第2884話 大空遺跡編 ――司る間――
ソラと瞬の飛空術の実用試験に付き合った帰り道でカイトが発見した謎の大空に浮かぶ遺跡。それはルナリア文明などの現代で古代文明と言われる文明より更に昔。数千年から数万年前に栄えたとされる超古代の文明の遺跡であった。
そんな大空に浮かぶ遺跡の調査を竜騎士部隊を独自保有する事から冒険部で行う事を決めたカイトは、冒険部の本隊に表層部の調査を行わせつつ自身は未知の遺跡への調査の噂を聞き付け同行を申し出たルークやソラらを率いて、遺跡の内部へと潜入を実施。風の吹き荒ぶ間を乗り越えて、その次の間へとたどり着いていた。
「ふぅ……ん?」
「うぉわ! ぎ、ギリギリかよ……」
自分達が次の部屋にたどり着くと同時に鳴り響く雷鳴に、ソラが大慌てで扉から離れる。流石に部屋を抜けているので雷撃が届く事は無いとは思われるが、それでも肝が冷えたようだ。
そして同じ様に他の面々も本能的に風の吹き荒ぶ間に続く扉から少しだけ距離を取ると、まるで雷鳴が嘘の様に鳴り止んで元通りの状態に戻っていた。
「……これで本当に終わり、というわけか」
「のようだな……さて、お次は何だ?」
やはり雷はほぼ無効化出来る事から平然とした様子の瞬の言葉に、同じく各種の属性は無効化するカイトが改めて次の部屋の中を確認する。そうして見えたのは、中央に台座のある円形の部屋だった。
「中央に台座……そしてその先には色分けされた扉が……ひのふのみのよの……九個。その上には……外に刻まれていた記号と同じ物が八個。一つは何も無しと」
「ふむ……この様子じゃとこの八個はそれぞれ属性を表しているという事で間違いなかろう。波は風。水滴はそのまま水……なにやらよくわからん形は赤色じゃから火。太陽に見えたのは黄色じゃから光。あれは……黒いし闇かのう」
どこに続いているかは不明だが、外周に刻まれていた記号が上に刻まれた色分けされた扉があった。それらを見ながら、カイトとティナはこれが属性を表していると判断する。と、そんな二人にルークが問いかけた。
「では、最後の一つ。何も無い扉は?」
「それはわからん。何も無いから出口……なわけもないだろうしな」
出口なら後ろの扉だろう。カイトは雷鳴が収まり元の風が吹くだけの部屋に戻っている後ろを指差す。何も情報が無いというのが情報といえば情報であるが、それだけで判断できるわけでもない。というわけで、ひとまず一同はもう一つの情報である円筒の台座を調査してみる事にする。
「これは……コンソールか。が、当然……反応しない、と」
「流石に魔導炉が停止しておるんじゃろ……む?」
「どうした?」
台座を調べていたティナが何かに気付いたのを見て、台座に手を乗せていたカイトが小首を傾げる。
「これは……ふむ。もしや……ほう。面白い発想をしておるかもしれん。エテルノ」
『なんでしょう』
「お主が記された頃の文明じゃが、全電源喪失時の再起動はどのような施策が取られておった?」
『なるほど……ルーク』
「良いよ」
どうやらエテルノはティナの問いたい所が理解出来たらしい。ルークに許可を取り、人型に姿を変える。というわけで、人型に姿を変えたエテルノに、ティナは台座の下の方にあった何かが置けそうな窪みを指差す。
「ほれ、これなんじゃが」
「……やはり。ええ。一部の施設では全電源が失われた際、有り合わせの魔石で非常電源を賄う事が出来る様にされていたと聞いた事があります。無論、そのような事をしてしまえば非常時に何かしらの魔石を持っていなければならないなど色々なデメリットはありますが」
「その代わり、魔石さえ持ち合わせれば非常電源を用立てる事が出来ると」
「はい」
「面白いのう。非効率的かつ持っていなければ終わりというデメリットはあるが、同時にこの様に何かがあった場合でも対応が出来る可能性もある。更に言えば敵に攻められたとて対応出来る魔石を持っていなければ施設を利用されぬという事でもある……」
この対応策は一長一短と言えるが、今回のような超長時間が経過し魔導炉の復旧も期待できない状況では有り難い。ティナはおそらく魔石を置く事が出来るのだと思われる窪みを見ながら、感心した様に頷く。そうして彼女はいつも持っている魔石の中から、手頃な魔石を一つ取り出す。
「このサイズであれば……この魔石かのう。カイト、少し離れよ」
「あいよ」
「……ん。ぴったりサイズじゃな。後は……これかのう」
窪みに魔石を嵌め込んだティナは魔石から動力が確保されたのを確認し、台座のスイッチと思われる部分を押し込んだ。すると今までうんともすんとも言わなかった台座の各所が淡く輝いて、台座が起動する。
「よし……立ち上がった。立ち上がったが……うむ。まーったく何が書かれているかわからん」
当時の言語である事はわかるのだが、そうであるが故に古すぎて翻訳の魔術が対応出来ないらしい。ティナは妙な記号にしか見えない当時の文字を見ながら、困った様に笑うだけだ。が、当時の言語であるがゆえに理解出来る者も居た。
「エテルノ。君ならわかるだろう? 読んでくれ」
「いえ、それより情報を共有した方が良いかと」
「出来るのか?」
「私の本来の用途は知識の伝導にこそあります。情報共有は魔導書の得意分野ですよ」
驚いた様子のティナの問いかけに、エテルノは笑ってなにかの術式を構築する。そうして少しの後。彼女が構築した魔術が発動すると、一同にも古代文明の文字が読める様になった。
「ほう……これは面白い魔術じゃな。対応出来る限度はあるじゃろうが」
「そうですね。流石に神々の言語や精霊の言語に関してはこの魔術では対応出来ません」
「更に上の魔術もあると?」
「わかりません。私が保有するのがこの魔術というだけですので」
「そうか……まぁ、無理じゃろうのう」
神々の言語や精霊達が使う言語は世界側によってある程度の制限が掛けられており、理解出来る者が限定される様になっている。逆にこの理解出来る者に指定されれば翻訳の魔術を介さないでも理解出来る様になる――なので実はカイトは翻訳の魔術を介さないでも理解出来る――のだが、そういった事からこういった知識の共有などでは対応出来ない様になっているのであった。
「ま、それはどうでもよかろう。とりあえず今はこの内容じゃな」
「再起動方法……と書いてある様に見えるが」
「うむ……この書き方から鑑みるに、どうやらこの施設は魔導炉を有しておらんらしいのう。どんな施設なんじゃと思うが……いや、龍脈に乗せておった事を考えれば、脈の魔力だけで事足りるという事か……? であればこの施設の用途は……」
何が考えられるだろうか。ティナは台座の復旧によって現れた説明文を見て、この施設の用途を推察する。と、そんな彼女にカイトが告げた。
「とりあえず復旧してからでも良くはないか?」
「いや、危険性によって復旧するか否かは考えねばなるまいて。となると現段階でどの程度の危険性があるかは判断しておかねばなるまい」
「脈の魔力だけで動くのなら、危険性なぞたかが知れていないか?」
「それは確かにそうじゃが……気になるのはこの施設を構築しておる構造材が特殊である事じゃな。おそらく施設そのものが魔力を吸収し易い構造を取り、脈の魔力を十分に確保出来る様にしておるんじゃろう」
「なるほど……」
確かにこの遺跡を構築する構造材は吸魔石を利用した特殊な素材だと聞いている。それがどういった素材なのかはまだわからないが、上手く龍脈の魔力を吸収出来るのであれば龍脈の魔力を現代以上に有効活用出来ていても不思議はなかった。
「再起動方法は非常に簡単……八個の部屋を巡り守護者とやらを討伐。そのコアを最奥に設置……いや、簡単と言うたが中々に面白い方法じゃな」
「いや、面白いというか……不思議な方法だな」
「うむ……実に不思議じゃが……まぁ、兎にも角にも情報が足りぬ。ひとまずこの部屋全体を調査して、何か他に情報が無いか確認した方が良いじゃろう。それに台座もこれ以外に情報があるかもしれん。何をするにしても、まずはこの部屋を調査じゃ」
「りょーかい。とりあえずは調査と。やっと遺跡らしくなってきたな……じゃ、全員部屋の各所の調査を開始」
「「「了解」」」
何をするにしてもまずは情報収集。ティナの方針にカイトも納得を示す。というわけで、彼の号令と共に一同は部屋の各所に散ってこの部屋の調査を開始する事になるのだった。
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