第2822話 黄昏の森編 ――戻る――
賢者ブロンザイトの葬儀や死後の手配を取り仕切ったことを受けて、ラリマー王国の重鎮にしてブロンザイトの実弟であるクロサイトからの訪問を受けたカイト。そんな彼はサリアの要望を受けてラリマー王国のお家騒動に巻き込まれ、ラリマー王国の裏に蔓延る犯罪組織が保有する違法魔道具の製造工場を壊滅させることになっていた。
というわけで、カイト――といっても使い魔だが――が『工場』を壊滅させて暫く。第一王子の派遣した護衛部隊が空港に到着して十数分後のことだ。ソラとトリンを乗せた飛空艇が空港に到着し、護衛部隊と合流していた。
「クロサイト殿。お待ちしておりました……よくご無事で」
「うむ……殿下は?」
「お言葉通り、機を逃さず行動を起こされておいでです。最後に入ってきた報告では『工場』の壊滅を確認し、数多くの逮捕者が出ている旨が」
合流して早々に進捗を確認したクロサイトに、警備の総隊長らしい男が現状を告げる。というわけで、自身の護衛の総隊長の返答に一つ頷いた後、彼は二人の方を向いた。これで仕事は完了だったからだ。
「うむ……ソラくん。トリン。二人共世話になった」
「いえ……お役に立てたのなら何よりです」
クロサイトのねぎらいに対して、ソラは一つ首を振る。まぁ、もともと仕事はここまでだし、これ以上関わるとなるとラリマー王国のお家騒動にガッツリと首を突っ込むことになってしまう。これ以上の関与は仕事ではない以上、やるべきではなかった。そしてそれはクロサイトも弁えていた。
「うむ……まぁ、これ以上は仕事ではない。こちらのことはこちらで為す故、二人は気を付けて帰りなさい」
「はぁ……でも大丈夫ですか? なんかやばい状況っていうのは聞いてるんですけど」
「ふむ……まぁ、ヤバい状況ではあった、という所であろう。が、それも状況は変わりつつある。後は儂らがやることであるが故、気にせんでも良い」
ソラの問いかけに対してクロサイトは危険な状況でったことは認めつつ、現在はなんとかなる状況であること。ソラ達が気にしなくて良いことを明言する。そうしてそんな彼の目配せを受け、警備の総隊長が口を開いた。
「ソラくん……だったね。後のことは我らに任せてくれ。なに、敵の勢力は大きく削がれた。今なら、クロサイト殿に掛かり切りになれる余裕はほとんど無いだろう」
「……そうですね。では、よろしくおねがいします」
「うむ。君達も頑張ってくれたな」
どうやらソラもここが引き際と理解したようだ。警備の総隊長の言葉に納得を示す。そうして一通りの挨拶が交わされた後。あまり空港に引き止めるわけにはいかないので、クロサイトに仕事の完了を示す書類にサインを貰って彼らはその場を後にして少し離れた所で待っていてくれていたカイト――もちろん使い魔――と合流する。
「二人共、お疲れ様」
「おう」
「ありがとうございます」
カイトのねぎらいに、ソラとトリンは一つ頷いた。というわけで依頼を完了させ後は帰るだけになったわけであるが、ソラが一つ問いかける。
「そういや、もうすぐに出発出来るのか?」
「いや、流石にここは他国だ。ウチみたく色々と裏で手を回せるわけでもないから、出発時刻は守らないといかん」
「どれぐらい時間あんの?」
「……一時間って所か。まぁ、流石に暗くなって来ているから空港から出るのは厳しいだろうが、空港のお土産コーナーを見て回ってお土産買って帰る時間ぐらいはあるかもな」
一応、ソラ達の乗る飛空艇が何時到着出来るかわからなかったので出発時刻には余裕を持たせていた。なので最速で動けてもこの時間らしく、後は暫くは自由時間という所だった。というわけで、ソラは今度はトリンに問いかける。
「お前、どうする?」
「僕は少しお土産コーナーを見て回ろうと思うのと、空港併設型の本屋に行こうと思うけど」
「本屋あるの?」
「昔はあったよ。今もある……んじゃないかな」
やはりブロンザイトとクロサイトが兄弟であったことから、トリンも何度かラリマー王国には来ていたらしい。というわけでこの空港についても何度か来ていたらしく、完璧ではないものの地理も頭に入っていたようだ。
「俺もじゃあ、そうしようかな……一時間後っていうけど正確な時間は?」
「18時ちょうどだ。もし空港内を見て回るなら、20分前にはここ集合と考えた方が良い」
「それで一時間後ってわけか」
現在の時間は16時を少し回った所。襲撃からおおよそ三時間程追加で移動した計算になる。本来はもっと時間が掛かるそうなのだが、カイトが手配した代替の飛空艇の性能はラリマー王国が用意した物より性能がよくこの程度の移動時間で良かったそうであった。とまぁ、それはさておき。カイトの集合時間の明言にソラは納得を示すとそのまま続けた。
「わかった。じゃあ、ちょっと空港見て回ってくるよ……えっと、安全なんだよな?」
「オレも居るから安心してろ」
「あ、それもそっか」
カイトの言葉にソラは一瞬呆気にとられるも、それはそうだと納得したようだ。というわけで、カイトも居るのならさほど気にしなくても良いだろう、とソラも安心してお土産を買うことにする。と、言うわけで呑気にお土産選びに精を出すこと三十分程。急に空港が騒がしくなった。
「ん?」
何が起きたんだろうか。ソラは騒然となる空港で僅かに警戒しながら周囲を確認する。残念ながらトリンはすでに本屋に向かっていたのか彼からなにかが聞けることはなかったのだが、そうする必要もなかった。というのも、原因は空港に設けられている大型のモニターでわかったからだ。
「バイロン公、暗殺か。周囲に魔術などの痕跡無し……うわ……物騒だな……」
もしかしたらもう大騒動が始まったのかもなぁ。ソラはこれが先にカイトが言っていた犯罪組織のトップだとは露とも思わず、特に気にせず流すだけだ。とはいえ、やはり公爵ほどの大貴族が暗殺されたとあっては少し気になったらしい。彼はお土産を選びながらも、通信機を起動してカイトに問いかけた。
「なぁ、カイト。これ大丈夫なのか? 出発出来ないってことにはならない……よな? 結構な大物貴族っぽいけど」
『ん? ああ、バイロン公の暗殺か。これは王都の話じゃないから出発出来ない云々は関係無い。バイロン領の話だな』
「あ、そうなのか」
ここまで大々的かつ速報が出るぐらいの大貴族なのだから王都に詰めていたのかも。そう思ったソラであったが、そうではなかったようだ。というより、皇国の公爵であるカイトが皇都には居ないのだ。同じように貴族であれば総会などの国会に類する物以外は自領地で為政者としての職務を行っているのが普通だった。
「って、お前あんま驚いてないのな。大通りで急に首がずり落ちたって話だけど」
『ん? あぁ、そりゃ……お前。バイロン公がお前が戦った犯罪組織の大ボスだ。暗殺者ギルドに狙われて生きてられる奴は居ない』
「マジで?」
流石に事の性質を理解していたからか声を大にすることはなかったものの、ソラもこの話には思わず目を丸くしていた。が、納得と言えば納得ではあったようだ。
「でも……そうだよな。それぐらいじゃないと公爵なんて暗殺出来ないよな……」
『だろうな……特に今回動いたのはオレさえ暗殺出来る……というか真正面から行ってもどうにか出来るクラスの大物だ。バイロン公ではどうにもならんだろう……まぁ、オレぐらいガチガチに大精霊の守護があれば逃れられるかもしれんが。そうじゃなきゃ即死級の相手だな』
「まじかよ……」
どうやらカイトでなければ今回の相手からは逃れようがなかったらしい。ソラはそれを理解して、敵ながらに同情を浮かべるしかなかったようだ。とはいえ、相手は犯罪組織のボスだ。彼としても自業自得としか思えなかった。
「でも大通りで首がずり落ちたって……どうやったらそうなるんだ? 魔術の兆候とかはなかった、って話だけど」
『知らん。存在が内包する死を手繰り寄せて殺しているのか、それとも死を付与しているのか……それともガチで首を落としてるのか。オレにもさっぱりだ。間近で手口も見てないしな』
「そ、そりゃそうだろうけど……」
内包する死とか何なんだよ。ソラはカイトの言葉に聞かなきゃよかったと思う。とはいえ、それならと彼も一つ安堵を浮かべた。
「でもまぁ、これならクロサイトさんは安全そうだな」
『そうだな。流石にトップが死んじまったら組織は一気に瓦解する。すぐにすげ替える頭があるわけでもないだろうしな』
ソラの言葉にカイトもまた一つ同意する。兎にも角にも敵対する組織のトップが急死したのだ。しかも折しも資金源である『工場』も壊滅状態にあるという。立ち直るには相当な労力が必要な状況であると考えられ、そうなるとクロサイトにかまける暇があるとは思えなかった。
「そっか……ま、それなら気にしないことにしとく」
『そうしとけ。因果応報。自業自得……どっちでも良い。法律で裁けない相手に動くのが暗殺者ギルド。お前は世話にならないようにな』
「あはは。気を付けとく」
カイトの言葉にソラは一つ笑う。そうして彼はこの暗殺事件の一件を忘れることにして、時間ギリギリまで空港を見て回ることにするのだった。
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