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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第98章 演習編

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第2808話 黄昏の森編 ――会合――

 賢者ブロンザイトの葬儀やその他諸々の死後の手配を取り仕切った事でラリマー王国の重鎮にして賢者ブロンザイトの実弟であるクロサイトの訪問を受けたカイト。そんな彼はサリアの思惑により、ラリマー王国のお家騒動に巻き込まれる事になってしまう。

 というわけで、お家騒動への対応を行っていた彼はその一環としてソラとトリンの両名をクロサイトの護衛として派遣する事を決定。道中の守りに就かせる事として、自身は更に別に持ち込まれていた自分を狙う何者かの暗躍に対応する事にしていた。いたのだが、そんな彼の様子はソラも気付いていたらしい。というわけで、ソラが訝しげに問いかける。


「そういや、一個良い?」

「なんだ?」

「お前、なんか妙に忙しくね? クロサイトさんの一件ってそんなヤバそうなのか?」

「あー……それか」


 いつものカイトなら他国の揉め事とはいえここまで忙しく動き回る事はまずない。それがここ数日はマクダウェル公爵邸と冒険部のギルドホームを行き来していたのだ。流石にそうなると周囲も何事かと気付いていたとて不思議はなかった。


「先輩とかなにか言ってたか?」

「まぁ……つっても流石にクロサイトさんの件とか言うわけにもいかなかったから、一応お茶は濁してるけどさ」

「そうか……すまん。まぁ、確かにクロサイト殿の件で忙しいのは確かにある。が、それだけじゃなくてな。先に冒険部宛ででかい依頼が二つあったの、お前知ってるか?」

「聞いてはいる。掃討任務が一件で、こっちは先輩が。もう一件は輸送の中規模な任務だろ? そっちはそれ以外知らないけど」


 冒険部では中規模以上の依頼は一度上層部で確認が入ってから、依頼の受諾の可否が決定される。ソーニャがカイトに持ち込んだのもその一環だ。

 依頼規模や危険性に応じてカイトが誰に対応を割り振るか――カイトが不在の場合はソラ達サブマスター達が決める――を決定。そこから規模に応じて例えば瞬であれば部長連の誰に頼むかと決めていく事になっていた。なので今回の輸送任務はカイトで停止していたわけだが、それ故にソラも瞬も桜もその後を知らないのである。


「ああ……実はあれ、どこぞの犯罪組織が違法薬物の輸送を行わせているみたいでな。その関連もあって軍を動かしている。ちょっとあってオレに直々に報告を上げさせていたから、こっちに詰めてたんだ」

「あ、そうなのか。そりゃヤバかったなぁ……何か見極めれた箇所とかあるのか?」

「ああ……そうだな。これはもう隠す必要もさほど無いから、お前からこの件については先輩と桜にも話しておいてくれ」


 そういえばここ暫く忙しすぎてそこらの情報共有が出来ていなかったな。カイトはソラの問いかけをきっかけとして、ちょうどよいので今回の依頼で自身が違和感を感じた点と状況をソラへと共有する。


「そっか……了解。確かにおかしいよな」

「そういうこと……まぁ、お前が戻るまでには全部終わってるから気にするな。あ、そうだ……どうせ飛空艇での移動中に時間あるだろ?」

「まぁ……無いっちゃ無いけどあるっちゃあるな」


 今回の移動中は犯罪組織による攻撃があり得るという事なのだ。それが何時かわからない以上常に警戒したい所だが、クロサイトから離れられないだけで即座に動けるなら別に何をしていようと自由だった。というわけで、カイトは自分の書棚から一冊の本を取り出す。


「これ、貸してやる。時間があったら目を通しておけ」

「……本? 何の本だ?」

「教本だ。そこまで難しくもない……というか入門書みたいな所があるから、お前に渡してやろうと思ってた所だったんだ」


 渡された本はそこまで分厚くなく、移動中に数時間あれば読破できそうな程度ではあった。そんな本の表紙には確かに入門者向けのような記載があり、ソラもこれは使えるかもと思いながら興味深い様子で中を少しだけ覗き見る。そんな彼に、カイトがさっとした話をしてくれた。


「ブロンザイト殿の親族にさる国で地質学の教員をされている方がいらっしゃってな。その方が執筆された教本だ……地質学と言っても魔術的な意味での地質学だけどな。少し古いが、基礎の基礎なんて昔も今もさほど変わってない。十分に通用するだろう」

「へー」


 確かに土属性の魔術を重点的に鍛えている自分にとっては役立つかもしれない。ソラはカイトから渡された薄い教本を忘れないように異空間に仕舞っておく。


「あれ? お師匠さんの親族って事はクロサイトさんとも親族って事なのか?」

「ああ。同じ一族の出だ。まぁ、珠族で同じ一族ってのはほとんど親族関係みたいなもんだから、クロサイト殿もご存知だ」

「へー……」


 今のタイミングで渡してきた、って事はこれも必要なら使って有効に話をしろという事なんだろう。ソラはカイトの意図をそう理解する。


「わかった。有り難く借りるよ」

「おう。じゃあ、明日からは頼む」

「おう」


 カイトの言葉にソラは一つはっきりと頷いた。そうしてカイトは今度はティナとの間で対応を協議するべく自室に留まるとなり、ソラは先の依頼の件を共有するべくギルドホームに戻る事にするのだった。




 さてカイトとソラがクロサイトの件を話し合ってから数時間。その間もマクダウェル公爵邸やギルドホームを行き来して様々な対応を重ねていたカイトであるが、それも夕刻を過ぎたあたりで一旦停止。財界の要人達が集まる会合に出席するべく支度を行っていた。


「ふぅ……」

『残念ですわね。せっかくダーリンと公的にイチャイチャと出来る絶好のチャンスですのに』

「やるつもりないだろ」

『いえいえ。ダーリンとの蜜月をアピールできれば更にわが社の名は上がるというもの。そんなまたとないチャンス、利用しないわけがありませんわ』

「おぉう……」


 サリアさんにそんな恋愛感情のみを求めた自分が馬鹿でした。カイトは楽しげに笑うサリアにため息を吐いた。当然であるが、今回の財界の会合にサリアは出席しない。

 更に言えば彼女が表向き使うタリア人形も使わない。あちらは人嫌いとして知られている形になっているため、出席できないのだ。なので秘書室の代理人が参加する事になっていた。


「はぁ……まぁ、それはそうとして。まさかそんな事を言うためだけに連絡を取った、なんて言わないだろう。こんな土壇場で」

『ええ……バルフレアさんも確か参加予定でしたわね?』

「ああ……あいつもあいつで忙しいからな」


 忙しいから会合に参加する。こう聞けばおかしい気もするが、それは仕方がない事情があった。というのも、現在の彼は暗黒大陸への遠征と『リーナイト』の早急な復旧という二つの大きな仕事を抱えている。特に後者は早急に復旧しないとユニオンという大組織の運営に関わってしまう。

 冒険者という切り札が使えないと、各国困るのだ。諸国の中には『リーナイト』の復旧がを優先し、遠征はそれが出来るまで支援しないという国も少なくなかった。なのでこうやって財界の会合に顔を出しては出資を依頼したり、出資してくれた相手に感謝を述べたりしていたのである。マクダウェル公爵家は出資者の中でも最大の一つだったため、彼も参加するしかなかったのだ。


『ええ……それでダーリンに依頼されていた品の目処が立ったので『リーナイト』に戻り次第返答を頂ければとお伝え頂ければ。物資の輸送については帝都支部が請け負うと』

「あいよ……こっちに居ると情報がイマイチだが、どの程度復旧が出来てる?」

『建物はある程度……人の方が問題ですわね。事務員に欠員が出てしまったのが厳しいようです。今はレヴィさんの指導の下、人員を急ぎ育成していますが……』

「一朝一夕にはならんか。遠征を冬に持ち越したのは正解だったな」


 バルフレア当人としてはほぞを噛む思いだっただろうが。カイトはバルフレアがこの遠征に強く入れ込んでいた事を思い出し、内心でそう呟く。が、彼はユニオンマスター。自身の感情は切り離して考えられる男だ。致し方がなしと受け入れていた。


『そうですわね……取り敢えず、お願いしますわね』

「あいよ」


 それは確かに土壇場でも連絡を入れてくるか。カイトはサリアからの言伝を聞いてそう考える。そうして彼は礼服に身を包むと、内線を起動する。今回は誰かを連れて行く必要のあるパーティではなかったが、一緒に行く人物が居たのだ。


「さてと……エル」

『んー?』

「用意は出来ているか?」

『後ちょっと待って……ちょっとサイズが合わなくて……』

「おいおい……エルの運動量で太るとか無いだろう。まさか実家から嫌がらせで子供の頃の物を持ってこられたとかか?」


 エルーシャは冒険者の中でもかなりの武闘派として知られている。その上に武道家でもあるため、運動量は人一倍と言えるだろう。まぁ、あれだけ動き回って気まで扱うのに太る道理は一切なかった。

 そしてカイトが見る限りでも出る所は出ているし引っ込んでいる所は引っ込んでいる。どこに引っかかる要因があるかわからなかった。


『そんなわけないわよ……ちょっと胸が……』

「お、おぉ……」


 そ、そうっすか。カイトは隠す事のないエルーシャの発言に僅かに頬を赤らめる。さすがの彼もなんと返せば良いかわからなかったらしい。このドレスは彼女がまだ実家に居た頃に作られた物だ。背丈はそこまで変化がなかったので元々ある物で大丈夫だったらしいが、胸に関しては考えられていなかったようだ。


『うーん……前から胸のあたりが少しきついって言ってたんだけど……やっぱりキツい』

「そりゃ、しゃーない。今回は諦めろ」

『諦めろって言われても……こんなのよ?』

「ごふっ! おまっ! ちょっ!」


 おそらくエルーシャは単に話の流れ――話しながらだったので意識していなかった――で映像をオンにしてしまったのだろう。これにカイトが思わず吹き出した。そしてこれにエルーシャも自分が何をしたか理解した。


『あ、きゃあ!』

「はぁ……エル。お前その時々考え無しに動くのやめろ」

『ごめん……でも、どうしよう』


 意図せずではあったがカイトが見た限りでは、胸のあたりが本当に入らなくなっていた様子だった。留具もこれ以上動かない様子だったし、無理すると壊れそうであった。よしんば入ったとて下手に動けばパーティ会場で留具が弾け飛ぶなぞという赤っ恥な状況も有り得た。というわけで、苦言を呈したカイトが告げた。


「はぁ……ちょっとこっちでなんとか出来るかやってみる。少しだけ待ってろ」

『ごめん』


 見てしまった以上、駄賃として働く事にするか。カイトはそう後ろ向きなのか前向きなのかわからない様子で動く事を決める。というわけで、エルーシャはカイトが急遽用意したドレスに身を包んでパーティに参加する事になるのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 着てく服の確認とかエルなら忘れてもおかしくないけど、気質をよく知っているランがチェックしなかったのは頂けない気もする。 [一言] カイトよ、なぜ余計なことを聞かずに代わりを手配できなか…
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