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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第98章 演習編

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第2847話 企業暗闘編 ――次の段階――

 かつて天桜学園が協力する形で開発されたヘッドセット型とスマホ型通信機。この二つの登場によりエネフィアでは市場ニーズの変革が起きたわけであるが、その結果失われたニーズは確かに存在し、天桜学園、ひいてはその案件を主導したカイトは幾らかの企業より恨みを買う事になってしまっていた。

 というわけで、その一つにして皇国でも有数の大企業である皇都通信と争う事になってしまったカイトは兄弟子である宗矩に協力を要請。皇都のギルドの尖兵の撃破に成功するのであるが、その後枯れは暦達の動きを見守りながらも撃破された尖兵達の動きを監視。報復に出ようとしたのを見て、先手を打っていた。


「はぁ……! はぁ……! っぅ!」


 ここまで来ればもう安心だ。街の裏路地をただひたすらに走っていた男は冬も近いにも関わらず汗だくだった。が、彼は冒険者。単に走り回るだけであれば、魔力の補助もあれば数百数千キロを苦もなく踏破する。にも関わらず、滝のように汗を流しているのだ。即ち別の要因だとしか思えなかった。そしてその原因が、彼の眼の前に現れる。


「何だ……結局戦うつもりになったのか。逃げるなら追うつもりなんてなかったのに」

「!?」


 響いた声に、男の顔が真っ青に変わる。何が起きたかわからない。何をされたかがわからない。おそらく幻術や結界の類なのだとはわかるが、自分達と技量が違いすぎて対処出来ないのだ。そうしてそんな男の眼の前で、カイトが刀を抜き放つ。


「オーケー……やろうぜ。先に仕掛けたのはそっちだ。わかってるだろう?」

「お、俺らはやりたくてやったわけじゃねぇ! ウチのギルドマスターに行ってこい、って言われて来ただけだ! もう二度と手は出さねぇ!」


 だから見逃してくれ。男は必死の形相で懇願する。まぁ、無理もない。実は彼は一度カイトに仕掛けている。その結果、あまりの実力差を悟り即座に逃亡を図ったのだ。が、それを許すカイトではない。

 故に彼の術中に嵌まり――そもそも仕掛けさせられたのさえカイトの術中だが――脱出が不可能な結界に捕らえられ、逃げても逃げてもこのようにカイトの前に連れてこられていたのであった。それは絶望しかないだろう。


「ふーん……まぁ、確かに上の命令なら下は聞かにゃしゃーないってのは道理だな。上の意思を下が無視されちゃ上の面子が立たない」

「だ、だろう? だから俺達は命じられただけだ! 許してくれ!」


 刀の切っ先を下げたカイトに、男はここぞとばかりに畳み掛ける。これにカイトはわずかに悩む姿勢を見せる。


「ふむ……確かにそれならお前達のギルドに文句を言うのが筋ってもんだろう。教えろよ。オレはどこに文句を言えば良いんだ? いや、そもそもどうしてオレらに攻撃なんか仕掛けたんだ? オレはあんたの所のギルドと揉めた覚えなんかないんだが」

「そ、それは……」


 自分の所属と攻め込んできた理由を教えろ。そう言われた男であるが、やはりそうなると今度はギルド内での彼の立場が危うくなるだろう。しかも相手は冒険部。マクダウェル家に覚えの良いギルドだ。

 下手にマクダウェル家に睨まれれば皇都での活動はやりにくくなるだろうし、最悪自分がとかげの尻尾切りにあう可能性も見えていた。なので口ごもる男に対して、カイトはそれなら仕方がないと再び刀を持ち上げる。


「それなら仕方がない」

「わ、わかった! わかったから!」


 どうやらここでこのまま自分が始末されるより、仲間を売った方が良いと判断したようだ。男は大慌てでそう告げる。そうして自分達がどこで、どうして冒険部に攻め込んだのかをつぶさに語っていくのを、カイトは遠くで眺めていた。


「はーい。二番陥落と……残るは三番と七番だけか」


 当たり前であるが、カイトである。彼が一人だけ逃がすというヘマをするわけがなかった。というわけで、実は彼は今しがた話している一人以外もバラバラに結界に捕らえ、敢えてカイトが相対しているのが自分だけという様子を演じていたのであった。

 ちなみに、さすがは最強と言うべきか皇都の冒険者達が相対しているのはすべて彼の何分の一にも満たない力しか無い分身なのだが、誰一人として気づいた様子はなかった。そしてそんな彼の横で、ソレイユが楽しげに笑っていた。


「存外保たなかったねー」

「こんなもんだろ、使い捨ての駒なら。本当に腕利きなら逃走の最中になんとかして仲間に連絡を取ったり合流したりするもんだ。それが誰一人として出来ていない。まだまだ二流だな」

「おろ……三流の評価はしないんだ」

「ま、流石に三流は言い過ぎだと思ったんでな」


 この皇都のギルドの尖兵達は壁超えこそ果たしていないが悪くはない実力と経験を積んでいるだろう。カイトはランクの判定基準に依らない部分を認めていたようだ。とはいえ、それ故にこそ少しだけ哀れみを浮かべていた。


「とはいえ……流石に腕の部分じゃまだまだだ。暦でも正面から勝てたか」

「宗矩さん動かしたの過剰?」

「過剰過ぎたな……いや、新入り達に足を引っ張られた場合を考えりゃ妥当な判断だったかもしれないか」


 暦やアリスと戦えば普通ならこの二人が圧勝するだろうが、先の状況では二人は新入り達の訓練の最中だったのだ。そして二人の性格上新入り達を見捨てるという選択肢は無いだろう。なのでそれに足を引っ張られる可能性を鑑みれば、誰かしらが痛手を負う可能性は十分に有り得た。


「まぁ、それは良い……とりあえずこれで情報はある程度集まりそうかな」


 一応古馴染みの冒険者達に情報は集めてもらっているが、彼らはあくまでも外の存在だ。内側の存在である彼らだから掴んでいる情報がないわけではなかった。というわけで、カイトは各所で自分の分身に対して情報を暴露していく冒険者達の情報を集約し、今回の一件で動いている冒険者ギルドの詳細を掴んでいく。


「なるほどね……やはりメインの利益はマクスウェルというデカいパイか」

「クズハのおっぱいは小さいけどねー」

「本人に聞かれたらぶん殴られるな……むぅ?」

「どうしたの?」


 自身の冗談に笑いながらツッコミを入れたカイトが唐突に訝しんだのを受けて、ソレイユが一つ首を傾げる。確かに現状不確かな点が多く彼がこんな表情を浮かべても不思議はなかったが、それ故に何があったか気になったようだ。


「いや……どうやらマクダウェル領のギルドも一部噛んでいるらしくてな。なるほど……確かにエルーシャらのギルドの活動範囲は広いし、それ以外のウチの同盟も結構大きく活動してるしなぁ……」


 やはり当初睨んでいた通り、様々な勢力がいろいろな思惑で協力していたらしい。カイトは冒険者達の言葉を聞きながらそう思う。そうして彼は冒険者達の情報をメモに逐一したためていく。

 と言っても、その大半は既知の物だったらしくやはり重要視していたのはマクダウェル領のギルドだった。そうして、暫く。冒険者達が他にカイトに語れる内容はと必死で悩み始めたのを見て、彼はメモを異空間に投げ込んだ。


「……良し。これだけ掴めりゃ十分か」

「もう良いの?」

「十分だ……流石にマクダウェル領の内部ならギルドの繋がりはある程度わかっている。というか、わかってないと駄目だからな」


 幾つかは自分が聞いた事のある名だ。カイトはメモに記しておいた名前を見ながら、次に調べるのはこの彼らだと判断する。と言っても、彼自身が動くつもりはない。


「ギルド同盟の連中に声を掛けて、調べてもらう事にしよう。流石に今回の事例はギルド同盟の防衛事項に該当するっぽいしな」

「流石にねー……じゃ、もう意識刈り取っちゃって良い?」

「おう。もう必要無い」


 ソレイユの問いかけに、カイトは無慈悲に笑いながらそう告げる。そうして次の瞬間。彼女が待機させていた人数分の光の矢が冒険者達を貫いて、皇都の彼らの本拠地の眼の前に転移させるのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

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