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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第98章 演習編

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第2843話 企業暗闘編 ――新人指揮官――

 かつて天桜学園が組織としてエネフィアでのスタートを切る上で重要な資金源となったヘッドセット型通信機とスマホ型通信機の関連技術。それにより天桜学園、ひいては冒険部は順調な滑り出しを見せたものの、その市場ニーズの変化により利益を奪われた幾らかの企業からの恨みを買う事になってしまう。

 その中の一つである皇都通信とそれを後ろ盾とした皇都の冒険者ギルドの襲撃を受ける可能性が出てしまったカイトはであるが、そんな彼は少しの思惑と必要性からアリスと暦の二人を新入り達への教導を兼ねた指揮官として遠征に出していた。というわけで、初となる指揮官としての仕事を任された暦は緊張しながらも、アリスに前衛を任せ自身は一歩引いて戦いを観察する事になっていた。


「……」


 アリスの助言に従って一歩引いて全体の監督を行う事になった暦であるが、これに関してはやはり彼女はカイトの薫陶を受けていた点が非常に大きかった。というのも、神陰流の基礎の基礎とは観察にこそあったからだ。


「はっ!」

(……やっぱり速い)


 これは当然の話であったが、最近入ってきたルルイラはその大剣士という特異性などもあり比較的カイトが面倒を見ていた。なので暦とも面識はあり、速度については十分見れる領域だとカイトが太鼓判を押していたのを彼女も知っていたのだ。

 というわけで轟音と振動を撒き散らして敵の一体を消し飛ばしたルルイラを見て彼女に関しては申し分ないと判断。更にその後ろに続く者たちを観察する。


(他も……うん。平均ぐらいはありそう……?)


 動きを見る限り、戦闘面で個々になにか言う必要は無いかもしれない。暦は自分がまだまだ新人――指揮官としては――である事を踏まえて、戦闘面に関する言及はしない事を決める。ここらは彼女の性格という所ではあっただろう。と、そんな彼女にアリスが問いかける。


『私の動きはどうしますか?』

「ひとまず様子見で良さそう……かな」


 今回の敵であるが、ゴブリン種が十数体と冒険者が旅をする上では最も基礎的な構成だと言えた。一見数が多いように思えるが、亜種も居るには居るが注意が必要な亜種は見受けられず、かつて冒険部が戦闘したゴブリン達の『王』のような指揮官も居ない烏合の衆だ。そして実際、ここで苦戦するようではカイトがソラ達への試験に使うほどの腕ではない。


「というか……割と強くない?」

『それはまぁ……今回は豊作とカイトさんが言われていたぐらいですから……』


 新入りというのだからもっと弱いのかと思っていた。そんな事を口にする暦に対して、アリスはカイトが言っていた事を口にする。そしてもちろん、これに関しては暦も聞いてはいた。


「それは知ってるけど……ううん。知ってたのはルルイラさんだけ……か」


 先にも触れられている通り、カイトが基本口にしたりしているのはルルイラの事だけだ。なので豊作とは聞いていても、それがどの程度豊作と言えたかは不明瞭だったと暦は改めて認識する。


「うん……やっぱり全然見えていなかったし、見えるものが違う」

『……はい』


 自分一人が一個人として個々に相対するのと、指揮官として集団の中の一人として相対するの。その両者は異なるのだろう、と暦もアリスも改めて認識する。というわけで、再認識した暦は改めてカイトの助言を思い出す。


『ま、やる事はいつもの修行とほぼ一緒だ。世界の流れを理解する……全体の動きと個々の動きは不可分だ。誰がどう動くのが最適で、誰がどう動くと他の誰はどう動かねばならないのか。それを踏まえて各個人に指示を出す……ただし必要な時に限ってな。もちろん、不要な相手に関しては自主性に任せるのも手だ。要不要を見極めるのは敵の戦力の見極めが必要だ。結局、指揮官は敵を知り己を知れば百戦殆うからずとなるのさ』


 それらすべてが、今までやってきた修行の中にある。暦はカイトの言葉を思い出し、確かに彼が言っていた通りだと認識する。というわけで、暦は自分達の戦力を見て、更に敵の戦力を見極める。


「……アリス。今回の援護は不要で良いよ。この程度の相手ならなにか変な事をしなくても十分に倒せる」

『わかりました。一応警戒態勢だけ維持しておきます』

「うん。お願い」


 この程度の相手に指示が必要なようなら、おそらく今回の遠征は組まれていなかったのだろう。暦はそう判断し、アリスもまたそれを支持する。というわけで、この戦いは一応全員の観察に留まる事になるのであるがそれこそが今の肝でもあった。


『でもこれが重要だったのかもしれません』

「どういうこと?」

『今までの暦だったら自分で突っ込んで行っちゃってたかな、と』

「むぅ……」


 否定は出来ない。暦はアリスの指摘に対して、おそらくこうやって見極めようとしていなければ自分が主軸となり敵を倒しに行っていた可能性を自らでも理解する。そんな彼女に、アリスがカイトから教えられていた事を告げた。


『実は出発前にカイトさんから、一度暦に下がらせるように言っておくように言われていました』

「先輩から?」

『ええ……暦の良い所は真面目な所だから、おそらく言われない限り自分が率先して倒しに行っちまうだろう。それをやると楽は楽だし安全は安全だが、人は育たない……指揮官としちゃそれは失格だ。どの程度なら自分がやらねばならないのか。どの程度は人に任せるのか……それを見極める事が指揮官の第一歩だ』

「うぐぅ……」


 完全に自分の動きを見抜かれた上で、必要な事まで言い含められていた。暦はアリスから聞かされるカイトの言葉にがっくりと肩を落とす。とはいえ、そんな彼女にアリスはしかしと告げる。


『とはいえ、一度の戦闘で下がっていたので悪くはなかったのかと。私がカイトさんから言われていたのは、もし五回戦って一度も下がろうとしていなかったならそれを言えという事でしたので……』

「きゅ、及第点って所かな……?」


 そうであって欲しいなぁ。暦は僅かな願望を滲ませる。ちなみに後に暦が聞いた所、助言ありとはいえ一度で気付けているので合格との事であった。自己評価が若干低いのは彼女の悪い点だった。と、そうこうしている間にゴブリンの群れの殲滅は終わったようだ。渦巻く炎を見て、暦は一つ頷いた。


「うん」

『終わりですね……連携としては及第点と言える部類だったかと』


 今回の動きであるが、ざっと言及すれば機動力に優れる槍使いが敵を誘導。それから逃れようとする、もしくは抜け出た個体をルルイラが殲滅。盾持ちが前衛二人を支援。敵を一点に集め魔術師達二人による一掃を行った形だ。

 おそらくもっと効率的な動きはあったし出来ただろうが、今回の遠征の目的の一つが冒険部というギルドの一員としての連携やらが出来ているかという確認があると言われていた事があったからだろう。意図的に連携して動くやり方を選んでいた様子だった。とはいえ、それは仕方がないと暦もアリスも判断し、暦は近くにいた魔術師の少女に問いかける。


「周囲の様子は?」

「えっと……はい。使い魔で見える限りでは問題ありません」

「そうですか。わかりました。じゃあ、撤収して再び先に進みましょう」

「「「はい」」」


 上空から周囲を監視する使い魔の『眼』を介して見えた状況に、暦は改めて指示を飛ばす。というわけで、戦闘に釣られて他の魔物がやって来る前に暦とアリス率いる遠征隊はその場を後にする事にして竜車に乗り込む。


「ふぅ……」

「お疲れ様です」

「何もしてないけどね」

「でもいつもと違う、というのは疲れるかと」

「わかるの?」

「最初の戦闘でそう思いました」


 暦の問いかけに対して、アリスはどこか苦笑するように笑う。というわけで、彼女が内情を明かしてくれた。


「私自身、カイトさんから予め言われていなかったら最初の戦闘で暦と同じ事をしていたと思います……結局、二人共まだまだだったのだと」

「あはは……やっぱり先輩にはまだまだ勝てそうにないかー」

「それは……あの、比較対象が悪すぎるかと。カイトさんは兄さんを思いっきり超えてますし……」


 個々人の戦闘力がどうかは遠くにある背中しか見えないアリスにはわからなかったが、少なくともルーファウスとカイトであれば指揮官としての能力はカイトの方が圧倒的に上であると認識していた。実際、ルーファウス当人もそうだと認めているのでこれは純然たる事実でしかなかった。そしてこれは暦からも事実としか言えなかった。


「まぁねぇ……でもルーファウスさんも出来るんじゃない?」

「いえ……兄さんの場合、暦と同じ事が当てはまるそうです。これは父さんの話にすぎないのですが」

「自分で前に出ちゃうって事?」

「はい……真面目過ぎるので自分でやってしまおうとして、という事らしいです」


 それはあり得るかもしれない。アリスから聞かされた話に暦は思わず納得を示す。そして実際、指揮官としての相性なら人に任せるという事が出来るアルの方が良いとの事であった。


「でもそういう事なら一条先輩もそうなるような……あ、でも先輩の場合……」

「ええ。ここ一年ぐらい? ずっと組織のトップにいらっしゃったらしいので。兄さんと話しているのをちらりと耳にしました」


 それは否が応でも人に任せるという事を覚えるだろう。しかも瞬は天桜学園でもトップクラスに有能な生徒だった。ただでさえ個人の競技で忙しいのに、この上会頭の役目まで負わされたのだ。

 他人に仕事を任せる事を覚えなければ、早々に運動部連合会という組織そのものが立ち行かないぐらいわかろうものであった。ちなみに、彼にそれを教え込んだのはクー・フーリンだ。その彼は会頭の役目を任されたと聞いた時、かなり久しぶりに戦闘と女性関連以外でヤバいと思ったとの事であった。


「そっかぁ……あ」

「どうしたんですか?」

「いや……こうやって私達がやらされている事も他人に仕事を任せる事なんだなーって」

「あ……そうですね。そうとも言えるのかと」


 言われてみれば確かにそうだ。暦が気付いた点にアリスも同じ気付きを得たのか、感心したように頷いた。そうして、新人指揮官二人は改めて指揮官として必要な事を見直しながら竜車に揺られて進んでいくのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

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