第2731話 合同演習編 ――最後の一押し――
皇帝レオンハルト主導で行われていた合同軍事演習三日目の午後。残り二時間となったタイミングで『神』を召喚して戦っていたカイトであったが、単騎での戦いで一柱。
更にはティナ達が合流後は更に一柱の『神』を撃破し、流石に魔力量の関係からここらで離脱するべきだろうと判断。攻撃を受けた反動で『神』の召喚が解除された、という体で『神』と『神』の戦いから離脱。ティナに後の事を任せた彼は『神』の召喚解除とタイミングを合わせて飛来したエドナに再び乗って状況の確認に努めていた。
「ソラでも先輩でもトリンでも良い。誰か通信機に応じられるか?」
『あ、なんですか? ソラはちょっと前に出てるので、僕で良ければ僕が』
「トリンか。すまん……状況を教えてくれ。『神』の顕現は解除したから、ここからは再び戦線に戻る」
『あ……本当ですね。わかりました。状況を報告します』
ソラも瞬も最前線を進み続けているのかな。カイトはトリンの反応からそう理解する。というわけで、現状について彼からざっと報告が上げられる。
『現状ですが、おそらくそちらで別行動をされた方が良いと思われます』
「まぁ、そうなるか」
『ええ……ただ現状は想定よりは進めていると思います』
「ということは、レクトール……グリムは抜けたか?」
『はい。こちらも部長連に少なくない被害は出ましたが、なんとか……ピュリさんが復帰して下さった事。あちらの本家筋……いえ、西部バーンシュタット家筋の方々が参戦。瞬さん達は一旦回復後、戦線を預けて前線を進む事に』
瞬や部長連をまとめて相手しても余裕を見せられたレクトールだろうが、流石にピュリやその他<<暁>>の幹部達といった生え抜きの冒険者達をまとめて相手をして余裕は見せられなかったらしい。
ピュリ側も撃破までは至る事は出来なかったが、どちらも足止め程度にはなれたようだ。結果、瞬達は一度撤退。レクトールを迂回して前線へと進む事になったそうだ。
「そうか……ソラは?」
『あちらもバーンタインさんが足止めになり、冒険部として進んでいます』
「そうか……どこらあたりだ?」
『そちらから……大体500メートルほど前方右側です』
「あそこか」
カイトは丁度舞い上がった雷撃を見て、これが瞬のものだろうと理解する。そして案の定魔力で視力を底上げしてやると、彼が最前線で敵陣を切り崩している様子が簡単に見て取れた。
「問題は……なさそうか」
『そうですね。事ここに至るともう一介の中堅ギルドでしかありませんので……』
「だな……ああ、助かった。確かにこれなら合流するより遊撃兵として動いた方が良さそうだ」
このまま冒険部に合流したとて、ちまちま前線を突き崩すしか出来ないだろう。カイトはそれならと自身は遊撃として動く事を決める。そして決めたなら、即行動だ。とはいえ、好き勝手して良いわけがないので、カイトはひとまず別の所に連絡を入れた。
「おーう。そっちどうよ」
『あ、大将。お遊びは終わりか?』
「お遊びは終わりってか……オレらからすりゃこの戦い全部がお遊びみたいなもんだろ」
『まー、そりゃそうか』
連絡を取ったのは<<無冠の部隊>>のオペレーターだ。こちらの機動部隊が同じように遊撃隊として活動していたはずで、突破口を開いておくという話だった。それがどうなったかの確認だった。
『で、機動部隊の状況か?』
「そそ。アイラちゃん達どうしてる?」
『シスターズなら大将の前800メートルぐらいの所で防衛側の飛空艇の艦隊と遊んでる。あそこが最終防衛ラインだな』
「なんだ。突破出来てないのか」
『突破してない、だな。ウチの場合。レジスタンスの人達って存外機動力無いみたいだぞ。個々にはあるんだろうが』
天馬やら龍族で構成された機動部隊は古臭いように思われるが、<<無冠の部隊>>の機動部隊になると飛空艇では到底相手にならない。やろうとすれば二、三人も居れば一般的な貴族の飛空艇部隊には十分だ。機動部隊が総掛かりで突破出来ない事は早々なかった。
「そうなのか?」
『みたいだな……いや、よくは知らんしハイゼンベルグ公だから何かしらやられてても不思議はないけどよ』
「それもそうか……」
あの爺とレヴィなら機動力のなさを理解していないはずはないだろうし、無いなら無いで何か手を考えていても不思議はない。オペレータの言葉にカイトもまたそう納得する。
とはいえ、現状機動力に乏しい事は乏しいようだ。<<無冠の部隊>>の機動部隊はレジスタンスの戦士とは交戦していない、との事であった。
「まぁ、良いや。とりあえずあんまり攻め込めてない状況で終わらせたくもない。そろそろ仕掛けて良い頃合いだろう」
『それもそうだな……わかった。こっちで各所に通達して、輸送艇出せるようにしとく』
「頼む。こっちはアイラ達と合流して穴を空けておく」
『あいよ。おーう。大将動くそうだぞー』
『あいよー』
相変わらずウチのオペレータ共はお気楽だな。カイトは通信機の先で響く声に、僅かに笑う。というわけで、そんな彼らに後の調整は任せる事にしたカイトは改めて気合を入れる。
「うっしゃ。じゃあ、やるか……」
『後ろに回り込めば良いのね? ただ近くだとバレるから、少し遠目に飛ぶわ』
「上出来……じゃ、やりますか」
先程とは違い今度はエドナに語りかける。というわけで、エドナが虚空を数度蹴って加速。次元の扉を開いて、一気に敵陣の真裏に移動した。
「っしゃ……じゃあ、最後の一押しやりますか」
『あまりはしゃぎすぎないようにね』
「あいよ」
エドナの言葉にカイトは少しだけ苦笑して、編み出す武器の数を少しだけ抑えめにしておく。まぁ、そう言っても数千作るのを数百に抑えた程度。大した差はないだろう。
「こちらカイトこちらカイト……裏側で待機中」
『げっ』
『うわっ』
『あ、カイト』
「おい、今あからさまに嫌そうな声出したのどいつだ」
攻撃前に機動部隊に向けて連絡を入れるか、と通信機を立ち上げたカイトであったが、そこで響いた嫌そうな声にツッコミを入れる。そんな彼に、<<無冠の部隊>>の隊員が問いかける。
『気の所為気の所為……で?』
「はぁ……まぁ、要件はさっき言った通り。そっちの裏で待機してる。突っ込むから、後からくる輸送艇の護衛任せるわ」
『もうやるの?』
「もう、ってかそろそろやらんと時間的にキツい。ま、ラス一時間で要救助者を確保しつつ、って流れで良いだろう。あんまり優劣付けすぎると禍根に繋がるからな」
今回はどうしても大半の皇国貴族が参加している大規模な演習だ。そこで禍根を生むと後々面倒になりかねない。なので最終的な戦果としては痛み分けで終わらせたい、というのがカイトの思惑だった。無論それはハイゼンベルグ公ジェイクやレヴィも思っていた事だった。
『それもそっか』
「そういうこと……思えば爺共が機動力に乏しいのもそこらがあるんだろう。ウチも来てるの三分の一ぐらい……いや、それ以下か。今回演習って話だからシスターズとか機動力も高く総合力も高いのが居るっちゃ居るが……それを抜きにしてもガチ戦闘員は来てないしな。レイは一応来たけど、ラカムは居ないしって感じだろ?」
『あー……』
それもそうか。<<無冠の部隊>>の隊員達は若干手ぬるさを感じる対応に納得したようだ。何より彼らが総力を上げたらそれはもう合同軍事演習というより、<<無冠の部隊>>とレジスタンスの戦士達による演習だ。諸侯たちが立ち入る隙きがなくなってしまう。結果、華を添える程度になっていたのであった。
「ま、良いや……とりあえず突っ込むぞー」
『了解。こっちもそれが終わったら突っ込んで、大穴を空けるわ』
「頼む」
カイトの立場上出来るのは陽動程度だ。というわけで、会話の終了と同時にエドナが再度加速。最終防衛ラインの内側から、<<無冠の部隊>>が交戦する一角に向けて一気に距離を詰めた。
「おらよ!」
「何だ!?」
「砲撃!? どこからだ!?」
「後ろ!? なんだ!? っ! また奴か!」
まぁ、防衛側からすればいきなり自分達の後ろから攻撃が加えられたのだ。何事かと慌てふためくのも無理はなかった。が、それも白馬に乗った白いコートの男だと気付いた時点で、カイトがエドナによって転移したのだと理解。即座に迎撃の体勢を整えようとする。
「エドナ。後は好きに飛んでくれ。オレは適当に攻撃してく」
『遊覧飛行、ということね』
「そうだな。魔弾に関しちゃこっちで全部撃ち落とすから、本当に好きに飛んで良いぞ」
最終防衛ラインを構築する飛空艇の後部に取り付けられた魔導砲を見ながら、カイトは準備しておいた数百の武器を改めて発射準備状態にしておく。
そうして後部に取り付けられた魔導砲から対空砲火の魔弾が発射されるのを見て、彼もまた魔弾を相殺する形で武器を射出。更にエドナが縦横無尽に飛び回り、最終防衛ラインの各所へと被害を与えていく。が、そんな事をすれば後は<<無冠の部隊>>の餌食だった。
「っぅ!? 何だ!?」
「報告! <<無冠の部隊>>が攻勢に出ました!」
「っ! やはりタイミングを合わせられたか! 前面の障壁、出力最大! リミッター解除!」
「了解! リミッター……っ!?」
「「「!?」」」
こう来るだろう。ある飛空艇の艦橋に居る者たちは即座に前面の防御を厚くしようと行動に入る。が、それを許すほど<<無冠の部隊>>の戦闘班は甘くなかった。そうして、カイトが攻撃を仕掛けたと同時に数十隻の飛空艇が同時に轟沈する。
『凄いわね……一人一隻? にしては多いから……』
「一人二隻か三隻まとめてやった奴もいそうだな」
防御する隙きさえ与えずの速攻戦にカイトもエドナも感心する。そうして出来上がった防衛網の大穴に、こちらの攻撃を見越して準備を整えていた要救助者を搬送するための輸送艇を連れた部隊が突入する。
『輸送部隊が突入します! 付近の戦闘員は援護を!』
「おっしゃ……じゃあ、後一時間。頑張りますかね」
響くオペレータ――こちらは作戦総司令部からの物――の声に、カイトは演習も終わりが近付いている事を認識する。そうして、彼は残りの一時間で出来る事をするべく再度行動に入るのだった。
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