第2873話 大空遺跡編 ――調査開始――
飛空術の実践に出たいというソラと瞬に同行し、飛空術を使って救援に出ていたカイト。そんな彼が救援の帰り道に見付けたのは、大空に浮かぶ古代の遺跡だった。
というわけでティナに連絡を取った彼はひとまず表層部と外周部の調査を行うと、そこで古代のゴーレムらしき存在の残骸を発見。更にはいくらかの調査を行った後、彼はユニオンを介して冒険部でこの遺跡の調査を請け負うべく準備を進めていた。そしてそういうわけなので、彼はまずいの一番にユリィに接触していた。
「うーん……これマクダウェル領には無い植物だねー。というか、皇国の物じゃないかも。詳しく調べてみないとだけど、多分エネシア大陸の物じゃないんじゃないかな」
「そうかぁ……ってなると、大洋の方を周遊していたのがなにかの拍子にこっちに流れてきて、って可能性が高そうか」
「それが一番ありえるね。高高度から降下してきて今の位置で安定、とか時々ある話だし」
カイトの推測にユリィが同意する。やはり長年園芸を行っているだけはありマクダウェル領に自生する草木や花々の大半を彼女は知っているらしく、カイトが持ち帰ったサンプルでエネシア大陸の植物でない可能性が高いと判断出来たようだ。
「となるとやはり大本がある場合は更に高高度になる可能性が高いか」
「そうなると厄介だねー。カイトが見付けたっていう遺跡の高度より更に上になるとランクS級の魔物が出てくる領域だし……」
「流石にそうなるとウチじゃ手は出せんな」
おそらく今回見付かった遺跡の高度が冒険部、ひいては一般的なギルドに依頼を出せる限界の高度だろう。カイトもユリィもため息を吐いて首を振る。
ソラにも言っていたが、高高度では魔物の数は少なくなるがそれに反比例するように強い魔物が多くなる。そうなると流石に冒険部では受諾出来ないどころか並大抵のギルドでは請け負うことは出来なかった。
「その場合どうする? ウチで動く?」
「しかないだろう。高高度の遺跡の調査依頼は時々来るんだろ?」
「来るねー。かくいう私も何回か同行してるし……まぁ、そんなの年にどころか十年に数回程度だけどさ」
カイトの前ではこうしておちゃらけているが、ユリィは名うての教育者かつ考古学の専門家だ。遺跡となると正しく彼女も専門家の一人として意見を求められる立場だろう。
そして当人もランクEXの冒険者と腕も十分。遺跡の保全活動の実績もあるので依頼人側としても安心だ。危険地帯にある遺跡の調査が依頼されない道理がなかったし、そうなるとマクダウェル家として動くしかなかった。
「最後はどれぐらい前だ?」
「もう五、六年前じゃないかな」
「そうなると装備の更新やらやっておかないと駄目か」
「あー……確かに五年も前の装備は使えないかー……ていうか、あれ。一部は冒険部に貸与したんじゃなかったっけ。あれ? 譲渡だっけ?」
「あ……そういえばそうだっけ……」
いつものことと言えばいつものことであるが、冒険部の活動開始時においてはマクダウェル家から各種の支援が貰えていた。その中には遺跡調査に必要な道具類も含まれており、そこにユリィらが使っていた装備の一部が含まれていたらしかった。
先に彼女が言った通り数年に一度の領域なので使う時には使い物にならないことが多かったため、どうせならと格安で譲渡したのであった。
「冒険部としちゃ型落ちとはいえ一流の装備だから良い話だったし、ウチとしても管理費や修繕費を浮かせられる……ウィンウィンだったんだが」
「どっちにしろウチで置いておいても管理費が無駄になるだけだし、あの時に見つかってても一緒だと思うよ。型落ち品だし」
「それもそうか」
基本こういった場合にマクダウェル家が動く場合、型落ち品を使うことはかなり珍しい。他の貴族の手前見栄もあったし、型落ち品ということは性能はやはり最新作には劣る。
何より危険地帯に挑むのだ。型落ち品でしかも長年使われていなかった物を使って後悔するぐらいなら、多少費用は無駄になろうとその時点での最新装備に更新した方が良かった。
「ま、とりあえず……そういうことならもしもの場合に備えて貰っておいて良いか? どっちにしろ遺跡で集めた情報をどこかしらでは解析しないと駄目だしな。何よりサンプルの確認にも時間が必要だろうし」
「りょうかーい。じゃあ今回はお留守番しておくね」
「頼む」
一応カイトも数々の遺跡を回り各地の神々と関わる関係で多くの古代文明を知っているが、それでも何から何まで知っているわけではない。なのでカイトは自分達が現地で得た情報をユリィに解析して貰うことにしたようだ。というわけで彼女の残留が決まった所で、カイトは次の手配を考えることにする。
「でだ……あとはどうするかね」
「アンブラは?」
「土のサンプルを渡してる。流石に向こうもすぐにはわかんないなー、って言ってた。まぁ、あいつも残留だな」
「どっちにしろあっちも大本がある場合は動かないと駄目だろうしねー」
「だわな」
やはり今回の遺跡の規模としても冒険部が現地の調査。マクダウェル家の学者勢は裏に控えて情報の解析をした方が良いか。カイトはユリィと話す中でそう判断する。そんな彼にユリィが問いかける。
「で、結局入り口は見付かったの?」
「今のところ未発見だな。外周部も見た所見当たらない。アルとルー、リィルの三人を連れて行って、外周部を再調査しつつ、表層部を冒険部の面子で地道に調査って形になるか」
「ソラと瞬はそのままにするの?」
「流石に表層部で万が一が起きた場合の対応にあたってもらうつもりだ。オレが全体的に見ていく必要があるしな」
「それもそっか」
今回の遺跡はどこの遺跡かさえわかっていないという状況だ。なので侵入者撃退のトラップ類を類推することも難しく、そこらも現地調査に含まれている。となるとカイトはどちらでも支援出来るようにしなければならないため、この配置になったようだ。
「うーん……今回はやっぱ結構厄介な調査になりそうか」
「やれるの?」
「やれるやれないというよりやるしかない以上はやるしかないだろう。装備も色々と面倒になるが」
「頭金に含めておいた方が良さそうだねー」
「そうするかー……とりあえずヴィクトルに色々と発注しておかんと」
今回の調査はかなり特殊な場所になっている。先にカイトが述べていたような落下防止の魔道具以外にも色々な魔道具を仕入れる必要がありそうで、そこに関しては費用の面から頭が痛い所ではあった。と、いうわけで色々と準備を整えつつ雑談を交えつつしていたカイトであったが、そこに通信が入ってきた。
「んぁ? なんだ?」
『御主人様。大丈夫ですか?』
「ああ……何か急用か?」
『急用というほどではありませんが……サンドラのルーク様がいらっしゃられています』
「ああ、そういえばそろそろまた戻ると言っていたな。その挨拶か?」
一応ルークは表向きここ暫くは留学に伴う手続きやこちらでの準備のためマクスウェルに来ていることになっている。表向きなので実態は先の一件に伴う事情聴取という所であるが、それにしても半ば有名無実。実態としては星神の調査という所が大きく、ルークも拒むことはなかった。
『いえ……先の遺跡調査に加えて欲しいという要請が』
「あれに? 耳が早いな……まぁ、良い。今ユリィの部屋に居る。こっちまで案内するようにしてくれ」
『かしこまりました』
カイトの指示を受け、椿が早速マクダウェル家の人員を手配。暫くするとルークがユリィの部屋までやって来る。
「フェリシア学園長。お久しぶりです」
「お久しぶりです……まぁ、自室でカイト居る所で気張ってもねー。私適当に仕事してるから勝手に離しててよ」
「ありがとうございます」
「おう……で、帰るんじゃなかったのか?」
「いや、古代文明の遺跡が、それも大空に浮かぶ遺跡が見付かったと瞬から聞いてね」
「ああ、先輩からか……」
まぁ、隠しているわけでもないしルークなら大丈夫なので良いか。カイトは瞬の判断については何も問わないことにする。実際必要になればルークにも意見を求めることは今後出てくるだろうので、特に問題とすることもなかった。
「で、なんでわざわざ」
「そこが未知だからさ……と言う冗談は一旦横において。実は遺跡に行ったことがなかったのさ」
「無いのか? お前ほどの魔術師が?」
「いや、誤解なきように言うともちろんある。でもこういった未知の遺跡には触れたことがない。すでに調査されていて、何も見る所が無いような所にしか行ったことがなかったんだ」
「なるほど……」
これは珍しいことではないのだが、やはり完全に未知の遺跡は危険度が非常に高い。それを専門に請け負う冒険部のような冒険者ギルドがあるぐらいなのだから当然だろう。
「だが知っての通り、未知の遺跡は危険性が高い。オレとしちゃあまり承諾しかねるが」
「それは承知しているさ。だが今後を考えるのなら未知の遺跡に行かねばならないことは出てくるだろう。それがわかるのなら、今私を加えるのは今後を見据えた一手として良いと思うな」
「星神か?」
「そうだとも。君の地球での話は聞いている……今後エネフィアで似た展開が起きないとは思えない。違うかな?」
「ふむ……」
そう言われれば確かに一理ある。カイトはルークの指摘に僅かに頭を悩ませる。ルークをなぜ星神達が注目したかはわからないが、注目された者が面倒に巻き込まれることはわかっている。
その中で彼らがエネフィアに遺しただろう遺跡に挑まされる可能性が無いか、と言われればカイトでさえ首を振る所であった。というわけで、そこらを踏まえてカイトは結論を下した。
「……わかった。但し最終的な判断は向こう側になる。そっちの説得は自分でやってくれ」
「無論だとも」
「なら好きにしてくれ。こちらとしても飛空術が使えて魔術の対策が可能なルークが居てくれて損はないこともまた事実。同行するならそれはそれで良いだろう」
何より学者が足りていないのもまた事実だしな。カイトはルークに対して更に告げる。というわけで、カイトの許諾を受けたルークが説得に戻ったと同時にカイトもまた方々の手配に戻ることにするのだった。
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