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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第98章 演習編

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第2811話 黄昏の森編 ――密談――

 賢者ブロンザイトの実弟クロサイトの来訪をきっかけとして巻き込まれてしまったラリマー王国のお家騒動。その対応の最中に入ってきたエルーシャの元婚約者による逆恨みを受けているという話。カイトはこれが自分とエルーシャ達の実家であるグリント商会。更には元婚約者の実家であるヴァディム商会の三つを巻き込んだ策略であると察知。

 彼は噂に惑わされないように、財界の要人達が集まるパーティの裏で関係者を集めた密会を開く事を決めて、エルーシャ達の父とヴァディム商会の当主の了承を取り付ける事に成功する。というわけで、移動のタイミングを見計らう間に彼はエルーシャに情報を共有。エルーシャにランテリジャと自身の父親の護衛を任せる事にしていた。


「なんていうか……ごめん」

「いや、まぁ……謝られるようなことじゃない。オレに迂闊な点がなかったか、と言われりゃ心当たりがあり過ぎてなんとも言えん」


 正直に言えばカイトも巻き込まれた時には嘘だろう、と思ったが考えれば考えるほど自身の動きにマズい点があり過ぎていた。無論そのどれもが不可抗力である事が多く彼が悪いのか、と言われれば誰もが首を振るが、結局のところ結果が全て。そう見えてしまえる状況がある時点で何も言えなかった。


「それに何より、もしかすると逆にオレ狙いの可能性も十分にあり得る。更に言えばギルド同盟の亀裂を狙っている、って可能性もあるからな」

「「……」」


 流石にそれは考えていなかった。このカイトの発言にはランテリジャさえ目を見開いていた。とはいえ、言われてすぐに彼もそれを理解したようだ。はっとなった様子で口を開く。


「そうか……たしかにこれが誤報だった場合、上手くやればウチ……この場合ギルドとしてのウチと冒険部の仲をこじれさせる事が出来る。そして我々はギルド同盟における中核。そこをこじれさせれば……」

「そうだ。発起人であるそちら。最大勢力であるウチ……そこの仲違いが持つ意味は決して小さくない。同盟の崩壊さえ狙える……それが狙いなら、逆に誤報の方が良いんだ。オレはそれに振り回されてしまった、って形になるからな」


 これはこれで最悪と言える。確かにギルド同盟の当初の目的であるユニオン総会への対処は終わっているが、ギルド同盟は有益で今後もこのまま続けたいというのがランテリジャの考えだ。

 そしてこれはカイトや他のギルドマスター達も同意している。というわけで、カイトの語った内容に納得したランテリジャがその場合の対応策を冗談混じりに口にした。


「……その場合はいっそ姉さんにカイトさんと公衆の面前でキスでもして頂いた方が良いかもしれませんね。一番手っ取り早く一番効果的だ」

「あはは。それは確かに一考に値するな」

「もうしないわよ!?」

「……もう?」


 まるでさもキスした事があります、と言わんばかりの姉のセリフに、ランテリジャが思わず目を瞬かせる。彼としては半分以上は冗談のつもりで口にしただけだった。しかし残念な事に、エルーシャは戦闘以外での突発的なトラブルには弱かった。


「ち、ちがっ! 違うから!」

「ですよね」

「あれは事故だから!」

「……え?」

「……お馬鹿」


 なんで違うで止めないんだ。もう明らかにキスしました、と言っているような発言に困惑するランテリジャに、カイトはガックリと肩を落とす。そしてこうなってしまえばカイトが何を言おうと無駄でしかない。故に、カイトは認めるしかなかった。


「色々とあったんだ、色々と」

「何時です? まさかこの間?」

「違うって……」


 まさかそんな事になっていたなんて。唐突に生まれた話にランテリジャも困惑気味にカイトを問い詰める。が、そもそもこんな話をするために集まっているわけでもないし、何より時間は無いのだ。


「詳しい話は後でエルに聞いてくれ。今はその時間じゃない……誰が何を目的としてこの噂を流しているか。それ次第で描かれている絵は変わってくる」

「ですね……」


 気にならないと言えば嘘になるが、ランテリジャとてこの状況で何を考えるべきかはわかっていた。そしてそれが今回の一件の一番厄介な点とも言えた。


「とはいえ……そうなると……いや、そうか。その場合でもラザールさんの事は活きてくるのか……いや、だからこそラザールさんでなければいけなかった……」

「そうだ。オレとエルの間に亀裂を入れる事を目的としているのならな。この絵を描いている絵師は中々に策士だ」


 考えれば考えるほど、今回の策略を練っている何者かは優れた策士だろう。カイトはここに自分が加わる意味を認識し、若干称賛じみた様子だった。とはいえ、敵の狙いが何かはわからないが何をしようとしているかはわかっていた。


「だがどちらを目的としていようと、対応は変わらん。同盟が盤石であると示すだけだし、グリント商会とヴァディム商会も敵対関係にない事を示す。それだけだ」

「ですね……姉さん。姉さん!」

「うぇ!?」

「父さんの護衛、お願いします。僕は父さんに代わって実働する事が多くなりそうです」

「あ、え、あ……うん」


 取り敢えず考えないで良いならそれで良いか。真っ赤になっていたエルーシャはランテリジャの言葉にそう考えたらしい。というわけで、カイトはそこで二人と別れて最後まで会場に残る役目を負う事にする。そうして、十分ほど。エルーシャらが父と共に会場を後にして、更に少しだけ間を空けてヴァディム商会の親子も会場を後にする。


(さて……鬼が出るか蛇が出るか)


 場合によっては何も出ない可能性もある。カイトは意識を研ぎ澄ませ、会場全体から会場周辺まで自らの認識を伸ばす。


(流石に……動かんか。そうだよな。オレを敵に回しているのなら動けるわけがない)


 敵意は何も感じない。カイトは若干苦い顔でそう判断する。良くも悪くも、カイトは武器を一切持っていなくても戦える。武器の持ち込みが禁止されているパーティ会場だとて、魔力が使えれば普通に武器を作れる。最悪は他の冒険者にさえ武器を融通してしまえるのだ。一人で戦局を覆せる可能性を有しているのが、カイトなのである。


(まぁ、良い。どうにせよ密会しようとなって動かない道理はない。自分達が動けないからな)


 カイト達が情報を集めているのは敵の手がわからないからだ。それは逆も言える。敵もまた情報が無い限りは動けない。なら密会の場は必ず押さえねばならないはずだった。そしてそのためのアルだ。というわけで、カイトは会場を出たと同時に耳に嵌めている通信機を魔力一つで起動させる。


「アル……これから移動する」

『了解……こっちも部屋が確認出来る所に移動するよ』

「頼む」


 後は敵がどれだけの手札を持っているか次第だ。カイトはそう考えながら歩いて行く。そうして数分。ホテル側に用意してもらっていた小さめの会議室にたどり着く。


「……」


 仕掛けは無し。ドアノブに手を掛けて、カイトは一つ頷く。ここは一般向けに用意されているホテルだ。誰でも立ち入れる以上、どんな工作でも可能だった。というわけで、入ったと同時に閉じ込められる危険性などが無い事を理解して扉を開く。


「すいません。おまたせしました」


 やはりカイトという仲介人が居ない状況だったからだろう。部屋の中の二組の親子は少しだけ居心地が悪い様子だった。というわけで、カイトの到着は待ちわびたものだったらしい。エルーシャらの父が笑う。


「いや、大丈夫だ。ランから話は聞いていたからね」

「ありがとうございます……なるほど。ラン、部屋の扉を開いたのはお前か?」

「そうですが……何か?」


 部屋に入るなり少しだけ面白げに笑うカイトに、ランテリジャは小首を傾げる。これにカイトは指でこちらに来るように指示を出す。そしてどうやら、何がされていたか気付いていたのは彼だけではなかったらしい。


「ラン……良いから」

「あ、はぁ……」


 やはりエルも気付いていたか。だが自分が対処するよりオレが対処する方が良いと判断したんだろう。カイトはエルーシャの様子でそう理解する。というわけで、姉にまで言われては仕方がないとランテリジャは素直にカイトの指示に従う。そうして彼の前にたどり着いた所で、カイトは指をスナップさせた。


「っ!」

「なるほど。オレが最後に来るだろう、ってのは想定されていたか」


 カイトが指をスナップさせると同時になにかが割れるような音が響いて、彼とエルーシャ以外の全員が驚いた様子を浮かべる。


「今のは……」

「最初にドアノブに触れた人物に超簡易の使い魔を貼り付ける罠が仕掛けられていたんだろうな……賭けるには悪くない賭けだ」


 これに気付けるのは自分かエルーシャのみ。不活性状態で事前に気付けるとなるとカイトだけだろう。そしてカイトが一番最後に来る可能性はかなり高い。

 なら敵は実質エルーシャさえ引き当てなければ良いし、彼女の場合は運が良ければ気付かれない可能性もあった。後はカイト次第という所だが、彼の魔術師としての腕は知られていない。やって損の無い賭けではあっただろう。


「エル。どの時点で気づいた?」

「明確なのは展開された一瞬だけ。その後は注意していたからずっとわかってたって感じ」

「そうか……さて。おっと!」


 このまま術者のしっぽを掴んでやろう。カイトはそう判断して貼り付けられていた使い魔――なにかが割れるような音は貼り付ける対象を強引に自身に変更させたための物――に逆探知を仕掛けようとするが、流石にそこまで簡単にしっぽは掴ませてくれないらしい。逆探知が仕掛けられたと理解したと同時に、使い魔が自壊して消え去った。


「駄目そう?」

「駄目そう」


 楽しげに問いかけるエルーシャの問いかけに、カイトも楽しげに笑って肩を竦める。自壊されてしまえばいくら彼でも逆探知は不可能だ。そしてこの様子であれば、逆探知が仕掛けられる事も想定内だった可能性は高かった。


「端からこれは想定内、って事だろう」

「私役に立つ展開ありそう?」

「少なくともオレとエルを敵に回す事は想定してるだろう」

「そう」


 考える事はカイトにお任せします。そんな様子でエルーシャが笑う。それにカイトもまた笑った。


「あはは。ま、なるべく暴力沙汰にならないように終わらせたいが」

「現状そうなれば良いですね、という所かもしれないですね」

「だろうな……っと、失礼しました」


 うっかりギルド同盟の体裁で話してしまっていた。カイトは呆気にとられる両商会の当主達に一つ頭を下げる。そうして、三つの組織を巻き込んだ策略に対する密会がスタートする事になるのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

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