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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第98章 演習編

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第2749話 煌めく街編 ――地下――

 かつて世話になった老紳士クラルテの墓参りの最中に聞いたリデル領の歓楽街『フンケルン』での裏ギルドの暗躍。同じく『フンケルン』のオークションを目的として来ていたソラ達に被害が及ばぬ様にそれに対応する事を決めたカイトは、オークション会場の地下倉庫に仕掛けられた裏ギルドの工作を知るとそこから裏ギルドのアジトを探るべく行動を開始する事にする。

 というわけで、明けて翌日の朝。彼はイリアの世話やフォローをユーディトに任せ自身は再び執事に扮してオークション会場へやって来ていた。


「メンテナンス通路はこちらです……ですが相当下に潜る事になりますよ?」

「構いません。それが仕事ですので」


 地下100メートル付近にまで伸びるメンテナンスエリアだ。しかもメンテナンス業者でも登り下りする事が出来る様に階段が設けられているため、魔術で一息に行けるわけではない。が、やるしかないのだから、諦めるしかなかった。


「そうですか……それならお止めは致しませんが。ただメンテナンス通路は私もよく存じておりませんので、巡回の者を同行させましょう。少々、お待ち下さい」

「ありがとうございます」


 当然だがカイトがいくらリデル家の使者だとはいえ無条件に信頼されるわけではない。特にここは高額商品を取り扱うエリアだ。一人にはしてもらえないだろう。というわけで彼は暫くの間待たされるのであるが、暫くすると衛兵の格好をした壮年の男――後に聞けば衛兵の隊長らしい――がやってきた。


「お呼びでしょうか」

「ええ……彼はリデル家の従者でゼーゼマンさん。少々故あってメンテナンス通路をご確認されたいそうです。地下までご案内なさい」

「は……地下までですか?」


 大丈夫なのか。やってきた衛兵はカイトを見てわずかに訝しむ。まぁ、今のカイトは見るからに執事にありがちな好青年を演じている。しかも冒険者等の戦士感を出さない様に気を付けてもいるので、殊更衛兵が危惧しても無理はなかった。が、なんと言われようと下に行く以外にないのでカイトは衛兵に向けて頭を下げた。


「よろしくお願いいたします」

「……まぁ、リデル家の指示って話でしたら俺も断りはしませんが……結構キツいですよ? 魔術を阻害する結界とかも張られているので覚悟はしておいた方が」

「これでも鍛えておりますのでご安心ください。それに、これでも気も多少心得ております。魔術が使えなくとも問題はありません」

「気? それって……あの気ですか?」

「ええ。中津国で少し気の手習いも」


 やはり流石は公爵家の従者なのだろう。一見すると武闘派には見えないカイトが気を使えると言われ、衛兵の隊長も案内役も思わず目を見開く。とはいえ、それなら問題ないだろう、と衛兵も改めて承諾を示した。


「まぁ、それなら問題無いでしょう。ただ何をしにか、ぐらいは教えて貰えますか? 他の奴の仕事に差し障るんで……」

「ああ、調査ですよ。先代のリデル公のご命令です」

「……」


 とどのつまり先代様直々のご命令だから答えられない、ってことか。一見すると柔和に笑いながら答えた様に見え、その実はぐらかしている様子のカイトに衛兵の隊長はそう理解する。

 流石に公爵家に仕え、隊長格にまでなっているのだ。この辺の機微は理解しておかねば出世なぞなかった。というわけで、彼は若干不承不承ながらも一つ頷いた。


「……わかった。先代様の命令だって話なら仕方がない……が、一つ約束してくれ」

「何なりと」

「地下の深い所での仕事で、やってるのも階段を地道な見回りでな。割りとストレスは溜まる仕事なんだ……あんたが仕事だってんならしょうがないし、それについちゃ俺も何も言わん。せめてあいつらの邪魔だけはしない様にだけは心掛けてくれ」

「胸に刻みましょう」


 衛兵の隊長の言葉に、カイトは優雅に一礼して頷いた。というわけで、彼の承諾を受けた衛兵の隊長は案内役からカイトの案内を交代。カイトをメンテナンス用の通路へと連れて行く。その道中、衛兵の隊長は念のために問いかける。


「一応、聞いておくんだが……なにか大々的な仕掛けとかをするわけじゃあないんだな?」

「それは誓って……ああ、一応ですが。皆さんの中に裏切り者が居る等の事ではございませんのでご安心ください」

「くっ……すまん。あんたはっきり言うね。それ、あんたみたいなのが言えば逆効果じゃないか?」

「事実ですので」


 これはこの執事なりの冗談なのかもしれない。衛兵の隊長はカイトの言葉にそう思う。というわけで、この様子なら本当に何か自分達に疑いを持たれているわけではないかもしれない、と衛兵の隊長の固さがわずかに解ける。というわけで、カイトはこの機に一つ問いかけを行ってみる。


「そういえば隊長さんは衛兵をされて長いんですか?」

「んぁ? そうだなぁ……長いって言えば長いか。何十年だかは忘れちまったが……つっても、ここ以外もしてるから。今はここ、って話か」

「各地を転々とされていたんですか?」


 実のところ、カイトはイリアから隊長の来歴は聞いていた。そして聞いていればこそ、実は彼を指定して案内する様にさせていた。


「ああ……だから実は『フンケルン』に来るのは二度目でな。今回の仕事は三年前に始まって、今年で終わりか」

「前はいつここに?」

「まだ新兵のぺーぺーの頃だ。初仕事がここの襲撃事件だった。あらぁ大変だった」


 かつてを思い出す様に、衛兵の隊長はかつての事を語る。それはおおよそ警察の資料と合致するものばかりだったが、いくつか気になる点が無いではなかった。


「ほう……では土属性に長けた魔術師が多かったと」

「まぁな……実はここだけの話。あの事件の時に同期の奴らとはもぐらたたきでもやってんのか俺ら、って笑い合ってたもんだ」

「もぐらたたき?」

「知らねぇか? 勇者様が日本の遊びだ、って遊技台を作られてて、今じゃ大抵のショッピングモールにあるけどよ」

「ああ、いえ。それは勿論存じております。ただなぜ土属性に長けた魔術師が多いのが、もぐらたたきになったのかと」


 機械的な制御を考えないのであれば、もぐらたたきは穴にモグラを潜ませてそれを上下するだけだ。なので子供騙し程度であればカイトでも作成出来て、そこからティナらの手が加わってもぐらたたきはエネフィアでは完成する事になっていた。というわけで、そんな彼の問いかけに衛兵の隊長はそりゃそうだと笑う。


「そりゃそうか。リデル領のショッピングモールにも常設されてるし、イリア様の側仕えしてる、ってんなら殊更知らないわけもない……あいつら街の至る所を穴ぼこにして、出てきては引っ込んでまた別の所に穴を掘って出てきて、を繰り返す奴らを俺らはもぐらたたきって言ってたのさ」

「なるほど。確かにそれはもぐらたたきだ」


 そして穴を作るのに長けているのであれば、もしやすると今回暗躍している裏ギルドは数十年前に『フンケルン』を襲った裏ギルドの系譜に属する者なのかもしれない。

 笑いながらカイトは衛兵の隊長の言葉からそう判断する。というわけで、適度に雑談――衛兵の隊長はそう思っている――を繰り広げながら歩く事十数分。メンテナンスエリアの最下層にたどり着いた。


「……ここが、最下層。有事の際は各オークションの宝物庫がここに一括して降りてくるわけだ」


 広さとしては大きめの体育館が数個入る程度の大きさだ。まぁ、移動経路の確保等もあるので、それぐらいの広さが必要だったらしい。とはいえ、そんな場所も今は空白になっていて見通しは非常に良い状況だった。そんな中をカイトは衛兵の隊長に案内されて中央まで歩いて行く。


「で、ここが中央……ここからなら他のオークション会場にも行けるが、どうする?」

「いえ、それには及びません……誰もいませんね」

「そりゃ、ここも毎日見回りはするが常駐してるわけでもない。人員には限りがあるからな」


 カイトの問いかけに衛兵の隊長は一つ肩を竦める。と、そんな彼を横目にカイトは床に手を当てて、用意していた軍用の探査機を取り出した。これに衛兵の隊長は大慌てで問いかけた。


「あ、おい。何するんだ?」

「仕事です……誰も居ない場所ですし隊長さんは問題なさそうなので明かしますが、おそらくその数十年前の裏ギルドの系譜に連なる者たちが襲撃計画を立てている様子です」

「は……?」


 いきなりの暴露に、衛兵の隊長は驚きに包まれる。まぁ、カイトもイリアもいつまでも黙って動くつもりはなかったし、どこかのタイミングでは隊長達に通達を出して警戒と準備を促す予定だった。なのでイリアの許可も取り付けており、この場なら誰も聞かれないだろうと明かす事にしたのである。


「お、おい。どういうことだ?」

「現在、オークションの各所で怪しい者たちが目撃されております。それを聞かれたイリア様により調査を命じられていたのです……そして判明したのですが、丁度この真下に空洞が出来ている様子。形状等から人為的な物でしょう……まだ後5メートルほどは下ですが」

「っ」

「っと」


 嘘だろう。衛兵の隊長が大慌てで地下を確認するための魔術を展開しようとしたその直後。カイトが即座に彼の魔術を停止させる。そうして彼は一つ頭を下げた。


「申し訳ございません……もし裏ギルドの奴らであれば今回こそは一網打尽に、というのがイリア様のご命令……魔術の行使はお控え願えれば。奴らにバレてしまいます」

「あんたも魔道具を使おうとしてたじゃないか」

「こちらは魔術を使わないもので、マクダウェル家よりお借りした品です。厳密には機械です」

「なっ……」


 そんなものまでマクダウェル家は持っているのか。カイトの返答に衛兵の隊長は目を見開く。とはいえ、マクダウェル家はカイトが興した家だ。持っていても不思議はないと即座に納得したようだ。と、そんな事を言っているとどうやら検査結果が出たらしい。小さな音が薄暗い空間の中に鳴り響く。


「っと……どうやら、ビンゴのようですね」

「……何なんだ、これ」

「地下の状態を可視化しているのです……この妙に色が変化している部分があるでしょう? ここが空洞……この様子だとまだここの更に地下5メートル程度の所で止めている様子ですね」


 カイトは探査機に取り付けられたモニターを確認しながら、現在の地下倉庫の更に地下の状況を説明する。


「ふむ……かなり大掛かりだな」

「ええ……あちら方向に伸びている様子ですね。すいません。少しこれを持ちながら動きますので、周囲の警戒だけお願いいたします。なるべく、他のオークション会場の衛兵達にも見付かりたくない」

「わかった。入る時には扉の上のランプが点く仕組みになってるから、俺の方で見ておく」

「お願いいたします」


 これだけ広ければどちらの方角に伸びているか確認するのはそこまで困難ではないだろう。カイトは検査機を持ちながらどちらの方角へ伸びていくのか確認することにするのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

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