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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第98章 演習編

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第2796話 黄昏の森編 ――作戦会議――

 かつて賢者ブロンザイトの葬儀の手配を行った事によりその実弟にしてラリマー王国の重鎮であるクロサイトからの訪問を受ける事になったカイト。そんな彼はクロサイトの裏の思惑であるラリマー王国のお家騒動に対して関わる事になり、その準備を行う事になっていた。というわけで、会食の当日。カイトはトリンに気を利かせ一人寒空の下に出ていたソラを連れ、その状況の確認を行っていた。


「そういや、俺お前の部屋入るの無茶苦茶久しぶりの気がする」

「まぁ……こっちに来る時は基本冒険部の業務外だからな。お前らにゃ関わらせん」


 応接用の椅子に腰掛けたソラに、カイトは自分の椅子に腰掛け頷く。彼の言う通り、基本こちらでやる仕事はマクダウェル公としての公務が大半だ。

 そちらは流石にソラ達に関わらせて良い話ではない物が大半なので、ソラがこちらに来る事は非常に稀だった。というわけで、少しだけ興味深い様子で部屋を見回すソラであったがそんな彼が口を開く。


「今回は話が別になる、と」

「まぁな……さて」


 ソラの言葉に応じながらも色々と支度を行っていたカイトであるが、それも一段落したので彼は机のコンソールを起動。状況の確認を行う事にする。


『はい』

「オレだ。椿、状況の報告を頼む」

『かしこまりました……現状ですが、邸内への侵入者は無し。また食材に関しても毒物等の塗布も無い事が確認されています』

「そうか……まぁ、流石に逆張りしてくる事はなかったか」

『かと』


 先にカイト自身毒殺は狙ってこないだろうという推測を口にしていたわけであるが、それだって絶対視して良いわけではない。なのできちんと確認は行っていた。というわけでそちらに問題無い事が確認されると、彼は一つ頷いた。


「となると……やはり、か。そちらは?」

『現在時点での報告はありません。が、ユスティーナ様曰くもしそうであるのなら事前の発見は非常に難しい物があるだろう、とのことです』

「はぁ……面倒だな、やはり」


 椿からの報告を受けて、カイトは深くため息を吐いた。というわけで、ここからは実際に動く事になるソラにも教えた方が良いだろう、とカイトは彼を見る。


「ソラ」

「え、あ、おう。何だ?」

「クロサイトさんからの依頼の件だ。話しておかないといけない部分がある」

「おう」


 ぼけっとカイトの自室を観察していたソラ――やはり品が良いと呆れ半分感心半分だった――であるが、カイトの要請を受け彼が座る机の近くへと移動する。


「まずラリマー王国の裏で暗躍する犯罪組織の話は良いな?」

「それはトリンからも聞いてる。流石にお師匠さんも弟さんの手前積極的な介入はしてなかったらしいって」

「そうだろうな……まぁ、これが厄介な所で第二王子という大物を裏に控えさせているからか、かなり大規模な『工場』を保有しているらしい。そこまでは良いか?」

「ああ……いや、その『工場』? とかまでは聞いてないけど」


 カイトの問いかけに一つ頷いたソラであったが、やはり犯罪組織の事やらは聞いていてもそれがどれぐらいの規模でどのような物を財源としているかまでは知らなかったようだ。これは先に彼が述べた通り、トリンも詳しくは知らなかったからだ。


「そうか……件の犯罪組織の財源だが、これはヴィクトル商会やサンドラ等が開発している冒険者向けや軍向けの魔道具。その違法製造だな」

「冒険者や軍向けって……」

「まぁ、裏ギルド向けって感じだ。流石に正規品としては出回らん……が、どうやっても隠し通す事は不可能。どこかで裏ギルドと交戦した事がきっかけとなり、ヴィクトルに解析が持ち込まれたようだ」


 カイトはソラへとおおよそのあらましを語ると、ヴィクトル商会から提供された違法製造された魔道具の一つを取り出した。これにソラは目を見開いて驚きを露わにする。


「え……これ……え? これ、正規品? 確か一つか二つ前のモデルだよな? 見た事あるし」

「いや、これは違法製造された物だ。見た目じゃわからん」

「どうやってわかったんだ?」

「実際に使われて定格以上の出力が出ていた事から、ユニオン経由で解析が依頼されたらしい。それがきっかけで発覚したそうだ」

「うはー……」


 これはわからんわ。ソラは見た目が全く正規品と一緒な違法製造の魔道具を見て、思わず感心する。とはいえ、いつまでも感心してばかりもいられない。なので彼はすぐに気を取り直した。


「どれぐらい前からあるって言われてるんだ?」

「もう十数年前かららしい。といっても、ほんの五年ほど前までは小規模の『工場』だったそうだが、第二王子を擁立する貴族が勢力を増した事で『工場』の規模も拡大。今では大型の魔道具まで違法製造する始末、だそうだ」

「大型?」

「据え置き型と呼ばれる大型の魔道具だな。基本持ち運びは考えられていないか、輸送艇による揚陸等しか想定されていない……で、今回問題なのはこれだ」


 今回問題なのは据え置き型の魔道具。そういったカイトはソラへと幾つかの魔道具が記されたリストを提示する。が、それを見てソラは思わず頬を引き攣らせる。


「……あのー……カイトさん? これ全部……その、なんと言いますか……あの……ですね」

「さっき言っただろ? 軍向けの物も違法製造されてるって」

「だからって大砲を違法製造してんのか!?」


 確かにカイトは先程軍向けに卸されている魔道具も違法製造されていると言っていた。が、まさかそれが軍が大規模な作戦で使うような高出力の魔導砲までとはソラも思っていなかったのだ。

 しかも今回リストアップされているのは各メーカや各国が製造している中でも超長距離の狙撃を可能とする大規模な魔導砲だ。これを作っているのはソラとしては素直に信じられなかった。


「しゃーない。実はこういう超長距離の狙撃用の大砲って根幹に組み込まれている構造はすごいシンプルなんだ。だから簡単に作りやすい。違うのは収束率とか充填速度とかそういう所だな。単発に限るなら性能差はほぼ無いと言って過言じゃない。更に一発に限るなら構造も一気に簡素に出来る」

「なんでもありかよ」

「皇国じゃ聞かないが、治安の悪い国だと普通にギルド同士の抗争でこういった物が出てくるって話はある」

「マジかよ……」


 治安悪すぎねぇか。カイトの言葉にソラは呆れかえる。が、これにカイトは首を振る。


「そう言ってもな。地球でだって国やら大組織が絡む抗争だと戦車が出てくるし、そうなると普通に迫撃砲やらが出てくる事も珍しくない。日本じゃ報道されないだけだ」

「聞きたくねー……」

「あはは……ま、そんな感じで今回は国が絡む話プラス武器を製造している組織が絡むから、これらも出てくると思え」

「マジかぁ」


 そんなの相手したくねぇ。ソラはそう思いながらもやらねばならない以上諦めるしか無い。というわけで、カイトはとどめを刺す様に告げてやった。


「ラグナ連邦の時よりはマシだろ。それともお前、あの時みたく大型相手にしたいか?」

「それはマジ勘弁……でもそっか……大型出てくるって考えるよりはマシだよな……」


 大型魔導鎧なぞ出てくれば確実に致命的だ。いくらソラでも大型魔導鎧を生身で相手をした事はなかったし、したいとも思えない。なので彼としても大型魔導鎧が出てこないだけマシと考えたようだ。深くため息を吐きながらではあったものの、前向きに向き直る。そんな彼に、カイトもまた笑って頷いた。


「そういう事だな……精々遠くから狙撃される程度で、その威力にしたって一撃で飛空艇が落ちるだろう程度。しかもそこまで大威力じゃないだろう」

「なんで?」

「確実に殺すなら撃墜より直接殺すからだ」

「あ……」


 カイトに言われ、ソラもその意図を理解して目を見開く。


「そっか……単に撃墜しただと失敗すると障壁で防御されちまうのか」

「そ。上手くターゲットに直撃させられれば流石に、だろうが……飛空艇の爆発程度ならなんとかなるかもしれん。それでも魔導炉が暴走して爆発、なら殺せるだろうが……それも遅れれば逃げられる。遺体も見付からなければ生き延びられているかもわからない。絶対に殺す、という場合は飛翔機を狙い撃って退路を断って、その上で直接乗り込んでって殺すのが上策だ」



 おそらく今回もそうしてくるだろう。カイトはソラへとそう語る。というわけで、おおよそ今回相手が取ってくるだろう策を語った所でソラが問いかける。


「で……どこで仕掛けてくるんだ?」

「ぶっちゃけるとわからん。情報屋ギルドもそこらは掴めなかったみたいでな」

「マジで?」

「マジで」

「マジかよ……」


 まさかの情報屋が掴めていない。ソラはカイトの言葉に盛大にため息を吐いた。とはいえ、やらねばならない以上は仕方がない。そして何より、これをソラに全責任を負わせるのが得策ではないぐらいカイトもわかっている。


「まぁ、フォローはこっちで考えてるから、前に言った通りお前は狙撃が来た場合に即座に行動出来る様にしておけ。狙撃部隊と突入部隊はこちらでなんとかする」

「それ、寝てる暇ある?」

「ある……狙撃可能なポイントってのは意外と少ない。何より違法に置かないといけないからな。無論、オレ達も全部は守れんし見張れん。他国もあるからな……だから狙撃が無理な区間で休めば良い」

「そうなのか」

「ああ……それに関しては今急いで割り出している所だ。出発前には情報を提供するから、それを頼りに動いてくれ」

「あいよ」


 全部の区間を守らねばならないのではないなら、まだ活路はある。カイトの言葉にソラは僅かに安堵を浮かべて頷いた。そうして、その後はどの大砲ならどういう風に気を付けねばならないか等をカイトから簡単にレクチャーされる事になるのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

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