第2722話 合同演習編 ――炎の子ら――
皇帝レオンハルト主導で行われていた合同軍事演習三日目。そこでカイト率いる冒険部は作戦本部の指示により午前中はバーンタインの支援。午後からは本格的に戦闘に臨む事になっていた。
といういわけで、午後からは前線に出たカイト達であったが、カイト当人はレジスタンスの戦士であるソンメルと。ソラはその兄にして拳闘士であるスーマルとの戦いを繰り広げる事となる。そこで発覚したのは、スーマルとソンメルの兄弟が炎神の子であるという事実であった。
「なぁ、<<偉大なる太陽>>。お前スーマルさんのお父さん? 知ってるんだよな?」
『無論だ。アイリブ神……炎神アイリブ。お前も前に月の神使殿の仲介でお会いさせて頂いたはずだ』
「殆ど覚えてねぇよ……」
『……まぁ、仕方があるまいか』
あの時は本当に緊張しており、半ば記憶を失っているような状況だったからな。<<偉大なる太陽>>は当時の状況を思い出し、それも仕方がないと認める。というわけで、<<偉大なる太陽>>はソラへと改めて炎神アイリブの事を語る。
『アイリブ神は今更言うまでもなく、炎……火を司る神だ』
「格はかなり高そうだな」
『高いな……それであの二人だが、すまんが詳しくはわからん』
「どういうことだ?」
『アイリブ神とエルネストはあまり関わりがなかったのだ。故にお会いした事はなかった。噂には聞いた、程度か』
ソラの問いかけに、<<偉大なる太陽>>は首を振る。
「少なくともお前の担い手がエルネストさんの頃に二人は生まれた、ってわけか?」
『おそらくな……といっても、流石に全ての御子を存じているわけでもない。なので詳しくはわからん』
「その頃……今で言う所のルナリア文明末期か。戦争にはほぼほぼ関わっていない。子供だったからな」
二人の会話を聞いていたらしいスーマルがおおよその自身の生まれを語る。これに、<<偉大なる太陽>>が問いかける。
『そうでしたか……戦後は?』
「残滓を残したフロム様と神官達の下で養育された。だからかイマイチアイリブ神に父という印象がなくて困る」
『致し方がない事かと』
少し困り顔のスーマルに、<<偉大なる太陽>>は無理もないと口にする。なお、フロムというのはもう一人の炎神だ。
「まぁ……そりゃ兎も角だ。どうにせよ強いってわけか?」
『それは間違いない。ただでさえ英雄だと言われていたのに、まさかアイリブ神の御子であらせられたとは』
「そういや、さっきフロム様って出てたよな? あれは? 巫女か何かか?」
『あちらはもうひとりの炎神だ。それぞれ司る分野が異なる』
「なるほどね……」
同じ分野にも関わらず別に司る神が存在する、というのは地球の神話を含め少し勉強をしたソラも知っている。例えばギリシア神話のアレスとアテネなぞその筆頭だろう。どちらも戦神だが、まるっきり別の神だ。多神教ならではの現象と言えただろう。
『フロム神は謂わば炎の柔らかな面。アイリブ神は炎の苛烈さの面を司る。更に言えばアイリブ神にはそれ故に戦神としての側面も有している。無論、有しているだけなのでそこまで強いわけではないが』
「まーじか」
つまり戦神の子と戦っているようなもんか。ソラはそれが喩え一側面であったとて、そう考えるべきと考える。そうしておおよその解説が終わった所で、スーマルが問いかける。
「まぁ、そんな所だ……それで、大体俺の事がわかった所で。そろそろ良いか?」
「……うっす」
どうにせよ逃げられるものではない。何よりソラは<<偉大なる太陽>>を持つのだ。スーマルが興味を持っても仕方がない事だっただろう。ならばソラも覚悟を決めねばならないだろう、と頷いた。
「では……うん?」
「え?」
小首を傾げるスーマルの様子からソラも自身の後ろに何かが立った事に気付いて振り返る。そうして振り返った先に居たのは、バーンタインだった。
「よぉ、ソラの小僧。何度も世話になっちまったな」
「バーンタインさん……もう大丈夫なんっすか?」
「おうよ……と言いてぇ所だが、流石に完全回復は無理だ。が、ユリシアの叔母上が気を利かせて上等な回復薬を届けて下さってな。そいつをがぶ飲みした」
「え?」
バーンタインの言葉にソラが上を見る。すると丁度そこでは純白の光条が迸っており、その発生源には大きくなったユリィの姿があった。どうやら今回はユリシア・フェリシアとしての参戦としたらしい。
まぁ、今回は冒険部ギルドマスターとして参戦したカイトがいつまでもソンメル相手に善戦出来てもおかしいだろう。その偽装として、ユリィは英雄として参戦したのである。
「ま、そりゃ良い……とりあえず貰っちまった以上は精一杯働かせて貰うぜ。何より、炎神アイリブの御子様なんだろ? 俺がやらねぇで誰がやるってんだよ」
「……」
にたぁ、と牙を見せて笑うバーンタインに、スーマルもこれは楽しめそうな相手が来たと無言で笑う。これに、バーンタインが告げる。
「炎帝の子と炎神の子……どっちが強いか決めようぜ」
「良いだろう……そこのシャムロック様の神使はそのまま参戦させろ。流石に消耗しきった貴様ではそれぐらい含めてで丁度良い」
「そうかい……ソラ。お前さんは適時俺の支援やれ。表にゃ出るな。流石に神格を解放した御子は今のお前さんじゃ荷が重い」
言われなくてもソラはそうするしかなかった。なにせ今でさえ苦戦は免れなかったのに、この上で神の力まで解放してくるというのだ。もはや相手にならない事なぞわかりきった話だった。
というわけで一瞬で合意がなされた後、両者の間で僅かな沈黙が流れる。そして、数瞬の後。カイト達の戦闘の流れ弾の一発が両者の間に着弾し、爆炎が上がった。
「おぉおおおお!」
爆炎が舞い上がる中、炎を纏ってバーンタインが雄叫びを上げて地面を蹴る。しかしやはりパワーファイターであるバーンタインより、スーマルの方が速かったらしい。爆炎を切り裂いたのはスーマルの方だった。
「っ」
先程のソラとの戦いがお遊びだったのでは。そう思えるほどの火炎を腕に宿しながら、スーマルが腕を振りかぶる。これに、バーンタインもまた大斧ではなく炎を宿した拳を振りかぶる。
「「はぁ!」」
クロスカウンター。両者の拳が激突し、炎と炎の衝突により爆発が起きる。その威力や凄まじく、両者でさえ堪えきれず地面を大きく滑り距離が空いていた。そこに、ソラが突っ込んだ。
「おぉ!」
「はっ!」
迫り来るソラに向けて、スーマルは気迫を漲らせて全身から魔力を放出する。これに一瞬ソラが押し負けるが、それで十分だった。
「おぅらよ!」
ソラが一瞬スーマルを食い止めた隙きに、バーンタインが大斧を大上段に構えて振り下ろす。これに対してスーマルは炎を収束させ即席の盾とした。
「ちっ!」
「っと……流石にその直撃はマズイか」
別に炎の盾は食い止めるつもりはなかったようだ。スーマルは炎の盾に激突し大斧が一瞬だけ停止した瞬間、その範囲から逃れていた。そうして振り下ろした所へ、後ろへ引いたスーマルが炎を拳として打ち出した。
「はぁ!」
「っ」
「防ぎます!」
即座の反撃に一瞬炎を滾らせて防ごうかと考えたバーンタインに対して、即座に再度ソラが割り込んで盾を構える。咄嗟の反撃なら十分に防げると踏んだのだ。とはいえ、やはり神気を解放したスーマルの一撃だ。防げても威力は凄まじかった。
「ぐっ!」
「助かった! が、無理はするなよ!」
「うっす!」
僅かに仰け反ってよろけたソラの真横を駆け抜けながら、バーンタインがソラへと礼を述べる。それにソラも体勢を立て直し次の攻撃に備えるべく魔力を蓄積させながら、頷いた。
「おぉおおお!」
「ふんっ!」
再度雄叫びを上げて迫り来るバーンタインに対して、こちらも体勢を整えたスーマルが地面をしっかりと踏みしめる。そうして彼もまた総身に炎を纏って、それを全て右手に収束。巨大な炎の拳を生み出した。が、これにバーンタインが笑みを見せた。
「久々に行くぜ、<<冷王斧>>!」
「っ!」
バーンタインの持つ大斧に宿る異質な力に気付いて、スーマルが思わず息を呑む。そうして主人の命令を受けた<<冷王斧>>が蒼い輝きを放ち、巨大な炎の拳と激突した。
「は?」
起きた現象に、少し離れた所でタイミングを見計らっていたソラが困惑する。見たままを言えば、炎の拳が砕け散った。いや、より正確に言えば炎が砕け散るという摩訶不思議な現象だ。が、戦う両者はこれを不思議と思わなかったようだ。迫り来る大斧にスーマルは即座に次の手札を切った。
「ちっ! おぉおおおお!」
流石にスーマルも大斧を片手で防ぐ事は無理だったようだ。彼は炎を両手に収束させて籠手の様に纏わせると、雄叫びを上げてそれを支える。そんな二人の激突の余波で強烈な炎が周囲にほとばしり、僅かな硬直が生まれる。
「はぁ!」
膠着状態を破ったのは、裂帛の気合を放ったスーマルだ。彼は総身に魔力を蓄積させると、それを爆発の様に解き放ってバーンタインの身体を強引に押し出したのだ。そうしてバーンタインが押しやられた瞬間を狙い澄まし、ソラが<<偉大なる太陽>>の切っ先から黄金の光条を放った。
「<<浄化光>>!」
「ふっ!」
放たれる光条に対して、スーマルは裏拳の様に拳を振るって明後日の方向に弾き飛ばす。そうして明後日の方向に弾き飛ばされた光条であるが、上空に弾き飛ばされたと同時に無数に分裂する。
「<<降り注ぐ光>>!」
「ちっ」
どうやら立て直す暇は与えてくれないらしい。スーマルは降り注ぐ無数の光弾に一つ舌打ちする。が、この程度なら無視出来ると判断したようだ。彼は降り注ぐ光弾に対して僅かに気合を入れて障壁を分厚くして対応する。これにソラが目を見開く。
「マジかよ!? 口決まで入れてんのに!?」
『それが御子のお力だ』
「どっちの味方だよ!」
<<偉大なる太陽>>の言葉にソラが思わず声を荒げる。とはいえ、その一方のスーマルはバーンタインに対しては思った以上に強かったと判断したようだ。彼の腕に宿っていた炎が更に収束し、真紅の籠手に変貌する。
「ふぅ……久しぶりだな、これを使うのも」
「っ」
籠手を装着して改めて呼吸を整え構えを取りながらも楽しげなスーマルに、バーンタインは相手が本気になってきたと理解する。というわけで彼もまた気を引き締めて、さらなる戦闘に備える。そうして先に地面を蹴ったのは、やはりスーマルだ。
「ふっ」
「っ」
「はっ」
「くっ!」
速さこそ、先程とさほど変わらない。が、拳の鋭さは段違いに上がっており、バーンタインも防いだもののしかめっ面が浮かんでいた。というわけで、彼は敢えて堪えきらずに反動でその場から離脱する。
「ソラ!」
「うっす!」
このまま放置するとバーンタインが追撃を受けるだけ。それを理解していたソラは、バーンタインに言われるまでもなく地面を蹴っていた。そうして案の定追撃に入ろうとしていたスーマルの眼前に躍り出る。
「少年。堪えてみせろよ」
「っ」
敢えて声を掛けてくれたのはスーマルの優しさだろう。これにソラは特大の一撃が来る事を察して、自身の取れる最大の防御を選択する。
「<<輝煌装>>!」
「はぁ!」
ソラが<<輝煌装>>を展開すると同時に、スーマルが彼を打ち据える。そして、次の瞬間。一撃で<<輝煌装>>を展開していたソラの防御が打ち砕かれた。
「ぐぁっ!?」
嘘だろう。痛みと共にソラに訪れたのは、やはり驚愕だ。遥か格上の一撃さえ防げた<<輝煌装>>が、たったの一発で破られたのだ。無理もない。
とはいえ、今までの訓練の賜物か一撃での戦線離脱は防げたようだ。大きく弾き飛ばされるだけで済んでいた。が、それでも十分にバーンタインが立て直す時間は稼げた。
「よくやった!」
「すんません!」
バーンタインのねぎらいに対して、再び防御に回れる準備に入ったソラが謝罪する。そうして、この後も暫くの間ソラはバーンタインと共に神気を解放したスーマルとの戦いに臨む事になるのだった。
お読み頂きありがとうございました。




