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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第98章 演習編

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第2793話 黄昏の森編 ――出迎え――

 ブロンザイトの葬儀の手配に対する謝礼としてラリマー王国の重鎮にしてブロンザイトの実弟であるクロサイトの訪問を受けていたカイト。

 そんな彼はクロサイトとの会談を終わらせ会食に向けて着替えようとしていたわけであるが、そこで殺し屋達が街に入っていると教えてくれたアルミナとの会話からエルーシャの元婚約者がカイトを狙うという話がなにかのカバーストーリーなのではと判断する。

 そうして今まで片手間仕事だったこの案件に対して正面から取り掛かる事にするのだが、その前に彼は会食に出ねばならなかった。というわけで、改めて着替えを終わらせた彼は一応の名目上ギルドホームに戻っていた。


「はぁ……」

「なにかお疲れですね」

「まぁ、なんだかんだ今日は忙しいからな。いや、今日もだが」

「あはは」


 カイトの言葉に桜が笑う。というわけで、少しの雑談を交わした後。カイトは時間も無いので手早く報告を受ける事にする。


「そうか……まぁ、そう何日も何日も立て続けに事件が起きて貰っても困る。何も無いならそれが一番だ」

「そうですね」


 どうやら今日は取り立ててなにか重大な事件が起きたという事はないらしい。桜の報告からカイトはそれを理解する。と、そんな彼女が思い出した様にそういえば、と口を開いた。


「あ、そういえば……ヴィクトルの営業の方が来られてました。最終的な見積書ができたので、と」

「ああ、もうできたのか。どれだ……?」


 本来こういう事は椿が全体的に整理整頓をしてくれているのであるが、今日ばかりは彼女にもクロサイトの件で公爵邸に詰めて貰っており、書類もそのまま置かれていた。というわけで乱雑に置かれていた書類置き場の中からカイトは飛空艇の見積書を発見する。


「んー……まぁ、割りと値引きしてくれたかな……ぐらいか」

「結局どんな物を選んだんですか?」

「拡張性の高い飛空艇だ……ここだけの話、オレとティナが選ぶとあーだこーだとダメ出しが増えちまってな」

「でしたねぇ」


 飛空艇の選定においてカイトとティナが色々と話し合っていた事は桜も聞いていたので知っている。そしてこれに関しては二人が飛空艇開発において第一人者に近い事を考えれば無理もないだろう、と上層部の面々は放置を決め込んでいたのであった。まぁ、なにか口出ししたらその瞬間技術的な話が入ってきたりするので面倒を避けて口を挟まなかったとも言える。


「ああ……で、最終的な話だがそれなら色々とオプションを組み込める様にするか、と判断した。ヴィクトルの飛空艇ならそのオプションをティナが作れるしな」

「……作れるんですか?」

「ヴィクトルの飛空艇の規格はあいつが規格したものだ。合わせる事は簡単だ。いや、逆か。ヴィクトルの規格があいつに合わせてるって感じだ」


 有り得そうだが可能なのだろうか。そんな様子を見せる桜に対して、カイトは見積書を見ながらそう告げる。というわけで、飛空艇は予定したものよりも基本性能が高く規模も大きいが、その分オプションが無い物になっていた。

 いや、正確には購入者に別売りのオプションを選んで貰う形の飛空艇なのだが、カイト達は飛空艇そのものの基本性能をワンランク上にしてオプションパーツを無しにしたのである。


「まぁ、そりゃ良い……取り敢えずこれで良いだろう。桜、飛空艇の購入に関して天桜との間で稟議を行いたい。手配を頼んで良いか?」

「わかりました……あ、そうだ。それなら研究所の予算案に関して第一期の分ができていますから、そっちも一緒にお願いして良いですか?」

「ああ……書類を用意しておいてくれ」

「わかりました」


 どうやら研究所の土台だけでなく、設備等の搬入もそれなりに目処が立っていたらしい。なので実際に動かすための予算編成を行っていたようだ。というわけで、カイトは会食までの僅かな時間で冒険部の業務で取り急ぎ終わらせておきたい物を確認していく事になるのだった。




 さてカイトが手早く事務処理を行っていた一方その頃。ソラはというとブロンザイトの娘であるマリンの出迎えで空港にやって来ていた。


「……会うのって前に伺った時以来か?」

「そんな所……かな」


 マリンの乗る飛空艇を待ちながら、ソラとトリンは前に会ったのは何時だっただろうかと思い出していた。流石にカイトは遠慮して同行しなかったのだが、二人は休暇を利用して――正確にはカイトが強引に取らせたのだが――マリンの所に向かわせていたのであった。


「そういや、お前。結局お師匠さんの手紙読んだ?」

「ああ、あれ……うん。僕の分は。君の方こそどうなの?」

「あ、読んだ読んだ」


 ソラの問いかけにトリンはそういえば、と前にあった時の事を思い出す。どうやらあの旅の最中に手紙をカイトに向けて送っていたのはソラだけではなかったらしい。ブロンザイトもまた手紙をカイトに向けて出しており、その中で二人に向けての手紙もあったようだ。というわけで、そんな事を思い出しながらソラが告げる。


「でさ……一個思ったんだけど」

「何?」

「もしかしてお師匠さん。二種類手紙用意してたんじゃないかなー、って……どう思う?」

「あー……用意してたんじゃないかな」


 ソラの問いかけに対して、トリンはおそらくそれが正解だろうと同意する。この二種類はカイトがトリンに彼自身の血筋の話をしたかどうかでパターン分けされていた、というのが二人の推測だ。


「そっち、どんな事が書いてたんだろうな」

「カイトさんには聞かなかったの?」

「いや、聞いたんだけど……あいつ曰く、さてどうだったかなって感じではぐらかされた」


 答えを言ってるようなもんだったけど。カイトの楽しげにうそぶく様子を思い出しながら、ソラは少しだけ笑う。まぁ、カイトとしては渡しても良かったが、折角彼らの師が二種類に分けて作られたのだから片方だけで良いだろうと考えたようだ。

 なお、後年になり少しの縁でそれは開封される事になるのだが、それは横に置いておく。というわけで、そんな今はなき師の思い出話を話しながら待つ事少し。マリンの乗る飛空艇が空港に到着する。


「あれ……っぽいかな」

「ん、そうだね。資料にある機種とも一致するし、時間も丁度だから……合ってる」

「おし……じゃあ、行くか」


 空港に飛空艇が到着したのなら、いつまでもこんな所で駄弁っているわけにもいかないか。ソラもトリンもそう考えて歩きだす。と、そんな所でトリンがまるで思い出話の続きとばかりに口を開く。


「……ソラ。周囲はどう?」

「……大丈夫っぽい。今のところ動きはない」


 当たり前であるが、二人とてクロサイトを狙う殺し屋達の事は忘れていない。もし彼らが会食に潜り込みたいなら参列者の中でも一番与し易いだろうマリンを狙うのは想像に難くなかった。一応マリンの家からここまではカイトの手勢が密かに護衛していたらしいのだが、警戒しないに越したことはなかった。


「動きは……か。やっぱり居る?」

「居る……ちょっと舐められてるっぽい」


 自分には気付かれないだろうと思っているのかもしれない。ソラはそう思いながらも、しかしこれがブラフである可能性を念頭に置く。というわけで、彼は改めて気を引き締める。


「一応、こっちで警戒はしておく」

「それでお願い……でももしかしたらこっちに注意喚起を促す護衛の人かもしれないから、その点も踏まえておいてね」

「あ……その可能性はあるかも……」


 こうやって敵意を感じさせれば、ソラは必然警戒を滲ませるだろう。となると必然として襲撃はし難くなる。更には敢えて敵意を滲ませればソラの警戒を促す事になり、それを疎む殺し屋が動く可能性もあった。警戒をするに越したことはないが、同時に警戒し過ぎない事も肝要だった。


「……今更だけど、ボディーガードの人達ってすごいんだな」

「どうしたの、急に」

「いや……だって警戒しながらも要人には普通にしてもらわないといけないんだろ? 時と場合によっちゃ今みたいに要人に狙われてます、って知らせずに動かないといけないだろうし……そういう時ってこうやって警戒してます、ってのも見せるわけにもいかないんだろうな、って……」

「あはは。そうだね」


 それが彼らの仕事と言えばそれまでなのかもしれないが。トリンもソラもそう思いながら、少しだけ笑い合う。まぁ、これは結果として肩の力を抜くきっかけになってはくれたらしい。先程より更に少しだけ気軽さが滲んだ様子でロビーにたどり着く。そうして待つ事更に少し。数人の従者を引き連れたマリンが空港に現れる。


「あら……」

「「お久しぶりです」」


 二人の姿を見るなり上品に顔を綻ばせたマリンに、ソラもトリンも頭を下げる。


「二人が出迎えてくださったの」

「前の時は出迎えて頂いたので……俺達でと」

「そう。ありがとう……カイトさんもお元気?」

「ええ」


 出迎えに対して感謝を述べたマリンに対して、ソラが笑って頷いた。結局カイトとマリンは葬儀の後別の財界の集まりで一度会った限りだったのだが、その後の種々の手続きやらブロンザイトの後始末やらで連絡だけは取り合っていたらしい。

 そこで彼が父に代わってトリンやソラのフォローをしてくれている事も理解したようで、気にしていたようだ。そしてカイトが先に二人に強引に休みを取らせ向かわせたのも、そこらの関係があった。


「今日彼は?」

「参加しますが……今はギルドの方で仕事を」

「そう。彼とも前に一度財界の集まりでお会いした限り。楽しみにしてるわ」

「はい」


 マリンの言葉にソラは再度頷いた。そうして、マリンと合流した二人は少しだけ雑談を交わすとそのまま馬車に乗って公爵邸へと向かう事にするのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

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