第2876話 大空遺跡編 ――撤去――
救助要請を受けて外に出た帰りに見付かった大空に浮かぶ謎の遺跡。それが新規に発見された未知の遺跡である可能性が高いと判断したカイトは、竜騎士部隊を独自に保有している点から冒険部での調査を行う事を決定。様々な準備を行うと、竜騎士部隊を主軸とした調査隊を組織。自身は第一陣として本隊が活動を行うための事前調査を行う事となっていた。
「ふむ……」
遺跡の外周部を飛空術で飛翔しながら、カイトは気になった内容をメモに取っていた。こういった遺跡調査においてメモは非常に重要で有用だ。未知の遺跡なればこそどこでどんな情報が攻略の鍵となるかわからないし、トラップ如何では魔術が使えない可能性だってあるのだ。記憶を補助する魔術があるから、と油断出来るわけではなかった。
「これで八個目……ルーク。少し良いか?」
『何かな?』
「そっちでもおそらく昨日見掛けた意匠が見つかっていると思うが、今何種類ぐらい見付かった?」
『そうだね……今は八個かな』
「そうか……こちらも八個だ。一度合流しよう」
『わかった』
やはり学術的な側面であれば一番役立つのはルークだろう。なのでカイトはアルとリィルには物理的な出入り口ないし出入り口を出現させるためのスイッチが無いかの調査を指示。
自身はルークと共に外周部に掘られている意匠を調査し、内部に入るためのヒントが無いか確認していたのである。というわけで、合流したルークの持っているメモと自身のメモを照らし合わせる。
「ふむ……やはりこの八個か。並びや掘られている場所に何か共通項などがあれば良いんだが……」
「今のところ、私の方で思い当たった節はないね。並び順が固定されているわけでもないし……」
「ふむ……となるとやはりこの八個は単に掘られているだけか……? いや、もしかすると本来はすべての石材に何かしらの意匠が刻まれていた可能性もあるか……」
見付かった八個の意匠であるが、基本的に刻まれた石材に共通点のようなものはなかったらしい。となればと考えたカイトに対して、ルークがそれならと一つ提案する。
「それなら強風を当ててみて、というのはどうだろう。ある程度の土やらの付着ならそれでこそぎ落とせると思うけれど」
「それは悪くはないが、魔術に反応して攻撃と判断される可能性が厄介だ。今はまだ取りたくないな」
「確かに……それに関しては否定できないね。となると生い茂っている蔦を引き裂いてみるのは? あちらは多分後天的に付着したものだと思う。あれが無いだけでもいくらかの石材は見えるようになるし、あれが風化を防いでくれている可能性もあるかもしれない」
「なるほど……」
確かに蔦がある程度取り払われれば、上部分はより見やすくなるだろう。カイトはルークの提案に対してそう思う。というわけで、カイトはそれならと楽しげに一つの筒状の道具を取り出した。
「……それは?」
「ビームサーベル」
「びーむさーべる?」
これは当たり前であるが、いくらルークが事前に天桜学園で色々な事を調査していてもSFの産物であるビームサーベルまで知っているわけがない。なのでカイトが取り出した謎の筒状の物体に首を傾げるばかりだった。そんな彼を横目に、カイトは楽しげに笑いながらスイッチを入れる。
「うわぁ! なんか出た!?」
「早い話が熱線で作った剣だ」
「へー……」
「っと! 触れるなよ? かなりの熱を有している……まぁ、単なる熱だから火属性を無効化してるなら特にダメージは無いだろうがな」
「<<火剣>>みたいなもの……かな?」
「そういう認識で良いが、熱の収束率は比較にならん」
興味津々という塩梅のルークに対して、カイトはビームサーベルを振って蔦を一薙ぎする。すると蔦はいとも簡単に焼き切れ、落下していく。
「その刀身の部分には魔力は宿ってないのかい?」
「一応、宿ってないというのが製作者の言葉だ。収束やら熱線を生み出すのやらには魔力を使っているらしいがな」
斬るというよりも焼き切る。そんなビームサーベルを振るうカイトはある程度の範囲の蔦を除去すると、一度その場から離れて遠目に遺跡の外周部を確認する。
「何か違いがあるかな?」
「どうだろうな……うん?」
「何かあった?」
「あれは……ルーク。そのままそこに居てくれ。少し確認する」
ルークの問いかけに対して、何かを見付けたらしいカイトは目を細めて確認する。そうして彼は再度遺跡に近付いて、何かを見付けた付近で再度ビームサーベルを振るって蔦を焼き切る。
「これは……濁ったクリスタルにも似た物質……不活性化した魔石? まさか……でも……」
「いや、不活性化した魔石で間違いないだろう。中に魔術の残滓が見て取れる。流石に年月が経過しすぎてて、風化してしまってるけどな」
「もし人為的にされたのでないとすれば、魔石が不活性化するぐらい昔にこの遺跡が作られたという事かな……となると、どれぐらいだろう……」
「わからんが……もしやするとこの遺跡は思ったより非常に古いのかもしれん」
魔石の不活性化。それはあまりに長い年月使われなかった事で単なる石と同様の状況になってしまう現象の事だ。人為的にやろうとすれば比較的簡単に出来るのであるが、それがもし自然に起きたとなると気の遠くなるような月日が必要になるらしかった。
「先史文明よりも昔、か……存外これがここで見付かったのは偶然ではなかったりするのかな」
「偶然であって欲しいね。何でもかんでも星神や外なる神に繋げてしまうのはそれに関わった者たちの悪い点だ……そう思いたくなるのも無理はないがな」
カイトは自身もまたそれらに関わればこそ、超古代の文明が新しく見付かったとなるとそれらの介在を疑いたくなる心情はよく理解出来たらしい。が、何でもかんでも彼らの差し金というわけではないし、彼らがそこまで万能ではない事もまた知っていた。
「それに何より、もしこれが奴らの差し金なら少し気になる事はある」
「それは?」
「奴らが動くなら動くでこんな程度の遺跡を持ってくるとは思えん。餌としてはあまり魅力的とは言えないからな」
「私にはかなり魅力的に思えるんだけど」
「そりゃ学者側からすりゃな」
確かにルークからしてみればこんな完全に未知かつもしかすると現在見付かっているどの遺跡より更に古い遺跡かもしれないのだ。もしそうなら考古学上大発見で、専門外であるルークでも興奮が抑えられないのは無理もなかった。が、それはあくまでも学者側の意見であり、冒険者側の意見は異なる。
「別にオレも確かに考古学には興味があるから魅力的ではないか、と問われれば魅力的と答えるが。それはそれ。組織の長としてこの遺跡に魅力を感じられるかと問われれば話は異なってくる。単に古いだけの遺跡ならウチとしちゃ率先して請け負う必要はあまりない。ウチで請け負わせたのだって単に竜騎士部隊を持つのがウチしかなかったからというだけだしな」
「なるほど……確かにそれを考えれば最悪君が出てこない可能性も十分にあったのか」
「そ……それにこの遺跡を餌として使うだけの価値が外側からは見出だせん。しっかり調査したから価値はあるだろう、って判断になっているだけだ」
そこらを多角的に考えた場合、この遺跡が星神の差し金によってここに持ってこられた可能性は低いと言って良いだろう。カイトはルークに対してそう結論付ける。そしてこれにルークもひとまずの納得を示した。
「それは……そうだね。うん。となると、全く無関係の古い遺跡が見付かった、という事かな」
「まるっきり無関係とは言わんよ。おそらく奴らが滅ぼした文明なりが遺したか、それとも元々隠されていた結果こうやって今になって見付かったかのどちらかだろう」
「なるほど。そういう意味では無関係ともあながち言い切れないか」
カイトの言葉にルークが笑う。そうして少し雑談混じりに意見を交える二人であったが、そんな所に通信が入ってくる事になる。
「ん? ああ、オレだ」
『カイト? ああ、俺。ソラ……今大丈夫か?』
「ああ。丁度ルークと情報交換や推論を行っていた所だ。なにかあったか?」
『一応、入り口らしい物が見付かったっぽくてさ。その報告』
「そうか……が、なにやら一癖ありそうな様子だな」
『そーいうこと。一度詳しく話したいからこっち来てもらって良いか?』
「わかった」
どうやら入り口らしき物が見付かったには見付かったが、何か厄介な状況にあるらしい。それを理解したカイトはソラの要請に応ずる事にして、ルークと共に一旦表層部に戻る事にするのだった。
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