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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第98章 演習編

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第2839話 企業暗闘編 ――囮――

 かつて天桜学園が組織としてスタートするにあたってカイトが主導したヘッドセット型とスマホ型通信機の開発への協力。それは完全に無一文でのスタートになっていた天桜学園が活動を開始するにあたって重要な資金源となってくれたわけであるが、その結果。今になって利益を失った企業の一つである皇都通信から狙われる事になってしまっていた。

 というわけで、カイトは皇都やマクスウェルを行き来しながらその対応に追われていたわけであるが、その一環として暦とアリスに新入り達の監督としての遠征を命じることとする。そうしてその日の夕刻。カイトから渡された情報を頼りに、二人はマクスウェルの書庫を探していた。いたのであるが、そこにはカイトも何故か居た。


「あれ? 先輩もここに居たんですか?」

「ん? ああ、暦か……アリスは?」

「あっちです。流石にこっちは広いので……」


 マクダウェル家の書庫であるが、実はこれは二つあった。そのうち一般に開放されている書庫は謂わば図書館のようなもので、こちらは一般には開放されない書庫だった。それでも入れるのは今回の依頼にあたってカイトが事前に下ろしていたからで、それを見て二人も資料がこちらにあるのだろうと判断したのであった。


「よろしい。前提となる知性は問題無いみたいだな」

「えへへ……で、もしかしてここに居るという事は教えてくれちゃったりなんかしちゃったりは……」

「残念ながらそういうわけじゃない。オレもオレの仕事でこっちに居るだけだ」


 当たり前であるが、カイトとて皇都通信以外にも幾つもの案件を抱えている。ここに居ても不思議はなかった。とはいえ、今回の案件に無関係であるわけではなかった。


「また何か厄介事ですか?」

「そういうわけじゃない……まぁ、今まで現状は把握していたんだが、流石に大まかな歴史は知っていても詳しくはわからなくてな。色々と調べておかんとな、と」

「歴史……ですか?」

「ああ……この三百年で有名になった会社や商会の歴史は知らない。だが過去を知っておかないと、今がわからない。マクダウェル家は歴史の浅い家だと思っていたんだがなぁ……浦島太郎の気分だ」


 少しだけ苦笑するように、カイトは暦に告げる。彼からすれば地球で三年。エネフィアで言えば一年にも経たない時間しか経過していなかったのだ。だのに帰ってくれば三百年。多くの物が変化していた。故の苦笑を浮かべる彼だが、一転して首を振った。


「ま、こっちは気にするな。どうにせよここまで関わった以上、グリント商会とヴァディム商会の両者は知っておく必要がある。そうなると、一般には明かされない情報や古い資料も必要になってくるというだけだ」

「はぁ……あ、えっと……それならすいません。こっちも仕事に取り掛かります」

「そうしてくれ」


 なんと返答すれば良いかわからない。視座が違いすぎて、暦にはそう言うしかなかったようだ。というわけで数十年も昔の資料を漁るカイトを横目に、暦は今回収集が依頼された薬草についての情報が記載された資料を探す。そうして十数分。大量の資料の中から、目的の物が見付かった。が、それ故にこそ彼女は愕然とする事になった。


「あった……でも……これはどうすれば……?」

『すまん。そこは考えていなかった』

「先輩?」

『ほら……ここの書庫。大きいだろ? 梯子は用意しているから、今後はそれを探すと良い』

「あ、ありがとうございます」


 マクダウェル家の書庫であるが、一般開放されていないこちらの書庫では数万冊以上の書籍が納められている。日本の国会図書館を参考に、マクダウェル領の中で発刊された書籍――もちろん一般的なものだけだが――は神殿都市の書庫とこちらの書庫にはすべて納められるようにしていたのである。

 それに加えて一部の政治的な報告書などもあったため、本棚はかなりの高さになっていたのであった。というわけで、カイトの手を借りながらも目的の書類を見つけた彼女は用意されていた椅子に腰掛けて書類を確認する。


「……え゛」


 数分の間書類を確認していた暦であったが、そんな彼女はすぐに顔を顰める事になる。というのも、今回の薬草に関する中毒性や重大な薬害が書かれていたからであった。


「そ、そういうこと……」


 それは資料が一般には出ないだろう。暦は書かれている内容やおおよそ目を背けたくなる報告に顔を顰めながら、おそらくどこかで見てくれているだろうカイトにこわごわ問いかけた。


「せ、先輩。これって……」

『そうだ。今回依頼に出された薬草は謂わば麻薬として知られている……が、地球でそうであるように、使い方次第ではこういった強い薬草は強い鎮痛剤などの薬の原料として認められている。これはそんな薬草だ』

「大丈夫なんですか、ウチで……」

『今までの功績から、大丈夫と判断されている。これに関してはオレを介していない第三者機関が許可を下したものだから、安心しろ』

「はぁ……」


 それで良いのなら良いのだが。暦は自分が取り扱わねばならないものが麻薬だと知って、若干の気後れが生じている様子だった。とはいえ、それ故にこそカイトは少しの真剣さを滲ませる。


『とはいえ、この薬草は本当に重要だ。特にオレ達冒険者ではな』

「どういうことですか?」

『これを精錬した薬品は少量で強力な鎮痛作用を持つ。更にはとある鎮静剤との相性も良くてな。この二つを組み合わせる事で、本来ならショック死が考えられるほどの大怪我を負った冒険者を一時的に眠らせ、街の病院まで搬送する事も出来るようになる』

「少量で……それって」

『そうだ。持ち運びが容易いという事だ。だからこの薬草を原料とした薬に助けられた冒険者は多い。が、そこに書かれている通り安易に扱えば中毒症状を引き起こしたりといった薬害が引き起こされる。扱いは厳に注意するように』

「はい」


 これは責任重大な依頼だ。暦は今回の依頼の色々な点に納得しながら、改めて資料の精査に戻る。そうして彼女が仕事に取り掛かる一方で、カイトはカイトで資料を読み込んでいた。


(グリント商会……設立は三百年前で今の規模になったのは百五十年ほど前か。元々は北部の街の電気屋という所だったそうだが……)


 どうやらその当時の当主がそれなりにやり手だったらしく、ヴィクトル商会との間で大きな取引を成立。幾つかの支店を設立し、最終的には今の商会としての形を作り上げたという所か。カイトはグリント商会に関する歴史をそう理解する。とはいえ、そうして歴史を見直してみてわかった事が一つあった。


(……なるほど。親族経営かと思ったし、実際親族経営に近い所はあるが……いや、それは良いな。兎にも角にも親族経営であるがゆえの軋轢か。本家をよく思わない勢力があるようだな。それが通信機の取り扱いを行っている所という所か)


 こればかりは色々と面倒な話だな。カイトは色々な資料を読み込みながら、深くため息を吐いた。


(で、その勢力が皇都通信を引き込んだ形か……ここを潰すか威圧しておかないと今後も面倒になりそうか。いや、潰すのは駄目か。グリント商会が混乱されると困るのは為政者であるオレだ。本家筋に与して親父さんに目を光らせて貰う形がベストか)


 先に触れられていたが、グリント商会はマクダウェル領北部でも有数の商会。そして彼らの書き入れ時はこれからだという。そこがこのタイミングで揉めると厄介になりかねなかったため、カイトはこの決着を手の打ちどころとする事にしたらしい。


「良し」


 これだけわかれば、ある程度は方針も立てられそうだな。カイトはそう判断する。と、そんな彼であるがマナーモードにしていた通信機が着信を報せている事に気が付いた。


「これは……エルか。ちょうど良いタイミングだな」


 どうやら着信はエルーシャからだったらしい。カイトとしてもちょうどグリント商会の現状がわかった事もあり、そろそろ一度話を聞きたい所ではあった。というわけで、彼は今度はエルーシャ達から話を聞く事にするのであるが、その前にアリスの様子を見ておくことにする。


「アリス」

「ひゃ……カイトさん?」

「ああ……どうだ? 資料の方は順調か?」

「あ、はい……でもこの資料の持ち出しって厳禁……ですよね?」


 どうやらアリスの方もこの薬草の取り扱いが厳重に管理されているのだと理解したらしい。が、形や情報がわからなければ探しようがないのもまた事実だった。


「ああ……そうだな。その場合の対処法としては該当ページだけメモを取っておくのがベストだろう。こういう場合は司書さんに相談してみると良い。どういう対処法があるか教えてくれる」

「あ……ありがとうございます。聞いてみます」


 やはりこういった情報収集は二人はしたことがないみたいだな。カイトは司書に聞きに行く事にしたアリスの背を見送りながら、そう思う。そうして、彼はアリスも問題なさそうだと判断して外に出る事にするのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

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