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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第98章 演習編

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第2875話 大空遺跡編 ――探索――

 ソラと瞬が飛空術を習得し、その有益性を示したいと行う事になった即応部隊としての行動。それに監督役として同行したカイトがその帰路に発見したのは、大空に浮かぶ未知の遺跡だった。

 というわけで竜騎士部隊を独自に保有している事からその調査を冒険部で行う事にしたカイトは方々を駆け回って準備を行い、遺跡の中と外の両方に拠点を設営させていた。


「マスター! こちらの設営完了です!」

「よし。お疲れ様。今日は流石に移動日だから、そちらも警戒の人員だけ残して休んでくれ。ああ、そうだ。『眼』に関しては?」

「『眼』も問題なしです」


 『眼』というのは双眼鏡などの魔道具類で、今回の遺跡が結界で隠されている事から急遽用意されたものだ。これに関してはティナが調整を行っており問題無いとは思われたが、カイトは念のために確認していたのである。


「そうか……『眼』での警戒の人員は必ず三人は残してくれ。双眼鏡、魔眼、使い魔による近接視認……この三つを怠らなければ万が一の場合でもすぐに退避行動を取れる」

「わかりました」


 カイトの改めての指示に、報告に来ていた冒険部のギルドメンバーが敬礼してその場を後にする。そうしておおよその報告を受け取って一休みと思った所で、ソラが入ってきた。


「おーう。こっちももう出来上がったみたいだな」

「うん? ああ、通信機のテストか?」

「そ。場所柄置き場所を考えないと遮られる可能性がある……って、お前が言ったのにお前に言ってもなぁ」

「あはは」


 魔術を使った通信機であるが、電波を使っていないが故にある程度の構造物は透過して通信が可能だ。が、それは決してどんな構造物があっても通信出来るというわけではない。

 あくまでも通常の物質であれば電波よりも透過性が良いというだけで、魔力や魔術に対する耐性がある物質になると電波の方が透過しやすい事だってあった。そこを考慮して増幅器を設置しなければ何の意味もないのである。というわけで笑うカイトに、ソラは通信機を差し出す。


「ほら」

「あいよ……こちら地上側拠点。遺跡側応答を」

『……こちら……側。む……が……いな』


 どうやら置き場所はあまり良くないらしい。一応遺跡の真下から少しだけ離れた場所に地上側の拠点は設けているのだが、カイトの言葉に応じた瞬の声は途切れ途切れでまるで地下に居て電波が通じにくいような時の様子があった。


「やはり遺跡の構造材は魔力を通しにくい物か。まぁ、外側を耐魔性の高い素材で。内側を導魔性の高い素材で、というのは珍しくもない」

「みたいだな……ん?」

『こちら遺跡側。地上側応答を』

「こちら地上……きちんと聞こえるようになったな」


 おそらくソラと話している間に置き場を更に外側に寄せたのだろう。通信機から響く瞬の声は明瞭で、増幅器がきちんと役割を果たしている事が察せられた。というわけで、通信は問題無い事を把握したカイトが問いかける。


「落下は大丈夫か?」

『一応鎖で万が一落ちた場合も回収出来るようにはした。一応、きちんと地面に固定もしているが』

「そうか。まぁ、流石に突風の心配も無いだろうが……やっておいて損はないだろう。何より付近を歩いていて頭上に、というのは有り難くない」

『確かにな』


 一応単なる物理的な衝撃なら大半の冒険者が問題にはならないが、非戦闘員は話が違う。なので落下させないようにする事は大事だった。というわけで一応の安全確認も取れた所で、カイトは状況を確認する。


「こちら側の設営は終わった……これで夜も安心して眠れるぞ」

『それは良かった。こっちも一応拠点の設営は終わった……今回は大変そうだな』

「そうでもない。遺跡探索で安全な場所を拠点として、というのはいつもの事だろ」

『だがここまで離れているのは珍しいだろう?』

「それは……否定出来んか」


 今回の遺跡は上空数千メートルの所にある。それに対していつもは遺跡の外に拠点を設けているので、歩いても行ける程度の距離しか離れていなかった。なので非常に珍しい状況と言えば非常に珍しい状況だと言えた。


「まぁ、良い。とりあえずそっちの設営が終わったら全員引き上げだ。今日は流石に本格的な調査はせんし、出来る状況でもないだろう」

『そうだな……わかった。最終チェックが終わり次第、全員で……下山? 落下? する』

「げ、下山は違うんじゃないっすかね……」

『ならなんて言えば良い』

「降下……とか?」

『あー』


 まぁ、仕事もほとんど終わったようなものだ。ソラと瞬が他愛もない話を繰り広げる。というわけで、そんな会話を横目にカイトもまた休憩を取る事にするのだった。




 さて明けて翌日。一同は朝から調査を行う事になっていた。というわけで、カイト以下飛空術を使える面々は自力で。使えない面々や魔道具を使って表層部を調査する調査員は竜騎士部隊により移送される形で移動を行っていた。


「じゃあ、先輩、ソラ。表層部の警戒はそちらに任せる。基本は一班毎での行動を心掛けさせろ……魔糸による命綱も忘れさせるなよ」

「わかってる……桜ちゃんが来れば、って所だけど居ないのに頼みにも出来ないしな」

「そういうこと……まぁ、今はまだ本隊が本格的な行動を起こせるようにするための事前調査だ。しょうがない」

「そだな。あ、カイト。一応お前どっち方面に向かうかだけ聞いといて良い? 通信機は一応四方に設けてるけど、遺跡の直下に通じるかわかんないからさ」


 カイトの言葉に同意したソラであったが、そのまま一つカイトへと問いかける。先にも述べられているし実際にもそうだったが、この遺跡の構造材は通信機の通信を遮断してしまうらしい。なので万が一カイト達が遺跡の下に居た場合、通信が可能かはかなり怪しい所だった。


「なるほど……先にそのテストを行っておくか。万が一の場合は別の手も考える必要もある」

「何かあるのか?」

「ちょっとな……大っぴらには出来ないが、空中に設置するタイプの増幅器をティナが作ってる所だ。そいつを融通して貰うという手もある」

「そんなのあんの?」

「出力の関係でまだ実用的ではないらしいがな。が、この遺跡の外周をカバーするぐらいは出来るだろう」


 少しだけ驚いた様子のソラに、カイトはティナから借りていた実物を取り出して提示する。形状としては飛行型のドローンに似ていたが、かなり縦長のシルエットだった。


「使う見込みはなかったから一つしかないが、こいつが中継機……というか増幅器か」

「へー……かなり小さいな」

「超長距離を飛ばすのではなくて、例えば特殊な力場がある場所とかで浮かべて通信を中継するためのものだからな。正しく今回みたいな、という所だろう」

「へー……」


 やはり色々な場所での活動を想定しているからなのだろう。ソラはティナが開発したらしい中継器を感心したように見る。そんな彼に、カイトは肩を竦める。


「まぁ、そんな事はどうでも良い。とりあえずこいつが必要かどうかは現状未定だ。必要なら使う、というだけだしな」

「それもそっか……じゃあ、頼む」

「ああ」


 ソラの要請を受け、カイトは飛空術で飛翔。そのまま自分が調査する一角へと移動していくわけであるが、そこで遺跡の端に設けられた通信機の中継器を確認する。


「ん……中継器は正常に動いていそうだな」

『そりゃ、動いてないと困るし。持ってくる前に動作確認もしてるから問題無いだろ』

「そりゃそうだ……じゃあ、これから遺跡の下側に移動する」

『あいよ』


 ソラの応答を聞きながら、カイトはゆっくりと高度を下げて遺跡の表層より更に下へと移動。更に降下して遺跡の下側まで移動する。


「これで大体中央付近まで降下したが……通信はどうだ?」

『んー……ちょっとノイズが入ってる……増幅率もう少し上げられるか? あ、オッケー……どう?』

「ああ。問題なさそうだ……だがこの場所でこれなら真下まで移動すると流石に厳しいか」

『流石に真下はなぁ……』


 今回の遺跡であるが、形状としては逆向きの円錐状に近い形だ。なので真下になると完全に遺跡の下に潜り込む形となるため、遺跡の構造材が邪魔をして通信が届かない可能性は非常に高かった。


「まぁ、やるなら四方に中継器を置いて迂回させるやり方がベストだが」

『だが、どうしたんだ?』

「まぁ、今回は良いだろう。全員が魔糸で中継器に接続出来るからな……今後本隊が来て竜騎士部隊にも外周部の調査をさせる必要が出た場合には例の増幅器を使う形で良いだろう」

『なるほど。りょーかい』


 カイトの方針にソラも納得し了承を露わにする。そうして、本格的な調査がスタートする事になるのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

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