第2756話 煌めく街編 ――殲滅戦――
かつて世話になった老紳士クラルテの墓参りと彼の遺言を果たすべく彼の故郷を目指す事になったカイト。そんな彼は中継地点であるリデル領の歓楽街『フンケルン』にてイリアと合流したのであるが、そこで裏ギルドの暗躍を知る。
というわけで、歓楽街の影で暗躍していた裏ギルドを捕縛するべく動き出した彼であるが、一週間でも最大のオークションが開かれる裏で彼は裏ギルドの襲撃に合わせる形で実行委員会の建物にやって来て襲撃を待ち受けていた。そうして時間は少しだけ流れ、21時。時計の長針が真上を指し示したと同時に、各所で閃光が巻き起こった。
「報告! 『フンケルン』各所で閃光! 更には各所でならず者たちが暴れているとの事!」
『総支配人』
「はい」
通信機を介したカイトの促しを受けて、総支配人はやはりこうなったかと落ち着いている様子だった。まぁ、彼はカイト達の動きをすべて聞いていたし、これから起きる展開もおおよそを理解している。慌てる必要もなかった。というわけで、彼はあくまでもこれは決められた流れと言わんばかりにすぐに指示を飛ばした。
「各オークションに通達。宝物庫を閉ざし、万が一に備える様に」
「「「了解しました」」」
総支配人の指示を受けて、オークションの商品に万が一が無い様にする指示が飛ばされる。そうして各オークションの宝物庫に警備の人員が入り、完全に扉が閉ざされる。
「報告します。各オークション会場の宝物庫、全て滞りなく封印されました。後は地下へ移送するだけです」
「よろしい……ゼーゼマンさん」
『はい……では私も修繕の方々と共に待機室にて待機致します。これ以降、通信機は通じなくなりますが……』
「問題ありません。私は私の仕事をするだけです。そちらも、そちらの仕事をして頂ければ」
『かしこまりました。では、後は任せます』
かなり場数を踏んだ人物だな。いくら知っていたからと言っても一切の迷いが無い総支配人の返答に、カイトは内心感心しながらも一つ優雅に頭を下げる。というわけで通信機が閉ざされると同時に、若干不安げな修繕担当者達に頭を下げる。
「ありがとうございます……それで改めてになりますが、皆様は地下に到達すると同時に即座に四方の部屋へ移動して下さい。時間の猶予がどれだけあるかはわかりませんが……」
「は、はい……」
「あの……大丈夫なんですか?」
「ええ。奴らも流石に宝物庫の中身を傷付けたくはないでしょう。宝物庫に直接仕掛ける事は有りませんよ」
そういう事ではないんですが。修繕の担当者達はおそらくわかっているだろうに何も言わないカイトに僅かな不安を浮かべる。そんな彼らに、カイトは笑った。
「戦闘でしたらご安心下さい。これでも戦闘は得意ですので」
「「「は、はぁ……」」」
ここまで自信たっぷりなら、そしてリデル家が単騎で十分と判断して差し向けたのなら、問題無いのかもしれない。担当者達はカイトの様子からそう思うことにしたようだ。若干釈然としないものは感じながらも、そう頷いた。というわけでカイトは敢えて余裕を演じるべく軽い読書でもしながら、事の成り行きを待つ事にする。そうして、十数分後。部屋に備え付けられた非常用の通信機が鳴り響いた。
『地下移送プロトコル発令! 総員、シートベルトを確認してください!』
「「「っ」」」
本当にこうなるのか。修繕の担当者達は言われてはいたが本当にそうなってしまったアナウンスにわずかに顔を青ざめながらも、どこか祈るようにシートベルトを着用する。そうして、数十秒後。こちらはどうやら人員を移送するためだからかそれなりの振動を生みながら、待機室が地下へと降りていく。
(さて……ここまでは想定内。何か想定外があってくれても良いが……いや、無い方が良いか。面倒だし)
地下へ向かう待機室に揺られながら、カイトはそんな益体もない事を考えていた。とはいえ、どうやらこちらは直線的に動くためか、がこんっと一度だけわずかに大きな音を立ててすぐに移動を停止した。
「「「っ」」」
「皆様方、急いで四方へ」
「お、おい」
「あ、ああ」
一瞬だけ身体を強張らせた修繕の担当者達だが、なにかを考えるより前に出されたカイトの指示に大慌てで四方に設けられた扉の魔術を起動。四方に宝物庫が接続されると同時に順次移動していく。
そして、宝物庫の最後の一つが接続されると同時だ。カイトのみが残った待機室の床が唐突に盛り上がり、爆炎を上げて吹き飛んだ。どうやら一瞬でも戸惑っていればこれに巻き込まれてお陀仏だったらしい。
「良し! ぶっ飛んだ! は?」
「一気に行くぞ! こっからは……あ?」
「何だ、おい! 立ち止まるな!」
一番先頭に立っていた裏ギルドの構成員達が困惑した声を上げて、その後ろに居る者たちが苛立ちの怒声を上げる。が、そんな彼らも爆煙が晴れていくに従って、一人の男が優雅に執事として一切瑕疵のない礼をしている姿に困惑を浮かべるしかなかった。
「何だ、お前……」
「誰だ?」
「執事?」
「お待ちしておりました……私大奥様より皆様のお相手を仕る様に命ぜられ、こちらで待たせて頂いておりました」
困惑する裏ギルドの構成員達に向けて、カイトは優雅に一礼。要件を告げる。これに、裏ギルドの構成員達もおおよそは理解出来たようだ。
「リデル家の執事か!」
「ちぃ! ここまで読まれてたってわけか!」
「どうやったんだ!?」
「どうだって構いやしねぇ! 奴は一人! 嬲り殺しにしちまえ!」
困惑と焦燥が場を満たすよりも前に、後ろの方から声が響いた。これに裏ギルドの構成員達もはっとなって、武器を構え雄叫びを上げた。
「「「おぉおおお!」」」
こいつが誰でも関係ない。そんな様子で裏ギルドの構成員達が武器を振るう。が、そのどれもがカイトに届くよりも前に、彼の方が何時もの巨大な大剣の腹で打ち据える様にして押し戻した。
「はぁ!」
どんっ。轟音と共に衝撃波が迸って、裏ギルドの隊列が押し戻される。そもそも裏ギルドは天井に穴を開ける形になってしまっていたので、圧倒的に地の利が無い状況だった。故に多くの裏ギルドの構成員が押し戻され、これに再度後ろの方から声が響いた。
「っ、一度引け! ここじゃ戦えねぇ!」
「ちぃ! 何人か残って奴を足止めしろ!」
ほぉ、良い判断だ。カイトは指示を飛ばす裏ギルドの幹部だろう者たちの声に感心する。数人が犠牲になるのは承知の上で、多くを撤退させる事で自分達に有利に戦うつもりだった。
というわけで、先にカイトの攻撃を受けた数人がなし崩し的にその場に残る事になり、少し引いた通路でカイトと相対する。
「「「……」」」
じりっ。じりっ。裏ギルドの構成員達は先にカイトの一撃を身を以て体験したのだ。攻め込めないと思ったらしい。間合いを測り、時間稼ぎに徹していた。とはいえ、カイトの方はそれに付き合ってやる道理はない。故に間合いを測る彼らに、今度は小太刀を手に一気に間合いを詰めた。
「!?」
何だこの速さは。瞬きの一瞬で眼前に迫っていたカイトの姿を見て、裏ギルドの構成員の一人が思わず目を見開く。が、その次の瞬間には雷撃を纏うナイフが彼を切り裂いて、意識を奪い去る。それを見て、最も近かった一人が片手剣を振るった。
「っ、はぁ! 何!?」
「遅い」
「ぐっ!」
振りかぶると同時に背後に回り込まれていた事に気付いた裏ギルドの構成員であるが、それと同時に腕を打たれ片手剣を取り落とした。それを受けて、裏ギルドの構成員は回収ではなくサブウェポンを使う事を即座に決めたようだ。懐に手を突っ込んでなにかを取り出そうとした。
「っ、がぁ!」
「はい、これで二人」
まぁ、当然であるがカイトが次の武器を取り出すのを待ってくれるわけがない。なのでその次の瞬間には雷撃を纏った手刀で意識を刈り取られていた。というわけで、カイトが更に一人の裏ギルドの構成員を仕留めると同時に次の一人が槍をカイトへと突き出した。
「っと……流石にこの直線的な閉所での槍はキツいか」
「!?」
突き出された槍を半身をずらす事で回避。カイトは自身の真横を通り抜けた槍の柄を引っ掴んだ。
「覚悟は良いな?」
「っ!?」
まずい。槍を持っていた裏ギルドの構成員はカイトの楽しげな顔を見て次に何が来るかを理解する。そして彼の想像通り、金属で出来た柄を通り抜けて強大な雷が迸って両者を焼き尽くす。が、当然これは魔術の雷だ。カイトは放つだけで一切の傷を負っていなかった。
「ちぃ! こうなりゃトンネルが崩れても仕方がねぇ!」
「一気に行くぞ!」
「お互い当たらない様に気をつけてくれよ!」
またたく間に三人がやられ一瞬昏倒を生みかねなかったが、どうやら残った者たちの中にもそれなりには指揮が出来る者が居たらしい。残る三人が一斉にカイトへと襲いかかる。これにカイトは一歩だけ後ろに飛んで距離を取った。
「あぁ、足元注意ですのでお気をつけ下さい」
「「「!?」」」
唐突に執事としての笑みを浮かべ優雅に一礼したカイトに、裏ギルドの三人が目を見開く。しかし次の瞬間だ。彼らは何が起きるかも理解出来ぬままに、完全に氷漬けにされてしまう。
「ふぅ……流石に大捕物で殺しは出来んからな。ま、終わるまでそこで寝てな」
今回、よほど抵抗を受けた場合は別だがイリアからは捕縛で進める様に要請があった。なのでカイトもなるべくは生かして捕らえる事にしていたようだ。というわけで、カイトは殿の裏ギルドの構成員達を瞬く間に制圧すると一足先に引き返した裏ギルドの構成員達を追い掛けるのだった。
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