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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第98章 演習編

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第2897話 企業暗闘編 ――偽装――

 賢者ブロンザイトの実弟にしてラリマー王国の重鎮であるクロサイトの訪問をきっかけとして巻き込まれたラリマー王国のお家騒動。これに対応する最中に入ってきたのは、カイトがエルーシャの元婚約者から逆恨みされ狙われているという噂であった。

 それに対応する中でカイトはこの噂が何者かが意図的に流しているものであると理解すると、各方面に働きかけ情報を収集。結果、イリアがこれが皇国でも有数の大企業である皇都通信という企業が流したものであると察知したことにより、事態は皇国の上層部さえ巻き込んだ事態になっていた。というわけで、最悪の事態を避けるべく行動を開始した彼はひとまず丸一日掛けて皇国、マクダウェル家、冒険部の三つの対策会議を経て翌日にエルーシャと話をしていた。


「皇通? 皇通って……あの皇通? 皇都通信のことよね?」

「そうだ。その皇都通信だ」

「嘘でしょ?」


 カイトから情報を教えられたエルーシャは今回の噂の出処が皇都通信であると知り、やはり仰天していたようだ。無理もないだろう。カイトとてまさか皇都通信程の超大企業が自分達と敵対するようなことをするとは、と驚いていたぐらいなのだ。


「だろうな……オレだって嘘だろ、と思わず叫んだぐらいだ。一応、完全に付き合いが無いわけじゃないだろうが」

「そりゃ、まぁ……ウチのお店の中にお店は構えているでしょうけど」


 グリント商会は先にカイトによって言及されているが、マクダウェル領北部を中心としたいわば家電量販店だ。それに対して皇都通信は携帯電話のキャリアと考えれば良いだろう。なので日本でそうである様に、店の中に皇都通信が店を構えていることはあった。


「でも皇通がウチと敵対なんて……素直に信じられることじゃないわね……」

「これについてはさっき話した通り、オレというか天桜側の問題にはなるが」

「でもウチも何かしらの付け入る隙きはあったと」

「だとは思うよ。そうでなければ巻き込むようなことにはならんだろうからな……そのなにかが知りたい。一体誰が、何をしてこの絵を描く土壌を作ったのか。そこからどういうつながりがあり、皇通が動くことになったのか……それを知らなければ動きようがない」


 現時点でカイトがわかっていることと言えば、今回の噂の出処が皇都通信であることぐらいだ。とはいえ、大企業である皇都通信とて一枚岩ではない。先に触れられている通り、この皇都通信には幾つかのグループ企業があり、その一つが暴走しているだけという可能性も十分に有り得た。兎にも角にもそれを突き止めないことには現状手の打ちようがなかった。


「わかった。パパ達には聞いてみるわ。ここ一年ぐらいの実家の状況とか私詳しくわからないし……」

「頼む。オレに情報をくれた筋によると、グリント商会内部での本家と分家の諍いが付け入る隙きになったっぽいという話だったが……その分家の詳細はわからなかったらしい。まぁ、噂の噂。又聞きレベルの話だから、どこまで本当なのやらという所だが」


 一応情報源がイリアなのである程度の精度があるだろうとカイトは思っていたが、その彼女が情報を仕入れたのも皇都に居るという古い知り合い達だ。この古い知り合い達というのはすでに引退した当主達という所で、イリアも引退した一人としてお呼ばれしたそうだ。

 とはいえ、引退したとてもともとは有力者達の集まりだ。古巣に伝手は持っていることが少なくない。が、同時にあくまでも古巣と今でもつながっている程度。その程度しか情報は手に入らなかったそうなのである。


「うーん……まぁ、分家ならどこかと大体はわかるけれど。正確な話の方が良いわよね?」

「そうしてくれ。今回みたくそういった噂を流されることで振り回され、下手を打つことだけは避けたい」


 そもそも今回の話はグリント商会とヴァディム商会の間に亀裂があったことにより、カイトも元婚約者による逆恨みという話を信じてしまった。それと同じ様にグリント商会の内輪もめを利用されて分家はそんなことを考えていないのにあたかもそうであるような流れを作られては困るのであった。


「そうよね……うん。わかった。とりあえず伝えておく」

「頼んだ……椿。エルを通信室へ」

「かしこまりました。エルーシャ様、こちらへ」


 とりあえずの要件を聞いて早速手配に入ってくれたエルーシャの案内を椿に任せ、カイトは椅子に深く腰掛ける。ひとまずこれで情報に踊らされない様に出来るだけの手札は打ったと言える。が、そうなってくると今度は別の警戒が必要にもなってくる。


「ふぅ……とりあえずこれで情報収集はオッケーと……で、情報収集がオッケーになったら今度は襲撃に対抗するしかなくと……面倒くさいな」


 情報収集をして内輪もめを回避できれば回避出来る程、敵は焦れて実力行使を行うしかなくなってしまう。さりとて内輪もめして戦力を減らすのはあまりに馬鹿らしかった。そして更に面倒事は尽きない。


「……はぁ。軍のタカ派がアリスとルーファウスを狙うというのはいつものことではあるが。問題はやはりアリスの方だな……どうしたもんか」


 一番安全な方法は現状を二人に伝え、警戒を促すことではあっただろう。カイトとしてもそうしたい所であるが、軍が絡むとなると事情は異なる。最悪は外交問題からの戦争再開もあり得るのだ。伝えるだけでも危険が付き纏った。


「軍が絡まなければいっそ、だが……二人を狙うなら軍のタカ派だろうしなぁ……うーん……」


 どうしたものか。カイトは今後の方針が定まらず、ただただ何度もため息を繰り返す。とはいえ、考えても答えが出るとは限らない。というわけで、彼はすぐに諦めた。


「やめだ。流石に現状だと関係している組織が多すぎて、どこが実際に動くかがわからん。警戒の促しようもない」


 とにもかくにも情報がなさすぎる上、様々な組織が入り乱れているせいで敵の動きが見えなかった。と、そんなことを考えた彼であったが、それならとはたとなにかに気が付いたようだ。


「あ、そっか。それならそれで良いか。いっそ軍のタカ派が来ても軍のタカ派に偽装して、としてしまっても良いし……あ、それで一旦は行こう」


 現状関与している組織がかなり多く、どこをどう警戒しろと言えないのだ。ならばそれを逆手に取ってしまえば、とカイトは考えたようだ。というわけで、彼は今度はルーファウスとアリスを呼び出す。


「カイト殿。どうされた?」

「私も、はかなり珍しいです」

「まぁ、そうだな……」


 努めて真剣になりすぎない様に。しかし呑気に構えている様にも見えない様に。カイトはなにかは起きているのだろうと察してはいた――上層部全員が緊急会議を開いた時点で察した――が何かがわからず僅かな警戒を見せる二人に笑いかける。そうして彼は二人にある程度の情報を隠しつつ、明かせる範囲で情報を開陳する


「それは……なんというか」

「ここに当たるのはその……なんと言うか筋違いなのでは……?」


 二人にカイトが明した情報は四つ。かつてヘッドセット型の魔道具を作る際にヴィクトル商会に技術協力を行ったこと。そしてその結果現在の皇国ではヘッドセット型の通信機の売れ行きが好調。スマホ型の通信機のシェアも大きく上がっているということ。

 その勢力図の変化により冒険部をよく思わない勢力が幾つもあり、敵対的行動を取ろうとしているということ。そして最後の一つはそれに乗じてマクスウェル進出を狙うギルドが動きを見せている、という四つだ。というわけで、アリスの指摘にカイトも笑って同意した。


「いや、全くだ。さりとてあの初期の頃には活動資金もかなりカツカツでな。あの時ああしていなかったら、組織の運営の順調な滑り出しは出来なかっただろう」

「その時最善の行動でも未来において最善だったとは限らない……そういうことか?」

「そういうこと……お父君が言われていたのか」

「ああ……そう言って父は困った顔をしていたのが印象的だった」


 やはり組織の運営を長らくしていると、こういった当時最善の選択でも未来になってそれが悪く返ってくることは何度も経験していたのだろう。そんなルードヴィッヒの言葉をルーファウスは思い出していたようだ。


「あはは……そうだな。とはいえ、そういうわけだから、誰が狙ってくるかもわからん。マクスウェルを縄張りにしたい、というギルドにとってすれば滅多にない好機だ。これ幸いと敵対してくる可能性はある。二人も注意しておいてくれ。特に二人の場合、軍のタカ派に偽装すれば厄介なことにもなりかねない」

「そうか……そうだな。わかった。十分に注意しておこう」

「そうしてくれ。特に二人の場合、教国の軍人でもある。皇国軍と戦っている風に見られるのは一番まずいだろう。それが偽装だろうとな」


 カイトは敢えて、もう一度偽装であることを口にする。と、そんな彼にアリスが問いかけた。


「もし襲撃が仕掛けられた場合、逃走で良いですか?」

「そうだな……交戦はなるべく避けてくれ。マクスウェル近郊ならすぐにマクダウェル公爵軍が介入出来るだろうし、さすがのタカ派の連中も冒険部が周囲に居る状況で襲撃はしないだろう。それでもするのなら必然、軍に偽装した何者かの可能性は高くなる。もしくは軍のタカ派を一掃したい何者かの陰謀という可能性もあるがな。その場合も面倒は面倒だが……」

「……えっと。とりあえず逃げることにします」


 まずい。カイトが何を想定してどう動いているかがわからない。アリスにはカイトの語った内容が難しすぎたようだ。とりあえず逃げれば良い、とだけ理解しておいた。そしてカイトの方も実は小難しい話を延々繰り返したのは意図的で、二人の理解を放棄させるためだった。というわけで、理解を放棄した二人にカイトは笑った。


「あはは。そうだな。それで良いだろ」

「はい」

「ああ」

「よし……まぁ、二人に限ってそういうことは無いだろうから安心はしているが、東町には近付かないようにな。あそこはマクスウェルでも治安は悪い方だ」

「マクスウェルの東町で治安が悪いなら、各国には治安が良い街は無いと思うが」

「あははは……そうだな。それでも油断はしない様に、ってことで」


 ルーファウスの言葉にカイトは一度笑って、改めてこれが単なる注意喚起であると口にする。そうして、彼はなんとか二人に情報の詳細を知らせず、警戒を行わせることに成功するのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

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