第2886話 大空遺跡編 ――八個の試練――
ソラと瞬が習得した飛空術の実用試験を兼ねて救援活動に出たのに同行したカイト。そんな彼がその帰路に発見したのは、二千年以上昔に滅んだルナリア文明より更に昔。もはや現代では名前も残っていない『星神』により滅ぼされた超古代の文明の遺跡であった。
というわけで紆余曲折を経てその調査に乗り出していたカイトは、手に入れた情報から遺跡の再起動を目指し調査に同行したルークやソラらと共に八個の試練に挑む事になっていた。
「という塩梅だ。今の状況としては」
「なるほど……そういう事であれば、俺も出よう」
挑む事になったカイトであったが、試練には一度に二人まで挑戦可能という事がありルークの前衛を任せるべくルーファウスに相談を持ちかけていた。というわけで状況の説明を行っていたわけであるが、状況を聞いたルーファウスは試練への挑戦について二つ返事で快諾してくれていた。
「助かる。おそらくルークに合わせられるとなると、かなり限られるだろうからな」
「光栄だ……が、カイト殿は一人で良いのか?」
「オレはティナから支援を受けられるからな」
ルークの問いかけに対して、カイトは笑いながら問題無い事を明言する。一応勇者カイトである事を隠している事もあり、公にはティナの支援が最も貰いやすいため彼は一人で良いという事になっていた。
「それにこれ以上誰か、となると些かそれも難しい。ま、伊達に色々手札は持っていない。それに無理だったらホタルでも引っ張り出すさ」
「ああ、なるほど。その手もあるか……」
ホタルはルーファウスの様に防衛には向かないが、火力の面では非常に高い。なので状況如何ではカイトと共に火力を集中させ一点突破も不可能ではなかった。それに理解を示したルーファウスに、カイトは更に続ける。
「そういうこと。とはいえ、そのためには結局情報が無いとどうにもならん。試練には二度しか挑戦出来ない事を踏まえると、どこかで誰かが負担を負わなきゃならんのもまた事実。ならオレが、というのは仕方がないだろう」
「……そうか。いや、失礼した。兎にも角にも試練への挑戦。確かに請け負った」
「助かる。一応一時間の休憩を経た後に挑戦という形になる。向こうに向かう時間を含めて考えると
……大体30分後ぐらいか」
「わかった」
一応ルーファウス自身としては特に疲れも見えないし感じていないのだが、それでもこれから何があるかわからない以上は万全を期す必要はあるだろう。というわけで彼もしっかりと小休止を挟むつもりだった。というわけで、カイトとルーファウスの二人は一度小休止を挟んで、再度九個の扉がある部屋を目指して移動するのだった。
さてカイトがルーファウスに状況を伝え、彼からの協力を取り付けておよそ一時間。彼はルーファウスを伴って再び九個の扉がある部屋に戻ってきていた。
「ここが……」
「そうだ……ここが試練に通じている部屋。あの中央にある扉が、おそらくこの遺跡の制御室に通じている扉だと思われるが……」
「これを開くためには試練に挑んで守護者とやらを討伐しなければならない、と」
「そういうことだな」
実際の現場を見ながら改めての状況の説明に、カイトは一つ頷いた。そしてそんな彼らの声で、こちらに待機していた他の面々も二人の到着を理解する。
「来たか……問題はなさそうじゃな」
「無いよ。さっきの風の吹く部屋も大体の状況は掴んだから、もう不足はないな」
「それは結構……で、誰がどの試練に挑む」
「あ……そういえばそれは考えてなかったな」
ティナの問いかけを受け、カイトはそういえばと僅かに目を見開く。今回の試練は八個の属性があるわけであるが、やはり人は得手不得手がある。基本的には自身が得意な属性で挑んだ方が良い事は明白だった。というわけで、彼は一度各々が得意な属性を思い出す。
「えっと……ソラが風。先輩は火と雷。アルは氷。リィルは火……ルーファウスも同じく火……火属性得意多すぎないか、ウチ……いや、それは置いておいて。ルーク、得意属性ってなんだ? というかエテルノさんの得意属性ってなんだ?」
基本魔導書を相棒とする魔術師の得意属性は魔導書の得意属性になる事が非常に多い。なのでカイトはルークではなくエテルノの得意属性を確認する事にしたようだ。そしてこれにルークは隠すことなく答えてくれた。
「彼女の得意属性は一応闇だね。とはいえ、僕自身は光属性の方が主体だよ」
「そうなのか?」
「うん。穴埋めにね。と言っても勿論、闇属性も得意だよ」
「そうか……」
確かに魔導書の不得意属性を術者当人が補足するのは珍しい話ではないな。カイトはルークの返答についてそう思いながら、改めて誰がどの試練に挑むべきか考える。そうして、数分。結論が出たようだ。
「ルークとルーファウス。二人は闇属性の試練を頼む。ルーファウス、行けるか?」
「問題ない。闇属性への対抗はヴァイスリッター家では基礎として学ぶので、得意と言えば得意だ」
「それなら尚更頼む」
そうだろうとは思ったが。カイトはルーファウスの返答にこの結論は正しいと判断する。というわけで、そんな彼は続けてソラと瞬を見る。
「で、ソラと先輩は雷。アルとリィルは氷で頼む。二人共に相殺と低減が出来る属性になるだろうからな」
「え、いや、俺出来ないぞ?」
「いや、お前自身が風得意で<<地母儀典>>あるだろ」
「いや、あるけど……」
そこまで高度な事は出来ないぞ。カイトの指摘に対して、ソラはそう告げる。が、これにカイトは首を振る。
「別に無効化してみせろ、とか相殺してみせろ、と言ってるわけじゃない。防御力高いんだし、威力低減させれば多少の被弾は抑えられるだろ。後、先輩が居るし、さっきみたくやばい時は避雷針頼め」
「ま、まぁ……そうだな。今回は雷という事なら、俺も盾として役に立てると思う」
「す、すんません。いざって時は頼んます」
急に話を振られて若干慌てた様子だったが、万が一の場合は大丈夫と告げる瞬にソラは慌てて頭を下げる。というわけで、こちらの組み合わせ――そもそもアルとリィルは問題が出ないが――も大丈夫と判断。最後に自身が挑む試練を考えるわけであるが、そのために彼はティナに問いかけた。
「ティナー。お前何やりたい?」
「そうじゃのー。現状あまりが光、風、水、火、土の五つ……べっつにどれでも良いが。逆にお主は……」
「オレのがなんもねぇよ」
なにせ属性攻撃は完全無効化である。カイトにとって属性に特化した敵というのは勝利が約束された相手に他ならず、いっそどの属性でも関係なかった。それは笑って意見なぞ無いというだろうし、それを知るティナもまたそれに納得する。
「じゃろうのう……とはいえ、ぶっちゃけ余もさっき言った通りどれでも良いが」
「じゃあ、まぁ……クジでも引く?」
「……それで良いか」
ここでうんうんと悩んでいても仕方がないし、二人にとって悩むほどの意味があるわけでもない。というわけで二人は天に運を任せる事にしたようだ。カイトが手早く木片を使ってくじを作成。一つ一つ順番に取って、どれに挑むかを決定する。
「……これだ。えっと……水か」
「ということは、余が火と土。お主が水と風か」
「あいよ……ルーク。どうやらお前の得意属性が残ったが、余裕があるならやってみるか?」
「そうだね……天運がそう定めた、という事で良いんだろうね。やれそうなら試してみたい」
これがカイト達が意図したものでないだろうというのはルークも察していた。なので自分自身が得意とする光属性が残ったのは自分に挑めと言っているようなものなのだろうとルークは判断したようだ。
「ま、そこは任せるさ……さて、じゃあ皆さん頑張りましょう」
ゴキゴキ。カイトは首を鳴らしながら、自分の持ち分である水属性の試練へと続く扉の前に移動する。それに他の一同も続いていき、遺跡を再起動させるための試練が開始される事になるのだった。
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