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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第98章 演習編

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第2769話 黄昏の森編 ――忙しい日々――

 老紳士クラルテの墓参りを終えてマクスウェルに帰ってきたカイト。そんな彼を待っていたのは、いつも通りの書類仕事だった。というわけで書類仕事を受ける中でソラから『地母儀典(キュベレイ)』に関する相談を受けて彼の勘違いを正してと忙しなく動いていたわけであるが、今度は瑞樹から相談を受ける事になっていた。

 まぁ、相談と言っても別になんてことはなく、単に今まで練習を重ねていた飛空術の最終的なチェックの依頼だ。というわけで、彼は瑞樹と共に飛空術でマクスウェル上空に浮かんでいた。


「よっと……うん。もうそこまで飛べれば十分だろう。飛竜に乗る竜騎士において一番怖いのは、高空からの落下事故だからな。まぁ、流石にもう落下したぐらいで死にはしないだろうが……」

「それでも、落ちるのは怖いものですわよ?」

「あはは。ご尤もで」


 身動きの取れない落下と飛翔による着地というのはやはり話が違う。カイト自身、落下するのはあり得なかろうと怖い様子ではあった。いや、誰だってそうだろうが。


「とはいえ、だ。落下している間に身動きが殆ど取れないのは正直竜騎士としてかなり不利だ。自由落下しか出来ない、という事は取れる手が限られるからな」

「ええ……随分と長く掛かってしまいましたが。ここまでできれば十分……なのでしょうか」

「十分十分。アル達に比べれば遅れている様に思えるが、そもそも瑞樹はゼロからのスタートだ。数ヶ月の遅れで追いつけている分、十分過ぎる」


 なにかを気にしている様子の瑞樹の様子からおおよそを察して、カイトはこの程度の遅れは遅れと言えない事を口にする。というわけで、彼女に慰めを送ったカイトは気を取り直す。


「まぁ、それはともかく。兎にも角にもこれで飛空術を使って自由に飛んで良いだろう」

「そうですか……とはいえ、後は他の竜騎士達に関してですわね」

「そうだな……そっちに関しても追々飛空術は習得して貰わないと危険だからな」」


 いつもの事であるが、冒険部のやり方はトップが習得してそれを上意下達の様に伝えていくやり方だ。なので瑞樹が完全習得出来た後は彼女が竜騎士部隊の各部隊長達に伝達。そこから更に各員に伝えていく事になっていた。

 と言っても流石に竜騎士にとって飛空術は死活問題。部隊長達に関してもカイトとティナ――魔術の事なので――が面倒を見ており、瑞樹と平行して教示は行っていた。なので後は細やかな点と合格ラインを彼女に預けて、カイトの仕事は完了だった。


「あ、そうだ……そういえばカイトさん」

「んぁ?」

「一応飛空術は重力型と放出型の複合型で対応しているのですが、今後は概念型の習得も目指した方が良いのでしょうか」

「あー……」


 瑞樹の問いかけにカイトはどうしたものか、と少し悩む。瑞樹の言う放出系というのはロケット型の事だ。この言い方は人によって異なるため、瑞樹は放出型と呼んでいた。

 そして複合型というのは複数の飛空術を併用する形式の事で、特に瑞樹の様に魔術も使える小器用な戦士が速度を求めたい時にロケット型。繊細な動きを求めたい時に重力型を使用するという事をしていたのである。まぁ、概念型を習得すれば良いだけなのだが、それが出来ないがための代替案だった。


「いや、それは自由で良いよ。複合型で対応出来るのならそれはそれで良い。が、概念型で飛翔出来る様になるならそれに越したことはないからな」

「そうですか……ああ、ありがとうございます。ひとまずこれでレイアと共に、という事もできそうですわね」

「自分で飛んでレイアを拗ねさせない様にな」

「気を付けます」


 カイトの言葉に瑞樹が笑って頷いた。そうして流石に冬も近くなってきた事もありあまり長々と上で飛んでいるのも、とギルドホームに戻る事にする。と、戻ったカイトに椿が頭を下げる。


「御主人様」

「ふぅ……ん? なにかあったか?」

「はい……こちらの資料を。ユスティーナ様から急ぎで、と」

「わかった」


 自席に座るなり提出された報告書を受け取って、カイトはそれを一読する。こういった場合、持ってこられるのは大抵がマクダウェル公カイトとしての裁可を求める物が大半だ。そして今回もまたそうだった。


(ふむ……先の合同軍事演習で見えた問題点に対する提言か。兵士各個人の戦闘力の強化に定期的な使用が可能かつ低負荷で使用可能な高負荷ルームの作成を、と……低負荷で高負荷って意味わからんが……言い方はそれしかないか……)


 確かにそれは急いで配備するべきかもしれない。カイトはティナより出された提案書を読みながら、彼女の言葉に同意する。というわけで資料を読みながら、彼は気になる事があって通信機を起動した。


「ティナ。少し大丈夫か?」

『うむ……報告書か?』

「ああ……提言は読んだ。これについて、ウチでの配備状況と成果についての資料はあるか? 一読する限り、どこにもなかったんだが……」

『配備状況なら最後のページに添付しておったはずじゃ。じゃが、成果に関しては残念ながら去年との比較が可能な物が無い。当たり前の話じゃがのう。半年前とで良ければあるが』

「ふむ……ああ、これか……うーん……となると何時ものパターンで成果を上げさせつつ、になりそうか」


 やはり各貴族にも普及させようとするのであれば、最低でも前年との対比が必要だ。より可能であれば更に数年分のデータの蓄積があれば良いのだが、今回はそれも言ってはいられない状況ではあった。


『うむ。そのパターンでやれば五公爵と二大公は対応出来よう。となると必然、そこに連なる分家も対応せねばならん。まぁ、ここは本家が面倒を見るやり方が徹底されておるので費用面に問題も無かろうな』

「か……まぁ、他の諸侯らも長い目で見れば無駄にならんから配備は進めた方が良いんだろうが……どこまで乗ってくれるか……いや、ちょっと待てよ……?」


 ティナと話している間に、カイトはなにかを思い出したらしい。そういえば、とこめかみの辺りを何度か叩いて記憶を呼び起こす。


「ああ、思い出した。配備そのものは推進できそうだ」

『む?』

「いや、陛下もネックレスで訓練してるだろ? その線で進めれば上手くいきそうかもな」

『む……そういやそうじゃったのう。うっかり忘れておったわ』


 実はなのであるが、現在皇帝レオンハルトが使っているネックレスはティナが特注で拵えたものだ。無論調整も彼に合わせて行っているもので、そもそも彼の要望を受けて拵えた物でもある。彼自身が効果を実証している事を言えば、それが喩え一例に過ぎなかったとしても無視は出来なかった。


「良し。その線で陛下に提言しておこう。で、一応聞いておくけど高負荷ルームと言っても別にオレ達がやったりウチでやらせたりする領域じゃないよな?」

『流石にそこまでは考えとりゃせん。単に今の形式だと増加量は大きいが、負担も大きい。今回の提言ではローコストローリターンの物じゃ。基礎的な能力向上の一環と言っても良いじゃろうて』

「それなら結構」


 先に各国の大使や軍高官達がカイトがあのネックレスを使って訓練をしている事を知った時、あまりのあり得なさに仰天していた。あれはこの訓練を行う上で明確な効果を得ようとするとどうしても過剰な負荷を掛けねばならないからで、さりとて負荷を下げると効果は得られない可能性の方が高く、どうしても費用対効果が悪いのだ。


『まぁ、本来ローコストローリターンの物ができれば良いんじゃろうが……データの蓄積がどうにものう』

「まぁ、これは今回ばかりはウチのデータが役に立ったか」


 ウチのデータ。それはマクダウェル公爵家ではなく、冒険部のデータだ。この訓練は冒険部では比較的常用されており、当然そうなればティナがデータを蓄積している。

 そして冒険部の所属はすでに数百人に到達している。それらすべてがこの訓練をしているわけではないが、最低でも未訓練の少年少女ら百数十人分のデータは確保出来ていたのだ。取っ掛かりとしては十分だった。


『うむ……ま、そういうわけじゃから上手く活用せねばのう』

「か……わかった。陛下にはオレから提案しておく」

『うむ、頼む。こちらはクラウディアに伝え、どうするか判断する様に言っておこう』

「あいつはやるだろ。自分が使って有益性を誰より理解してるし、魔王城にもあるからな」


 ティナの発言にカイトは一つ笑う。というわけで、公爵としての仕事を片付けた彼は改めてギルドマスターとしての仕事に戻ろうとして、通信機の着信音が鳴り響いた。


「はぁ……次は何だ……?」


 まぁ、本来はこうやってトップが忙しいのは有り難い事なのだろう。だろうが、流石にカイトも本来の書類仕事に戻れない事には若干辟易していたようだ。が、やらねばならないのだから、と自らに活を入れて通信に応ずる。


『カイトか? 今大丈夫か?』

「ああ、先輩か……何かあったか? 朝一番で依頼に出ていたと思っていたんだが」

『ああ。今丁度依頼を終えて戻ってきたんだが。そこでエルーシャと会ってな』

「エルと?」

『ああ。マクスウェルからの依頼が向こうで出ていたみたいでな。別の依頼でこっちに来ていた彼女が折衝しておきたい、という事だそうだ』

「わかった。そういうことなら案内しておいてくれ。オレもすぐに向かう」


 元々ギルド同盟とはこういった本来は他ギルドの縄張りの依頼を受ける時に生ずる軋轢を回避するためのものだ。そもそもの根がユリィとのペアの冒険者――その上に根無し草――であるカイトはそういった縄張りを気にしないが、気にする者が居る以上交渉は必要だった。というわけで、カイトは今日も今日とてギルドマスターとしての仕事に勤しむ事になるのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

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