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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第98章 演習編

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第2844話 企業暗闘編 ――暗闘――

  かつて天桜学園が組織としてエネフィアでのスタートを切る上で重要な資金源となったヘッドセット型通信機とスマホ型通信機の関連技術。それにより天桜学園、ひいては冒険部は順調な滑り出しを見せたものの、その市場ニーズの変化により利益を奪われた幾らかの企業からの恨みを買う事になってしまう。

 そんな彼は少しの思惑から暦とアリスの二人の訓練を兼ねた陽動作戦を展開していたのであるが、カイトの指示により新入り達と共に遠征に出ていた二人は改めて指揮官として今まで見えなかった視点で物事を考えながら、必要に応じて新入り達に指示を出していた。そうして進む事暫く。夕刻になった頃合いに一同は開けた場所を選んで野営の準備を整えていた。


「よし……そっちどうですかー!?」

「あ、お……じゃなかった。はい! 大丈夫です!」


 やはり組織に属してあまり時間が経過していなかった事と、上下関係が基本戦闘力の高低である冒険者だからだろう。丁寧語や敬語は使える方が珍しく、年齢が近ければうっかりこうやってラフな言葉遣いが出てしまう事も良く見受けられた。が、この点に関しては今回の遠征ばかりは注意するように言い含められていたのだ。


「あっぶね……やっぱなんか座りが悪いな……」

「仕方がないかと」

「お前は楽で良さそうだな……」


 やりにくそうにする少年であるが、対するルルイラは常に丁寧語だ。なのでほぼ気にする必要が無い事に若干羨ましそうだった。ちなみにカイトが今回何故丁寧語を心がけるように指示していたかというと、冒険部の依頼人には各界の著名人も少なくないからだ。そんな相手に下手を打つと確実に厄介事になるため、そうならないで良いようにせめて心掛けるぐらいは出来るか確認させる意味もあったのである。


「あはは……アリス。そっちどう?」

「……カイトさんほどではないですが出来はしたかと」

「せ、先輩は別枠で……」


 今回の役割分担としては、魔術師二人とアリスが料理担当。暦以下残りの面子で野営の準備だ。なのでアリスがカイトほどではないが、というのは料理の話であった。そもそも彼以上か彼並の料理が出来るのは冒険部でもあまりに限られ過ぎていたので、暦の言う通りカイトは別枠も良い所だった。


「よし……じゃあ、こんな所ですね」

「はい。後は明日に備えてゆっくり休んで……あ、その前に一応保管具の点検だけはしておくべきかと」

「あ……それはそうだね」


 アリスの提案に、暦もそうだと同意する。というわけで、野営の準備を整えた一同は明日に備えて休む前に夕食を食べて明日に備えての支度を行う事にするのだった。




 さて暦らが今日一日の活動を終わらせて明日に備えてわずかにのんびりとした時間を過ごしだした頃。気を抜いている彼女らを狙う影があった。それは言うまでもなく皇都のギルドの先遣隊だった。


「そろそろお休みの時間、ってわけか」

「仕掛けるか?」

「まぁ……殺すなって言われているわけでもねぇしな。油断した頃合いに一気に、ってやって一度向こうの出方を伺うってのは有りだろう」


 やるなら当然だが被害が出ないようにしたいのはどこも一緒だ。なのでこの彼らは油断しているこのタイミングでの襲撃を考えていたらしい。


「じゃあ、やるか」

「「「おう」」」


 どうにせよ一度接触してこいと言われていたのは事実だ。なので彼らは今までずっと焦らされていた事もあり、少しやる気を見せていた。

 が、そもそもの話。カイトがこういった万が一を考えていないわけがなかった。故に高度な隠蔽の魔術が施された馬車から降りた彼らは、魔術にも頼らず身一つで隠形を施していた男の存在にようやく気が付いた。


「……」

「なんだ?」

「お前……誰だ?」

「いつの間に……」


 なにせ彼らからしてみれば今まで見ていたはずの方向に唐突に男が現れたのだ。誰しもが困惑を全面に出し、同時に警戒をあらわにしていた。そんな彼らに、謎の男こと宗矩はため息を吐いた。


「弟弟子からはまださほど血生臭い話にはならないとは思うがと聞いていたが。存外、思った以上に早い段階で血生臭い話になったか」

「弟弟子……? っ、ムサシ・ミヤモトの門下生か!?」

「残念ながら、宮本殿の弟子ではない。返せぬ恩を抱く身ではあるが」


 刀を持ちながら日本風の拵えがされた衣服に身を包むのだ。彼らが柳生宗矩という人物を知らないでも無理がなかった以上、武蔵の弟子と勘違いされても無理はなかっただろう。そしてそれに関しては宗矩自身さほど気にしていない。彼は少しだけ笑って首を振り、今名乗るべき自らの名を名乗る。


「柳生但馬守宗矩……浅はかならぬ縁にてあの子らを守る者なり」

「あぁ? つまり、敵って事だな?」

「そう捉えて構わぬ」


 よくはわからないが兎にも角にも敵なのだろう。皇都のギルドの冒険者の言葉に、宗矩ははっきりと断言する。というわけでその言葉と同時に、冒険者の一人が斬りかかっていた。


「なら死ねや」

「……はぁ」


 呆れるほどに分かり易い。返事と同時に斬りかかる冒険者に、宗矩は呆れたように深くため息を吐いた。とはいえ、彼にしてみればこんな輩は生前ごまんと見てきたのだ。それは不意打ちにもならなかった。

 というわけで振るわれた刃はまるで元々彼がそこに居なかったかのように空を切り、それに対して宗矩は抜き放つこともなく冒険者の意識を刈り取った。


「「「!?」」」

「いささかの応用は加えたが、神陰流の基礎<<転>>だ。本来、信綱公の技を振るうなぞ貴様らには過ぎた栄誉だが……」


 少し実験体になってもらうとしよう。宗矩は柳生但馬守宗矩に戻った自分がどの程度やるのか知りたいという事もあり、敢えて自分達親子が編み出した柳生新陰流でも表の新陰流でもなく、祖たる神陰流を使う事にしたようだ。

 そしてそれは即ち皇都の冒険者達にとってみれば、正しく絶望でしかない。無論、それを知る術は一切なかったが。とはいえ。何が起きたかわからずとも結果は認識出来ている。故に皇都の冒険者達は警戒の度合いを一気に跳ね上げる。


「おい……複数で一気に掛かるぞ」

「「おう」」


 一人の言葉に、二人が応ずる。何をされて意識を刈り取られたかなぞわからない。が、少なくとも自分達とさほど実力差の無い戦士が為す術もなく、そして不意打ちまでしたのに一瞬でやられたのだ。一対一なぞ選択肢になかった。そしてこれについては、宗矩も願ったり叶ったりであった。


「……」


 どうやら彼らは同じギルドなるものに所属しているらしい。一呼吸で全員が呼吸を統一させ、熟練の連携を見せる冒険者達に宗矩はそう思う。が、熟練の慣れた動きというのは完全に流れが出来上がっているようなものだ。それこそ神陰流とは最も相性が良かった。


(短剣片手剣片手剣……短剣使いは懐にナイフを忍ばせているな)


 加速した意識の中。まるでコマ送りのように迫り来る皇都の冒険者達を見る事もなく、宗矩は敢えて目を閉じて自らが乗るべき流れに身を任せる。そうして、人の欲望を理解しながらも但馬守という剣聖に立ち戻った男の絶技が始まった。


「「「……は?」」」


 ただ起きるのは結果だけ。放たれたナイフを軽やかな動きで避けたかと思えば何故か攻撃した冒険者が倒れ、それに続いた残る二人も攻撃を回避されただけで倒れていくのだ。

 神陰流の流れが見えぬ皇都の冒険者達からすれば、正しく意味不明な状況だった。故に困惑しかない彼らに対して、回避と同時に<<転>>を使って結果だけを出力させた宗矩は手をぐっぱっと握り感覚を確かめていた。


「ふむ……」


 思った以上に十分に放てたな。宗矩はかつての生涯では得られなかった満足感を得ている事を感じながら、同時に自身が柳生但馬守宗矩から離れていない事を再確認。そして同時に自らの欲望に流されぬように無念無想を心掛ける。


(そうか……これでようやく俺は剣士として立てたのか。存外、悪くない)


 宗矩は内心で僅かな苦笑を浮かべる。かつての自身が人の欲望なぞおおよそ理解出来ていなかったと理解したのだ。そしてそれを理解した彼はそれ故にこそ満足だった。自らがさらなる高みに立てるという実感もあったからだ。


「……次は、誰だ? 別に殺しはせん。思う存分、掛かってこい」


 これは良い訓練になりそうだ。猛る気持ちを宥めるという二重にかつての自分では考えられない行為を心掛け、宗矩は困惑を浮かべる冒険者達に投げかける。

 ちなみに、殺さないというのはカイトの要望ではない。彼自身が猛る気持ちを宥め殺さぬ加減をするという修行をしたかったからというだけに過ぎない。かつてと今の違う自分がどこまでやれるのか、と試したかったのだ。

 というわけで、自らの腕を確かめたいという欲望にも身を任せながらも但馬守の自分を失わない宗矩は、それ故にこそかつてより遥かに冴え渡る技の実験台として十数人の冒険者達を料理するのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

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