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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第98章 演習編

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第2773話 黄昏の森編 ――腕利き――

 かつて貴族となった頃に世話になった老紳士クラルテの遺言を受けてその墓参りへと赴いていたカイト。そんな彼は墓参りを終えてマクスウェルに戻ってくると、休む間もなくいつもの書類仕事に戻っていた。

 というわけで様々な書類仕事を終わらせ更にはその最中に舞い込む相談事やトラブルに対応していたわけであるが、その中でもとびきりのトラブルとして舞い込んだのがエルーシャとセレスティアが受けた魔物のとある素材を回収するという依頼であった。

 それを受ける事になってしまった二人に同情した彼は同行を決定。セレスティアの保護者であるイミナの許可を取り付け彼女を案内すると、ようやく執務室に戻れていた。


「はぁ……そういうわけだから明日は朝から一日出るわ……」

「お、お疲れ様です……」

「はぁ……さっきエルに言われて予定再確認しておいてよかった……」


 依頼内容は詳細を語らなかったものの、非常に疲れた様子でため息混じりで愚痴っぽく言っていたカイトに桜もなにか面倒事が舞い込んだのだと察したらしい。ただお疲れ様と言うしか出来ていなかった。

 その一方、カイトの方は偶然明日は夜まで予定が無い――厳密に言えば書類仕事等をして欲しいのだろうが――事を確認していた事に安心という塩梅であった。そんな彼を見て、瞬が問いかける。


「ふむ……何か手が必要なら俺も同行しようか? 少し外で運動したかったから、金は要らんぞ?」

「いや、良い……そういった面倒さとはまた別の面倒さがあってな。知らない方が良い依頼だ。オレだって知りたかぁなかった」

「そ、そうか……」


 半ばというかかなりやけっぱちな様子のカイトに、これは語らないのが彼なりの優しさだったのだろうと瞬も察したようだ。これ以上突っ込まないことを決める。そんな彼を横目に、カイトはため息混じりにメモを片手に『地母儀典(キュベレイ)』と向き合うソラへと告げた。


「ソラ……まぁ、今のお前が外に出る余裕は無いだろうが、明日一日は頼む」

「おーう……なんで漢字あるんだ、エネフィアの魔導書に……いや、こっち英文字か……? これ……アラビア文字とかに似てる……うえぇ?」

「聞いてるか?」

「え? あ、おう。明日留守にするな。聞いてた聞いてた」

「それなら良いが」


 やはり今のソラの業務は『地母儀典(キュベレイ)』の解読だ。なので暫くはギルドホームで内勤予定で、最低でもクロサイトと会うまではこれに集中したい、との事であった。

 どうやらクロサイトにも聞かれるだろう事を想定し、最低限表層を引っ掻いたぐらいの解析は出来ておきたいらしかった。ブロンザイトの弟子としての見栄という所だろう。


「あー……ソラ。真面目にメモを取っている所悪いんだが、魔導書の解読って馬鹿正直な解読じゃないからな?」

「……え?」

「もう一度最初のページ開いてみろ。それでわかる」

「……はぁ!? 書いてる内容全然違うじゃん!?」


 カイトに言われるがままに今まで読んでいたページに栞を挟んで最初のページを開いたソラであるが、先程必死で読んでいた内容と全く違う言語で記載されていた事に思わず声を荒げる。


「それが魔導書だ……特に意思を持つ魔導書はそうやって挑戦者をおちょくって真面目な解読をさせない様にしてくる。それを躱した上で、中の記載を解読する。それが魔導書の解読」

「うあぁ……ティナちゃんの所行ってくる……」

「素直にそうしておけ。今日はオレが居るから問題無いしな」


 流石に最初から頼り切りなのも格好悪いか。そう考えたらしいソラであったが、やはり最低限の知識ぐらいは無いと厳しいとわからせられたようだ。

 がっくり項垂れながら、のそのそと立ち上がって執務室を後にしていく。そうしてカイトはとぼとぼと歩くソラの背を見送って、明日に備えて急ぎで仕事を回してもらうのだった。




 さてカイトがエルーシャとセレスティアから依頼を受けて翌日の朝。当然だが彼らは冒険者かつ武芸者でもあるので、依頼に出るにせよ朝の稽古だけは欠かさなかった。

 というわけで各々が一通りの稽古を終わらせた所で、一度集まって稽古をしていた。これから三人で出向くので、改めて各々の様子を見ておこう、という判断だった。


「はー……」

「こぉー……」


 カイトとエルーシャの二人が独特な呼吸法を用いて、体内の気を凝縮。両手のひらの間に収束させる。そうして二人は横に並んでお互いの手が丁度交差する様にして、手を後ろに引いた。


「「はっ!」」


 二人同時に裂帛の気合と共に、手を前に突き出す動作と共に練り合わせた二人分の気を解き放つ。そうして組み合わされた二人の気は一つに収束。強大な輝きを纏って、修練場の壁に激突して巨大な爆発を興した。


「ふぅ……これやりたい、って言われた時は大丈夫かなって思ったけど」

「まー、オレもなんとかなるもんだろ?」

「いや、私の方よ? 久しぶりだから出来るか不安だったのよ」


 そもそもカイトがエルーシャに冒険部のギルドホームでの宿泊を勧めたのは自身が気の訓練をしたいから、という理由だ。なのでエルーシャの方も快諾。高度に気を使う者同士が集まった時にしか出来ない訓練をしていたのであった。というわけで、セレスティアが今の一幕について問いかける。


「今のは?」

「ああ、今のは<<(かさね)>>。気を使う者同士が気を一つにする事で強大な力にする方法だな。そこから繰り出される攻撃も全て<<(かさね)>>と言われる」

「私もやったの本当に久しぶりだわ。師匠に教えてもらった時以来かも」


 今更言うまでもないが、エルーシャが率いるギルドではエルーシャが最強の武道家にして気の使い手だ。なので彼女と同程度の気の使い手はギルド内にはおらず、彼女もまたカイトと同じ悩みを抱えていたのであった。


「そうか……<<襲・操(かさね・あやつり)>>とかも出来るか?」

「出来るけど……それを異性に持ち掛けるって正気?」

「……え、いや……別に操られる側なら問題無いかなって。最悪は離脱も出来るし、その練習もしたいし」

「うっ……それは私もやっときたい……でも……うぅ……」


 流石に男に頼むのは。エルーシャは気にしていない様子のカイトに対して、非常に悩ましげな様子だった。そんな彼女を横目に、セレスティアがカイトに小声で問いかける。


「<<襲・操(かさね・あやつり)>>?」

「ああ……早い話がマリオネットか二人羽織。一人に気の力を集中させて戦闘力を増大させよう、っていう技術だ……まぁ、デメリットとしてどうしても支援を受ける者は支援者の操り人形みたくなっちまうってのがあってな。そこらを上手く連携するのが、この<<襲・操(かさね・あやつり)>>の肝なんだ」

「なるほど……」


 それでエルーシャは悩んでいるのか。言ってしまえば異性の言いなりになってしまうようなもので、悪用されると堪ったものではない。無論それに対抗する手段として<<襲・解(かさね・ほどき)>>という芸当もあるのだが、カイトはそれの練習もしたかったらしい。そうしてそんな話をしている間に、エルーシャが結論を下したようだ。


「んぁー……良し。やろう」

「あいよ。じゃあ、奏者側頼んだ」

「ええ……あ、一応後で私にも頼むけど、変なことしないでよ」

「して欲しいならするが?」

「その時は全力で解きに掛かるから」

「楽しみにしてる」


 少しだけ冗談めかしたカイトであるが、そんな彼の背にエルーシャが手を当てて気を譲渡する要領でカイトの総身に気を纏わせる。それにカイトの側も自らの気を伸ばして、エルーシャの気と自身の気を混ぜ合わせた。


「良し……じゃあ、頼む」

「ええ」


 エルーシャは伸ばした自らの気と混ざり合うカイトの気から彼の望みを理解し、カイトの方は自らを包み込むエルーシャの気の流れから彼女のさせようとしている動きを理解する。

 これが<<襲・操(かさね・あやつり)>>の基礎だった。逆に<<襲・解(かさね・ほどき)>>はこの重なった気を解いて操られるのを解く行為というわけである。そうして、この後は二人で普段は出来ない訓練を暫く繰り広げ、それが終わった頃に軽い朝食を食べて用意を整えて出発となるのだった。




 さてカイト達が朝の稽古を終えてからおよそ二時間。彼らが朝の稽古を始めたのが6時なので、朝8時という所だ。軽くシャワーで汗を流して軽い朝食を食べて、としていると出発には丁度良い時間になったようだ。


「おし……じゃあ、とりあえず北北西に向かって森に入って、か」

「ええ……そこで<<桃色茸(ピンク・マタンゴ)>>を討伐ね。これは一体」

「てーか、今更だけど美食家クラブの奴ら……こんなの食って大丈夫なのか?」


 今回採取して来る様に言われた魔物の部位は全て、精力剤や不妊治療で用いられる部位だ。昨日は話に出なかった<<桃色茸(ピンク・マタンゴ)>>についても胞子が強い催淫作用を持っており、総じて夜の生活で活躍する食材ばかりであった。というわけで少しだけ危機感をにじませるカイトに、セレスティアが彼らの事情を教えてくれた。


「ある大人向け雑誌の特集で……その、夜の生活を充実させる食事の特集が組まれるそうです。これはその第一弾になるそうで……」

「……さいですか」


 それはさぞ充実した生活になるでしょうな。カイトはセレスティアの言葉に肩を落とす。確かに彼も為政者なので領民達がたくさん子供を生んでくれるのは重要だが、それでもここまで生々しい話は御免被りたい所であった。と、そんな彼ははたと気づく。


「……第一弾?」

「……第二段の時もよろしく」

「じょ、冗談ですよ? 流石にまだ次の食材等も決まってないそうですので……」


 凍りついたカイトに対して少しだけいたずらっ子な心情が芽生えたのかそうのたまったエルーシャに対して、セレスティアが次は請け負っていないと口にする。これに、カイトはエルーシャを睨みつけた。


「おい」

「あはは。ま、行きましょう」

「あはは」

「はいはい……」


 エルーシャの促しにカイトは呆れながらも、時間は有限なので諦める事にしたようだ。というわけで女の子二人は楽しげに。カイトは肩を落として呆れながら旅はスタートするのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

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