第2800話 黄昏の森編 ――殺し屋達――
賢者ブロンザイトの葬儀を取り仕切った事を受けて彼の実弟にしてラリマー王国の重鎮であるクロサイトの訪問を受けていたカイトであったが、彼はサリアの思惑を受けて図らずもソラと共にラリマー王国のお家騒動に巻き込まれる事になってしまう。
というわけでそれに対抗するべくソラと共に作戦会議を行っていたわけであるが、それを終えた彼は会食の最中に密かに訪れたアルミナからの情報提供を受けマクダウェル家が保有する隠し倉庫にやって来ていた。
「おぉおぉ……爆発物と聞いてはいたが。まさかここまで大型な物を仕掛けるとはね」
隠し倉庫と言うは良いが、それは街の倉庫街にある大きな倉庫というわけではない。よくある貸倉庫の一角で、テナントの一室を倉庫として貸し出しているような形だ。
マクダウェル家がダミーの企業を幾つも迂回して借りているものだった。そんな倉庫の中央にあったのは、彼が述べた爆発物だ。といってももちろん、封印されているので爆発する恐れは全く無い。というわけでそんな封印を見ながら笑うカイトに、後ろから声が掛けられた。
「解体はしていないから、封印は解かないでね」
「流石にしないさ……するにしてもティナが居る所でやりたい所だ。まぁ、爆発物処理になるからどうにせよ街の外でやるべきだろうがな」
「そうね」
さすがのカイトも町中で爆発物の処理をするつもりはなかったらしい。なので封印を介して爆発物を見るだけだ。なお、そんな爆発物だが地球の様に大きな四角い爆弾というわけではない。
一抱えほどとまではいかないが、それなりには大きめの魔石だった。それに結界を無効化したり飛空艇の動力部のシールドを無効化したりする様々な魔術を仕込んでいるのであった。
「で……そっちの端っこのが殺し屋さん?」
「そうね。全員面倒だから気絶させてるわ」
「気絶ねぇ……捕まえない、って話だったと思うんだが?」
「流石に爆発物仕掛けようとしてたら捕まえた方が良いでしょう?」
「まぁな」
自然に起きる見込みはなさそうだな。カイトは数人の男女を見て、そう思う。誰も彼もが魔術で意識を刈り取られている様子で、目覚める様子は皆無に等しかった。そんな彼を見て、アルミナが問いかける。
「誰か一人ぐらい叩き起こす?」
「いや、良いよ。どうせ飛空艇に細工しろ、って言われている奴らって所詮捨て駒って所だろうし。本命は狙撃だろう……そっちを知っているとは思えんから、後でウチの尋問官に侵入経路ゲロらせる」
おそらく狙撃を行ってくるのはラリマー王国の裏にうごめく犯罪組織の手の者だろう。そうなると雇われの兵隊である殺し屋ギルドの殺し屋達が情報を持っているとは思えなかった。
「そう……いたちごっこになるだけなのでしょうけど」
「いたちごっこはわかってる。わかってるが穴を塞がない事には何も始まらない」
「そうねぇ」
殺し屋ギルドを放置する事は出来ない以上、そして殺し屋ギルドがカイト達を警戒している以上、数少ない情報から穴を塞いでいくしか手の打ち様はないのだ。根っこを絶ちたいのは山々だが、現時点ではこれが限界だった。というわけで肩を竦ませ首を振るカイトであったが、ふと思い直した。
「あ、でもそうだ……自分で乗り込もうとしてた奴ってどいつ?」
「ああ、それならそこで空港の職員の服を来てる奴よ。まぁ、腕は悪くはないんじゃないかしら……でもどうしたの? そんな程度の奴がほしいの?」
「いや、リトスならなにか知ってないかな、って」
「あー……」
一応リトスは殺し屋ギルドでも幹部格ではあったらしい。まぁ、殺し屋ギルドも規模は大きそうなので知らなくても不思議はないが、なにかわかる事でもあれば儲けものだと思ったのだ。
「じゃあ、こいつだけ分けておいた方が良さそうね。武器なんかの一式も何の情報になるかわからないのだし」
「そうだな。武器とかでなにかの特徴が掴めれば儲けものだ」
そうと決まれば次はこの殺し屋が持っていた武器の類を確認していくか。カイトはそういうと、アルミナに案内されて今回発見されている武器を確認する。
「ふむ……やっぱりヴィクトルにサンドラに……他にも有名な魔道具メーカの武器があるな」
「多分どれもこれも模造品でしょう」
「だろうなぁ……」
見た目だけはやはり正規品そっくりだ。カイトは押収されている魔道具のどれもこれもが本物としか思えない見た目をしている事を改めて理解して、盛大にため息を吐いた。まぁ、正規の設計図を使ってしっかりとした工場で作られているのだ。見た目だけを真似ている物とは色々と違っていた。
「手榴弾が幾つもに……こいつは……なんだ? これ、ヴィクトルの製品じゃないよな……」
「ああ、それは飛空艇の部屋のロックをこじ開ける魔道具でしょうね。詳しくは私も知らないけれど、似た物を見た事があるわ。リトスちゃんに聞いてあげるのが一番手っ取り早いでしょう」
「そうしよう」
取り敢えず見たことのない魔道具はリトスに聞くのが一番かもしれない。カイトはアルミナの助言にそう判断する。そうして押収された幾つもの武器を確認するわけであるが、やはり流石非合法組織の中でも最大規模の裏ギルドという所だろう。カイトも驚くべきものを有していた。
「これは……魔銃? まさか魔銃まで持ってるのか。しかもこれはかなり小型のだな……これは流石にどの企業も出していないはずだ。となると、きちんとしたブラックスミスが伝手にあるのか……?」
「魔銃もゼロ距離で撃てばダメージは入るもの。隠し持っている殺し屋、最近増えてきてるわね」
「マジか。有り難くないなぁ……」
やはり魔銃の利点は引き金を引くだけで簡単に使えてしまう所だろう。それは対処のし難さにも直結しており、カイトとしては頭の痛い所ではあった。
「こっちは……こっちもどこかのブラックスミスが作ったグレネードタイプの魔銃か。こっちは裏だとそれなりに普及しているとは聞いたが……」
「万が一飛空艇内部で戦闘になった時には厄介だったでしょうね」
「まぁな……この弾丸に関しては軍に解析して貰っておくかね」
本当に面倒になるほどに色々な物を持ち込んでくれているみたいだ。カイトは若干腹立たしい物を感じながらも、それはそれとして判断。改めて対応に取り掛かる事にして、この日は夜遅くまでそちらの検分に努める事になるのだった。
さて翌日の朝。カイトは殺し屋ギルドやらラリマー王国の犯罪組織やらに対応するべくマクダウェル公爵邸の自室で就寝。朝の修行を終わらせると、そのまま朝食を食べた後即座にマクダウェル公として職務に取り掛かっていた。
「ティナ……どうせまだ起きてるだろう。怒らないから通信取れ」
『ぐっ……もうこんな時間じゃったか』
「はぁ……お前さぁ、研究頼んでる側だから強くは言い難いんだけど……子供出来た時に不摂生はしない様に注意はしてくれよ? オレがフォロー出来るのだって限界があるんだからな?」
『わ、わかっとるわ。注意はする……いや、注意では済まんし癖付いた物が抜けるのは難しい。気を付けねばならんな……』
流石に将来の話を言われるとティナも弱かったらしい。カイトの苦言に流石に一度自分の生活を見直そう、と思ったようだ。
「そうしてくれ……で、それはそれとしてなんだが」
『なんじゃ?』
「ちょっと殺し屋の連中から押収した品で幾つか面白い品と解析を頼みたい物が幾つかあってな。それを頼みたい」
『どんなのじゃ?』
「鍵開けの魔道具やらが押収されたみたいでな。今朝方リトスに検分を頼んだから今はまだ確定待ちになるんだが……それが終わったらそれのリバース・エンジニアリングを頼みたくてな」
『ほう……』
カイトの要請に対して、ティナが少しだけ興味深い様子を覗かせる。それがどの程度の品なのかはわからないが、マクダウェル領に乗り込んだ以上はマクダウェル家の飛空艇にも対応している可能性があった。となると、ティナが原型を作った飛空艇のロックを解除出来る事にほかならず、その点に関しては彼女も興味を抱いたらしい。
『わかった。それに関しては請け負おう。もし使えるものであれば、それを利用すれば今より強固なロックが開発出来るやもしれんからのう』
「頼む」
『うむ……他になにか興味深い物はあったか?』
「いや、今の所は何もという所か。前に資料提供されていた海賊版を見たいなら回すが」
『興味は無いのう』
違法工場で作られている海賊版はあくまでも海賊版だ。安全装置を外していたりして性能は一部上回っている所も見受けられるが、それは安全性を対価に確保しているだけの事だ。ティナとしては種が割れている以上、興味は無いらしかった。
「だろうな……まぁ、それならさっき言ったロック解除の魔道具だけ頼むわ。それ以外にも興味があるなら言ってくれればそっちに回す様に手配しておく」
『んなのなくても余の方でも手配出来るから、こちらでやっておく』
「そうか。まぁ、それに関しては好きに頼む」
ティナには万が一自身が居ない場合の全権を預けている。なので必要なら自分の所に持ってこさせるぐらいは朝飯前だった。というわけで、その後は更に暫くの間ティナから各種の報告を受けると共に、今後の犯罪組織の手として考えられる物を考えてカイトは冒険部の始業前にまたギルドホームに戻っていくのだった。
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