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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第98章 演習編

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第2865話 大空遺跡編 ――飛空術――

 皇都通信との諍いを終え、更にカイトが開発中の飛空艇やらの試験の日々に戻ってから暫く。カイトは瞬とソラという業務外では珍しいのか珍しくないのかわからない組み合わせから呼び出されていた。


「っと! こんなぐらいでどうだ!?」

「まー、十分だろ! 今のお前に繊細な作業は求めるべくもないだろうしな!」


 呼び出された理由であるが、これは至極単純。飛空術がある程度様になったから見てほしい、と言われたからであった。というわけで空中をふわふわと飛び回るソラにカイトはひとまずの合格点を与えておく。というわけで、彼の方の確認が終わった所で次は瞬だった。


「じゃあ、次は俺か」

「先輩の方は滑空とその場への滞空がメインだからそこまで見る必要は無いかもだが」

「それはそれだろう……じゃあ、やってみる」


 カイトのテストの開始を頼んだ瞬は僅かに身を屈めると、そのまま飛び跳ねるようにして大きく上へと跳躍する。魔力を放射する、重力を操作するなどの魔術メインと言える飛空術に対して、どちらかと言えば体術に近い瞬の飛空術は上昇にはどうしても脚力が必要だった。というわけで試験という事もあり100メートルほどまで上昇した彼はそこで滞空する。


「よし……」

「うん。まぁ、良いだろう。そのまま高度を固定して左右に緩やかに移動は出来るか?」

「ああ」


 単に滞空するだけで良いのなら、やり方はいくらでもある。そしてここから高速で移動するなら<<空縮地(からしゅくち)>>で事足りる。必要なのは緩やかな移動だった。というわけで、カイトの指摘に瞬は一つうなずくと自らの背後に翼を生み出す感覚を手にする。


「……良し。後は」


 風を読むだけだ。瞬は大空を吹く風を受けながら、自らが操るべき流れを見定めて飛翔を行う。それは自由自在とまでは行かずとも、空中での高機動戦闘を可能としているだけの安定感は見受けられた。これに、カイトは一つ頷いた。


「ん。それだけ動ければ十分だろう。後は持久力という所だが……」

「「……」」


 来たか。ソラも瞬もカイトが最後に課すと聞かされていた試験に、僅かに息を呑む。この持久力のテストだが、先に受けた桜や瑞樹ら曰く数日は飛空術を使いたくないと思うほどに厳しいものだったという。

 しかも彼女らはテスト終了後はカイトからの魔力補充があってなお、そうだったというのだ。スペックであればギルド随一の二人であっても気後れするのは無理のない話であった。そして当たり前の話だが、彼女らに課して二人に課さない道理はないわけだ。


「よし。じゃあ、これから……そこまで警戒せんでも」

「いや……具体的な話は聞いていないんだが、相当凄まじいものなんだろう?」

「俺もそう聞いてる……ヤバいって」

「まぁ……最終テストだからヤバいかヤバくないかで言われりゃヤバいが」


 先に話を聞いていたから警戒感を滲ませる二人に、カイトは半ば苦笑気味に厳しいテストである事は認めておく。というわけで、彼は最後の試験に備えさせるべく一つの指示を出す。


「とりあえず二人は完全武装で戻ってこい。戦闘時に非武装はあり得ないんだし、何度かは完全武装で訓練したと聞いている……というか見てもいたしな」

「あ……そっか。そうだよな。普通は武装してるよな」

「そうか……確かにな」


 これから最後の試練を下そうというのだ。ならばなるべく実戦に即した形の方が良いのはソラとしても瞬としても納得の出来る話であった。というわけで、カイトの指示に従って二人は一度ギルドホームに戻って完全武装。周囲に何事かと思われながらも再び修練場に戻ってくる。が、そうして戻ったカイトの所にはどうしてかエドナが一緒だった。


「あれ?」

「あれは確か……エドナ……さんだったか?」


 何故彼女がここに。着替えに向かうまではいなかったエドナの存在に二人が訝しむ。が、彼女は次元を渡る事の出来る天馬。故に二人の脳裏には嫌な予感が浮かんだようだ。ソラがおずおずと問いかける。


「な、なぁ……カイト。もしかして彼女に追いつけー……とか言わないよな?」

「まさか。流石にそんなふざけた事はしない。追い付けるとも思わん。単に試験中はオレが暇になるから話し相手が欲しかっただけ」

「そ、そうか」

「良かった……」


 さすがの二人もエドナに追いつけ、やエドナを捕まえろ、と言われて出来る自信はなかったようだ。カイトのはっきりとした明言に僅かに胸を撫で下ろす。と、そんな二人であったが、瞬がはたと気付いた。


「試験中は暇?」

「ああ……言っておくが先輩達は暇にはならんぞ? 暇になるのはオレだけ」

「だからランデブーしましょう、と誘ってくれたのよ」

「久しぶりにのんびりと、ってのも良いだろ?」

「そうね」


 どうやらかつての主人を乗せて飛べるからか、エドナも上機嫌だったらしい。カイトの言葉に即座に応ずる。そして同様に喜んでいたカイトがソラと瞬の二人に告げた。


「ま、それは良い……とりあえず二人共。準備は良いのか?」

「え……あ、よし……カイト。俺の方はいつでも良い」

「俺も大丈夫だ……あ」

「どした?」


 唐突になにかを思い出したように目を見開いたソラに、カイトは少しだけ小首をかしげる。これにソラが問いかけた。


「そういえば<<地母儀典(キュベレイ)>>は使って良いのか? 一応実戦ベースって事はあれもありだよな?」

「あー……確かに有りはありだが。オレはオススメせんね」

「なんで?」

「じゃじゃ馬だぞ? しかも重力の操作とか大得意な魔導書だ……後はわかるな?」

「あ」


 元々<<地母儀典(キュベレイ)>>はじゃじゃ馬として知られている魔導書だ。そして同時に気分屋でもある。ソラ自身の不注意もあるが、何度となく彼は重力の檻に捕らえられて地面に押さえ付けられている。飛空術の試験の最中にそんな事をされては堪ったものではなかった。


「わかったみたいだな。ま、お前が完全にあのじゃじゃ馬を乗りこなせれば逆に物凄い力になってくれるだろうが。今はやめとけ。飛空術も出来ないレベルで、っておちょくられるのが関の山だ」

「おう」

「よし……じゃ、エドナ」

「ええ」


 カイトの要望を受けて、エドナが純白の天馬の姿に早変わり。カイトはその背に跨った。


「二人共、覚悟は良いな? 言っておくが、この試験は相当にキツい。簡単だからこそ、キツいんだ。多分今まで課した試験の中でもトップクラスの厳しさだろう」

「「……」」


 あのカイトがわざわざそう言う領域。ソラと瞬は共に生唾を飲み込む。そうして緊張に包まれる二人を尻目に、カイトは刀を取り出して空間を一薙ぎする。


「よし……ついてこい」

「「……」」


 生まれた空間の裂け目にエドナと共に進んでいくカイトに従って、二人もまた空間の裂け目に進んでいく。そうして裂け目を通り抜けた先で二人を待っていたのは、だだっ広い草原だった。


「……なんだ、ここは」

「草原だ。見てわかる通りな。と言っても、大体20キロぐらい先には雪原が広がってるし、更に進んだ所には海が広がってたりとしてはいる」

「へー……ん? 20キロ?」


 本当にだだっ広い空間だな。そう思ったソラであったが、カイトの口から出ていた単語に思わず停止する。そしてこれは当然、彼の聞き間違いなどではなかった。


「ああ……大体20キロ先まで草原。その先は雪原が……どれぐらいだったか。まぁ、10数キロは普通にある。大海原も相当だな」

「……そんな広い空間で何をするんだ?」


 おそらく自分達が思う以上に広い空間だろう。そう考える瞬はしかし、何故こんな所に移動したかが掴めず首を傾げる。といってもさすがの彼もここで戦えと言われるとは思っていないようだ。そして実際、カイトは戦えと言うつもりは毛頭ない。


「試験だ。ここがスタートで、ゴールまで到達する。それが試験」

「? 単純だな」

「ああ……単純だ。がんばれよ」

「待った! カイト! ストップ!」


 絶対に何かを企んでる。そんな笑みを浮かべたカイトに、ソラが大慌てで待ったを掛ける。もうこの時点で彼は嫌な予感がしていたようだ。


「そのゴールってどこ?」

「……どこだと思う?」

「いや、良い……聞き方変える。1000キロ超える?」

「いや、流石にそこは超えないよ……200キロはどうしようかと考えてるがな」

「「んなっ!?」」


 とどのつまりこの試験とは飛空術を使って200キロの距離を踏破しろということ。カイトの楽しげな笑みでの発言に、ソラも瞬も言葉を失う。

 200キロというと東京から静岡ぐらい。冒険者であれば難なく踏破出来る距離だが、飛空術を使うとなると話は変わる。自主練習でさえ10キロの距離も飛んだ事のない二人にとって、完全に上限を超えた距離に思えた。


「ああ、そういえば言っておくが。当然、途中休憩は無し。無休憩で200キロ弱を飛翔だ」

「回復薬もか!?」

「ああ……まぁ、そこは流石に実戦ベースだと中々無いが。とはいえ、200キロの距離そのものは今後もっと上に至るのなら要求されてくる距離ではある。だからペース配分は重要になってくるし、魔力の消費を抑える創意工夫。姿勢制御の安定、どうやって休めば良いかなど様々な部分が要求される。ただ飛ぶだけ、でも距離が伸びると一気に試験に早変わりだ」


 絶叫にも近い問いかけを行った瞬に対して、カイトは外部からの補給も考慮しない点もまた試験の一環であると明言する。


「どうする? 一度どこまで自分達がやれるか試すか? それとももう少し改良を加えたい、練習したい、というのなら後回しでも良いぞ」

「「……」」


 カイトの問いかけに対して、瞬もソラも一度だけ顔を見合わせる。正直甘く見ていた所は無いではない。所詮訓練なのだからと高を括っていた所はあっただろう。というわけで、いつになく無言のまま暫くの時間が流れるわけであるが、先に決断したのはやはり瞬だった。


「わかった。やろう……無補給が少し怖い所ではあるが……思えば確かに魔力を限界まで消費した、と天道も神宮寺も言っていたんだ。俺の見込みが甘かった、という所だろう」

「そうだな。これに関しては内容さえ語らないなら厳しかったかどうか程度は話して良いと言っていた。甘く見た、というのは言い逃れできないだろう……ソラ。お前は?」

「……わかった。俺もやるよ」

「良いのか? 付き合わなくて良いぞ?」


 半ば自分がやると言ったのでそれに合わせた形。そう感じられた瞬の言葉に対して、ソラは若干それは認めつつも首を振った。


「まぁ……それは若干あります。けど多分、行けないと思ったならカイトはやらないでしょうし……もちろん、それでも色々とあって無理な可能性もあるんでしょうけど。やってみないと見えない所って絶対あるでしょうし」

「それは……そうか。そうだな」


 確かにソラの言う事は尤もだ。今回のテストに落ちたからとてなにかが変わるわけでもない。再チャレンジもカイトならしてくれるだろうし、テストを受けるのにお金が掛かるわけでもない。なら受けるだけ損はなかった。というわけで、二人の返答にカイトは一つ頷いた。


「よし。それなら……最後に一応言っておいてやる。覚悟はしとけ。割りと地獄を見る」

「それを今このタイミングで言うなよ」

「いや、覚悟をさせてくれるだけ良い」

「そりゃそうなんっすけど」


 楽しげに笑うカイトに対して、瞬は前向きに覚悟を決めてソラは逆に肩を落とす。というわけで、改めて覚悟を決めた二人は地面を蹴って速度を上げていくエドナに続いて大空へと飛び立つのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

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