら、カイトは試す様に誰にでもなく問いかける。そうして、直後。まるで開始の合図も情緒も一切なく、カイトが矢を放った。
「ふっ」
カイトが試す様に告げてから矢を放つまでの間はコンマ数秒以下。矢の速度は超音速を遥かに超過し、もはや常人であれば矢が放たれた事を弓で察するしか出来ぬ状況だ。それを、カイトはテストの様に放っていた。そしてその結果を見て、カイトは口笛を吹く。
「ふゅー……いいねぇ。一応初速でマッハ5ぐらいはあったと思うんだが。そうでなくちゃ」
水の守護者の頭部は弾け飛んでいたが、コアはすでに見える所にはどこにもなかった。勿論、カイトの様子から彼の一撃で吹き飛んでいたという事もないのだろう。というわけで獰猛に笑うカイトに、真横から水の槍が襲いかかる。
「おっと! そりゃゲームみたいに見えない壁なんて無いわな!」
石の通路から水上に吹き飛ばされたカイトは水を蹴って、空中へと躍り出る。そうして躍り出た所に、今度は真下から巨大な水の柱が噴き上がった。これにカイトは武器を巨大なハンマーに切り替えて、噴き上がった水を叩き潰す。
「はぁ!」
『なんでお主わざわざ防御しとるんじゃ。攻撃は効かんじゃろ』
「まぁ……別に意味無いけどさ」
頑張って奮戦している風を醸し出していたカイトであるが、当然彼が奮戦しているわけがない。そもそも水属性の攻撃をされている時点で彼には無意味なのだ。
『お主であればコアを探す必要さえあるまい。時間が押してるわけではないが、有限なんじゃからとっとと仕留めよ』
「へいへい……でも割りと超高速で動いてるのは事実なんよね。後破壊したらヤバそう?」
『いや、破壊はして良いようじゃ。外殻が一度だけ破損を肩代わりする機構になっておるらしい』
「ふーん」
広大な水の中を縦横無尽に逃げ回るコアを見ながら、カイトはティナの返答にそれなら別に気にせず叩き潰して良いか、と考える。が、そんな彼にティナが笑って問いかけた。
『が……お主は当然、難しいパターンをやってくれるんじゃろう?』
「あっははは。お望みとあらば」
瞬間。カイトの姿がティナの見ているモニターからも消失する。あまりに速すぎて遺跡の撮影装置では捉えきれなかったのだ。そして彼の姿が消えた直後。カイトを取り込んだ巨大な水柱が出現する。
「はぁ!」
どんっ。カイトが裂帛の気合を総身に込めると同時に、彼の周囲を包んでいた水がすべて弾き飛ばされ無数の水滴となって霧を生じさせる。
と、そんな霧がカイト――というより彼が引っ掴んでいたコア――めがけて殺到。巨大な水の塊となり、それを呼び水としたかの様に眼下の水を引き寄せる。が、そんな大量の水は数瞬後力なく落ちていき、水面を大きく揺らした。
「ほい……隔離完了、と」
『見事……なるほど。水という概念を操っておった形か。故にお主を包んだ水は単なる水として、攻撃扱いにはされなんだか』
「なるほどね……で、こいつをどうすれば良いんだ?」
『まぁ、待て。これで一応守護者の討伐は完了と判断されるはずじゃから……お、出るぞ』
「うん?」
ティナの言葉と同時に何かが蠢く音が鳴り響いた事に気付いて、カイトは試練の間の奥の方を見る。するとそちらでは水が盛り上がっていき、下から何かが出てきている様子だった。
「あれは……なんだ?」
『再起動ユニット……という所かのう。なるほど。この遺跡の再起動の原理はおおよそはわかった。どうやらその守護者とやらは遺跡が放棄されて以後は大空を漂いながら、各属性の魔力を吸収。その守護者に蓄積させておるわけじゃ。数千年経ても動いたのは元々長期の放棄を前提として作られておったため、と考えて良さそうじゃな』
「なるほど……それで。で、遺跡が再起動可能なのもそれが前提にあるから、というわけか」
確かに考えれば道理であるが、それなら一体どれぐらいの期間放棄される事を想定していたのだろうか。カイトはティナの解説にそう思いながら、自身が確保した水の守護者のコアを見る。そしてどうやら、ティナもまた同じ疑問を抱いていたらしい。
『どれぐらいかなぞもはやわからんよ。が、この様子では最低限十年単位での放棄は想定されておったじゃろう。下手をすれば数百年単位も有り得たかもしれん』
「なんのための施設だったんだろうな」
『それは再起動してみればわかるやもしれん。そのためにも』
「とりあえずは、か」
ティナの無言の促しを受けて、カイトは出現した壁を見る。そこには先の水の守護者同様の奇妙な模様が刻まれており、まるで何かを嵌めるのだろう穴が空いていた。
「……嵌めた。そしておそらく起動も確認」
『確認した……こちらでもマークの点灯を確認。攻略次第、上のマークが点灯するというわけなのじゃろうな』
カイトが壁の穴に水の守護者のコアをはめ込むと同時に壁に刻まれた紋様が光り輝き、そして彼が入っている試練の間の入り口の上にあった水の紋様もまた光り輝いたらしい。そして同様にティナのモニターにも水の試練が完了した旨を示すメッセージが出ているらしく、これで完了と考えて良さそうだった。
「じゃあ、これで終わりか。問題なければもう戻るぞ」
『構わんよ』
これでこの部屋にもう用はない。そう告げたカイトにティナも支持を示す。そうして、カイトは誰よりも先に試練を終えて九個の扉がある部屋に戻るのだった。
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