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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第98章 演習編

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第2836話 企業暗闘編 ――仕込み――

 かつて天桜学園がエネフィアで組織として発足する際の初期費用として活用されたヘッドセット型の通信機とスマホ型通信機の売上。それについては全くゼロからのスタートとなっていた当時においては最適な行動に思われたし、実際重要な資金源となってくれていたわけであるが、今になってそれが回り回って皇都でも有数の大企業である皇都通信の恨みを買う事になってしまう。

 というわけで、流石にこんな大企業の相手はしていられないとカイトは皇都とマクスウェルを行き来しながら古馴染みの冒険者達の手を借りながら情報収集と対策に乗り出していた。そうして古馴染みの冒険者達からの情報を手に入れた翌日。カイトはフロイライン邸の自室にて受け取った資料を読み込んでいた。


「ふむ……」


 今回の一件――あくまでも協定という意味でだが――を裏で主導するギルドを見て、カイトは険しい顔を浮かべていた。そこそこ名の知れたギルドだったらしい。と、そんな彼にユーディトが問いかける。


「おや……また木っ端なギルドが喧嘩を売ったものですね」

「これを木っ端と言えるのはさすがですね……<<四竜の腕(しりゅうのかいな)>>。四体の龍に囲まれた腕の紋章を掲げるギルド。規模としちゃ確かにそろそろもう一つぐらい拠点が欲しいという所ですか」


 厄介とは言えるかもしれないな。カイトは資料を見ながらどうするか考える。やはり利益の大きさから、参加しているギルドは少なくないらしい。それをピラピラとめくって確認しながら、再度彼は顔を顰める。


「それ以外にも幾つものギルドが参加していますが……取り敢えずこのウチに入り込んでいる奴らをなんとかしとかないと面倒この上なさそうですね」

「面倒ですね。裏から手を回せないというのは」

「現状、皇都支部はオレの正体知りませんからねー」


 現段階でカイトの正体を知っている支部はカイトが拠点を置くマクスウェル支部。そしてシェイラが支部長として就任している神殿都市支部。最後は言うまでもなくユニオンを総括する『リーナイト』だ。なのでカイトが影響力を行使出来るのはこの三つに限られ、後は裏の裏から手を回すぐらいしか手がなかった。


「まぁ、それはともかくとして。どうにも先遣隊だか尖兵だかで何人かが入り込んでいる様子です。これらがどう出るか……それ次第で面倒な事にはなりそうですね」

「釣ってみますか?」

「釣り……それも手ですか」


 おそらく敵は難敵といえるほどではないが、同時に楽な相手と言えるほどではないだろう。カイトはユーディトの言葉にそう思いながら、出方を伺うための釣りも手と考える。が、これはこれで考えものだった。


「ですがおそらくこちらの上層部が出てくると、向こうは動きそうにないでしょう。こちらの上層部が与し難いと向こうは判断している様子ですから」

「餌が強ければ警戒するのは道理です」

「ですね。ですが、襲撃出来るようにするとこちらが痛い目に遭う可能性もある。当然のお話ではありますが」

「それなら最適な男が居るかと」

「最適な男?」


 ユーディトの言葉に、カイトは一つ小首を傾げる。これにユーディトはある人物の名を告げる。


「あー……確かに彼に頼むのは一つ手ですか」

「はい……彼ならば如何なる相手でも迎撃は可能かと」

「確かに……そうですね。一つ持ちかけてみますか」


 確かに彼ならば相手に警戒されず、さりとて何があったとて対応は可能だろう。カイトはユーディトの提示した人物なら餌として十分な働きが出来そうだと納得する。そうしてカイトは次の動きを促すべく一旦集めた情報を取りまとめ、一路マクスウェルへと帰還するのだった。




 さてマクスウェルへと帰還したカイトであったが、そんな彼が執務室に顔を出すと同時にソラが声を上げた。


「ただいまー」

「おーう……あ、カイト!」

「おぉ?」


 何事か。唐突に呼び止められ、カイトは自分の椅子に向かおうとしていた足を止めてソラを見る。


「ちょうど今、先輩から連絡が入った所だったんだ。まだ何にも報告受けてないんだけど、お前の方に回すか?」

「ん? ああ、そうか。それなら頼む」


 一応ティナからは何も報告する事はないと聞いていたカイトであったが、それはあくまでも外から見た限りでの話だ。実際に現場に居た彼だから気付けた事が無いではないかもしれなかった。

 そして何より、今回はマクダウェル公爵軍の尻拭いをさせている。その兼ね合いから自身が直接取り仕切っていた事もあり、報告は受けておきたい所であった。というわけで、カイトは連絡が入ったばかりという瞬の通信を自分の所に繋がせる。


『カイトか? 戻ったのか』

「ああ。ちょうどたった今な……で、報告だったな。状況はどうだ?」

『一応、掃討作戦はすべて完了。軍の報告でも蔓延っていた魔物の九割以上は討伐出来ているとの事だ。残っている奴らも地下深くで休眠状態になっている魔物だ』

「そうか……すまなかったな。軍の後始末をさせて」

『いや、良い。依頼だったしな』


 相変わらず為政者との二足草鞋は大変だな。瞬は少し苦笑しながら首を振る。というわけで、一通りの報告を受けたカイトは最終判断として、依頼の完了を指示する事にする。


「……わかった。センサーの結果も受け取った。正式な完了報告は戻り次第になるが、これなら十分依頼の達成条件を満たしていると判断して良いだろう。もう戻ってくれ」

『わかった……だが警戒していた襲撃やらはなかった』

「だろう。こちらも情報を集めているんだが、やはり向こうも馬鹿じゃないらしい。監視の目などは感じられたか?」

『いや、駄目だ。そちらも何も感じなかった……まぁ、軍の監視網と森の中という話もある。難しいんじゃないか?』


 カイトの問いかけに対して、瞬は想定された返答をする。これにカイトは同意した。


「そうだな……実際、今回は警戒のためにエルフの血を引いている者も隊列に加えている。下手に森に入ってもそれに察知されるだけになってしまうかもしれん」

『つまり相手はある程度こちらの陣容は把握している、というわけか』

「そういうことだな……まぁ、それに関してはある程度の情報網を持っていれば普通に知れる事だ。その程度の当たり前は出来てその上で警戒するべきは警戒が出来る相手、と考えた方が良いだろう」


 わずかに顔を顰める瞬に、カイトは少しだけ真剣味を滲ませながらも頷いた。冒険者の界隈ではこの当たり前さえ無視して力ずくで動くような者も少なくないのだ。


『そうか……ということは、俺達が居る所では警戒して襲撃はされそうにないか』

「もし襲撃してくるようなら、その時は敵も本隊を繰り出してくるだろう。まぁ、流石にそこまで馬鹿な事はしてこないとは思うが……」


 もし本隊を繰り出してきて大規模な抗争に発展した場合、確実に大量の血が流れる事になってしまう。それについてはカイトは避けたい所だったし、相手としても力ずくでマクスウェルを奪ったという風評を得てしまうのはマクダウェル家の手前得策ではない。やってこないだろう、というのが現状での見立てだった。


「とはいえ、警戒に越した事はない。帰路は疲れがどうしても出てしまうから、油断して遠距離からぐさり、と貰わないようにな」

『気を付ける……で、そうなると気になるんだが、無名の奴らに一当てとはならないのか?』

「それは警戒しているし、それへの対応策を考えてな。それでちょうど戻った所だったんだ」

『そうだったのか』


 どうやら自分の考えている事程度はすでに考えられた後だったようだ。瞬はカイトの返答にそう思う。というわけでその後も暫くは瞬からの報告を受けて、カイトは通信を終わらせる。


「ふぅ……」

「先輩、なんて?」

「依頼は終わったそうだ。実際、あの達成率なら終わりと判断して良いだろう」

「そか。なら、明日には戻ってくるって事か」


 現状、戦力の分散を避けたいのがソラの考えという所だったのだろう。なので戦力の要である瞬を筆頭にした部長連が戻ってきてくれるのは安心出来たようだ。少しだけ胸を撫で下ろすような様子が見受けられた。と、その一方でカイトは報告も受けたのでと立ち上がる。


「そうだな……ソラ。悪いがもう暫くだけこっち頼む」

「え? また出るのか?」

「今度はすぐに戻る。会いに行く相手もマクスウェルに居るからな……今回の一件に対しての対抗策を打つ必要はあるだろ? が、その前にこっちで報告を受けるだけ受けとこうかと思って顔を出したんだ」

「それでか……わかった。もう暫くはこっちで回しておく」

「頼んだ」


 ソラの返答にカイトは一つ頷いた。そうして彼は再度冒険部のギルドホームを後にして、今回の増援の相手へ会いに行くのだった。

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