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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第98章 演習編

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第2825話 企業暗闘編 ――対策会議――

 賢者ブロンザイトの実弟にしてラリマー王国の重鎮であるクロサイトの来訪をきっかけとして巻き込まれたラリマー王国のお家騒動。それへの対応を行う最中で入ってきた自身を含めエルーシャの実家グリント商会と彼女の元婚約者の実家であるヴァディム商会の三つを巻き込んだ噂。

 それはカイトをヴァディム商会が狙うというものであったのだが、それへの対応の中でそれが何者かの策略により流されたことを察知する。というわけで情報収集に取り掛かったカイトに入ってきたのは、皇都に拠点を置く皇国でも最大規模の通信事業者が噂の出処という非常に厄介な話であった。

 というわけで、情報を持ってきたイリアとの間でこの一件は流石に冒険部単独で処理出来る規模でもなければそれが良い案件でもないと判断。彼はさらなる情報収集を行うため、奔走することになっていた。が、それより前にせねばならないことがあった。


「で、どうしたんだ? 急に緊急で招集って」

「最近では珍しいですね……というか、ソラくんまで集められるとなると初の事態では?」


 せねばならないこととは当然、情報共有だった。なのでカイトは翌朝朝一番で上層部全員――飛空艇で移動中のソラも含む――を緊急で招集していたのである。

 が、事態を詳しく把握しているのは彼一人。しかももともとが彼個人を狙ってのものだったので、そもそもの話さえ誰も知らなかった。故に誰もが何があったのか、と訝しむばかりであった。


「珍しい、か……まぁ、珍しいな。とはいえ、それ故に相当な事態と考えてくれ」

『てか、俺までって……むちゃくちゃヤバい事態なのか? いや、その前に聞いておきたいんだけど、どっちだ? ウチがしちまったのか、ウチがされちまったのか』


 やはりソラは自分さえ含めて集められた、という点で冒険部全体に対して何かしらの厄介な事態が起きており、それは自分達がなにかしらの重大な不法行為をしてしまったかされてしまったかのどちらかと見抜いていたらしい。というわけで、そんな彼の問いかけにカイトは明言する。


「どちらでもない……まだ、な」

『まだってことは後者か。前者ならお前が対応しきれないわけないし、俺も含めて集められるわけないしな』

「そう思ってくれるならありがたいがな……が、今回ばかりは正解だ。これからされる可能性があって、という所だ」

「「「……」」」


 ソラの言葉を認める形で出されたカイトの言葉に、誰もが一瞬で気を引き締める。自分達がしてしまった場合は気を付けましょう、程度で良い彼らであるが、外からになると話は変わる。こちらは自分達が気を付けようとどうしようもないのだ。というわけで、カイトは一同に情報を共有する。


「という状況だ」

「皇都通信……」

「ものすごい大企業ですわね……」


 いくらなんでも相手が大きすぎる。カイトから教えられた状況に、一同は盛大に顔を顰める。実際カイトが居るから良いものの、本来なら一介のギルドがどうこう出来る相手ではなかった。とはいえ、流石にカイトもこの皇都通信を相手に冒険部としてことを構えるつもりは一切なかった。


「ああ。大企業は大企業だ。皇国内部に限ればおそらくトップテンには入る程の大企業だろう……が、流石にオレも皇通相手に冒険部として戦うつもりは一切無い」

『だよな……流石に皇通相手に戦って勝てるとは思わねぇもん』

「あはは。流石に組織規模が違いすぎる。あっちは単なる企業だが、自由に出来る金はウチとは桁違い……動かそうとすれば数百人規模で冒険者を動員出来るだろう。そうでなくても専属に近い形で動いている冒険者だけでもウチは潰せるだろうさ。流石に相手にはならん」


 だから多少無茶でも押し通せると思ってるんだろうが。僅かではない安堵を滲ませるソラに、カイトは一つ笑ってはっきりと明言する。動員できる人員も組織の規模も、ありとあらゆる面で冒険部では皇都通信とは戦いになっていなかった。


「というわけで、皇通はオレがなんとかする。流石に今回の事態は冒険部で対応出来る話じゃないし、通信機の開発に関してはオレが主導した案件だ。これに関してはオレが一切の責任を持って対応する」


 通信機の技術開発に関しては天桜学園の運営を安定させるためにカイトが主導した案件だ。そしてそれに関しては皇国も五公爵二大公共に追認――彼らも天桜学園が安定してくれた方が面倒を見なくて良いのでありがたい――しており、最終的には決定者であるマクダウェル公としてのカイトが責任を持つのが筋だった。とはいえ、そうなると当然この疑問が浮かび上がった。


「だがそれならわざわざ俺達を集めてどうするんだ? 基本はお前……というか、マクダウェル公爵家が対応するんだろう?」

「対応はするが、相手の組織規模が大きすぎる。そして現状、敵勢力がはっきりと見えていない」

「どういうことだ? 敵は皇都通信だろう?」

『いや……多分それ以外にも居るってことなんじゃないっすかね。多分大本は皇通ってだけで』


 瞬の疑問に対して、ソラは自身の推測を語る。そしてこれが正解だった。


「そうだ。おそらくどこかしらにトカゲのしっぽを有しているだろうから、別の組織が良いように使われるかして攻め込んでくる可能性が高い。どこかで一戦交えないと済まない事態になりかねないんだ」

「……とどのつまり戦争になり得る、と?」

「そういうことだな……未然に防ぎたいが、先に言った通り組織規模が大きすぎる。更にまだ敵の描く絵も見えていない。被害が出る前に片付けたい所ではあるが……」


 難しいかもしれん。カイトは険しい顔でそう告げる。そんな彼であったが、一転して気を引き締めて指示を飛ばす。


「まず全員には警戒態勢で暫く動くように頼みたい……町中含め、だ。何時、どこでどうやって仕掛けてくるか見えていない。町中は無いとは思うが……」

「ガラの悪い奴らは気にしないだろうな」

「そういうことだな……流石にマクダウェル家さえ敵に回すことは無いとは思うがな」


 町中での大規模な戦闘行為は即ち統治者であるマクダウェル家に喧嘩を売っているに等しい。そうなるとマクダウェル家は当然、同じ冒険者として、マクスウェルをもう一つの発祥の地と定める<<暁>>も黙ってはいないだろう。普通の考えであれば、この二つを一度に敵に回す事態だけは避けたいはずだった。


「が、あくまでもそれは普通に考えれば、であって普通じゃなけりゃなんとも言えん。何時戦闘になってもおかしくないように注意だけはしておいてくれ」

「注意してなんとかなる……とは思わんが。俺達はともかく、下の連中は厳しいぞ」


 今回の状況から、明確な被害が出ない限り事前に警戒出来るのは上層部だけだ。瞬もそれを理解しており、末端まで警戒感を共有は出来ないと思っていた。そしてそれはカイトもわかっており、それに関しては対応をすでに打っていた。


「わかってる……なので町中ではウチの密偵に動員を掛けている。ある程度は未然に防げるだろう」

「そうか」

「他に注意するべきことは?」

「基本、桜にはホーム待機で頼む。先輩も可能な限りそうしてほしいが……依頼に出ないわけにもいかんだろう」

「まぁ……な」


 現状から下手に外には出たくはないが、活動するには金が掛かる。依頼に出ねばならなかった。というわけで、苦い顔の瞬にカイトは一つ頷いた。


「ああ……なので先輩。もし戦闘になった場合は絶対に死人を出さない方向で頼む。殺しても構わんが、ウチの死人は絶対に出すな」

「? まぁ、そのつもりだが……なぜそこまで念押しするんだ?」


 当たり前だが瞬とて敵に配慮して自分達の身を危険に晒すような趣味はない。殺すときはきっちり殺す。が、そこまで念押しされる意味が理解出来なかった。


「知っての通り、ウチはかなり注目されているギルドだ。それがどこかのギルドとの間で死人を出すとマスコミが嗅ぎ付ける……ではもしその更に背後に元国営企業の大企業の影があったら、どうなると思う?」

「まぁ……トップの辞任は避けられんだろう」

『それだけじゃ済まないっすね……』

「でしょうね……」

「む……」


 盛大に苦い顔で呟いたソラとため息を吐いた桜に、瞬は小首を傾げて訝しむ。元国営企業とは言え今は民間企業だ。なぜそれで終わらないのか、理解出来なかった。


「今は民間企業とはいえ、元国営企業だ。そこには皇国が民間企業にしても大丈夫と担保した、という前提があるんだ。そうじゃなければなぜ手放した、って言われるからな」

「確かに……」

「そ。だからそこが皇国の庇護下にある組織に手を出した挙げ句、死傷者が出たなぞ皇国からすれば赤っ恥も良い所だ。しかもウチだ。もみ消しも難しい……他の元国営企業の関係や各国に示しを付けるためにも、皇帝陛下が出ていって頭を下げにゃならん事態になる」


 自身の話を理解した瞬に、カイトはなぜ皇帝レオンハルトが頭を下げねばならないかを語る。そしてその上で、と彼は続けた。


「というわけで、落とし所のためにも絶対にウチは死人を出すわけにはいかん。ウチの人員も動員するから、とりあえず不意打ちには絶対に注意してくれ。初撃さえ防げれば、多少後手に回ってもなんとかは出来るからな」

「わかった。徹底させる……部長連の連中には?」

「話して警戒を促しておいてくれ。ただし、内密に頼む。下手に噂が出回っちまうと大規模な襲撃になって逆に被害が増えかねん。今ならまだ、内々に処理も出来る」


 厄介な話であるが、カイトは冒険部のギルドマスターであると同時にマクダウェル公でもある。故に冒険部だけを気にして動くことは出来なかった。というわけで、カイトは冒険部の上層部向けに矢継ぎ早に指示を飛ばし、すぐに今度はマクダウェル公としての打ち合わせに向かうことにするのだった。

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