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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第十三章 英雄の再来

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第264話 過去と今の交わる時 ――夢の終わり――

 ティナが日本に起こった事を解説し、ホワイトボードへと記述を終えたところで、全てを聞いて一人把握できていたウィルが、頷いた。


「成る程、有り得るな。戦、それも大戦であれば、敗戦における後備を考える事はまず第一だ」


 始める前から負けた時の事を考えるなどどうかしている、と言われそうだが、そもそも、負ける事を考えていない方がどうかしているのであった。負けるにしても如何にして上手く負けるか、それを考えるならば、始めから考えなければならなかった。

 それが出来なかったからこそ、皇国は皇都陥落という最悪の事態を引き起こしたのである。それを戒めとしているウィルにとって、納得の出来る話だった。


「そうじゃな。しかし、もとより表に出ることを望まぬ異族や神々よ。それ故、復興に目処が着いた時点で、裏に引っ込んだんじゃろう。後は子らにまかせての」

「にしても、人間同士の戦い、ねぇ……くっだんねえことしてんだなぁ、お前らんところも。生まれが違うだの何だの、どうでもいいことじゃねえか」


 バランタインが深い溜息を吐いてカイトに告げる。エネフィアでも、同族同士で戦をする事も確かにある。

 しかしそれでも、たかだか人種が異なる、生まれた国が異なる、と言った程度では戦争にまでは発展しないのであった。多くは国同士の確執が積み重なり、本当に偶発的な戦闘が引き金となり、である。それを考えれば、異族だからと攻撃する今の教国がどれだけ異常なのかは理解できよう。


「お恥ずかしい限りです」


 そう言って、桜が済まなそうに恥じる。彼女に責任は無いのだが、一応、地球人として、である。


「ま、共通の大敵が居ないことが問題なんだろう」


 そんな桜に苦笑しつつ、カイトが推測を述べる。一見するとカイト達によって安寧が保たれている様に見えるエネフィアでは、実際には魔物が幅を利かせている。

 村や街が点在しているのは、その為だった。国中を守れるだけの大規模な結界はどう足掻いても展開出来ない。その上、その結界さえ破れるクラスの魔物も存在している。単身でも国を滅ぼしかねない魔物が少なくない数で存在しているエネフィアでは、種族差程度で戦争出来る余裕は無いのであった。戦争を意図的に起こす者が居るとすれば、正に狂気の沙汰だろう。


「魔物を密かに討伐することを覚えたが故の不具合か。興味深くはあるが……」


 為政者としてみれば、魔術を失い、異族の居ない人間だけの共同体がどのような発展を遂げるのか、興味が無いわけではない。それ故、少しだけ興味深そうにウィルが呟くが、実現しようとは思わない。

 地球では、人間種が近代文明を持ち始めた頃迄は、確かに魔術も異族もまだ公に存在していた。しかし、それが魔女狩りで異族達が排斥され、魔物の討伐は退魔師(エクソシスト)や陰陽師と言った魔物退治に特化した者達が、密かに行なうようになってしまったのだ。

 彼等の言い分としては、民草に恐怖を与えるべきではないから隠すべき、民草へ安寧を与える為に異能を有する異族を排すべき、という言い分であるのだが、その結果、人間種以外に知性体が公には存在しない事となり、今度は人間同士が争うことになったのだから、皮肉であった。


「ん? そういえば、強い魔物は居なかったの?」

「いや、居た。戻ってから知ったが、ランクSは存在していた」

「じゃあ、どうして隠しきれたの?」


 ふと違和感に気付いたルクスが、カイトに問いかける。純粋なランクSともなれば、十分に国が壊滅する可能性を考えなければならないレベルであった。ソレの力量を知るのなら、隠れて討伐できるとは思わなかったのだ。


「あっちは比較的やすやすと神族が出て来る。彼等の力を借り受けることが容易なんだ。そもそも、魔物の発生箇所がかなり判別できていたみたいだ……まあ、わからんだろうが、インターネットの発達も大きいな」


 カイトは肩をすくめて、日本や世界各地に点在する神様達を思い出した。エネフィアでも確かに神族というのは居ないでは無いが、地球よりも遥かに歴史に関わる事は稀だった。


「後はそれをマップ化し、立入禁止区域として指定し、結界を張る。そして、定期的に魔素(マナ)を散らし、現れる魔物を討伐してやれば問題ない。それでも予測不可能な点に現れたりして死傷者は出るが……情報統制と記憶操作なんかで自然災害として処理しているらしい。死傷者が出ても地震による倒壊に巻き込まれた、洪水に飲まれた、等な。魔術の存在を知らなければ、不自然な点は少ない。それに、大規模な死傷者がでるならば、交通機関による事故などでも偽装できる」


 カイトもティナも何度かそういった高位の魔物と遭遇し、対処にあたった部隊に事後処理を聞いたのだが、その時に返って来た答えが、これだった。なのでそれを聞いたままに一同に伝える。


「なるほどな。確かに、魔物の出現ポイントは皇国でもマップ化を進めていた。それを元に、街や村を作っている。合理的だな」

「そういうこと。まあ、そんな事が出来るのは、地球がこっちに比べて小さいからだろう。こっちでソレをやろうとすれば、確実に人手が足りない」


 そう言ってカイトはユリィの髪を撫でていた手を今度は上下に変え、その髪の感触を楽しみ始める。そこでふと、ユリィの頬に指が触れ、その感触に気付いた。


「お? これは……」

 そう言いながら、カイトはふにふにと頬を撫で、こねくり回す。


「ひょ、ヒャイヒョ、いひゃい」


 若干嬉しそうにしているが、引っ張られているユリィは多少痛そうであった。


「おっと、わりい」


 そう言って今度は突っつき始める。


「おー。ふにふに、正に天使の感触」

「ム? どれどれ……おお、確かに、これは良い。」

「ちょ……」

 カイトとティナから突かれて、ユリィは次第に頬を膨らませていく。そして、遂にキレた。


「ちょっと! いい加減にしてよ!」


 そうして説教を始めるユリィを横目に、一人の女性が残念そうな声を上げる。


「あ……」

「ルシア、残念だったね?」


 そろー、とユリィの頬に指を伸ばしていたルシアへと、ルクスが苦笑して問いかける。


「はい……」


 少しだけ落ち込んだ様子のルシアが再びルクスの隣に座る。当然だが、彼女の生前では、ユリィは大きくなっていない。それ故、その感触に興味がそそられたのである。そうして、怒るユリィを見て、イクサがこの3日疑問であった事を問いかけた。


「あの……ユリシア学園長ですよね?」


 おずおず、と言った感じで問いかけたイクサに、怒っていたユリィが少しだけ不機嫌そうに振り向く。


「そうだけど……何?」

「いえ、あの、その……本物ですか?」


 いつも学園で浮かべている荘厳な風格は無く、只々無邪気に、そして見た目相応の感情を発露するユリィに、思わず偽物かと思ってしまったのだ。


「ぷっ……」


 イクサの言葉に、カイトが吹き出す。ユリィはそんなカイトをひと睨みすると、即座に荘厳な表情を浮かべた。


「……あら、申し訳ありません。少々驚かせてしまいましたか。ええ、ユリシア・フェリシアです。イクサさん、お久しぶりですね。」


 ユリィは仕事用の猫を数枚被り、イクサに挨拶する。それを見たルクス達かつての仲間が肩を震わせるが、ユリィはそれをひと睨みして終わらせる。ここで怒っては猫の意味がなかった。が、そんなユリィに、イクサはただただ混乱するだけだ。


「は、はぁ……」


 そんなイクサの混乱をよそに、遂にバランタインが笑いをこらえきれなくなった。


「ぷっ……がー、ははっは! 何だそりゃ! おい、おチビ! いつの間にそんな猫被る様になったんだ!」

「くっくく……言ってやるな。恐らく色々あったんだろう。いや、大方カイトを見返そうと必死に探したんじゃないか? 探せば、そこら辺に猫の中身が転がっているかもしれん」

「ああ? そういやここに来るまでになんか血痕があったな! 急場で仕込んだか!」


 ウィルの茶化しを聞いて、バランタインが大笑いする。尚、その血痕は団体戦での傷の治療の為にミースの居る保健室へと向かう生徒の物である。そんな二人に対して、ルクスが笑いを堪えながら告げた。


「ダメだよ、笑っちゃ……ユリィだってこれで仕事してるんだから、多分……」

「あなた、そう言いつつ笑っては……」

「ルシアもじゃない……」


 そう言って笑う一同に、再びユリィが切れる。


「人が! 仕事してんだから! 笑わないで! 皆で一回学校行く!? 全員確か未就学だよね!」

「あー? もう死んでるし。意味無いんじゃね?」

「あ、一応は学習が記録できるらしいから、意味有るぞ。後、オレは現在進行形で就学中ー」


 呼び出しているカイトが、ニヤニヤと笑って意味ないと言うバランタインの言葉を否定する。


「んじゃあ、意味有るねー。どう? おっちゃん。学校に行けるよ?」

「遠慮しとくぜ……これ以上学問なんてやりたくねえ」


 バランタインは顔を真っ青にしながら首を振った。一応、公爵麾下の筆頭格の一人として、奴隷であった身分等から施されていなかった教育がかなり詰め込みで行われたのだ。

 始めこそ、ありがたいと内心で思っていたが、それが一年を数えた頃から、嫌と言い始め、3年も経つともう嫌と内心でも思い始めたのであった。そして、他の三人はというと、当たり前だが教育を施されている。それも、最高の物を、である。


「俺達はもともと教育を受けている」

「うん、僕らも遠慮しとくよ」

「教育を受けてそれって……と言うか、ウィルは爺ちゃんに恥ずかしくないの?」

「む……まあ、それを言われると痛いが……」


 ユリィから出された名前に、ウィルが少しだけ申し訳無さを滲ませる。当時皇子としての教育を施していたのは、ヘルメス翁である。それ故、ウィルは唯一ヘルメス翁にだけは、頭が上がらないのだ。


「……あれ? そういえば、お兄様。ヘルメス様はお呼びには? 一度お会いしてみたかったのですが……」

「してない。爺さんを野放しにしたくない。せめて、アウラが要る。」


 クズハの問いかけに、カイトは即座に答えた。通常、カイトに対して暴走するアウラであるが、唯一、身内のヘルメス翁が関わる時だけは、ストッパーとなる。どうやら、祖母から仕込まれたらしい。それ故に呼ばなかったのだ。

 だが、ヘルメス翁を知りつつ、そんな事を知らない人物が一人居た。当然、その教えを受けた皇子のウィルだった。


「? どういうことだ?」

「お前知らないのか?」

「爺やがどうしたというのだ?」


 少し不安げに、ウィルはカイトに問いかける。彼の記憶の中では、ヘルメス翁は未だ荘厳で、包容力のある老人のままなのである。まあ、それが表向きの姿なのだから、仕方がない。

 そうしてそのウィルのセリフに、ユリィが久しくヘルメス翁の話をしていなかった事を思い出した。


「そういえば、あんまり爺ちゃんの話をしてないね」

「私の前やアウラの居る場所ではお話しになられていましたが……そういえばウィルさんはいらっしゃいませんでしたっけ」

「そうだっけ……」

「まあ、俺も聞かなかった事もあるが……爺やがどうされたのだ?」


 どうやらクズハやカイトの言葉から、自分が出さなかっただけ、と思い至ったらしい。納得して、更に問いかける。曲がりなりにも彼に教育を施し、彼もまた懐いていた老人なのだ。気になって仕方がなかった。そんな彼に申し訳なく思いつつも、カイトはヘルメス翁の本性を語る事にした。


「あー、まあ。単純に言えば、本性はエロ爺。特に好みは桜や瑞樹なんかの巨乳でスタイルの良い娘。特技は軽やかな尻へのセクハラ」

「本人曰く、触り心地がたまらんのじゃ、らしいねー。あれ、絶対あれで寿命伸ばしてる」


 カイトの言葉に、桜と瑞樹――の胸と尻――に注目が集まる。注目された二人は、かなり照れた様子で自らの身体を隠した。


「放っておいてどこぞの女生徒にセクハラ繰り出されても困るからな。ストッパーのアウラが居ない以上、呼んでない」

「な……」


 一瞬で、かつてのイメージが崩れ去るウィル。おそらく彼の脳内では今頃ガラガラと何かが音を立てて崩れ落ちていることだろう。


「他にも、ハーレム創ろうとして永遠の命と若さを研究した事あったり……」

「おばあちゃんに浮気がバレて、危うく去勢されそうになったり……」

「あ、オレそれ初耳」


 ユリィの言葉は初耳であったのだが、カイトは驚かなかった。ありえないことではなかったからだ。


「ああ、うん。アウラの話で聞いたからね。総じて賢者ではあったんだけど……賢者タイムが賢者なだけで、デフォルトは姉御とかスタイルの良かった娘にもセクハラして良くシバかれてたよねー。おっと、スマンの、なんていって」

「家だと、そっから更に追撃でアウラに杖で殴られて、姉貴の大剣の腹かげんこつ食らうまでが、ワンターンだな」

「知りたくなかった……」


 音を立てて崩れ去るイメージに、ウィルが落ち込む。


「まあ、そんなとこ……これが、知らぬが仏、という良い見本だな。お前達も気をつける様に」


 愕然として膝を屈したウィルに対して、カイトが笑いながら一同に見本として提示する。一方、提示された方はどう返せば良いのかわからず、困惑するしかなかった。そんな一同の中でもまだ平気な方のイクサが、一同に向かって恐る恐る問いかける。


「あの……それは大賢人と言われるヘルメス様の事ですか?」

「ええ、そうですよ。私達にとっては気さくな好々爺でした」


 イクサの問いかけに、即座に猫を被り、ユリィが答える。それと同時に、ウィルが正気に戻る。なにげにカイトと一緒に居ると、この程度のびっくりは即座に治る癖が付く様子である。


「ま、まあ、爺やもヒトであった、ということか。……そう考えねばやってられん」

「カイトの女癖は爺ちゃん譲りだよ、絶対」


 ぼやいたウィルに、ユリィが断言する。その言葉に、再びウィルが膝を屈する。どうやら彼の想像以上だったらしい。


「そこまでか……」

「おい、ちょっと待て!」


 自身と比べられ、更に落ち込まれたカイトが怒鳴る。


「じゃあ、今誰と親しい仲なんだい?」


 ルクスの言葉に、桜と瑞樹、魅衣が反応する。弥生は動揺が無かったので、大して反応しなかった。


「……三人か」

「いえ、4人です。あちらの弥生さんも」

「……相変わらずだね」

「お前さん、いい加減刺されっぞ?」

「いや、まあ、その……ね? 仲良くなったので、つい……」


 ルクスの呆れ混じりの言葉とバランタインの楽しげな言葉に、カイトが少し照れながら答えた。確かに、自分の行動を観直してみれば、女癖が悪いと言われても無理はなかった。が、そこでふと、カイトが思い出す。この今があるのは、誰の所為なのかを。


「てか、ちょっと待て! お前らが推奨しただろ! 貴族になった以上、多くの女を娶る義務がある、って!」

「当たり前だ。貴族である以上、多数の女を愛せて当然。義務だ」

「でも、僕らも何も高位の種族の御令嬢とかまで手を出せとは言ってないよねー」

「その引きには、さしもの俺達も唖然としたな……と言うか、貴様。普通に俺達と出会う前から多数の女を抱えていたらしいじゃないか。今更俺達にそれをなすりつけるか?」


 そうして始まる昔話。その後、その会話はカイトの召喚の効力が切れるまで、酒を飲みながら夜を明かし、一昼夜続いたという。その間、全員が懐かしげに、されど嬉しそうに再会を楽しんだのであった。

 お読み頂き有難う御座いました。

 次回予告:第265話『試作機』

 これで今章は終わり・・・じゃないです。まだ英雄が一人足りていません。


2015年11月14日 追記

・読みにくい表現がありましたので、見直しました。

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