表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第98章 演習編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

2806/3942

第2786話 黄昏の森編 ――蹴った話――

 老紳士クラルテの墓参りから戻って再び何時もの日常に戻っていたカイト。そんな彼は時にソラから助言を求められ、時にエルーシャ達に泣きつかれとして忙しい日々を過ごしていた。

 その一環としてギルドマスターとしてギルド同盟の会合に参加していたカイトであったが、会合そのものは特段の問題もなく終了していた。


「ふぅ……やっぱ今日は殆ど何事もなく、って感じか」

「そりゃそうだろ、お前……今日話した内容で重要なのあったか?」

「お宅は小競り合いで話す事あったろ」

「んなの何時もの事じゃねぇか」


 あはははは。会合に参加したギルドマスター達――揉めた先のギルドマスターさえ笑っていた――が何を今更とばかりに大笑いする。実際、こんな話はいつもの事なので本当に何を今更で誰も議題になったとさえ考えていなかった。そしてこれはカイトにとっても何時もの事で、彼自身気にした様子は一切なかった。


「ま、そりゃそうか……じゃー、今日の所は解散で良いか?」

「良いだろ」

「あいよ」


 別に全員忙しいわけでもないが、同時に全員が何の理由もなく長々と駄弁られるほど仲良しというわけでもない。所詮は仕事の付き合い。揉めない程度に良好な関係は築きたいが、同時に同業他社でもある。

 馴れ合いになるほどの仲良し小好しも好まれなかった。というわけで、カイトの提案にギルドマスター達もこれで終わりで良いだろうと同意する。


「やれやれ……」

「はい、おつかれ」

「今回は議長役の誰かさんが居なかったんでね」


 座席の関係で真横に座っていたエルーシャから差し出された清涼飲料水に、カイトは若干の苦笑を混じえながらもそれを受け取る。今回、やはり何時もなら議長役を務めるランテリジャが不在だったのでカイトが議長役の代行みたいな形になってしまっていた。

 本来ならそれはエルーシャがやるべきなのだが、彼女の提言によりカイトが請け負う事になってしまったのだ。そしてこれに関しては彼の統率能力の高さは他のギルドマスター達も理解している――更に言うと彼以外に纏められる人物も居ない――ため、誰も異論はなかった。


「ごめんね……にしてもあいつ、大丈夫かなぁ……」

「ん? なにか気になる事でもあるのか?」

「ええ……実は実家から届いた書類の中に私の元婚約者の写真があったのよ。今更あいつが何しようが知らないけど……面倒無ければ良いんだけど」

「……」


 本当にね。カイトは数時間前にランテリジャから聞いた話を思い出しながら、内心で心底同意する。さりとてここでカイトが告げ口をすればそれはそれで面倒だ。何より彼女が動いたとて彼に降りかかる火の粉がそれで振り払われるとも限らない。現状は告げなくても良いだろう、と判断していた。というわけで、彼は表向き気にしていない風を装いながら告げた。


「まぁ、それで面倒があればエルにも話はしてるだろう。それとも物理的に再度蹴っ飛ばすつもりでもあるのか?」

「情けない事を言うのならまた蹴っ飛ばすわね」

「……そっすね」


 エルーシャの性格を考えれば否定するより肯定するわな。カイトは彼女の返答に素直に問いかけを間違えたと反省する。とはいえ、それはそれで少しだけ興味も湧いたようだ。話題を逸らす意味も含めて、問いかけてみた。


「どんな奴だったんだ? 情けない奴、ってのは前に話してて聞いたけど」

「んー……あいつの親って新興の一族なんだけど。まぁ、有り体に言えば成金野郎って感じ。かなり感じは悪い。お金はまぁ、持ってるみたいね。親が持ってるから当然なんだけど」

「ふーん……アコギな商売でもしてんのか?」


 お金は持っていて子供が感じ悪いというのだ。親の商売はどうなのだろうか、と気になったらしい。これに、エルーシャは少しだけ考えながら口を開く。


「んー……アコギっていうか抜け目ないっていうか……親の方の商売人としての腕は本物ね。パパが彼らは侮れん、って言ってるの聞いた事ある」

「本物ねぇ……でも息子は感じ悪い、と」

「そうねぇ……なんていうか、急にお金持っちゃって気が大きくなってるって感じ」

「なるほどね。家が金持ちになって周りが媚びを売る様になって調子に乗ってる、って感じか」

「それ。正しくそれ」


 完全に教育が上手く行ってないパターンだな。そんな状況を理解したカイトの様子にエルーシャは我が意を得たり、という顔で応ずる。


「まー、だから初対面から馴れ馴れしく人の体にベタベタと触れてくるわ、まるで俺の女って感じで話し出すわ……腹が立ったから股間蹴っ飛ばしてやったわ。一応、手加減はしてやったけど」

「してなかったら死んでるだろ」

「まぁね」


 楽しげに笑うカイトにエルーシャもまた楽しげに笑う。その当時からアイゼンの弟子だったエルーシャだ。実戦経験こそ乏しかっただろうが、その蹴りは鍛えていない一般人を軽く両断出来ただろう。


「でもそれだけで家出したのか? そんな相手なら親も割りと理解してくれると思うんだが」

「まぁ、パパ達はね。私の性格も知ってるし。ただ周りがねぇ……もう五月蝿いのなんのって。しまいには稽古にまで口出しする様になったから出てきたの」

「ふーん……」


 確かにエルーシャの実家は古くからある商人の一族だ。なので貴族みたく本家や分家という所もあり、彼女とランテリジャは本家筋に属していた。が、貴族の様に本家が一番強いというわけではなく、分家でも力を持つ所があり今回の縁談はそこが強力に推し進めていたらしい。


「まぁ、それはそれで良いや。他所様の揉め事に関わっても意味無いしな」

「そうね……まぁ、ほとぼりが冷めた頃に片付けでもするわ」

「あ、そのつもりはあるのね」


 てっきりもう家に任せて戻るつもりはないのだと思っていた。カイトは少しだけ驚いた様子でエルーシャを見る。そんな彼女はカイトの顔に少しだけ苦笑気味に笑っていた。


「まー、結婚するつもりはさらさら無いけど。もし馬鹿するなら潰しておく、ってだけよ。後は私の代わりに誰かを差し出そう、って腹ならって場合もあるけど」

「ん……それは確かに気掛かりといえば気掛かりか」

「そうなのよ……」

「……相手ってどこの誰なんだ?」


 おそらく自分は知っている相手なのだろう。カイトはここまで聞いたなら、と更に突っ込んで聞いてみる事にする。これに、エルーシャも隠すつもりはなかったのか普通に教えてくれた。


「ヴァディム商会って知ってる?」

「ああ……まさかヴァディム商会との縁談蹴ったのか!?」

「そうだけど?」


 なにか驚く必要がある? そんな風に言わんばかりにエルーシャは平然とした様子だった。そして同時に親は兎も角周囲が強力に婚約を推し進めたのも無理はなかった。が、同時に縁談を蹴ったというのも納得出来た。


「確かに相当やり手とは聞いていたが……だが確かに次男坊に関しては悪い噂は聞いてるなぁ」

「あ、お兄さん居るの?」

「知らんのね」


 そもそも結婚するつもりもなかったのだから当然かもしれないが。カイトはエルーシャの様子からそう思う。とはいえ、カイトも知っていたのはその長男ととある夜会で話した事があったからだ。年が近いのでそちらの方が良いだろうという判断だった。


「まぁ、お兄さんの方は中々の切れ者だ。次男の方は悪い意味で有名だが……兄の方は切れ者という意味で有名だ。確か……魔導学園の経済学部を首席で卒業してたんじゃなかったかな」

「それは……すごいわね」


 間違いなく切れ者だろう。エルーシャもマクダウェル領で生まれ育ったからか、魔導学園の経済学部を首席で卒業する凄さはわかっていたらしい。とはいえ、それ故にこそエルーシャは嘆かわしいと口にする。


「でも弟はあれ、と」

「いや、弟も決して地頭が悪いわけじゃないらしい。確か……ああ、そうだ。弟の方は政治学の方で優秀な成績を修めているとは聞いてる。あっちは首席じゃなかったが、飛び級してたんじゃなかったかな。ただ女癖の悪さはかなり噂になってたらしいなぁ。今年卒業とかじゃなかったっけか」


 ヴァディム商会の話をユリィから聞いた時、そんな事を話してたっけ。カイトは彼女との会話を思い出しながら件の次男坊の事を思い出す。


「それは知らないけど……兄弟揃って学力の面じゃ良いんだ」

「そうらしいな……ただそこらの女癖の面じゃ兄弟は正反対らしい。あ、思い出した」

「どしたの?」

「いや……気にしないでくれ」


 話しながらユリィとの会話を思い出していたカイトであったが、そこでふと出た会話を思い出してため息交じりに首を振る。あの当時はまさか関わりが出来るとも思っておらず気にしていなかったが、彼の近辺でその次男坊と個人的な付き合いがあった人物を思い出したのだ。というわけでそちらに関しては追々聞く事にして、今はエルーシャの方に専念する。


「まぁ、それはさておき。お兄さんの方は女性関連は一切聞かないな。同性愛者って話も聞かないし……」

「本当に正反対なのね」

「みたいだな……まぁ、ただ話を聞く限りだと兄弟仲は良いらしい」

「ふーん……というか貴方の方がよく知ってない?」

「そりゃ、これでも社交界に出てますし」


 なぜ縁談を蹴った自分より知っているのだろうか。そんな様子で問いかけたエルーシャにカイトが笑ってそう語る。まぁ、こればかりは組織の規模等との兼ね合いだろう。カイトの方が詳しくても無理はなかった。そうして、それからも暫くの間カイトはエルーシャから蹴った婚約者の情報を手に入れていく事になるのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ