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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第98章 演習編

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第2755話 煌めく街編 ――裏で――

 かつて世話になった老紳士クラルテの墓参りを行うにあたって立ち寄ったリデル領の歓楽街『フンケルン』。ここでカイトはイリアと合流する予定になっていたのであるが、合流した彼女から裏ギルドの暗躍を聞かされる事になり、カイトは出発前にそれへの対処を行う事になってしまっていた。

 というわけで執事と令嬢に扮してオークションに参加するカイトとイリアの二人は手続きを済ませると、一週間で最大のオークションに参加する参加者達を見ながら時間を潰していた。


「やっぱり魔術師が多いわね」

「そりゃ、今回の目玉は魔導書だ。魔術師がメインだろう」

「そうね……『地母儀典(キュベレイ)』の出品が始まるのが丁度20時30分頃ね」

「大体21時には目玉商品を、か。時間としちゃベストか」


 今日は中々長い夜になりそうだ。カイトは今日の流れを思い出しながら、少なくとも『地母儀典(キュベレイ)』の競売は見られそうだと少しだけ安堵する。まぁ、勿論これはあくまでも予定なので、なにかの競売が長引けば後ろになる事もある。それらを考えればギリギリではあっただろう。


「で、お前の方は今日は何もないのか?」

「無いわね……欲しければ買ってあげるけど?」

「後払いで?」

「勿論」


 カイトの問いかけにイリアが笑う。まぁ、彼女もそこまで甘くはなかった。そんなこんなで待つ事30分ほど。適当に時間を潰していると、軽い食事が運ばれてくる。オークション前にどうぞ、という所だった。


「こちらを」

「ありがとう……貴方も食べる?」

「お心遣い、ありがとうございます。ですが大丈夫です」


 軽いサンドイッチを手に問いかけるイリアに、カイトはあくまでも従者として振る舞う。そしてこれが運ばれてきたということは、もう少し時間が掛かるということなのだろう。カイトはそう理解。イリアに問いかけた。


「開始までもう少し時間が掛かるか?」

「みたいね……軍が特殊艦を動かしたのだけど、後一隻待機出来ていないみたいね」


 カイトの問いかけにイリアは髪で隠したヘッドセット型の通信機から聞こえる内容を彼に伝える。本来こういった通信機の持ち込みは禁止だが、イリアは特例で持ち込んでいた。まぁ、彼女は客ではなく主催者側の人員なのだから当然の措置だろう。


「特殊艦か……上か? それとも外か?」

「上ね……襲撃に合わせて展開する人員向けよ。おそらく迎撃部隊は想定されているでしょうけどね。流石に特殊艦は想定していないでしょう。勿論、鉱山近辺にも夜間迷彩仕様の飛空艇を待機させているわ。山の稜線に隠す形でね」

「そうか」


 後は実際に事件が起こった後か。カイトはイリアの返答に改めて気合を入れ直す。そしてそうこうしていると、今度こそオークションが開催される事になる。


『皆様、おまたせ致しました。これより……』


 やはり流石は『フンケルン』でも最大規模のオークション会場で最大規模のオークションなのだろう。皇国でも有数の規模の名は伊達ではなく、進行の係員の声は通信機でないと端まで届かないらしい。拡声器を通して、進行役の声が響いてきた。これに、カイトは執事らしく背筋を伸ばす。そしてそれと同時に、最初の商品が運ばれてきた。


『本日最初の商品はこちら。これはかつての連盟大戦のおりに亡くなられた絵師の……』


 どうやら最初の商品は絵画だったらしい。進行役が簡単にこの絵を描いた画家の来歴と絵についてを語る。そうして、軽くそれらが語られた所で競売がスタートする事になるのだった。




 さてオークションが開始されてからおよそ二時間弱。夜7時を回ったあたりで一度小休止を挟む事になっていた。まぁ、実際の所はこれから競売に掛けられるのが連続して魔導書なので、結界等の最終チェックをしておきたいのであった。無論、表向きは良い頃合いなので軽食でも食べて一休みしてください、という所であったが。


「ふぅ……中々良いわね。貴方に給仕して貰うのも」

「喜んで頂けたなら何よりです」

「相変わらずそういった演技好きね」

「ありがとうございます」


 どこか茶化すようなイリアの言葉に、カイトは優雅に笑って一礼する。なお、この休憩時間の過ごし方は人それぞれで、イリアの様な貴族達はカイトのような従者が持ってきてくれる軽い食事を食べたり、ソラのような者たちだとオークション会場に併設されているレストランで食事を食べたりしていた。

 とはいえ、いつまでもそんな呑気に雑談はしてもいられない。なのでイリアは少しだけ気を取り直して、カイトに告げる。


「軍からの報告よ……各所で不審者達の目撃情報。但し意図的に見付かる様にしている風あり、って」

「さっさと地下に移送しろ、って事か」

「そうね。オークション側もそれを受けて警戒態勢に入ってる、って話よ」

「どうぞ警備を厳重にしてください、ってわけか」


 厳重になればなるほど、地下の警戒は薄くなる。実際人員は有限なのだからそうなのだが、カイトはそう思いながらも特別どうでも良いとも思っていた。その穴埋めを彼自身がするからだ。というわけで、軽い軽食を食べ終えた頃に再び他の参加者達も戻ってきて、後半戦の開幕となる。


『皆様、お戻りですね。では、次の商品……次の商品はこちら。『地母儀典(キュベレイ)』。ご存知の方も多いとは思いますが、この魔導書は多くの持ち主が保有した事で有名な魔導書です。有名な人物であれば、かつて統一魔帝ユスティーナ・ミストルティンと友誼を結んだ<<大地の聖母>>ヒロント。土魔術の研究においては……』


 まー、彼女ぐらいしか出せる人物って居ないわな。カイトは昔会った事のある魔術師の名が出てきて、内心で苦笑する。それ以外にも確かに『地母儀典(キュベレイ)』を使った著名な魔術師も居るには居るが、どれもがこのヒロントという魔術師には有名度で劣る。

 更には先にカイトが言った通り、じゃじゃ馬と言う事は出来ないだろう。というわけで、当たり障りのない答えとしてこの彼女の名前になった、というわけなのだろう。と、そんな彼の内心を見透かしたかの様に、イリアが告げた。


「カイト。気になるのはわかるけど、そろそろ時間よ。準備はしておいて頂戴な」

「かしこまりました」


 ソラの競りがどうなるか。実際に競り落とせるか気にはなるが、襲撃は21時前後だ。地下倉庫への攻撃が少しだけ後になると想定しても、それまでには実行委員会の建物にまで移動しておかねばならない。移動時間やらを鑑みれば、途中で抜けねばならなそうだった。というわけで、一応の事明言はしておく。


「……一応言うが、多分中央の部屋は床は吹き飛ぶ」

「その程度織り込み済みよ。問題はオークションに掛けられる商品が壊れる事の方。あっちが無事なら一切問題無いわ」


 カイトの明言にイリアもまたそれは問題無い事を明言する。というわけで、始まった競りを横目にカイトはオークション会場を後にする。


「ふぅ……なーんで墓参りのためにわざわざ戦いせにゃならん、って感じなんだが……」


 ソラ達に被害が出ない様にするなら自分がさっさと動いた方が良いからだ。カイトは自分で自分に答えを告げる。というわけで、少しぼやきながら彼は街の中を歩くわけだが、街の喧騒に混じってちらほらと明らかに冒険者らしい影が剣呑な雰囲気で立っている事にすぐに気が付いた。


「イリア……割と数多めだが、客の安全は?」

『即座に結界の展開が可能になっているわ。ただ裏ギルドの連中。派手にやるでしょうから、こっちも各所に人員は隠してる。万が一とかそういった事は全部こっちで手配するから、貴方は本隊を叩き潰すだけで良いわ』

「それなら結構。こっちは正面から叩き潰すだけだ」


 ネクタイを緩めながら、カイトはイリアの言葉に一つ頷く。どうせ街で待機している連中は派手に戦っている様に見せて警戒を強めさせる事が目的だ。

 なにせ彼らにとって万が一でも地下倉庫に宝物庫が移動しなければすべてが御破算。折角の準備が水の泡だ。大規模な襲撃に見せかけ、何がなんでも移動させる様にするつもりだろう。と、そんな裏ギルドの構成員や雇われの荒くれ者達を横目に、カイトは続ける。


「ああ、一応修繕の作業員は地下に降下直後に移動させる。間に合えば、だが」

『間に合わなくともそうして頂戴。大半は超高額商品なんだから、壊れると安くないのよ』

「頑張りま」


 出来る限りではなんとかする。イリアの言葉にカイトはそう告げる。というわけで、そんな雑談とも打ち合わせとも取れるやり取りを交わすこと暫く。カイトは実行委員会の建物に到着する。すると先にカイトを地下倉庫へ案内した案内役が現れる。


「お待ちしておりました。すべてお話は伺っております」

「ありがとうございます……人員等の手配は?」

「終わっております……ですが大丈夫なのですか? 最小限の人数に留める様に、というご指示でしたが」

「問題ありません。なにせ奴らが中央を通り抜ける事はありえないのですから」

「あ、いえ……そうではないのですが……」


 案内役が言いたかったのは、カイト一人で裏ギルドの構成員をすべて相手するという事だが大丈夫か、という事だ。が、これに対するカイトはただ笑って問題無いと告げるだけだった。

 とはいえ、彼もリデル家からの指示が単騎で良いという事であった以上、否やは言えなかった。というわけで、疑問やら不安やらをぐっと飲み込んで一つ頷いた。


「……いえ。失礼致しました。では、ご案内致します」

「お願いします」


 さて後は単純に叩き潰すだけで良いな。カイトは案内役に案内されながら、わずかに首を鳴らしてそう思う。そうしてカイトはソラがオークションで貴族達と『地母儀典(キュベレイ)』の競りを行う間、裏ギルドの裏を掻くべく自身で中央の部屋となる待機室に潜む事にするのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

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