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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第98章 演習編

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第2848話 企業暗闘編 ――対応――

 かつて天桜学園が開発に協力したヘッドセット型通信機とスマホ型通信機。この二つの開発によって得られた資金は天桜学園、ひいては冒険部の運営開始に伴う重要な初期費用となってくれた。

 そしてこの二つの開発により市場ニーズに大変革が起きていたわけであるが、その結果幾つかの企業が利益を失う事となり、回り回って天桜学園という組織そのものが恨まれる結果をもたらしてしまう。

 というわけで、その利益を失った企業の一つである皇都通信という皇国有数の大企業との間で暗闘を繰り広げていたカイトは暦とアリスの両名を新入り達の指揮官として遠征隊を組織。とある薬草の採取に向かわせると共に、それを囮として皇都のギルドに所属する冒険者達の釣りを敢行。皇都のギルドに所属する冒険者達から情報を集めると、それを基に再度皇都の古馴染み達に話を通していた。


「こんな感じだが……何か掴めそうか?」

「なるほどな……やっぱ血の気が多い奴は多い。ちょっとお前さん、甘く見すぎたな」

「まー、それは否定はせんよ」


 カイトが話していた相手は先のドワーフの冒険者であるカルコスだ。そんな彼の苦言にも似た言葉に、カイトはため息を吐いた。


「進歩がないというか根っこが変わってないというか。三百年も経過すればある程度は穏やかになるかなと思ったんだがね」

「ま、それについちゃ肯定も否定もせん。実際、お前さんが言う通り一部の連中に関しちゃ昔みたく馬鹿なことをしないようにはなった。が、同時にそれが一部に過ぎないってのもまた事実だ。俺達の根っこなんて早々変わらねぇもんなんだろう」

「総数が増えてるってだけで比率は変わってないのかもな……いや、貧すれば鈍する。衣食足りて礼節を知る……それだと困るしバルフレアの奴がまた泣くな」

「がはははは」


 カイトの苦笑いに対して、カルコスは楽しげに声を上げて笑う。変わらない自分達を喜ぶべきか、成長や進歩が無いと嘆くべきか。それは誰にもわからなかった。


「ま、それは良い。とりあえずこっちでやっておいてやるよ」

「すまん。情報集めておいてくれれば良い」

「おう」


 カイトの言葉にカルコスが頷いた。というわけで、この後は先日同様に夜遅くまで酒盛りをして、カイトはフロイライン邸に帰還する事になるのだった。




 さてカイトが再び情報収集に奔走し始めて翌日の朝。彼はフロイライン邸にて起床すると、そのまま皇都で公爵としての仕事をこなしていた。そんな最中の事だ。彼はアベルからの連絡を受けていた。


『というわけだが……これで良いか?』

「ああ。とりあえず軍の強硬派を抑えてくれるだけで良い。現状、これ幸いと本家側の二人が狙われるのが一番厄介だ」

『軍の強硬派の連中は外交を気にしないから困る』


 やれやれ。カイトの言葉に同意するように、アベルが肩を竦める。そんな彼であったが、すぐに気を取り直した。


『まぁ、良い。兎にも角にもそこが東端のマクダウェル家で助かったという所ではあっただろう。軍の強硬派の連中の多くは西部の連中だ。そっちには伝手が無い事が多い。こちらで対処は出来そうだ』

「助かる。ひとまず抑止さえしておいてくれれば、その間に隙きは埋めておける。隙きもなければ流石に動きようがないだろう」

『ああ……だが目処は立ちそうなのか?』

「まぁ……なんとかか。尖兵というか先遣隊の襲撃についてはなんとか無傷でやり過ごせた。後は本当に裏の連中を手配されて天桜に手を出される事態を防ぎたい所だな」

『そうか……そちらについてはこちらがなにかを言える事でもない。マクダウェル公に任せる』


 そもそも今回の一件はマクダウェル領で起きている事だし、天桜学園はマクダウェル家が最終的な保護責任者となっている。なのでブランシェット家の代理人であるアベルはこう言うしかなかったようだ。というわけで、軍のタカ派への対応にある程度の目処を立てたカイトは一つため息を吐いた。


「後は本当に情報待ち……という所か」


 どうしたものかね。カイトは現状待ちになってしまった状況にため息を吐く。とはいえ、仕方がなくはあっただろう。すでにマクスウェルに入り込んでいた尖兵は追い返したし、その結果もきちんと自分の目で見届けた。皇都に入ったのもそのためと言えただろう。というわけで次の動きを考えていたカイトの所に、今度はハイゼンベルグ公ジェイクからの連絡が入った。


『カイト。今良いな?』

「良くなかったら連絡は取ってない……それで?」

『うむ……日本からの連絡じゃ。まぁ、内一つはお主への個人的な話だったがのう』

「やめろ。聞きたくない」


 無茶苦茶嬉しそうな顔をしてやがる。カイトはハイゼンベルグ公ジェイクが楽しげに笑うのを見て盛大に頭を抱える。この時点で何を言いたいかわかろうものであった。


『ははははは。まぁ、おめでとうと言っておいてやろう』

「うるせぇよ。なんで義理の弟妹も居る状況で実の弟妹まで増えにゃならん」

『ははははは』


 まぁ、カイトからしてみれば二十歳も超えた良い大人が急に弟か妹が出来ると言われたようなものなのだ。非常にやり難い事この上なかった。


『まぁ、それはともかく……儂としてはなるべく早い内に陛下……いや、ユスティーツィア殿に孫を見せてやってくれ。それしかないのう』

「ねぇやめて? それ本気にされてマジで出来ると収集がつかんから」

『殿下も節度は弁えられよう。が、今のうちから言っておかねばの』


 他人事だと思いやがって。カイトは楽しげに笑うハイゼンベルグ公ジェイクに再び盛大にため息を吐く。


「ていうか、妹や弟とほぼ同年齢の孫って何なんだよ……いや、もう良いよ。そんな事を言うためにまさか連絡を取ったわけないよな? 流石に酔狂も過ぎるぞ」

『なわけがあるまい。この程度で良ければ仕事が終わった後に話す』

「そりゃ良かった」


 本当にストレスが溜まっていたらやる可能性がないではなかったが、単に話の起点としてこれを使ったというだけだろう。というわけで楽しげに笑っていたハイゼンベルグ公ジェイクが再び真剣な表情を浮かべる。


『まずお主が今取り掛かっている案件じゃ。各国やはりこの程度の話は掴んでおらんし、興味もないんじゃろ。皇国内であれば逆に心配しておる所がちらほらという所かの。一応、そちらについては儂の方がマクダウェル家が対応中と話しておるが……問題ないな?』

「問題ない。事実だしな」

『うむ』


 どうやらこれに乗じて天桜学園になにかしようとしている勢力は今のところ見当たらないらしい。まぁ、なにかをしてしまえばその瞬間マクダウェル家の勘気を買うのだ。それはゴメンだろう。


「とはいえ……そうなると多少無茶は出来そうか」

『あまりの無茶はできんがの』

「それで良い……ふむ」


 これはこちらから仕掛けるのも一つ手かもしれん。カイトはちょうど皇都に来ていた事もあり、一度先の一件で先遣隊を派遣した奴らに話をしても良いかもと考える。そしてそんな彼の様子で、ハイゼンベルグ公ジェイクも何を彼が考えているか理解したらしい。


『仕掛けるか?』

「わかったのか?」

『少し楽しげじゃったからのう……わかってはおろうが、ギルドと相対する場合はギルドホーム内部だけに留めよ。外での刃傷沙汰はご法度じゃぞ。まぁ、今のお主なら多少無茶をした所で儂や心配しておる貴族共てお咎めなしには出来ようがの。それにも限度はある』


 大丈夫かと心配されているということは、多少の無茶をしても貴族達の理解は得られる可能性が高いという事ではあった。無論カイトとしても無茶をしたくはなかったが、このまま無駄に待つより自ら情報を手に入れにいきたい所ではあった。


「わかってるよ……それにオレは仕掛けん。それぐらいの圧倒的な実力はあると自負しているし、後は何も仕掛けんでも情報を手に入れる方法はある。後、こっちに乗り込んでるのを知られたくない所もあるしな」

『それもそうか……ま、外での刃傷沙汰でなければ陛下も何も言われまい。後はお主の采配に任せるとしよう』

「あいよ……これが終わったらちょっとまたマクスウェルに戻るわ。向こうのギルド同盟の情報も知りたいしな」

『あいわかった』


 カイトの返答にハイゼンベルグ公ジェイクが頷いた。そうして、彼は会話を切り上げて今回の一件で尖兵を送ってきたギルドの所へと向かう事にするのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

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