第2723話 合同演習編 ――参戦・再び――
皇帝レオンハルト主導で行われていた合同軍事演習三日目の午後。両軍共に切れる切り札を全て出しきり、演習は遂に佳境を向かえていた。
そこでカイトとソラはそれぞれレジスタンスの戦士達の中でもトップクラスの猛者と言われるスーマルとソンメルの兄弟と交戦。更にそこにカイトには英雄としてのユリィが。ソラにはバーンタインが増援として駆けつけ、二対一の戦いを演じていた。
「ふむ……」
そんな光景を遠くのマクダウェル家の旗艦から、ティナは見ていた。まぁ、彼女の仕事は全軍の総指揮だ。特に重要なカイト達の動きを見るのは当然だろう。とはいえ、そんな横には先程までとは違って<<無冠の部隊>>のオペレーター達が準備を進めていた。
「姉さん。全員の準備整いました」
「うむ……おおよそどこに誰がおるか、というのはわかったな?」
「大体は。それと情報もある程度整いました」
本来は<<無冠の部隊>>の参戦とレジスタンスの戦士の参戦を同時にした方が良かったのかもしれないが、ティナは敢えて一時間ほどずらして参戦する事を選択していた。
「うむ……如何せんレジスタンスの戦士達は情報が少ないからのう」
「姉さん、確かレジスタンス軍が活動した百年後ぐらいに魔王になってたんじゃないでしたっけ」
「まぁ、そうじゃし何人かは知っておるが……あんまり関わってはおらんかったのよ」
今思えば無理もないかもしれないが。ティナは自分さえ殆ど見知らぬレジスタンスの戦士達を見ながら、改めて自分の身の上を思い出す。
(まぁ、余に顔を合わせられぬと思うておった者も多かったんじゃろうが、何より父上を慮っての事じゃったのじゃろうかのう。結果、余も殆ど情報が無い)
となると、ある程度情報を集めないと相性ゲーで痛い目に遭う可能性が高くなってしまう。ティナはそう考え、敢えて多少の被害を被る事を承知で<<無冠の部隊>>の出番を遅らせたのだ。
「さて……で、余力は残せと言うて守っとらんじゃろうウチの大馬鹿は?」
「最前線でソンメルさんと戦ってます……結構やりますね、あの人。大将相手に割りと本気で善戦してますよ」
「神の子ソンメルじゃからのう」
色々とカイト側に本気になれぬ理由があるので一言で彼が強いとは言い切れないが、ユリィは割りと本格的な参戦だ。なのでそれらを考えれば、十分にソンメルは強いと言い切れただろう。
「ま、それはそれとして……そろそろこちらも本格的な攻勢に出るとするかのう。総員、出撃準備。遊撃隊はカイトを確保後、一気に突破じゃ」
『うーっす』
『とりま総大将確保して後は流れで』
『おい! ここに大量に大砲置いたの誰だ!? 邪魔だ!』
『それで開幕花火上げるんだよ! 派手にやられて負けてられるかってんだ!』
『競うな競うな!』
『いや、派手に行こうぜ! 大将も喜ぶって!』
「あいっかーらずウチの馬鹿どもは五月蝿いのう……」
やれやれ。ティナはこれから自分達が切り札になろうというにも関わらず、まるでお祭り騒ぎな<<無冠の部隊>>の戦闘班にため息を吐く。まぁ、これが彼らの持ち味だし、強者たる所以だ。好きにさせるつもりだった。というわけで、彼女らが見ている前で何百発もの魔弾が放たれて、巨大な閃光が上がるのだった。
さて巨大な閃光が上がった瞬間。カイトはユリィと共にソンメルと戦っていたわけであるが、その三人のど真ん中にも魔弾が着弾。巨大な花火を生み出した。
「おぉ!? 派手にやるね! どこの誰だい!?」
「っぅ……流れ弾……じゃねぇな!」
こんな馬鹿な事をするのは限られている。カイトはその限られた答えが自分達しかいない事を理解すればこそ、ど真ん中で上がった花火に笑うしかなかった。と、その次の瞬間だ。彼の後方の彼方から、純白の閃光が接近する。
『カイト』
「りょーかい!」
自らを呼ぶ声で全てを察したカイトが、慣れた手付きで真横を通り抜ける瞬間に速度を合わせてエドナに飛び乗る。が、流石に彼を逃すわけにはいかないだろう。ソンメルも即座に火炎を翼の様にして追撃の姿勢を見せる。
「おっと! 流石に逃がすわけには、っと!」
『させません!』
「おっと……」
迸る衝撃波に、ソンメルは残るユリィ側にも増援があった事を理解。炎の翼をはためかせて急旋回して改めて彼女らの側を見る。そこには伊勢と日向を従えたユリィの姿があった。
「っと……どうやら、そっちも来たみたいだね」
「流石にそろそろやんちゃも止めないといけないからね」
「あはは……」
どうやらここからはお遊びもしていられないらしい。ソンメルも改めて気合を入れて腰を落とす。そうして再度戦いが始まる一方で、エドナに乗ってその場を離脱したカイトは戦場の上空を駆け抜けながらティナに状況を問いかける。
「ティナ……ウチの馬鹿どもが参戦って事でオケ?」
『それで構わん。派手な信号弾も上がったじゃろう?』
「派手過ぎるわ」
戦場に数百発もの花火なぞ、まともな神経をしていては打ち上げられないだろう。そこかしこで派手に上がる花火を見ながら、カイトは呆れ返っていた。とはいえ、こんな派手な花火だ。戦場の誰しもが何事かと見上げ、<<無冠の部隊>>の到来を理解する。
『カイト! 聞こえてる!? 通信機のブースト機能使ってみてるんだけど!』
「聞こえてる! はっきり聞こえてるから声量を抑えろ! いっつぅ……」
耳元で響く大声に、カイトが顔を顰める。それに、声を送った女性が謝罪して声量を抑える。
『あ、ごめん……機動部隊、突撃可能。要所要所には支援も』
「了解。そっちは頼む。行動を共にしたくない」
『え? 良いけど……大丈夫? 貴方本気出せないでしょ?』
「良いよ……それより下手に一緒に居て要らぬ疑いを持たれたくない」
本来なら自分が突破口を開いて<<無冠の部隊>>の面々で攻め落とすのが最良なのかもしれないが、カイトは今回は各国大使も居る事からあまり<<無冠の部隊>>と同行するのは避けたいと考えたようだ。
『大変ね』
「大変だ……まぁ、そういうわけだから突撃は任せる。ま、アイラ達なら問題無いだろ。頼むわ」
『了解。こっちで突破口は開いておくわ』
本来の流れになるだけといえば、本来の流れになるだけ。アイラと呼ばれた女性隊員はカイトの指示に了承を示して、部隊を率いて各所に向けて攻撃を仕掛けていく。
『カイト。私達はどうする?』
「とりあえず戦況を見極めたい所だが……」
<<無冠の部隊>>。レジスタンスの戦士達共に参戦した事により、戦況は大きく変化を迎えていた。
「ややこちらが優勢か……こうなってくると、重特機をもう一度出したい所だが」
『できんよ。流石にあれ以上使うと重特機側が保たぬ。試作品じゃからのう』
「あいあい……で、オレ何すりゃ良い?」
こういう時はさっさとティナに次の方針を貰った方が早い。カイトはそう判断して彼女へと問いかける。
『お主は遊撃兵として敵陣をとにかくかき乱し、こちらの突破口を開け。せっかくの機動力を活かさぬ道理はあるまい』
「あいさー……あ。そういやタイムリミットは後どれぐらいだ?」
『後……四時間。それが演習終了までの時間じゃ』
「あいよ。オレはラスト二時間で一気に仕掛ける。それでやれる所までやって、で良いだろう」
『まー、それで良いじゃろ。後は野となれ山となれ。ここまで来たら流石に下手な策も通用せん』
戦場は完全に広がりきり、強者達もそこかしこで戦っている。正しく乱戦状態と言うしかなく、下手に戦略兵器を打ち込めばそれだけで自軍も巻き込みかねない状況だ。後は各員の奮戦に期待するだけであった。と、そんな風に同意したティナであったがふと小首を傾げた。
『む? 残り二時間? やけに長いの。せめて一時間にせい』
「ああ、全体はそれで良いよ……残り二時間の半分は盛大に暴れてやるさ。で、残りの半分はお任せ、って事で」
『場を譲るというわけか……何をするつもりじゃ?』
「いや、ちょーっと派手さが足りないと思ってな。もうちょっと派手な札を切ってやろうと思う次第」
この男、最後の最後に何かを仕出かして高みの見物と洒落込むつもりらしい。ティナはカイトの返答にそう理解する。
『派手な、のう……もしあれじゃったら余も付き合うが? そろそろ余も出て大暴れして終わる、というのも面白かろう』
「ああ、良いね。お前が付き合ってくれるなら丁度よい。向こうも盛大に出してくれるだろうからな」
『ほう……なにやら面白そうな展開を考えておる様子じゃのう』
どうやらティナの提案はカイトの琴線に触れたらしい。彼がそれは名案とばかりに牙を剥く。そうしてカイトはティナへと自身が考える最後の一手を伝え、ティナもそれに楽しげに乗っかる事にするのだった。
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