第2758話 煌めく街編 ――捕縛――
かつて世話になった老紳士クラルテの墓参りと彼の故郷へと彼の遺品を届けに行く最中。クラルテの故郷への最後の中継地点となるリデル領の歓楽街『フンケルン』にやって来たカイトであるが、彼はイリアから裏ギルドの暗躍を知らされ、ソラ達に被害が及ばぬ様にと彼もまた裏で暗躍する事にしていた。
というわけで始まった裏ギルドによる襲撃に対してカウンターを仕掛けたカイトは、裏ギルドが彫り抜いた空洞を利用して裏ギルドのアジトまで侵攻。そこで彼は裏ギルドの本隊と交戦するも、とある花の花粉を密閉した容器等を用いてその大半の捕縛を終えていた。
「はぁ……はぁ……何なんだ、あいつは!?」
「化け物か!?」
「十年も計画を練って、奴一人に邪魔されるなんて!」
坑道を入口に向けて走りながら、裏ギルドの幹部達は揃って声を荒げる。実のところ、彼らは部下を囮にしてさっさと逃げてしまっていたのである。
とはいえ彼らの選択は正しかっただろう。そして彼らが今まで同じ様に失敗してもなんとか捕まらず逃げ延びていたのは、その狡猾さとも冷酷さとも言える手腕があればこそだ。
「入り口は駄目だ! 軍の奴らが封鎖してるに決まってる!」
「確かこの辺りだったな!?」
「急げ! 奴相手にゃそう長くはもたない!」
そうなれば遠からず軍の兵士達がなだれ込んでくるかもしれない。裏ギルドの幹部達は慌てながらも所定の手付きで隠し扉のロックを解除する。
この隠し通路の扉は裏ギルドの中でも幹部達しか知らず、作ったのも彼ら自身だ。最初から万が一の場合には部下達を使い捨てるつもりだったのだ。そうして、数秒でロックが解除されて隠し通路へと続く扉が開く。
「おし! 行くぞ! 作戦の練り直しだ!」
「「「おう!」」」
今回は失敗したが、捕まらなければ次に繋げられる。前向きなのかなんなのか、裏ギルドの幹部達は諦めてはいなかったらしい。と、そうしていの一番に入った幹部の一人が、なにかに激突して停止する。
「いてぇ!」
「うごっ!」
「なんだってんだ!?」
「急に止まるな!」
全員が大慌てで駆け込んでいたのだ。それなのに一番先頭が急に立ち止まれば後ろはそれに激突するしかなく、更に後ろはなんとか止まれたものの顔をしかめて文句を口にする。そんな彼らであるが、その先に見た光景で思わず目を見開く事になる。
「お待ちしておりました。こちらで待っていれば皆様来られるものだと思いましたので……」
「な、なんでお前が……」
「ど、どうやって……?」
先頭の幹部が激突したのは、言うまでもなくカイトである。彼がまるで壁の様に立ち塞がっていたのだ。そんな光景に幹部達は揃って呆気に取られ、困惑を浮かべるしか出来なかった。これにカイトは敢えて執事としての優雅な笑みを浮かべながら教えてやった。
「どうやって……ですか。電磁誘導方式をご存知であれば話は早いのですが……ご存知ですか?」
「あ、あぁ?」
「何言ってんだ、おめぇ……」
カイトの言葉に裏ギルドの幹部達は揃って困惑を浮かべる。まぁ、早い話がここに来る際に電磁誘導方式を使ってトンネルを追い掛けていたのだが、帰り道も興味本位で使ってみたのだ。
すると偶然にも巧妙に隠されてはいたが壁の中に通路がある事に気付いて、様子を確認。これはもしや、と思って転移用のマーカーをセットしておいたのであった。完全に偶然だったが、どうにせよ神陰流も使える彼だ。先回りは流石に難しいだろうが、追いつく事なぞ造作もなかっただろう。
「まぁ、それは良いでしょう……貴方達に残された選択肢は二つ。ここで大人しくお縄を頂戴するか、私にぶん殴られて連行されるか……さぁ、どうなさいますか?」
「「「っ……」」」
時として、笑みとは人を威圧するものなのだろう。にこやかに笑うカイトの笑顔に、裏ギルドの幹部達が気圧されて後ろに後退りする。と、そんな中。最後尾の一人はどうやらこの状況下でもどうすれば逃げ出せるか考えていたらしい。腰に吊り下げていた手榴弾型の魔道具をおもむろに通路へと投げ込んだ。
「む」
魔道具が地面に落下すると同時に、周囲を極光が包み込む。そうして極光が晴れた先では煙幕が舞い上がっており、その中から声が響く。
「良し! よくやった!」
「第二通路から逃げるぞ!」
「こいつもオマケで取っておけ!」
煙幕の中からカイトに向けてこれまた手榴弾型の魔道具が投げ込まれる。が、こちらは閃光を生むのではなく実際に爆発を起こすものだ。
といってもどうやらヴィクトル商会製品だったのでカイトは普通に理解しており、即座に中に仕込まれている安全装置を再起動。無力化しておく。その一方、煙幕の中で逃げ切れると意気揚々の幹部達であるが、当然そうは問屋が卸さない。
「……はれ?」
「「「……」」」
素っ頓狂な声を上げたのは、先程まで最後尾に居た幹部。今は先頭に居るはずの人物だ。そんな彼は煙幕を抜けると同時に立ち塞がる何人もの人影に気が付いて、間抜けな顔を晒していた。その一方で何人もの人影が楽しげで獰猛な笑みを浮かべ、口を開く。
「いらっしゃーい」
「よぉ、お楽しみみたいだな」
「「「……」」」
右も左も居るのはリデル公爵軍の兵士達。裏ギルドの幹部達はそれに気付いて言葉を失う。当然だが隠し通路を見付けたカイトが何もしなかったわけがない。逃げ込んだと同時に完全に包囲出来る様に手配していたのである。
勿論、背後のカイトは無事なままだ。というわけで風を起こして煙幕を吹き飛ばし、右手に投げられた手榴弾を氷漬けにして万が一にも爆発しない様に対処したカイトが現れる。
「さて……では、再度お伺い致しましょうか。貴方達に残された選択肢は二つ。ここで大人しくお縄を頂戴するか、私達にぶん殴られて連行されるか……さぁ、どうなさいますか?」
さっきまではカイト一人相手にすれば良いだけだったのが、今度は更に軍の兵士達にまで包囲されているのだ。このまま抗った所で結末は見えていた。故に完全に打つ手なしを悟ったのか、裏ギルドの幹部達が膝から崩れ落ちる。それを見て、カイトが軍の兵士達に告げる。
「では、確保を」
「「「はっ!」」」
カイトの号令と共に、軍の兵士達が手早く吸魔石で作られた手錠を裏ギルドの幹部達へと嵌めていく。そんな作業が行われていると、奥の方からこれまたリデル家の兵士が数人でやって来る。
そんな彼らはカイトの前まで来ると敬礼する。カイトがこの通路を包囲させると同時に別ルートを通って最奥まで進ませていたのである。
「報告します。奥の空間で眠っていた構成員の捕縛完了致しました」
「そうですか……移送に関しては?」
「現在順次搬送しております。ただ意識が無いので運ぶのに若干手間が生じております」
「おっと……これは失礼しました。すぐに意識を戻せる様にしておけばよかったですね」
捕縛の最中に目覚められて暴れられても困るので一晩ぐっすり眠れるような薬を使ったのだが、それが災いしたらしい。若干手荒に扱われても起きる事なく、結果として外に運び出すのに苦労する事になったのだった。というわけで、少し笑って照れくさそうに謝罪したカイトに報告した兵士も眉間のシワを解いて笑って首を振る。
「いえ……目覚めて暴れられたらそれはそれで厄介なので……こちらのけが人が出ない方が良かったのかと」
「そうですか。ありがとうございます……それで大奥様へのご報告は?」
「すでに完了しております。後はこちらの幹部共の捕縛だけとなっておりましたが……」
「そちらも完了です……これで今回の一件は一件落着と言って良いでしょう」
「はい」
カイトの言葉に兵士も一つ頷いた。流石にこの状況から幹部達が逃げるのは不可能に近いだろう。無論部下も全員が昏倒しているか昏睡状態。自分達で見捨てている以上、救援の目も無い。無論、この状況下で武力で勝てる見込みも皆無だ。諦めるしかないだろう。
「では、後は任せます。私は大奥様にすべての落着をご報告せねばなりませんので」
「かしこまりました。お疲れ様です」
「いえ。そちらこそお疲れ様です」
兵士のねぎらいにカイトは一つ頭を下げる。そうして後始末を兵士達に任せたカイトは転移術を使って『フンケルン』近郊にまで戻って、そのままオークション会場に戻る事にするのだった。
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