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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第98章 演習編

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第2774話 黄昏の森編 ――茸――

 老紳士クラルテの墓参りを終えてマクスウェルに帰還したカイト。そんな彼はいつもの通り書類仕事に精を出しながら、ギルドマスターとしての諸業務に取り掛かっていた。そんな中で訪れたのは、マクスウェル美食家クラブなる集団からの依頼を受けたものの依頼が一癖どころか三癖ぐらいあったため泣きついてきたエルーシャとセレスティアであった。

 というわけで二人の請け負った依頼内容と状況に同情したカイトは偶然予定が空いていた事もあり、二人に同行して四種類の魔物の討伐に赴く事になっていた。


「……ふぅ……結構奥まで来たが……二人共、マスクはしてるな?」

「大丈夫。迷惑掛けたくない」

「私も大丈夫です。元々効きにくいですし」

「まぁ……セレスはそうだろうなぁ……」

「そうなの?」


 実はなのであるが、セレスティアにはサキュバスの血が流れている。これは遠い祖先なのだが、血筋的に催淫作用に関しては強い耐性を有しているらしかった。といっても、これはカイトとセレスティアしか知らない話だ。なのでエルーシャが驚いていた。


「ええ……血筋としてそうらしいです」

「ふーん……まぁ、それなら大丈夫でしょう」

「……エル。そういえば……そんな肌を露出させて大丈夫ですか?」


 自分を心配してくれるのは嬉しいのだが、その前に当人が大丈夫なのだろうか。エルーシャは武道家として動きやすい服装をしていたため、色々と気になったらしい。これにエルーシャが笑う。


「ダイジョブダイジョブ。少し寒いぐらいなら気で新陳代謝を活性化させて暖まれるのよ」

「へー……あ、いえ。それだけではなくて。<<桃色茸(ピンク・マタンゴ)>>の胞子には強い催淫作用が。確か吸い込まなくても触れるだけでもある程度の効果を発揮したはずだったかと」

「……あ」


 どうやらそこは考えていなかったらしい。まぁ、そう言ってもどうにかならないわけではない。


「まぁ、胞子ぐらいなら最悪は風で吹き飛ばすわ」

「意気込んで息を吸い込んで逆に、なんてならないようにな」

「うぐっ……気を付けます」


 確かにそれはあり得るかも。自分の性格を理解しているエルーシャはカイトの指摘を受け、マスクをしていても完全に吸い込まないわけではない事を改めてしっかりと胸に刻みこむ。

 というわけで改めて装備をチェックして、再び行動を開始する。そうして森の奥へと進み続けること十数分。何度かの魔物との交戦――彼らには鎧袖一触だったが――を経て、少しだけ開けたジメジメとした場所にたどり着いた。


「……居た」


 先頭を歩いていたカイトが立ち止まり姿勢を低くして、更に小声で二人を制止。それを受けて二人もまた姿勢を低くして、木々の影に隠れる。


「おし。お目当ての<<桃色茸(ピンク・マタンゴ)>>に……ありゃ、<<黄色茸(イエロー・マタンゴ)>>か。更に……うわっ、<<緑茸(グリーン・マタンゴ)>>……マジかよ。マタンゴの群生地かよ」

「うわっ……軍か委託された冒険者、掃除サボってない?」


 基本的にマタンゴと呼ばれる魔物たちは冒険者でも平均層と言われるランクCや軍でもマクダウェル公爵軍なら狩れる程度の魔物だ。そしてこの森は全体的にそうと言える。

 なので近隣住民や偶然迷い込んでしまった者たちの安全のために定期的に掃除がされているし、するような大規模な依頼が出されている。それがこの状態という事は、直近の受諾者がサボって虚偽の報告をしていた可能性があった。無論、単に間が悪かっただけの可能性もある。というわけで、セレスティアがそれを指摘する。


「間が悪かった……というだけじゃないでしょうか?」

「そうかもだけど……それにしたってここまでの道中を考えても多くない? 十数分で交戦三回って交戦の痕跡掴まれても多いわよ? ここがあまり人が通らないからってサボってる方が可能性高いわよ」

「それは確かに……」

「かもなぁ……」


 ちょっと色々と一度調査をさせた方が良いのかもしれない。カイトは二人の会話を小耳に挟みながら、内心でそう思う。どれだけカイトが頑張って善政を敷こうと、こういった不正行為はある程度は存在してしまう。それに対処するのも彼の仕事だった。


「まぁ、良い。とりあえず潰そう。胞子に気を付けさせすりゃ、敵にはならん」


 それにここの仕事をサボったのは軍だろうからな。カイトは内心でそう断定すると、自身が当主としてケジメをつける事にする。それに二人を付き合わせるのは少し心苦しかったが、そこは割り切っていた。それはさておいても二人にとってもこの程度の相手ではあったので、特に気負いなく頷いた。


「りょーかい……初手どうする?」

「オレが速度で突っ込んで、風を巻き起こす。二人は一体ずつ確実に仕留めていってくれ」

「それが安牌……ですか」


 アル・アジフを左手に刀を腰に帯びるカイトに、セレスティアもそれが一番確実だと同意する。先に何度か言われているが、<<桃色茸(ピンク・マタンゴ)>>で一番怖いのは胞子だ。

 が、それはマタンゴ種と呼ばれる魔物全体に言えた事で、先に胞子を浴びないで良い様に対処するのがマタンゴ種の対応の基本だった。


「よし……それでも接近した瞬間とかはどうにも出来ないから、それは各々で対処してくれよ」

「巻き上げた胞子は私の方で焼き尽くすわ。幸い朝の訓練でカイトの気の流れが大体わかったから、風に気を乗せておいてくれればこっちでやるわ」

「簡単に言ってくれるな」

「出来るでしょう?」

「やりましょう、やれと言われりゃね」

『安請け合いをするな……』


 どこか挑発的に告げられる言葉に、カイトが牙を剥いて――アル・アジフの苦言は無視した――応ずる。魔術に気を乗せるのは簡単ではない。そもそも気と魔力が別物なのだから当然だ。

 それは気と魔力を重ね合わせる<<合気(あいき)>>の難しさを見れば明白だろう。それを更に発展させ、魔術に乗せるというのだ。難易度のほどなぞ何をか言わんやである。が、それ以上にカイトはある事に気付いて固まった。


「え? ちょっと待って。出来るの? 他人の魔術に気が乗った芸当に、更に自分の気を乗せるんだぞ?」

「出来るわ」

「……やっぱアイゼンの弟子か」


 最強の拳闘士の一角と言われるアイゼンの直弟子と言われるのだ。才覚なぞ考えるまでもなかっただろう。やはりエルーシャはまだ若く経験が乏しいだけで、彼以上の才能の持ち主だった。

 というわけで小さく悪態をついたカイトであったが、それを誰かに聞かれるよりも前にマタンゴ種の群れの中心へと高速で移動した。


「<<操風術(そうふうじゅつ)>>」


 カイトの口決と共に開けた場所全てを包む様に風が吹いて、カイトの刀の切っ先にまとわり付く。そうして場の風を全て掌握したのを見て、次にエルーシャが突っ込んだ。


「はぁああああああ!」


 裂帛の気合と共に拳に巨大な炎を宿して、今回の標的たる<<桃色茸(ピンク・マタンゴ)>>以外が一直線に並んだ場所に向けてそれを解き放つ。そうして生まれた道に、今度はセレスティアが切り込んだ。


「はぁ!」


 生じた道のど真ん中に舞い降りたセレスティアが円を描く様に大剣で一閃。周囲に残るマタンゴ種の群れを掃討する。そうしてそれぞれが最初の一手を打ったあたりで、マタンゴの群れもこちらを敵と認識。

 身を震わせて、様々な色の胞子――マタンゴ種の名前の色はこれが由来――を周囲へと撒き散らし、セレスティアとエルーシャに近い個体はまるで直接振り掛ける様に胞子を飛ばす。が、それらが二人へと届く事はない。


「ほいよ」


 軽い掛け声と共に、カイトが指揮棒の様に刀を上に振る。すると周囲を満たしていた大気が風に煽られ、舞い上がる。すると当然マタンゴ達が放った胞子も舞い上がり、はるか上空で渦巻いてどぎつい色の塊になった。それを見て、エルーシャがカイトの風に自らの気を送り込んだ。


「はいよっと!」


 エルーシャが送り込んだ気は烈火の炎となって、上空で塊となった胞子を焼き尽くす。そうしてパラパラと細かな灰――胞子と一緒に舞い上がった枯れ葉が燃えた――が舞い落ちる中、カイトが<<桃色茸(ピンク・マタンゴ)>>の一体に向けて切っ先を向ける。


「氷漬けに」

『ああ』


 アル・アジフの短い返答と共に、とてつもない冷気が吹きすさんで<<桃色茸(ピンク・マタンゴ)>>の一体が内側から生えてきた氷により氷漬けになる。コアを破壊すると共に、魔物が傷まない様に冷凍処理というわけであった。これにカイトは一つ頷いた。


「よし」

「じゃあ、後は」

「倒すだけですね」


 これで依頼の一体は狩猟完了。それを受けて三人は残る敵の討伐を進めていく事になるのだった。




 さてマタンゴの群れを討伐してから少し。カイトはというと氷漬けにした<<桃色茸(ピンク・マタンゴ)>>を見ながら、若干辟易していた。


「食べるのか、こいつを……」

「食べるらしいわね、こいつを……」

「……食べられるのでしょうか、これ……」


 一応、見た目は巨大な桃色の笠を持つ茸だ。が、その大きさは全長2メートルほどで、食べれたとしても大味ではとしかカイトは思わなかった。

 というわけで、そんな氷漬けにされた<<桃色茸(ピンク・マタンゴ)>>を見て、エルーシャは先に自分が茸であれば菌根の部分を殴り潰してそれなりに原型を留める<<桃色茸(ピンク・マタンゴ)>>を見る。


「……一体食べてみる?」

「やめとけ。茸は中たるとろくなことにならん。特に<<桃色茸(ピンク・マタンゴ)>>の胞子は催淫作用を持つ……それともオレと一発ヤりたい、ってんなら素直にそう言ってくれ。エルなら大歓迎だ」

「ごめん。言っただけ」


 かなりマジに呆れられた。エルーシャもカイトの様子からそれを察したようだ。まぁ、実際カイトは茸で痛い目に遭った、とは前々から言っているのだ。

 その彼が胞子が各種の毒を持つとして知られているマタンゴ種においそれと手を出すとは思えなかった。というわけで謝罪した彼女であったが、カイトの返答を今更理解したのか顔を唐突に真っ赤に染めた。


「……ふぇ!?」

「物の例えだ。本気にするな……本気でしたいならそれはそれで拒まねぇけどな」

「うぅ……」

「あはは」


 顔を真っ赤に染めるエルーシャとそれに楽しげに笑って若干おちょくるような姿勢を見せるカイトに、セレスティアが楽しげに笑う。そうして、三人は小休止を挟んだ後に次の魔物を探して森を後にするのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

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