第265話 試作機 ――魔導機――
彼女が出てくるまで今暫くの間、今章にお付き合いください。今回ロボネタ多め。
第二回トーナメントから数日後。カイトは公爵邸地下にある、ティナの実験場で大型魔導鎧の試作機のテストを行っていた。この試作機は今後造られる全ての超大型魔導鎧の試作機となる予定の機体の為、二人共何時も以上に真剣だった。
「では、カイトよ。内部からの状況を伝えてくれ」
真剣な眼差しで計器の観測を行うティナの指示に従い、カイトも真剣な様相で現状を報告する。
「……コクピットの亜空間固定良好。コンソール問題無し。表示系統問題無し……BGM機能?」
カイトはコクピットから見える情報を全てティナに報告していくが、その中に奇妙な物を発見し、問いかける。
ちなみに、コクピットには周囲の映像が全面に移されており、感覚としては空中に浮かんでいる様である。なお、地面を踏みしめている感覚はきちんと有り、ティナの話によれば、何か物に触れればその感触も有る、とのことである。
「それは所謂戦闘BGMじゃな。暇な時にでも聞くが良い。移動中などでは自動行動も出来るからのう……では、次に歩いてみよ」
「また無駄な……了解した」
そうして、カイトは溜め息とともに、コクピット内で擬似的に歩いてみる。一歩踏み出す毎に、カイトの足には地面の感覚が伝わってきた。
「……足の感触は問題なく伝わっている。風を切っている感覚は無い。意図的か?」
「うむ。歩くだけで風を切って走っている様な感覚があれば、違和感となるやもしれんからの」
カイトの少々残念そうな声に対して、ティナが苦笑して答える。カイトは一歩一歩普通に歩いているだけだが、実際には30メートル超もある巨体がカイトの手足に合せて動いているのだ。その速度は比較にならなかった。
そうして、ティナは手を動かす、物を持たせ負荷を掛ける等、幾つかの駆動テストを繰り返し、問題無しと判断する。気になった点は、小さい物でもメモを取る。初のテストパイロットを乗せての試験だ。安全性の確保はどれだけしてもしたりない。
「うむ。とりあえず駆動には問題無さそうじゃ。カイトよ、酔った、等という事はあるまいな?」
「んー、今のところは問題ないな。お前の考案した亜空間固定コクピットのおかげだ」
ティナの問い掛けに、カイトは自分の気分を確かめる。が、何の問題も無かった。
当然だが、この問いかけにも意味がある。これだけ大きな巨体に乗り込んで動かしているのである。その振動はものすごい物となり、すぐに車酔いに似た症状が現れるのであった。
そこで、ティナが考案したのが、コクピット周辺にカイト達が居る空間と少しだけずれた亜空間を創り出し、そこにコクピットを固定するという方法であった。これによってコクピットは亜空間で固定され、鎧の動きに合せて振動すること無く、操縦できるようになったのだ。
念のためにいうが、大型魔導鎧、との公式名称のある以上、ティナの関係しない大型魔導鎧もある。そう言った物には車酔い防止用の魔術――と言っても大型魔導鎧専用だが――が搭載されているが、やはり酔わないわけではない。なので、これはそれに根本から対処したのだった。
「うむ。これで死傷率も断然に下がるじゃろう」
カイトの言葉に、ティナは少しだけ自慢気に答える。当然だが、普通はコクピットに直撃を食らえば、搭乗者の命は無い。これは車酔い防止と同時に、その為の防御策でもあった。コクピットを亜空間に移動させたことで、直撃しても搭乗者には影響が無く、後は安全装置で外に放り出される様にしているのである。
「後は……脱出装置か」
「うむ。スマヌが、お主にしか頼めぬ」
少しだけ、カイトが真剣な眼をする。それに返したティナも真剣だ。この試験は、搭乗者の命に関わるものなのだ。真剣となるのは無理がなかった。
とは言え、この方法には一つだけ問題点がある。それは、コクピットブロックが亜空間に固定された所為で、万が一、という場合には搭乗者が亜空間に取り残される可能性があったのだ。幾つかのセーフティは設けているが、それの安全試験を行えるのは、外でモニターしているティナを除けば、カイトしかいなかった。
「では、幾つか状況を作るので、試してくれ」
さすがに緊張した様子で、ティナがカイトに依頼する。眼は真剣、モニターに表示される異常を全て見逃さないつもりである。
「りょーかい」
一方、カイトは一切気負うこと無く、脱出装置の安全試験を行なう。それから暫くの間、二人は様々な状況を想定して、脱出装置の試験を行うのだった。
それから暫く。幾つかの試験機をまるで使い捨てる様に変えていき、脱出装置の安全試験を終える。
「……問題無し、じゃな。誤差は予想の範囲内じゃ」
ふう、と小さく溜め息を吐いて、ティナが胸を撫で下ろす。作った状況の中には、かなり困難な戦闘状況を想定した物も存在しており、不安で仕方がなかったのであった。こういった空間に干渉する試験ではカイト達でさえ、なんら遜色なく最悪の自体が起こりえる。不安なのはそれ故だった。
「うむ。では、その試作機は修理に回す。指定ポイントまで移動した後、一度降りてくれ」
「……よっと。うわぁ、ボロボロだな。」
試験を終え、ティナの指示でコクピットブロックから出てカイトが見た試作機は、魔法銀で出来た装甲がボロボロになっていた。それだけ、安全試験で用いられた状況が苛烈だったのである。
具体的には存在していた頭部は破損し、右半分が消し飛び、右腕は折れ曲がり、左腕に至っては吹き飛んで損失していた。胴体にもかなりのダメージがあり、所々で装甲内部の魔術刻印を刻んだ基板が露出していた。
そうして、大型魔導鎧をゴーレム達に指定ポイントまで移動させたカイトはティナの横まで移動する。
「カイトよ。使用した感覚はどうじゃった?」
「ああ、まあ、動かし方の感覚は多少違うな。デザインは大きく違うが」
計器の情報を纏めていたティナの問いかけに、カイトが今までの試験で得た感想を告げる。
これまでに有った大型魔導鎧は使用者の手足を延長している様な感覚であり、人型ではあったものの、形は胴体に手足が接続されているだけで頭は飾り程度にしか存在していない。乗り込む際には胴体にそのまま使用者が乗り込み、自身の手足にマニピュレータを装着し、連動させて鎧の手足を動かすのである。
この方法では搭乗者にもかなりの振動が伝わり、連続稼動時間の減少や適性者の不足に繋がっていた。また、搭乗者が乗り込む胴体の部分には覆いが存在するもののかなり薄い防御で、顔に至っては殆ど露出しているに等しかった。レスポンス等の表示系統の問題で、外の様子を映像機器として映し出せないのである。当然、搭乗者が殆ど丸見えなので、死傷率もかなり高かった。
「そうじゃろ? 日本のアニメを参考にしたデザインじゃからな。ジャパニメーションは至高じゃな」
それに対して、ティナが試作した試作機は正に搭乗者が乗り込んで動かすロボットと言った風貌で、胴体に乗り込むのは同じだ。
しかし、コクピットは完全に密閉され、周囲の状況は内部に投映される映像と情報によって判断する。更には通信用の魔道具も搭載しているので、念話等の魔術を使えない者でも、遠くの司令部等との連絡を取ることも出来る――後に調べた所、通信機は今の大型魔導鎧でも普通に実装されていた――など、かなりのバージョンアップが測られている。
動作自体も自身の動きに連動する所は今までと同じだが、此方は搭乗者の動きを完全にトレースし、鎧に伝えている。更には擬似的なA.Iが搭載される予定であり、情報の取捨選択や、動作補助等搭乗者の補佐も行なう予定だ。今までとは根幹から異なる新機軸の設計なのであった。
「もう、大型魔導鎧じゃないな」
そうして、かなり大規模な設計変更がなされた大型魔導鎧を見て、カイトが呟く。それを受けて、ティナもふと、そういえばそう言う括りだったか、と思い出した。
「む? そうじゃな。余もその流れで作ったつもりは無い……では、なんと呼ぶかのう」
「お前が考えろよ」
「……むう。そうじゃな。では、魔導機じゃ。魔導をもって動く機体。それ故に、魔導機じゃ。あちらは魔導殻とでも言おうかの」
そう言って、ティナは少し離れたところで試験を行っている、一葉達三人が使う新型の魔導鎧にも命名する。あちらは手足を延長するような感じだが、大きさは全体でも5メートル程度。普通の鎧と殆ど同じ大きさの小型の魔導鎧と、10メートル程の大きさの中型魔導鎧の中間的な大きさである。
その魔導殻だが、各部に連結するように連装砲等各員に合った大型の兵装が装着されていた。此方はかなり簡易な魔導鎧に似た感じであったのだが、どうやら設計は全く異なっていたらしい。新たに魔導殻なる名が与えられた。
「ああ、それでいいだろう。では、今後はこいつらは共に魔導機と魔導殻と呼称するか」
「うむ」
この二人の決定は、すなわち公爵家全体の決定だ。それ故、今後は公爵家ではこのタイプの大型魔導鎧は全て魔導機、同タイプの小型魔導鎧は全て魔導殻と呼ばれる事になる。そうして新規のネーミングを決定した二人は、今までの真剣な表情を一変させる。
「では、カイトよ……ついにお待ちかねの兵装試験じゃ」
「よし!」
やはりカイトも男の子――と言う年齢ではないが一応――である。動くロボットとなると、かなりテンションが上がるのだ。それも、武器を搭載しているとなればなおさらであった。
そうしてカイトは再び別の試作機に乗り込む。先ほどまでとテンションが若干異なっていた。なお、この試作機はカイトが使う為か、蒼系統を主としたカラーリングが施されていた。当たり前だが、カイトは公爵。旗印だ。専用機が必要なのである。
「では、まずは内蔵武器からじゃな。まずは右腕の魔術兵装を使用してみてくれ。出力は30%からじゃ。両腕部の兵装は顕現するので、多少腕に違和感があるやもしれん。その感覚も確かめてくれ」
「りょーかいした。では、右腕部兵装、展開!」
そうして現れたのは、パイルバンカー状の杭打ち機に似た兵装であった。そのパイルバンカーに似た兵装には、杭打ち機の更に後ろの部分に何故か六連装のリボルバーに似たシリンダーが接続されている。
六連続で使える、ということなのだろうか、と思ったカイトだが、魔力供給で駆動する以上、兵装が壊れぬ限り、カイトの魔力が続く限り連発できる筈であった。まあ、幾ら魔道具とは言え大出力になると排熱の問題もあるので、念のために連装式にしておいたのだろう。
「……つーか、これ。どう見てもあれ、だよな?」
「うむ。まあ、モデルはあれじゃ。お主、あの機体好きじゃろ?」
「うん、まあ……あの浪漫兵装とかアナクロな部分は燃えるな」
二人が思い浮かべるのは、とあるゲームの主役機の一つである。その武装に似ていたのである。とは言え、単なる伊達や酔狂で搭載したわけではない。杭打ち機よろしく、強固な障壁や装甲をぶちぬく為に使えるのだ。実際に、同じ発想の物はソラが<<杭盾>>として使っている。
「つーか、お前の技術力なら、手のひらから出せるようにも出来るだろ?」
「当たり前じゃな。じゃが、それでは内蔵武装と両手の武器が干渉し、使えんじゃろう。お主が拳法家であれば、掌底に合せて使えるようにしたじゃろうが……お主は武器を使う事を好むからの」
「確かに、そうだな」
カイトは戦い方として、武器を使用する事を好む。これは、カイトは所有する武器にはかなりの思い入れがある武器が多く、それと共に戦う事をカイトが望んでいるからであった。更にはカイト自身が武器を自らの魔力で創り出せる事もあって、徒手空拳を使うのは少し苦手なのであった。
「で、言うべきか?」
「言うべき、と言うより、折角付けたのじゃから言え。つーか、叫べ。お主、中の人と同じで声量ものすごいじゃろ。何なら角も付けてやる。マイク壊すつもりで叫べ」
「ちっ……コホン」
カイトは一つ咳をして、喉の調子を整える。そして、整った所で機体を腰溜めの状態にする。そうして、背部に備え付けられた魔術的ブースターを点火する。
「標的出現まで5秒、4、3、2、1……出現!」
「ただ、撃ち貫くのみ!」
そうして、今度はかなり分厚い金属の目標が現れ、カイトがブースターを使用して一気に加速、そして、右腕部に付けられたパイルバンカーの威力が最大となる様に、右腕を振りぬき、パイルバンカーへと魔力を通して駆動部を炸裂させる。
すると、ドゴンッ、という轟音と共にパイルバンカーは分厚い金属の標的を貫通する。貫かれた標的はそのままパイルバンカーに繋がったまま、右腕につられていく。カイトはソレを右腕を振って、投げ捨てた。
「何故前部分を省く。重要じゃろう」
「別版だ。装甲ねえしな。あの演出気に入ってたし」
「む?そんなの有ったかのう……あ、あそこか」
二人共、兵装の試験となると完全に趣味に走る。なので先ほどまでの真剣さはどこへやら。呑気な会話を繰り広げていた。
そうしてティナが納得し、更に数度の練習を経てカイトが使用感覚に慣れた所で、ティナが終了を宣言。カイトは若干不満そうだったが、兵装はまだあるのでしぶしぶ従った。
「では、次は左腕じゃ」
「了解した……成る程。ウェポンシールドか。搭載武器は……ガトリングか」
カイトの操作に合わせて現れたのは、少し大きめの盾と、腕と盾の間にガトリング砲だ。どうやら、盾とガトリング砲は接続されている様であった。此方は何かモチーフがあるわけでは無いだろう。まあ、何時も何時も趣味に走ると実用性皆無の偏った性能になりかねないので、その為だろう。
そうして、ティナは武装が現れたのを見て、解説を開始した。
「左腕部は換装式にしておる。状況に応じて、ウェポンシールドをガトリング砲、火炎放射器、5連装ロケット・ランチャー、ブレードへと換装可能じゃ。尚、火炎放射器の火炎はデフォルトじゃから、魔術の構成さえ変更すれば、各種属性を放つ事もできる」
「わかった。じゃあ、とりあえず、一通り試すか」
「うむ、頼んだ」
そうして、カイトはコクピットに表示される換装方法に従い、各種武器を試していくのだった。
そうして、更に2時間程。武装の試験も終わりを迎えた。
「これで終わりか?」
最後に残っていた火炎放射器――ただし、放出されているのは雷――の調子を確かめたカイトはティナに状況を聞く。
「うむ。左腕部の武装はこれで良い。では、次は胸部兵装を試してみてくれ。」
「おっし……って、これなんか言うべきか?」
そうしてコクピットに表示された武装詳細によると、胸部兵装はビームに似た光線が放出される武装であった。よくある胸から射出される類の高出力ビームだ。
「なんとかビームか、なんとかファイアーとでも言うか? なんとかブラスターでも良いぞ」
「……やめとこう」
さすがに絶叫するのは恥ずかしかったらしい。僅かな逡巡の後、カイトが却下した。
「むぅ、つまらんのう……まあ、良いわ。とりあえず標的を出すぞ」
そんなカイトにティナは少しつまらなそうに口をとがらせたが、しぶしぶ標的を出現させる。標的は相対距離約5キロ、大きさは100メートルで、材質はステンレスの的を顕現させる。それを見て、カイトは息を吸い込んだ。
「良し……では、撃てぇ」
「D・E・S!」
カイトはティナの号令に合せて、胸部の魔術兵装を使用。それに合せて胸部装甲が開き、内部の兵装が露わになる。そして、魔術兵装にカイトの魔力が吸われ、兵装に光が灯る。
その数瞬の後。太い光条が目標へと発射される。そうして目標へと直進した光条は金属の的を見事捉え、ステンレスの目標を完全に消滅させた。
「……目標沈黙。そもそも沈黙しとるが。誤差は……うむ。試作機の一発目にしては上々じゃ。というか、お主。何も叫ばぬ筈だったのではなかったか?」
誤差は自身の許容範囲内だったらしくティナが満足気に頷くが、カイトが叫んだ言葉にツッコミを入れざるを得なかったらしい。少しの呆れを含んでいた。
「まあ、胸部兵装ならこれが礼儀かなぁ、と」
「お主は何時から番人になったんじゃ……まあ良い。数度出力を上げながら試してみてくれ。」
「ああ、わかった」
そうして、数発試射させて、武装の調子を確認する。
「ふむ……問題ないのう。内部兵装はまた追加するやも知れぬが、その時はまた頼むぞ」
そうして、二人は更に別の試験へと移行するのであった。
お読み頂き有難う御座いました。
次回予告:第266話『試作機』
作中の『D・E・S』が何を指すのか・・・お察しください。『デッド』で始まるあの不可解なセリフです。




