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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第98章 演習編

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第2766話 燃える地 ――遺産――

 かつて世話になった老紳士クラルテの墓参りと彼の故郷へと遺品であるネックレスを奉納する事になっていたカイト。彼はイリアとユーディトを伴ってクラルテの故郷を訪れ、遺言通りにネックレスを慰霊碑に奉納。更に慰霊碑に花を添えて、墓参りを終えていた。

 が、そんな墓参りをしている間にクラルテの故郷の周囲の気候が悪化。炎の柱が村の周辺を取り囲み、更に勢いを増していた。というわけで、流石にこれでは帰れないと落ち着くまで村の公共施設だった施設に立ち止まった三人は暫くの会話を繰り広げていた。そうして、他愛もない話を始めて二時間ほど。カイトは外を見て苦笑した。


「……流石に今日は無理ですか」

「まさかこんな現象まで起きるなんて……」

「前はこうならなかったのか?」


 村を完全に包み込んだ炎のドームを見ながら、カイトは驚いた様子のイリアへと問いかける。これに、イリアははっきりと頷いた。


「ええ……前は炎の柱がバラの様に咲くのは見たけれど。それ以上に大きいのは見た事無いわね」

「え、なにそれ。ちょっと見たい」

「おもしろかぁないわよ。対応大変だったんだから」


 見たことのない自然現象に少しだけ目を輝かせるカイトに、イリアがしかめっ面でため息を吐いた。


「そうか……まぁ、オレは対応楽なんですけどね」

「契約者ってのは本当に……」


 常識はずれだ。イリアはカイトの返答に再度ため息を吐く。普通なら危険だから防御を固めるなり退避するなりしなければならないような天変地異でも、契約者もといカイトにとっては派手な自然現象だ。

 しかも彼の場合、祝福を受けているので属性魔力は全吸収。回復にしかならないのである。呆れるのも無理はなかった。とはいえ、カイトもまた少し冗談で言っていたようだ。イリアの様子に笑っていた。と、そんな彼がとある疑問を呈する。


「あはは……だが、本当にこれはすごいな。なんでこの中は大丈夫なんだろう」

「ああ、それは魔力の流れの関係で谷には火以外の属性が吹き溜まる様になってるみたいなのよ。火で満たされるから、と言ってもその他の属性が消滅するわけではないもの。どちらかというと火属性の魔素に追いやられて、結果として火属性で満たされるみたいな感じかしらね」


 これに関しては学術的な研究結果が出ていたようだ。カイトの疑問に対してイリアはこの村での生活が可能だった理由を口にする。


「といっても勿論、端のあたりは漏れ出る可能性があるからある程度の余裕は設けているでしょうけれど」

「なるほどね……ただそれでも火属性の魔素は流れ込むし、熱気はそれとは関係無い。必然、この村は暑いというわけか」

「そういうことね」


 カイトの言葉にイリアは一つ頷いた。というわけで一通りの雑談を繰り広げた後。少しだけ離れていたユーディトが口を開いた。


「お二人共。客室の確認が終わりました。部屋そのものは使えそうでした」

「部屋そのものは、ですか」

「ええ……さりとて使いたくはないでしょう?」

「まぁ、それはね」


 ユーディトの問いかけにカイトは笑いながら同意する様に頷いた。三百年以上も前に放棄された客室だ。部屋が無事だった事が驚きで、シーツ等は使えるとは思わないしそのまま使いたくもない。とはいえ、ここらはわかっていたので準備もしっかりとしていた。


「ま、それなら明日の朝一番で帰る事にして今日はもうのんびりしますか」

「は……では、カイト様、イリア様。お部屋へご案内致します。そこで一休みと参りましょう」

「そうですね……一応先に聞いておきますが、まさか三人で一部屋を予定しております、なんて言わないですよね?」

「……ちっ」

「「ちょっとぉ!?」」


 バレてたか。明らかにメイドがして良い反応ではない舌打ちが響いて、カイトとイリアが声を荒げる。が、これにユーディトは一転して平然とした顔をする。


「冗談です」

「ユーディトさんの場合本気か冗談かわからないですよ……」


 本当に冗談でやっていた可能性もあるし、本気で残念がっている可能性もある。勿論、両方を併せ持っている可能性も十分にあり得た。とはいえ、それ故にこそカイトもイリアも気を抜けた。

 というわけで、二人は少しの間公爵という立場を離れてゆっくりと休息を取って、翌日の朝一番に火のドームが収束したのを確認し、帰路につくのだった。




 さて翌朝には火のドームの収束を確認し、クラルテの故郷を離れたカイト達。そんな三人であるが、飛空艇までたどり着いてイリアをリデル公爵邸に送り届けるかと思えばそうではなかった。

 それはなぜか。言うまでもなくヘルメス翁の独立部隊の軍旗を持っていく必要があったからだ。というわけで、更に時間は流れ一日。流石にリデル領から皇都までは一日掛かってしまったらしく、朝一番の到着だった。


「ふぅ……」


 フロイライン邸の自室に入って、カイトは一息吐く。ここ暫く何度となく泊まっていたので、割りと自分の部屋感が戻ってきていたようだ。何時もよりかなりくつろいだ様子があった。と、そんな彼の所にユーディトがやって来た。


「カイト様。ハイゼンベルグ公が参られました」

「爺が? 早いな」

「待ちきれなかった、という風では無いご様子。どうされますか?」

「会いますよ。あの爺が戦友の軍旗を見に朝一番に来るわけがないでしょうし、一番はアウラに譲るでしょうからね」


 流石にアウラにせよクズハにせよ、仕事がある。なのでこちらに来るのは夕方以降になる予定だ。今の時点でハイゼンベルグ公が来たということは、なにかがあったと見て間違いなさそうだった。というわけで、カイトは一度だけ気合を入れ直して立ち上がってハイゼンベルグ公が待つ応接室へと向かう。


「おはよう、カイト」

「ああ、おはようございます……で、どうしたんだ? まさか仲間の遺品をいの一番に見たいから来たってわけでもなかろうに。届いちゃいるが開封はせんぞ?」

「そうじゃのう……あれについては儂も夜を心待ちにしておる。戻っては、こなかったからのう」


 最後に見たのはアウラの両親が出兵するのを見送った時以来か。ハイゼンベルグ公ジェイクは少しだけ悲しげな様子で頷いた。喩え誰も戻らなくても、旗が三百年の月日を超えて戻ってきたのだ。それだけは素直に救いだった。とはいえ、そんな古強者の哀愁を話したいが故に忙しいハイゼンベルグ公ジェイクが時間を割いたわけではない。故に彼も気を取り直す。


「が……無論そんな事を話したくて来たわけではない。移動要塞の件じゃ」

「あれか……どうだった?」

「まず当然の話であるが、皇国が保管する残骸に関しては変わらず封印が働いておった。これに関しては五公爵二大公、更には皇室が保管する分を含め問題無い事が追って陛下より発表されよう」


 移動要塞は三百年前の戦争時代に猛威を振るった移動要塞だ。あれはカイト達によってすべて破壊されているわけであるが、流石に巨大過ぎて原型を留めているような物もあった。それらは解体され各国――一国だけにしなかったのは万が一盗まれても大丈夫な様にするため――で管理する事になっていたのだ。

 これを盗られるのはかつての悲劇の再演となるため、各国の封印措置等に問題が無いかを大陸間同盟軍が組織した調査委員会が調査を行っていたのである。それで皇国については一切問題無しという調査結果を出せそうだ、という話だった。


「まー、ウチの場合は空母型完成したから不要ってのがデカいか」

「まぁのう。空母型はある意味ではかつての移動要塞なんぞより遥かに性能が良い。各国共に皇国はやらないだろう、と目しておったようじゃ」

「単体の戦闘能力は劣るが……機動力の側面だと移動要塞の比較にならん領域だからな」

「そうじゃな。移動要塞の堅牢かつ強大な砲門も厄介ではあったが……あれには何より機動力がなかった」


 先にイリアも言っていたが、空母型の飛空艇を移動要塞と重ねて顔をしかめた国はあるらしい。が、逆にそれ故にこそあれがある皇国が移動要塞の建造等をやる必要は無いだろう、というのが各国の見立てだった。そして勿論、皇国はカイト達も居るので移動要塞を作る必要は無いな、とある程度の解析だけで再建造を行おうとする勢力は皆無だった。


「で、諸外国の話じゃが……若干面倒は避けられまい」

「ということは……」

「うむ。幾つかの国で紛失が確認された。随分と昔に失われておった様子じゃ。中には国王さえ失われておった事を知らぬというずさんな対応もあったそうじゃぞ」

「ちっ……面倒だな」


 表舞台から姿を消して歴史の裏で<<死魔将(しましょう)>>達が暗躍を続けていたのは今更の話だ。もし移動要塞の部品が彼らの手によって奪還されていたのなら、移動要塞を再造されていても不思議はなかった。というわけで、ハイゼンベルグ公ジェイクはカイトに問いかける。


「カイト……今移動要塞を正面から攻めて、お主突破出来るか?」

「やれと言われりゃやりましょうや……それ相応の被害は見積もって貰うけどな。今度は超高空からの一発は狙えないだろう」

「やはりそうなるか……」


 前に移動要塞をカイトが攻略した際、やはりその弱点として目されたのは対空火力の低さだ。無論そもそも飛空艇なぞ無い時代。対空攻撃なぞ考えなくても良かったが、今の時代は違う。

 飛空艇は普及し、カイトが超高空からの一撃を使っているので対応はされていると考えて良いだろう。ならば別の弱点を見つけ出すか、それが出来なければ正面から突破しか手はなかった。というわけで、苦い顔のハイゼンベルグ公ジェイクが再度問いかける。


「もし正面突破を行う場合、どの程度の被害になると思う?」

「そりゃ、奴らがどのレベルで再造するかの話になるが……奴らの事を考えれば、最低でも当時を遥かに上回る性能を持たせた状態で再建造するだろうな。被害は当時の比較にならんだろう」

「むぅ……」


 カイトの所感を聞いて、ハイゼンベルグ公ジェイクは再度苦い顔を浮かべる。これはカイト達も<<死魔将(しましょう)>>達も認めているが、現代の兵士の方が三百年前の兵士達より弱い。

 一部には当時に勝らずとも劣らない原石が眠っているが、平均を取ると数は多くても一人ひとりの戦闘力は低下していた。よしんば当時と同レベルで再建造されていても、確実に被害は当時以上になる事が予想された。


「なんとかせねばならんのう」

「そうだが……移動要塞で失われた部品にコア部はあったのか?」

「今のところは確認されておらん……が、マクダウェル家が保有するコア部は問題無いんじゃろう?」

「そっちは問題無い。そもそもオレが保有してるからな」

「まぁの」


 先に皇国では移動要塞の部品は五公爵と二大公。更には皇室が保有している事が語られていたが、その中でも最も重要な部品はカイト率いるマクダウェル家が保有していた。一番安全だからだ。

 そしてこれについては万が一にも盗まれない様にカイトが異空間に入れて保有しており、今回の調査でもマクダウェル家に関してはそういった事情から免除されていた。そもそも公的にはカイトが地球に持ち帰ってしまっているからだ。勿論、調査団も地球まで持っていかれては逆にそちらが安全と何も聞くつもりはなかった。が、だから安心かというとそうではない。


「が……そもそも移動要塞って奴らが作ったものだからなぁ……」

「再建造されていても不思議はない、か」

「そういう事だよなぁ……」


 ハイゼンベルグ公ジェイクの言及にカイトは肩を竦める。一応ティナがティステニアと共に広大な国土を防衛する兵器として思案していたものではあったそうだが、実際に設計図を引いて建造したのは<<死魔将(しましょう)>>達だ。なので部品が盗まれていようと作る事は可能だったのだ。

 というわけで、この日はこの後はハイゼンベルグ公ジェイクとかつての大戦の遺産についてをカイトは話し合う事になるのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

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