表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第十三章 英雄の再来

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

278/3916

第260話 お呼び出し

 最後のエキシビジョンマッチも終わり、カイト達三人は会場を後にする。公爵軍の面々は疲れ果てていた為、半ば運ばれる様に出て行ったのだが、そんな事はお構いなしなクズハがそれについていく。

 そうして自分たちの子孫の実力を知れて満足そうな二人と、久々に多少は楽しめて満足そうなカイトの所に、ティナとユリィが駆けつけてくる。


「や……あ?」


 近づいてくるユリィを見てルクスが片手を上げるが、その横のティナを見て、バランタインと一緒に首を傾げる。ティナは子供の姿を取ったままで、その姿を見たことの無い二人には気付かれなかったのである。


「む? どうした?」

「えーと、嬢ちゃん、さっきの見てたファンの一人か? サインならしてやるぞ?」

「いらぬわ。誰が筋肉ダルマのサインなぞ欲しいものか」

「なっ……」


 いくらなんでも初対面の相手、しかも英雄に向かっての言葉とは思えない言葉に、ルクスとバランタインが絶句する。が、そんな偉そうな態度のティナに対して、カイトが告げた一言で全ては解決した。


「おい、ティナ。お前、姿変え忘れてるぞ」

「む?おお、済まぬの」


 ぽむ、と柏手を打つとティナは本来の姿に戻る。既に彼女の周囲には姿を隠す類の魔術を展開しており姿は見えぬ様にしていたのだが、それと同時に姿を元に戻すのを忘れていたのだった。


「あ、なんだ。ティナちゃんか。それと……ただいま、ルシア」


 わかってみれば、当たり前の反応をされていたので、二人はスルーすることにする。そして、よく見れば、ティナの後ろに見知った金色の姿が有った事に気付いたルクスが、笑みを浮かべる。


「はい、おかえりなさい。あなた」


 ルクスの言葉に、白皙の美貌を持つ女性が柔和な笑みを返す。女性は色白の肌に真紅の眼、背丈は子供状態のティナより少し高い程度で、顔はかなり端正で整っていた。

 どことなくルクスと同じくエルロード達に似通った雰囲気の有るその姿は、紛うこと無く、ルクスの幼馴染みにして妻のルシアであった。


「全く、お主も呼んでおるなら呼んでおるで余の所にでも連れて来れば良かろう。貴賓席から出て来た所を偶然発見せねば、何処ぞの男子生徒にナンパされる所じゃったぞ」

「ああ、悪い悪い。お前はてっきり貴賓席に行くと思っていたんでな。ウィルも呼んであるしな。そこで大凡の事情は掴むと思っていたんだが……どうしたんだ?」


 てっきりカイトは、ティナも此方に来る際に大きな姿となると思い、身内しか居ない貴賓席にルシアを案内したのだ。だが、どうやらそうはならなかったらしい。それにカイトが首を傾げるが、一方のティナは一瞬震え、されど気丈に呟いた。


「……誰の所為じゃと思っておる」

「ん? どうした?」

「なんでもないわ」


 呟きは風に乗って消えて、カイトの耳にも、他の誰の耳にも届かなかった。それ故、ティナはカイトの問いかけにをはぐらかす。どうやらカイトは大して気にしなかったらしく、それをスルーするだけだった。


「そうか……にしても、ぷち同窓会だな」

「そうだな。俺を忘れてなければな。俺も出せばよかったろうに」


 そんな様子の一同に、若干拗ねた様子のメガネを掛けた男性が近づいてくる。此方はカイトともルクスとも違い、かなり知的な印象のする、メガネの似合う知的なイケメンであった。


「お前が出れば、今以上に圧勝になるだろ。お前は虐めでもしたいのか?」

「なんじゃ、お主も来ておったのか」

「ふん。意味もないのに呼ばれたんでな」


 そう言って吐き捨てるが、彼は少し嬉しそうであった。やはり皇帝といえども仲間はずれは嫌らしい。そんな彼はカイト達の仲間の最後の一人。後の皇帝にして、今より300年前の皇帝ウィルだった。

 ちなみに、ティナは居る事を知らない、と言っていたが、当然、居た事は知っている。敢えて放っておいただけであった。


「まさかの皇族が出るわけにもいかないだろ? かと言って、呼ばなかったら後で絶対拗んだろ」

「……うるさい」


 カイトと別れた後、若干その自覚は出て来ていたらしく、ウィルは照れてそっぽを向いた。が、そんな所で彼を弄る追求の手は緩まない。更にティナが追撃を仕掛ける。


「しかも、お主、元最高と言われた皇帝陛下じゃろ? それに刃を向けると、のう?」

「下手すりゃ反逆罪で一発死刑だぞ? お前さん、さすがにそれはひどすぎんだろ」


 ティナにつづいて、バランタインも楽しげな笑みを浮かべながらウィルに告げる。それにウィルは向き直り、補足する。


「おまけに侮辱罪に皇帝に武器を向けた罪、傷害罪に、不敬罪等その他5つの罪状が付く。今なら、多少は罪状が増減しているかも知れんがな。いや、俺の場合は死去した皇帝に対する侮辱罪と不敬罪も付くな」

「……さすが、皇国史上最高の皇帝陛下……全部暗記してますか。まあ、今も変わってない。つーか、出せって言っておいて出したら相手が罪人ってどうよ、ウィスタリアス皇帝陛下?」


 最後を強調するように、はっきりしっかりと言い切るカイト。その顔は、いたずらっぽい笑みが浮かんでいた。


「何故か貴様にそう言われると屈辱に感じるな。不思議だ」


 対するウィルは少しだけ照れた様子で、そっぽを向く。流石に彼も皇帝陛下とは言われ慣れているが、やはり友人から茶化す様に言われると照れるのだった。


「けっ、人のことをニヤニヤしながら公爵殿公爵殿連呼して思いっきり茶化した言った意趣返しだ」


 そう言って二人は同時にニィ、と笑みを浮かべ、先にルクスとしたように、腕を組み合わせる。


「全く、この遣り取りが出来なくなって寂しいと思うとは思わなかったぞ」

「だから、素直になっておけよ、って言ったんだよ。まあ、お前が素直だと、こっちが怖いがな」

「ふん、余り有象無象に心胆を明かすのは愚策だ。お前の様に人運に恵まれるわけじゃないからな」

「あれでも、一応皇国史に名を残す方々だったのですが……さすがにウィルさんには有象無象に見えますか……」


 クズハが苦言を呈したウィルに、苦笑して問いかける。


「まあ、多少は見れる奴が居た事は認める。当時の五大公爵と二大公等は特にな。ふむ……さすがにハイ・エルフがこの年になると、さすがに抗し切れない<<魅了(チャーム)>>が有るな。」


 若干苦笑しながらも、ウィルが遠回しにクズハが綺麗になったと褒める。この男、あまり身内を褒める事に慣れていないのであった。それは死ぬまで変わらなかった様子で、度々ルクスがフォローに出掛けていた、とは今の歴史書の中に雑学として書かれている事であった。


「まあ、ありがとうございます。おかげさまで、なんとか、お兄様を落としました」

「……お前、いくらなんでも妹に手を出すか」


 嬉しそうに、少し照れた様子のクズハの言葉を聞いて、若干呆れを含んだ様子で、ウィルがカイトに問いかける。


「あ、そういえばそんなことを言ってたね。ユリィもだっけ?」

「あー、うん。まあ、色々と」


 さすがに恥ずかしかったのか、ルクスの問いかけにユリィはそっぽを向いて曖昧な返答を行なう。流石に仲間内でこんな話題を出されてはユリィも対処に困ったのである。しかし、その様子は十分に答えだった。その様子を見て、ウィルはため息を吐いてカイトを半眼で睨む。


「……お前、本当に何時か美人局に捕まらないだろうな? さすがに俺も心配になるぞ」

「あ、大丈夫です。ここ数百年でお兄様の噂をかなり広げましたので、美人局は無効だと知れ渡っています。」

「何を広げた! いや、広げた!?」

「良い手だ」


 クズハの言葉に、カイトが大いに驚いて、問いかける。しかし、貴族として見た場合、美人局を利用した脅しが意味を成さない事は大いに有益なので、ウィルが弟子の出来に感心して頷く。

 ちなみに、これは今の冒険部や天桜学園にも密かに流している事である。実はクズハはクズハで密かに学園に残る隊員達を通して、カイトが女誑しである、という噂を流す様に仕向けていたのであった。


「いや、おい!」

「ああ、成る程。確かに、いい手だね。美人局で関係を明かすと脅したところで、結局カイトだし、で済ませれば問題無いからね」

「まあ、あなた。それはさすがに失礼ですよ?」

「大丈夫だろ?なにせ、コイツの女癖、つーか女の引きからは神様も逃れらんねえって結論でてっからな!」


 その言葉に、カイトを除く全員が大笑いで答えたのであった。




 そして、その様子を遠巻きに見ていた者達が居る。ソラ達、冒険部の上層部の面々と、一緒に見ていた夕陽達である。


「……誰か、あれに入っていける奴居るか?」

「無理ですわ。拒否させていただきます」


 翔の問いかけを、瑞樹が即答で拒否する。彼等はあわよくばルクス達に話を聞ければ、と思ったのだが、集まった面々を見て、即座に中止を決定する。


「……良い、非常に良いです! 後で楓ちゃんにも教えないと!」

「ああ、やっぱり……というか、桜。一応、片方は私と桜の彼氏でもあるからね?」

「わかってますよ?」

「ホントかしら……」


 若干何か変なオーラを出してカイトとウィルの遣り取りを観察して魔道具で映像を記録していた桜が、興奮した様子で語る。そして、それを見た魅衣が呆れて苦言を呈する、というやり取りが既に何度か繰り返されていた。

 ちなみに、わかっている、と言っているのにこの会話は複数回繰り返されているので、やはり桜には彼氏云々はどうでもよい事なのかもしれない。そんな二人を横目に、ソラが道中で仲良くなった夕陽の背中を押した。


「夕陽、行って来い!」

「いや、無理っすよ! あんなのの中に入りたくないっす! 暦、ゴー!」

「嫌です!」


 ソラがそう言って夕陽をけしかけるが、さすがに夕陽も速攻で拒絶する。そうして事もあろうに、彼は暦に対してボールを放り投げた。カイト達の周囲にはかなりの人だかりが出来ているが、誰も近づこうとしない、というか出来ない。なぜなら。


「あれ、どう見ても全員かなりの使い手かつ、重要人物達だよねー?」


 由利の言葉に、詩織がメモ代わりの魔道具を取り出す。それは彼女が愛用している調査記録などを纏めたウェアラブルデバイスに似た魔道具だった。流石に英雄達の前でこんな物をつけているのは失礼か、と思って外したのである。

 なお、これはティナ手製の魔道具で、冒険部にて研究や調査を行う研究開発班に研究用に与えられている物だった。


「えーと、姿絵によると……あっちのメガネの方が、歴代最高と名高い第十五代皇帝陛下ウィスタリアス=エンテシア様。勇者様の横に居るお二人とクズハ様はいいとして……あの耳が尖った金色の魔族さんが、統一魔帝ユスティーナ=ミストルティン様。それと、あの大きな妖精族がユリシア=フェリシア様。あっちの金色で赤い目の女性が、多分ルクス様の奥様のルシア=ヴァイスリッター様だと思います。天族のアウローラ様がいらっしゃらないけど、全員、多分……」

「英雄ね」


 弥生の断言に、一瞬で静まり返った周囲の全員がごくり、とつばを飲んだ。誰もが、自分たちとは身に纏う雰囲気から違う、と圧倒的な存在感をもって、理解させられたのであった。それ故に、誰も近づけなかったのである。


「移動するみたいだぞ」


 移動し始めたカイト達を見て、誰かがそう呟いた。見れば、移動する先の生徒たちが、海を割ったモーセの如く、横に逸れていた。


「ん?」


 そうして、誰も動けぬまましばし停滞していると、紅い小鳥がソラの肩に舞い降りた。ティナの使い魔、クーである。クーは姿を隠しているらしく、誰にも気付かれていない。そうしてクーは消音結界を使用し、ソラに話しかける。


「主が来ても良い、とのことですな。カイト殿は何もおっしゃっておいでではありませんでしたが、ウィル殿は興味がおありのご様子でしたな。どうされますかな? 私は、一名の来客を連れてくるように、との命を主より受けておりますが……」

「ウィル殿って……」

「おお、申し訳ありませんな。ついつい偽名を言ってしまいましたな。公にはウィスタリアスと名乗っておいでですな」

「つまりは……」


 興味がある、と明言し、使者を寄越した。これが意味する事は一つしか無い。


「まあ、単純に言えば、来い、ということですな。皇帝陛下直々に」


 ここまで明言されてしまっては、知らぬ存ぜぬ、気付かなかったは通せない。それを明言されて、ソラが愕然と口を開けた。


「うが……マジ?」

「大マジですな。では、伝えましたぞ」


 そう言って飛び立ち、客人とやらを迎えに行くクー。流石に会話は聞こえなかったが結界から除外されていた一同には、何らかの伝言が伝えられたと正確に理解できた。


「……なんてー?」


 恐る恐る、由利がソラに問いかける。全員、嫌な予感しかしていなかった。


「来いって……」

「無視しましょう」


 二人の遣り取りに興奮していた桜であるが、さすがにあの中に入って行きたいとは思わなかったらしい。即座に無視を進言する。


「……俺も、相手がカイトなら、そう言いたい」

「……言わないで」

「皇帝陛下が、来いってさ」

「だから、言わないでよ……」


 そう言って、魅衣は気落ちする。同じく、ソラも肩を落として落ち込む。流石に彼らも馴染みの友人なら、例え勇者だろうと拒絶も出来る。だが、相手は死去しているといえど、歴史上に最も偉大と書かれる皇帝だ。断れない雰囲気があったのである。


「先輩と凛ちゃんについて行けば良かった……マジで」


 負傷こそしていなかったものの、疲労困憊状態のアルとリィルを心配し、戦闘終了後に二人は見舞いに行ったのである。現状、冒険部の上層部面子と、弥生達一部の面子へは、よほど立入禁止のエリア出ない限り、密かに何も知らない教員達よりも数段上の権限が与えられているので、特殊部隊の治療施設でも顔パスで通れるのであった。尚、これは当然彼等がこれら秘匿されるべき技術を盗める程の力量が無い事も一因である。


「あんたが一目見に行こう、なんていうからでしょ?ティナちゃんはよく分かんないけど、あっちにいるし……」


 ソラに対して愚痴を言いつつ、魅衣が歩き始めようとする。こういう場合、ティナであれば難なく却下することも出来るのだが、居ないものは仕方が無い。従うしか無かった。それに、ソラも頷いて歩き始める。


「はぁ……行くか」

「あの、何っすか?」

「と言うか、何処へ?」

「……あ。よっしゃ! どこか分かんねえ! でかした、えーと、暦!」


 当たり前だが、クーの姿は見えていないし会話も聞こえていない。なのでこの三人は成り行きが理解出来ず、ただただ頭に疑問符を浮かべていただけだ。なので出た疑問に、ソラは一筋の光を見出した。そうしてそのきっかけとなった暦をソラは褒める。が、当然そうは問屋が卸さなかった。


「おっと、すみませぬな。場所を伝え忘れておりましたな。場所は元冒険部の居室、第二会議室だそうですな。クズハ殿用に貴賓室として整えられております故、防音等は完璧ですな。では、失礼致しましたな」


 ソラの眼前に舞い降り、滞空したクーは再び飛び去っていく。クーはイクサの使い魔を探している道中でソラ達に場所を伝え忘れていた事を思い出し、身を翻して来たのだった。


「……はい」


 喜びもつかの間、即座に地獄に叩き落とされた一同は、のっそりとした動きで、第二会議室へと向かっていったのであった。

 お読み頂き有難う御座いました。

 次回予告:第261話『過去と今が交わる時』

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[気になる点] ルシアさんは設定では混血となっていますが生きているのですか?
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ