第2747話 煌めく街編 ――地下倉庫――
かつて世話になった老紳士クラルテの墓参りの中継地点としてリデル領北部にある『フンケルン』を訪れたカイト。そんな彼はイリアから『フンケルン』の裏で暗躍する裏ギルドの影を知る事となり、『フンケルン』のオークション目当てにやって来ていたソラ達が巻き込まれない様に暗躍する事を決める。
というわけで、イリアと共に暗躍を開始したカイトであるが、そんな彼はイリアが買ったオークションの品の移送手配を整えるという体で会場を出て、オークション全体を取り仕切る実行委員会の案内役と共にオークションの品々が収められているという地下倉庫の確認を行う事になっていた。
「どうぞ、こちらへ」
「ありがとうございます」
カイトが通されるのは従業員用の通路を更に奥に進んだ一角だ。そうして建物の更に奥へと進んでいくわけであるが、どういうわけかたどり着いたのは最奥にある宝物庫とでも言うべき部屋だった。そこはやはり商品を運び出す関係からか一階の最奥で、地下倉庫ではなかった。
そこでは当然厳重な警備と管理がされていると共に、今現在行われているオークションに出品される品が逐一チェックを受けながら運び出されていた。そんな部屋にカイトは通される。
「こちらです……そういえばゼーゼマン様はこの施設の地下への入り口に入られた事は?」
「恥ずかしながら……実は地下倉庫へ立ち入るのは初めての事なのです」
「そうでしたか……確かにイリア様は立場上あまり『フンケルン』には立ち入られないので無理もない事なのかと」
少しだけ恥ずかしげに答えたカイトに、案内役は笑って首を振る。そうして彼は通信機を使って警備兵以外を人の出入りを確認する。
「……少々、お待ち下さい。今商品の搬出が行われている所ですので……」
「かしこまりました」
やはり地下倉庫は有名になっていない事からも秘密にされているものなのだろう。なので人が出払うのを待つ必要があるらしかった。そうして十分ほど。次のオークションの商品が持ち出されて部屋が閉ざされると共に、案内役が頷いた。
「おまたせいたしました……では、こちらへとうぞ」
案内役はそう言うと、奥まった所の壁を軽く触れる。すると魔術で作られたコンソールが現れて、それに案内役が特定の符号を入力する。すると、途端にがこんっとなにかが外れる音が鳴り響いた。
「少し揺れますのでご注意下さい」
「ありがとうございます」
なるほど、それで地下倉庫なのか。カイトは壁の外でなにかが動く気配を感じながら、そう思う。そして動いた事に気付けぬほどに静かに、宝物庫が地下へと降下を始めた。
「どうです? 動きには一切問題はありません。有事の際にも問題なく動く事をお約束致します」
「ありがとうございます……先のメンテナンスはいつ頃? 半年に一度の定期メンテナンスがあったかと思うのですが」
「そうですね……確か先月だったかと記憶しております。十年に一度の大幅改修が最後に行われたのは……五年前でしたか」
「ああ、そちらは存じております……業者について、後ほど資料を頂いても?」
もし裏ギルドが何十年も準備をしてきたのなら、業者に偽装して入り込んでも不思議はない。カイトはそう考えたようだ。そしてこれに案内役ははっきりと頷いた。
「かしこまりました……っと、そろそろもう一度揺れます。少しだけご注意を」
「あ、はぁ……」
そろそろ停止かな。カイトはそう考え案内役の言葉に頷いておく。が、その次の瞬間一度緩やかに動いていた動きが停止し、今度は下ではなく横方向へ動き出した。そうして更に十数秒で動きが完全に停止する。
「……到着しました。『フンケルン』地下100メートル。秘密の地下倉庫に到着です」
「あちらの魔法陣は他の倉庫に?」
「ええ。それと共にこの機能が使われる際には有事が想定されており、商品の破損が考えられます。なので実行委員会の建物にある修繕要員が待機する待機エリアが一緒に降りてくる事に……が、当然今は繋がっておりませんので調査に関しましてはご容赦頂ければ」
「ああ、いえ……無理を言って動かして頂いたのです。そこまでは」
可能なら全ての宝物庫が地下に移動するか確認したい所だったが、他は他で動いているし下手に第ダイ的に動かすと向こうに気取られる可能性もある。なのでイリアもそれについては一旦横に置いておく様にカイトに指示を出していた。
「……少し壁を確認させて頂いても?」
「構いません……魔結晶でコーティングされた特殊な壁です。勿論、壁や床。天井にも同様のコーティングがされています。これを打ち砕く力を使うのなら、必然中の商品も完全に崩壊するでしょう」
「そうですね。私も壁やら天井やらを破壊しての押し入り強盗は考えたくない」
せっかく攻め込んでも中の物を自分たちで破壊してしまっては意味がない。カイトも案内役も万が一裏ギルドがここに攻め込もうとしても破壊という方法は取らないだろうと考えていた。そうしてカイトが壁に手をあて意識を集中させ、十数秒。沈黙を保つ彼に案内役が少し訝しんで問いかける。
「……何かありましたか?」
「……いえ、壁のコーティングは問題無い様子です。もしメンテナンスで私が細工をするのなら、壁の一部のコーティングを剥がす事を企むのですが。本当に微細でも良い。蟻の一穴にさえ出来れば後は内側から軽く爆発させれば良いのですからね」
「あ……」
もしそんな事をされていれば。カイトの指摘に案内役は目を見開く。これに案内役が一つ頷いた。
「すぐに他の倉庫でも確認させましょう」
「その方が良いでしょう」
この様子だとその想定はしていなかった、という事か。カイトは案内役の様子からそれを理解する。が、同時にそれならばこのメンテナンス業者はかなり長い付き合いがある所なのだとも理解する。
「それはさておき……あまり長くはここに置いてもおけないでしょう。ありがとうございます。もう大丈夫です」
「わかりました」
一度の競売で掛かる時間はやはり商品によって異なるが、よほどが無い限り二十分も三十分も掛かるわけではない。バレない内に動きたい所でもあったので、あまり長い間地下に倉庫を移動させてもいられなかった。
というわけでカイトの要請を受けた倉庫は上へと上がっていき、カイトは再度案内役に案内されて最初に通された個室に移動。そこで案内役とは別れて、自分はイリアの所へと戻るのだった。
「お嬢様。戻りました……お飲み物もご用意させて頂きました」
「あら、気が利くのね」
「ありがとうございます……どうでしたか? 他の品も見てみてご興味は」
「今の所、実際に見てみて思ったものは無いわね」
執事を演じるカイトの問いかけに、イリアは笑って首を振る。そうして一つ演技をしている間に、競売が終了する。今回の商品はとある有名な画家の絵だったようだ。こちらもかなりの高値で取引された様子だった。
「……で?」
「ああ……ここの倉庫には何も仕掛けられていなかった」
「そう」
まぁ、そんな所だと思ってはいたけど。カイトの返答にイリアは杞憂だったと安堵する。が、即座に彼女はカイトの言葉がおかしい事に気付いた。そして即座に思考を巡らせ、その意味を理解した。
「……そう。前にも言ったけど、はっきり言いなさいな」
「あはは……まぁ、そんなわけだ。同じ系譜かは知らんが、どうやら周到に準備は進めていたみたいだな」
「みたいね……よくやるわ。でもそうなるとちょっと捜査範囲を広げた方が良いかもしれないわね」
「そうだな……流石にオレも先までは見通せなかった。魔結晶の突破はやっぱり厳しいわ」
「やれるあんたが恐ろしいわ」
カイトの返答にイリアは深くため息を吐いて首を振る。魔結晶に加え様々な魔術的な防備まで施された施設の状態を手を当てて十数秒で見抜くのだ。恐ろしい腕前と言うしかなかった。
「ま、そこはいろいろな伝手でやらされてるって事で一つ」
「やらされてる、ってあたりに哀愁が漂うわね……」
「あはは」
イリアの言葉にカイトは笑う。まぁ、笑うしかなかったので笑っているだけだった。とはいえ、これで何者かがオークションを狙って事件を起こそうとしている事がわかった。なので二人はオークションに後は一応参加している風を装って、次の作戦を立てるべくホテルへと戻るのだった。
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