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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第98章 演習編

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第2859話 企業暗闘編 ――その後――

 かつて天桜学園が開発に協力したヘッドセット型通信機とスマホ型通信機。それに端を発して起きた皇国でも有数の大企業である皇都通信との諍い。それはカイトが皇都とマクスウェルを何度も往復し、皇都通信の開発部門のトップであるエピシリキという老人が逮捕される事で終結する。

 というわけで平穏を取り戻した天桜学園と冒険部近辺であったが、その中でカイトはランテリジャの要請を受けてエルーシャと共に彼女の故郷があるという北部の街へと向かう事になっていた。


「……暗い」


 エルーシャの確保した家族用の部屋であるが、これは一言で言えばいつものパーティ用の部屋だ。なのでエントランスに相当する部屋があり、そこに繋がる幾つもの個室があるという形式だった。

 そういう事なのでダブルベッドなどがあるにはあるが、流石にその部屋は使わず二人は別室にて就寝する事を選択していた。というわけで起きたカイトが感じたのは、突き刺すような寒さと朝なのに暗い部屋だった。そうしてカーテンを開けて外を見た彼が見たのは、雪化粧が施された街並みだった。


「やっぱり積もったか……さぶっ」


 気や魔力で新陳代謝を強化して体温を上昇させられようと、寒いものは寒い。なので窓に近付き冷気が感じられ、カイトは大慌てで窓から離れる。

 そうして彼は防寒着を着込んで、冒険者用に用意されているスペースへと移動する。朝の鍛錬を行うためだ。と、そこで彼が見たのは、瞑想を行うエルーシャの姿だった。


「こぉー……」

「ほぅ……」


 やはり気に関しては天才的な才能を持っている様子だな。カイトは大気に満ちる気を吸収し周囲をコントロールする様子を見て、思わず感心したように吐息を漏らす。エルーシャの手によりコントロールされた一帯は雪が溶けており、周囲が温かい事が見て取れていた。と、そんな彼の吐息を聞いたからだろう。エルーシャが目を開く。


「あ、おはよう」

「ああ、おはよう……見事だな。<<集気法(しゅうきほう)>>により大気中の気を吸収。<<鎧気(がいき)>>をそこまで広げているのか。しかも話しながらも乱れが見えない」

「そりゃ、これが身を守る上での肝心要の技ですから。話しながらだろうがお風呂中だろうが、それこそトイレの最中だろうとこれが出来ないと拳闘士名乗れないわ」


 基本動きを機敏にするために軽装備を装備する拳闘士であるが、当然彼ら彼女らも被弾はある。そんな時に魔力による障壁と並んで身体を守るのが、この気による鎧である<<鎧気(がいき)>>と呼ばれる不可視の鎧だ。エルーシャの言う通り、どんな状況だろうとこれが出来ねば死ぬだけであった。


「そうか……」

「で、カイトこそどうしたの?」

「オレも朝の訓練だ……異空間で形稽古は終わらせてきたが、こっちでしか出来ない事もあるからな」

「そ……邪魔にならないなら好きにして良いから」

「助かる」


 基本的にホテルでは揉め事にならないようにある部屋に宿泊している一団に対してはあるエリアを、と使えるエリアが決まっている。昨日みたいに多くの宿泊客が居るような状況ではそれを守っておくのが吉だった。というわけで、カイトはエルーシャの横に腰掛けていつもの<<(まろばし)>>の訓練を行いながら話をする。


「今日はどうする? 結構積もってるが行けるのか?」

「行けるわ。ただ朝の便は駄目でしょうね。軍が整えてるでしょうから」

「そうか……そこまで乗る人は多くないのか?」

「そこまで遠いわけでもないから、本数も比較的多いし。大丈夫と思うわ」

「そうか」


 それなら馬車に関しては問題なさそうだな。カイトは状況が見えないから予約はしなかった馬車に関して、問題無い事に僅かに胸を撫で下ろす。やはりこの時期になると天候不順により何日も馬車が出ない事は往々にしてあった。それを知っている彼なので、そうならなくて一安心という所であった。と、そんな彼にエルーシャが笑う。


「それに、最悪は歩いて行けるわ。私が家出した時、ここまで歩いたし」

「よ、よく行けたな」

「流石に冬じゃなかったわよ?」

「あはは。冬にやってたら正気を疑うよ」


 エルーシャの言葉にカイトが楽しげに笑う。ちなみに。こんなふうに笑い合う二人であるがそれ故にこそ同じ様に出てきた冒険者達に格の違いを見せ付ける事になっていた事は、気付いていなかった。そうして二人はその後もお喋りをしながらその実圧倒的な練度を見せ付ける形の訓練を一時間ほど続ける事になるのだった。




 さて朝の訓練から更に数時間。最悪連泊になってしまう可能性があるので念のために昼から馬車が動く事を確認した二人はホテルをチェックアウト。出発までにウィンドウ・ショッピングを楽しんだ後、馬車に乗って移動していた。


「……企業人が多いな、やはり」

「流石に彼らは歩きや走りじゃ移動出来ないもの……あ」

「どうした?」


 スーツを着込んだ若い何人かを見てなにかに気付いたらしいエルーシャが自分の影に隠れるように僅かに移動したのを見て、カイトが小首を傾げる。これに彼女は小声で事情を語った。


「あの人達、ウチの社員っぽい」

「え? あー……」


 エルーシャの言葉にカイトもスーツ姿のサラリーマン達を見てみると、その中の一人のフラワーホール――左胸の所にある穴――にグリント商会のバッジが見て取れた。

 流石にこれを他社の社員が身に付ける事は悪意がある以外ないので、普通に考えればグリント商会の社員だろう。しかもこの馬車に乗るという事は即ち、グリント商会の本社に戻るとしか思えない。エルーシャとしてはかなり居心地が悪い状況だろう。


「まぁ、そこは我慢するしか無いだろう。オレに言われてもだしな」

「わかってるわよ」


 だからこうやって隠れてんの。カイトの言葉にエルーシャがしかめっ面で身を屈める。というわけで暫くの間隠れて揺られる事になるのであるが、幸いな事に降雪もあってか魔物の動きも緩く特に戦いがあるわけでもなく目的の街へとたどり着く事になっていた。


「ふぅ……で、グリント商会にはどうやって行けば良いんだ? というか行くのはグリント商会か? それとも実家か? というか、一緒にしてるのか?」

「実家……この街の外れよ」

「何だ。実家と商会の機能は分けてるのか」

「そうだけど……何か珍しいの?」

「いや、珍しくはないが……一族経営をしている所だと自宅に本社機能を持たせている所がないわけじゃないからな」

「昔はウチもそうだったんでしょうけど……今は流石に違うわ」


 基本的に商会や商店と名乗っている所は大本が個人でやっていた個人商店が大本である事が多かった。なのでどこかに店を構えるではなく自宅兼事務所というのが一般的だったようだ。そして三百年前はこれが非情に多かったようだ。

 が、流石にグリント商会ほどの規模になるとそうでもなかったらしい。ちなみにこれに関してはヴァディム商会も違うらしく、昔に根付いた感覚がそのままになっていたという所だろう。というわけでそれをエルーシャから聞いたカイトは特に気にする事もなく納得を示す。


「そうか……案内頼む」

「その必要は無いみたいね」

「ん?」


 エルーシャの返答にカイトが小首を傾げると、それと同時に道路の先から見慣れた姿が姿を現す。といってもそれはいつもの冒険者の格好ではなく、どこかのご令息と言うに相応しい姿だったが。


「カイトさん」

「ランか」

「笑わないでくださいよ。本来、あれは世を忍ぶ仮の姿のようなものなんですから」

「だからってわざわざワックスで髪まで整えるのか? 仕事でも与えられてたのか?」


 楽しげに肩を震わせる自身に対して恥ずかしげに頬を赤らめるランテリジャに、カイトはそのまま楽しげに問いかける。


「家に居てもしっかりしろと祖父がうるさいんですよ。流石に僕も普段家ではワックスまではしてません」

「げ……お爺ちゃんウチに居るの?」

「居るよ。流石に今回の一件はあまりに大きすぎたからね」

「うげぇ……」


 どうやら姉弟の祖父はかなり堅物らしい。そしてこの様子だとエルーシャとは反りが合わないようだ。盛大にしかめっ面を浮かべていた。


「あはは。ま、久しぶりに爺さん孝行でもしてやれ……それに避けては通れんだろうしな」

「うへぇ……」

「あはは……あ、それで案内しますよ。出迎えてこい、というのも祖父の命令なので……」

「そうか……それなら頼む」


 どうやら商会としては隠居しているので公の場には出て来ないが、一族の一員としてはいまだ強い影響力を持っているらしいな。カイトは姉弟の祖父に関してそう理解する。この祖父は引退して久しいからかカイトもまたほとんど情報が仕入れられておらず、未知数だった。

 というわけで、カイトは久しぶりに再会したランテリジャとエルーシャの二人と共に、グリント家を目指して歩いて行く事にするのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

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