第2869話 大空遺跡編 ――活用――
様々な事件を経ながらもその裏で飛空術の訓練を続けていたソラと瞬。そんな彼らは数ヶ月の訓練を経て、カイトより最終的な合格を貰うとマクスウェルの近隣だけならば、と飛空術による自由飛行の許可を出される事になっていた。
そしてやはり二人も男の子という所だろう。新しい、それも少年なら誰もが一度は思い描くだろう空を飛ぶという事柄を成し遂げられる飛空術というおもちゃを手に入れて暫くは飛空術を使う事が多かった。
「いや、ホントこれ楽っすね。渋滞やら人混みやら建物やらなんも気にしなくて良い」
「ああ……移動時間が一気に短縮出来た。地球に帰ってからも移動に使いたい所だな」
「そっすね……これあるだけで通学むっちゃ楽になりそう……」
「お前確か車で送ってもらってたんじゃなかったか?」
「それでもこっちのが速いっすよ」
やはり一度飛空術の味を覚えたら、これは楽と思ったらしい。実際カイトも短距離であっても飛空術を使う事は多いし、魔術を安定させられるのなら楽かつ一番速いとの事であった。と、そんな二人にカイトが告げる。
「二人共、喋るのは良いが加速するぞ。救援要請でやって良いか、と言った以上は竜騎士部隊並かそれ以上は成果を上げる必要がある」
「「おう!」」
カイトの言葉に、ソラと瞬は二つ返事で応ずる。やはり飛空術における最大の利点は個人の技能に依存するが即応性が非常に高いという点だろう。即応部隊も常に待機しているが、やはり出立には時間が必要だ。
それに対して飛空術を使えればその場で即座に出発出来る。その有用性を示したい、とソラが言い出してカイトと瞬がそれならと付き合う事になったのである。というわけで、三人は一気に加速して救助要請があった場所へ向けて飛翔する。
「カイト! 俺が先陣で大丈夫か!?」
「そうしろ! とりあえず魔物との距離を取らせ、その後お前は安全を確保する事に徹しろ!」
「了解!」
「先輩はオレと一緒に敵の殲滅! おそらく問題は無いはずだ!」
「おう!」
先の持久力の試験では分速数百メートル程度の飛翔であったが、二人も実はやろうとすれば分速数キロでの飛翔は可能だ。ただその分魔力の消費量は飛躍的に上昇してしまうため、費用対効果の関係で分速数百メートルに抑えていた。
が、今重要なのは時間。如何に短い時間で到着できるか、だ。故に相談出来る時間はほんの数分で、あっという間に救助要請のあった場所へとたどり着いた。
「見えた! ソラ! 牽制はこちらでやってやる! 割り込め!」
「おう! おぉおおお!」
「先輩! オレは後から行く! 先行してくれ!」
「わかった!」
雄叫びを上げて更に加速するソラとそれから少しだけ遅れるように飛翔する瞬を横目に、カイトは空中でひらりと転身。認識を加速して刹那を永遠へとすり替えると、弓を取り出し光の矢をつがえる。
「ふっ」
狙うのは冒険部の一団と魔物の一団の境目。両者を牽制し距離を取らせる事が目的だ。そうして、彼はつがえた矢から指を離して、即座に次の矢をつがえる。それを繰り返すこと数千。数秒の間に数千の矢が放たれ、あっという間に冒険部と魔物の間に矢の壁が出来上がった。
「矢!?」
「なんだ!?」
「もう来てくれたのか!?」
「おぉおおおお!」
矢の雨で自分達が呼んだ救援が来た事を理解しながらもその早さに驚きを浮かべる冒険部の面々に対して、ソラはカイトが意図的に生んでいた矢の壁の裂け目に切り込む。そうして轟音と衝撃波が放たれて、魔物の一団が大きく吹き飛んでいく。
「はぁ!」
ソラにより吹き飛ばされ身動きの取れない魔物の一団に対して、瞬が空中から強襲を仕掛ける。そうして着地と同時に一体の魔物を仕留めると、彼はそのまま手にしていた槍を消滅させ倒した魔物の死骸を強制的に自らから分離。新たに槍を取り出して、身を捩りその勢いを利用して槍を投げて更にまた別の一体を消滅させる。
「天城に一条!? どうやって!?」
「今はそれは良いっすから! 一旦後ろに下がってけが人の治療を!」
「っ、すまん! 無事な奴はそのまま応戦だ! けが人は馬車に運び込め!」
「「「おう!」」」
どうやらこの一団を率いていたのは天桜学園の三年生だったらしい。彼の指示で即座にけが人が馬車に運び込まれ、残った面子の半分ほどがその護衛と治療。その残りが交戦を継続する事になる。というわけで、そんな光景を尻目にソラは一つ胸を撫で下ろす。
「よし……これでとりあえずは大丈夫かな」
『ソラ。まだ戦いは終わっていない。こちらで遠距離支援は行う。全体のフォローをしてやれ』
「っと……了解」
安心している場合じゃなかった。ソラはカイトの言葉で気を取り直すと、改めて<<偉大なる太陽>>を手に魔物の一団と相対する。
「ゴブリン種……それもオーガか。珍しいな……」
この一帯にも確かにゴブリン種の魔物は出る――というかどこにでも居る――が、オーガが出るのは非常に珍しい事態だったらしい。ソラは瞬が自らに引き付けているオーガを見て僅かに目を丸くする。
とはいえ、彼とてすでにランクAの冒険者。オーガ程度で苦戦するわけがなかった。そして何より今回はカイトの支援まであるのだ。苦戦する要因がほぼほぼ見受けられなかった。というわけで、それから十数分後。彼らは救援要請のあった部隊の救助に成功するのだった。
さてカイト達三人が救援要請を受けて急行してからおよそ一時間。彼らは救援要請のあった部隊に持ってきた回復薬などを引き渡すと、再び飛空術でマクスウェルへと戻る事になっていた。
「うーん……飛空術で急行出来るのは利点だけど、敵影があんまはっきりわからないのが問題かー……カイト。何か良い手は無いのか?」
「無いな。もうそこは視力と動体視力、更には認識力を上げてなんとかするしかない」
「やっぱそれしかないのか……」
今回カイト達はとりあえず急ぎで、と飛空術で急行したわけであるが、やはり毎分数キロの速度で進んだのだ。戦闘に気付いた時にはすでに交戦まで残り数秒という状況で、比較的晴れたこの日でこれだ。悪天候時にどうなるか、この点はソラにとって不安要素だったらしい。
「それもそうだが……問題点は回復薬の方じゃないか? 飛空術だと竜騎士部隊のように医療班を同行させられるわけでもない。今回は重傷者が居ない事が事前にわかっていたから良かったが、そうなると竜騎士部隊のように回復薬を多く持ち運べる手段を考えたり上物の回復薬を用意したりした方が良いかもしれん。回復薬と一言で言っても毒消しだの何だのと色々とあるしな」
「それもそうっすね……カイト。執務室にある回復薬の輸送ケース。あれってもっと増やしたり入れられる種類を増やしたりは出来ないのか?」
「可能だ。あのケースはあくまでも救急箱のような扱いだから、戦闘時の怪我までは考えていない。あまり高くはないし、飛空術が使えるようになった以上は考慮に値するだろう」
やはりこの三人は組織を率いる立場にあるからだろう。こういう改善は出来ないだろうか。ここは問題だな、という話をしながらマクスウェルへと戻っていく。とはいえ、ある点に関してはソラも瞬も結論を一致させていた。
「だが……やはり速度の観点で考えれば飛空術はダントツか。この距離なら即応部隊はちょうど到着した頃かもしれんな」
「あー……そっすね。確かに速度の面で考えりゃダントツっすね」
自分達が撤退する頃合いで戦闘を開始したかもしれない。ソラも瞬も腕時計を見て自分達が出発した時間やら戦闘時間等から速度の面では他の追随を許さないと僅かに喜んでいた。と、そんな彼らにカイトが笑った。
「それは当然だろう……まぁ、竜騎士部隊の中には速度を限界まで上げればこれぐらいの速度で飛べる奴も居るだろうが、あちらは集団行動やら荷物やらを運んだりも考えねばならん。一緒くたには出来んさ」
「それもそっか」
「そうだ……まぁ、さっきの話の続きだが。一つ手としては飛空術を使える者たちで先行。竜騎士部隊が本隊や医療班を連れて後追いで、というのも一つの手だろう」
「あ、そっか……それなら医療班を守らないと、とか色々考えないでも良いかも」
「なるほど……」
元々即応部隊で問題となっていた一つに、医療班の護衛がどうしても必要になってしまう点があった。彼らは戦闘員ではないので護衛が必須なのだ。
無論戦闘には違いないので護衛が必要である事に変わりはないが、事前に敵の数をある程度減らしておければ竜騎士部隊の負担は減らせる。その分戦闘に回せる人員を増やせるという事でもあった。というわけで、飛空術を習得できた事で広がった戦略に瞬がしみじみとつぶやいた。
「本当に一気にやれる事が広がるな」
「すね……まさかこんな増えるとは俺も思わなかったっす」
「ああ」
単に自分達の移動が楽になる。戦闘時に上を取られなくて良いようになるなどのメリットだけでなく、組織としてのメリットまで出てくるなんて。二人は色々な利点に感じ入っていた。そんな二人に、カイトが告げる。
「ま、そこを上手く活用できるかどうかは指導部の腕一つだ。今後は飛空術も戦略の一つとして考えておけ」
「「おう」」
飛空術そのものはまだ上層部や一部の上澄みの魔術師しか習得していないが、今後は増えていく事が予想される。それが教育体制を整えている冒険部の強みと言って良かった。というわけで今後の展望に思い馳せる二人をどこか穏やかな顔で見守っていたカイトであったが、そんな彼がふと停止した。
「っと!?」
「おぉ!? カイト!?」
毎分数百メートルでの飛翔とはいえ、一秒で動く距離は数十メートルだ。なのでカイトが停止したと気付いた時にはかなりの距離が生まれており、二人も大慌てで停止して後ろを振り返る。というわけで、何故か急停止したカイトの所へと二人も移動して問いかける。
「どうしたんだ?」
「いや……ちょっと待ってくれ。やはりそっちでも視えるか? ああ……ふむ……」
どうやらカイトはなにかに気付いて、誰かに連絡を取っていたらしい。少しだけ険しい様子だった。そうして誰かと連絡を取っていた彼は数度なにかの会話を交わした後、一つ礼を述べる。
「ありがとう……ティナ。オレ。今大丈夫か?」
『なんじゃ?』
「何も聞かずひとまずオレが居る場所を見付けられるか?」
『うむ……む?』
「やはりそちらでも見付けられたか。どう見る?」
『直接見てみねばわからん……下手にどこかのギルドが介入しても面倒になろう。一度立ち寄ってみよ。見た所、魔物は外にはおらん様子じゃが』
「わかった……二人も連れて行く。警戒だけ任せて良いか? ソレイユにも今しがた警戒は頼んだ」
どうやら先に話していたのはソレイユだったらしい。ティナが動けるかどうかがわからなかったので、先に彼女に色々と頼んでいたようだ。というわけで、ティナとの間で合意を得たカイトは通信機の通信はそのままにソラと瞬の方を見る。
「二人共……あー、多分視えんか。ちょっと寄らないと行けない所が出来た。ついてきてくれ。多分問題はないはずだ」
「あ、ああ……何があったんだ?」
「ちょっとな……」
困惑気味ながらも同意しつつ問いかける瞬に、カイトは少しだけ苦笑しつつもどこか楽しげな表情で付いて来るように指示する。そうして、三人は一気に高度を上げて移動を開始するのだった。
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