第2776話 黄昏の森編 ――珍味――
セレスティアとエルーシャからの要請を受けて、マクスウェル美食家クラブからの依頼で四種類の魔物の狩猟に向かう事になったカイト。そんな彼らは森で<<桃色茸>>。草原で<<暴れ牛>>を狩猟すると、そこで一旦昼休憩に入って食事を食べていた。そんな今日の昼ごはんはカイトが作った<<暴れ牛>>の肉料理だった。
「というか……今更なんだけど」
「んぁ?」
「はい?」
「……料理人やっても良いんじゃない?」
あいも変わらず見事な腕前だ。エルーシャはカイトの料理に舌鼓を打ちながら、そんな事を口にする。なお、流石にカイトもそこまで凝った料理は作れないのでせいぜい薄く切った肉を皿に盛り付けたり、野菜と一緒に串焼き――簡単なバーベキューのつもりらしい――にしたりしている程度だ。が、それ以外にも色々と付け合わせはあるし、牛であれば希少部位と呼ばれる部位も切り分けて保存したりしていた。
「やだよ。好きでやってるわけじゃないんだし」
「「……」」
それにしては楽しそうだったが。器用な手付きで料理の下ごしらえをしていくカイトの背に二人はそう思うも、それならそれで良いかと突かない事にする。そうして串焼きを食べとして一通り食べ終えた所で、さっさと洗い物を済ませて食器を異空間に収納。再び出発する事となる。
「で、これからは……<<戦猪>>と」
「<<赤色狼>>……ですね」
「「はぁ……」」
思い出したくない。そんな様子でエルーシャとセレスティアが深い溜息を吐く。そんな二人の背をカイトは押し出した。
「はいはい。そう言ってもお仕事なんですから、頑張って探しましょう」
「はーい」
「はい……」
やりたくないなぁ、という様子を前面に出したエルーシャはトボトボと、それでもやらねばならぬと若干後ろ向きながらもセレスティアは歩きだす。それに続く形でカイトもまた再び歩き出して、残る二種の魔物を探す事になるのだった。
さてカイト達が再探索に乗り出しておよそ二時間。その頃に残る二種の片方。<<戦猪>>を発見するに至っていた。
「っと! 相変わらずこいつの突進力だけはランクCとは思えないわね!」
「真正面から受けておいて言う事じゃないと思いますが!」
<<戦猪>>は体長3メートルほどの超巨大な猪だ。と言っても勿論普通の猪ではなく吐く息は赤く輝いていたり、眼はどす黒い黄金色に輝いていたりと一目で魔物だとわかる異様さがあった。と、そうして<<戦猪>>の一体を真正面から食い止めたエルーシャであるがその胴体が大きく膨れ上がったのを見る。
「っ」
「あ、大丈夫!」
「あいよ」
大きく膨れ上がったのは灼熱の息を吐く兆候。それを知るカイトが支援に入ろうとしたわけであるが、正面に立つエルーシャはすぐに問題無い事を明言。彼はすぐに他の敵の牽制に入る。と、いうわけでカイトの支援を断ったエルーシャはというと、少し気合を入れて吹き出す炎を正面から受け止めた。
「火には、一家言あるのよ」
吹き出された炎であるが、それはエルーシャに届くや否や全てが吸収されていく。彼女の得意分野は確かに気なのだが、だからと言っても魔術が使えないわけでもないし、使わないわけではない。
そして火属性の魔術は元々得意分野だ。故にか彼女はすでに火属性の魔術ならある程度属性吸収を出来る様になっていたらしい。そうして<<戦猪>>の放つ炎を自らの魔力として吸収していくと、気と混ぜ合わせて更に強大な炎を纏う。
「はぁ!」
<<戦猪>>の放った炎の何十倍もの火力の炎を拳と共に放ち、その頭部を消し飛ばす。そうして更に炎を纏った蹴りで胴体を完全に焼き払うと、次の敵を目掛けて突進していった。
そして十分と少し。あっという間に3メートルもの巨大な<<戦猪>>の群れは壊滅。目的となる<<戦猪>>のメスを確保完了となっていた。
「よし……これで残るは<<赤色狼>>か。こいつは見付けやすくて良いな」
氷漬けにした<<戦猪>>を専用の保管容器――今回の依頼で必要なので依頼人に貰っていた――に収納すると、カイトは最後の一種である<<赤色狼>>を呼び出す手立ての準備を行っていく。
「<<赤色狼>>は鼻が良いから血の匂いに敏感だ……だったっけ?」
「そ……だからこうやって魔物の血を染み込ませた水を作って……」
この濃度を間違えると他の魔物まで寄ってきちまうから困るんだけどな。カイトは<<戦猪>>の血と大量の水を混ぜ合わせ、<<赤色狼>>等の非常に嗅覚の鋭い魔物なら察知出来る程度にまで薄めていく。そうして暫くすると、人の嗅覚では到底察せられないほどの薄さにまで薄められる。
「よし……後はこれをボロ布に染み込ませて……これで完成だ。後はこれを木の枝に括り付けて、更にこの木の枝に刻印を刻んで自分達に匂いが染み込まない様にして……」
「慣れてない? よくやるの?」
「流石によくはやらない。ただどうしても依頼で特定の魔物を呼び出す時とかには使う手法だから、時々やってはいる」
つってもその場合はオレ一人かユリィとのペアの時ぐらいだが。カイトは興味深い様子で自身の作業を見守っていたエルーシャの問いかけにそう内心で呟く。これそのものはあまり珍しい手法ではないのだが、やはり魔物を呼び寄せるという危険性から推奨はされていない。
どうしても多忙かつ戦闘力として大半の魔物なら問題にならないカイトだから取れる手法だった。そうして長い木の枝を地面に突き立て薄めた血を染み込ませたボロ布を旗の様にたなびかせて、暫く。かなり遠くで狼の遠吠えに似た鳴き声が響き渡る。
「……来たな」
狼の遠吠えに似た声は狼型の魔物が仲間を呼ぶ時のものだ。カイトはそれを察して、一つ気合を入れる。これがお目当ての<<赤色狼>>であるかはまだわからないが、この草原が生息域である事は間違いない。可能性は無いではなかった。そして遠吠えを受けて、エルーシャとセレスティアが一つ頷いた。
「カイト。残り一体まで減らすわ。残数だけは気を付けて」
「あいよ」
一体は最初にオス・メス見極めて早々に倒せる。というより、片方は興奮させてはならないという前提が入るので速攻を心掛ける必要もあった。が、狩猟方法を指定されている関係もあって、もう一体は可能な限り興奮状態にして、その状態で確保する必要があった。
そうして三人で身構えて待つこと、数分。かなり遠くの方にどちらかと言えばかなり黒に近い赤黒い体毛を持つ狼に似た魔物達が肉薄してくる。が、やはりこんな方法でやっていたのだ。それとは逆の方角からも、同じ様に青っぽい体毛で覆われた狼型の魔物の集団がやって来る。
「ちっ……どうやら<<青色狼>>の集団まで来ちまったみたいだな」
「どうします?」
「セレス。青の方を任せて良いか? こっちから遠距離支援する。速攻で片付けて……」
「「「これで問題無い?」」」
カイトの要請を受けたエルーシャであるが、気を用いた分身も当たり前の様に出来たらしい。何人ものエルーシャが同時にカイトに楽しげに問いかけていた。これに、カイトも笑う。
「上出来」
「「「じゃ、さっさとやっちゃうわね。これ、割りと体力と気力使うのよ」」」
やはり二種類の魔物と、しかも挟み撃ちとなる形で戦いたくはない。それが喩え自分達からすると雑魚だと言えようと、である。というわけで、若干予定とは異なるもののカイト達は<<赤色狼>>の狩猟を開始するのだった。
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