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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第98章 演習編

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第2721話 合同演習編 ――対炎拳――

 皇帝レオンハルト主導で行われていた合同軍事演習の三日目。そこで冒険部は午前中はバーンタインの支援を行うべく後方待機。午後からはその回復を待って前線に出ていた。

 そうして前線で戦いを繰り広げていたのであるが、午後に入って早々にレジスタンスの戦士達が戦場に介入。カイトとソラの二人はスーマルとソンメルの二人と戦う事になってしまう。というわけで、弟ソンメルとの空中戦になっていたカイトの一方。兄のスーマルとはソラが戦う事になっていた。


「まずは小手調べだ。どの程度か見せてみろ」

「っ」


 スーマルの拳に宿る炎に、ソラは僅かに身を固くして防御の姿勢を整える。これにスーマルはソラの防御の上から軽く――無論彼にとって――殴り付けた。


「ぐぅ!?」


 何だこれ。ソラは過日のアスラエルの一撃を思い出す。それも恐ろしいのは、<<太陽の威光(ソル)>>を使った上でもこの威力だというのだ。とんでもない出力だった。そんな一撃を真正面から受け止めたわけであるが、ソラは地面を大きく抉りながらもなんとか停止する。これに、スーマルは感心した様に頷いた。


「ふむ……消し飛びはしなかったか」

「消し飛ばすつもりだったんっすか!?」

「もし見込み違いであれば」

「……」


 ぞっとする。ソラはまるで見込みがなければ興味もなかったと言わんばかりのスーマルに背筋を凍らせる。


(いや、何がスーマルさんの方がまだ勝率があるなんだよ! どっちかってとこっちのがヤバいだろ!?)


 間違いなく冷徹さであればスーマルの方が上。ソラは素振りからそれを理解する。が、これはカイトから言わせればソンメル側は下手に調子に乗ると確定で死ぬ可能性があるのでこちらの方が厳しい、との事であった。とはいえ、幸いな事に少なくとも興味を失わせる程度ではなかったようだ。スーマルが一つ詫びる。


「とはいえ……試すような真似をしてすまなかった。興味があったのは許せ。どうにも俺たちは……いや、これは言わぬ方が良い言葉か」


 少しだけ苦笑するスーマルはティナの事を思い出し、そして同時にカイトの事を思い出していた。その二人が庇護し、育てているのだ。興味がわかないわけがなかった。


「……なんすか?」

「色々とあるのだ、俺達にも。語られぬのなら語られぬなりの……いや、俺達は語られたが」

「……そっすか」


 先程の冷徹さの滲む顔はどこへやらという具合で朗らかに笑うスーマルに、ソラはこの人は冷徹だったりもするのだろうが同時にそれ故にこそ信頼して良い人なのだろうとも理解する。


「ああ……良し。今ので大体わかった。シャムロック様は甘いのでもう少し弱いかと思ったが、十分素養はありそうだ」

「っ」


 来る。ソラはスーマルが改めて構えを取った事からそれを理解する。それに彼もまた盾を前に突き出し片手剣を後ろに引いて、カウンターを狙う構えを取る。


「「……」」


 一瞬。沈黙が流れる。そうして先に動きを見せたのは、当然スーマルだ。


「ふっ」


 軽やかな動きで地面を蹴ったスーマルはしかし超速でソラへと肉迫。速度としては先程より少し速いぐらいだったが、宿る炎の勢いは先を大きく上回っていた。これに、ソラは正面衝突は不可と判断する。


(真正面からは無理! なら!)

「<<風よ>>!」


 炎を宿す拳が振り抜かれる直前。ソラは風の加護を起動させて自らの周囲に風の流れを生じさせる。自らの増強は出来ずとも、風の操作ぐらいなら出来る。それを利用するつもりだった。


「む」

「おらよ!」


 唐突に吹き荒び僅かにだが勢いを弱める事になったスーマルの拳を、ソラは余裕を持って盾で弾く。そうしてがら空きになった胴体に向けて、水平に近い逆袈裟懸けで斬りかかった。これにスーマルは左手の手のひらに火炎を収束させて、それを爆発させる。


「ぐっ!? っ!」

「避けられるか?」


 爆風に吹き飛ばされ弾かれたソラであるが、そんな彼が地面を滑りながら見たのは自身の真上を並走するような形で滑空するスーマルの姿だ。その彼の右手には当然炎が宿っており、今にも振り下ろさんばかりであった。これに、ソラは鎧の角を利用して急制動を仕掛ける。


「おぅわ!」

「ふむ。避けたか……意外と器用だな」


 まさか鎧の角を地面に突き立てて強引に制動を仕掛けるとは。スーマルはソラの回避に感心を浮かべる。その一方、スーマルの攻撃を逃れ大慌てで立ち上がったソラは炎が直撃した地面を見て頬を引き攣らせた。


「嘘だろ!?」


 ソラが見たのは地面が溶岩化している光景だ。こんなものに直撃していたら一撃で戦線離脱は免れなかっただろう。が、そんな溶岩の上にスーマルは平然と舞い降りた。


「……うそぅ……」

「そんな珍しいか? 溶岩の上に立つのは」

「いや、珍しいかって……」


 そんなレベルじゃないでしょ。ソラは改めて相手が常識はずれの戦士だと理解する。これに、スーマルは少しだけ楽しそうに笑う。


「そうか」

「え゛」

「存外面白い奴だな」

「いやいやいやいや!? そんなんで溶岩をまるで水みたいに持たないでくださいよ!?」


 ありえねぇ。ソラは溶岩に手を突っ込んで、まるで水流の様に操るスーマルに思わず絶叫する。その一方で、スーマルはまるで子供が水遊びでもするかの様に溶岩をソラへと投げつけた。


「ほら」

「やぁべぇ!」


 溶岩直撃なんぞまっぴらごめんだ。ソラは大慌てで溶岩の範疇から逃げ出す。流石に溶岩を切り裂く練習はソラもしたことがない。ぶっつけ本番でやりたいことでもなかった。

 そんな彼に、スーマルも少し楽しくなったらしい。何かの戦闘の影響で生じていた巨大な岩石を一つ持ち上げると、炎を生み出して巨大な溶岩石へと変貌させる。


「……冗談っすよね?」

「笑えない冗談は嫌いだ」

「ちっくしょう!」


 言うや否や溶岩石を投げつけたスーマルに、ソラは悪態をつきながらも覚悟を決めて地面をしっかりと踏みしめる。そうして音速もかくやという速度で迫り来る溶岩石を巨大な斬撃で切り裂いた。


「おぉおおおおお!」


 数度に渡って巨大な斬撃を繰り出して、ソラはなんとか溶岩石をある程度の大きさまで粉砕する。が、粉砕すると今度は粉々になった溶岩石が降り注ぐだけだ。故に彼は再度風の加護を展開する。


「<<風よ>>! 加えて、<<氷撃(アイス)>>!」

「む?」


 風の加護はまだわからなくもない。だがなぜ水まで。しかも氷は自身を狙うではなく、ソラの周囲に幅広く展開するのだ。スーマルはソラの思惑が理解出来ず、僅かに小首を傾げる。

 が、次の瞬間。氷が舞い上がり、無数の破片となり降り注ぐ溶岩石と激突。更に細かく打ち砕いた上に氷で熱を奪い、危険性をかなり低減させる結果をもたらした。しかも、それだけではなかった。


「っ!? これは……」


 水の蒸発による一時的な霧か。スーマルは三段構えのソラの策に僅かに目を見開く。彼も何故こんな最下級の氷魔術を使うのにわざわざ口決を唱えたのだ、とは疑問だったが、実はソラは敢えて口決を唱える事でもう一つの魔術を意図的に隠していたのだ。

 そのもう一つの魔術とは水属性の魔術。それで更に溶岩石の熱を奪うと共に大量の水蒸気を発生させ、即席の目眩ましにしたのである。が、やはりスーマルは英雄と呼ばれた存在だ。霧の中でソラが攻撃に転じようとした瞬間、地面に残っていた水の残滓に向けて火炎を放った。


「ぐぅっ!」

「水を残していたのは失策だったな」

「ちぃ!」


 生じた水蒸気爆発で下から煽られ、ソラは顔を顰めながらも空中で再度体勢を整える。が、それを見過ごすスーマルではなかった。


「しっかり受け身を取れよ」

「っ! がっ!」


 重量物が衝突したような轟音が鳴り響き、ソラが地面に叩きつけられる。幸いソラの発生させた氷と水で溶岩こそなくなっていたが、結果彼の身体は地面にめり込む事になっていた。とはいえ、それだからと身体を休められるわけでもない。


「はぁ!」

「っ!」


 自らが地面にめり込むとほぼ同時に急降下してきたスーマルに、ソラは大慌てで回転してその場から離れる。そうして回転しながら地面に手を着いて、更に彼は自らの身体を腕力だけで放り投げた。


「はぁ!」

「ふっ!」


 流石にこの状況で追撃されては堪ったものではない。そう判断したソラは追撃を阻止するべく、スーマルに向けて斬撃を放つ。これは勿論スーマルにより簡単に消し飛ばされる事になるが、僅かな足止めにはなってくれたようだ。彼が着地するまでの時間は稼げていた。


「ふぅ……<<太陽の威光(ソル)>>使ってこれかよ……」


 一方的に攻撃されるばかりで、こちらからは目立った攻撃は出来ていない。ソラはそんな状況に苦い顔だった。といっても元々カイトからも勝てないニュアンスでは言われていたので、ショックはなかったようだ。


(てか<<太陽の威光(ソル)>>なかったらまさかの一発ダウンとかあったんか……? やっべぇな、おい……)


 ここまで何度も打撃を受けても戦闘不能判定になっていないのは<<太陽の威光(ソル)>>を使っているから。ソラはスーマルの一撃の重さを改めて理解して、なるべく無駄な力は使わない様にしようと心に決める。そうして僅かな睨み合いが生じるわけであるが、今度はソラの側からスーマルへと攻め掛かる。


「おぉおおおお!」

「む?」


 勢い良く突っ込んでくるソラに、スーマルは僅かに小首を傾げる。この程度のタックルを避けられない道理はなかったし、何より真正面からでも受け止められる。それはソラもわかっているはずなのだ。故に彼は何か策を考えているだろう、と判断。だからこそ、正面から受け止める事を選択する。


「……」

「<<嵐神の一撃(スサノオ)>>!」


 そう来るだろうとはわかっていた。ソラはスーマルの実力と自身への興味から、必ずスーマルが正面から受け止めようとすると判断していたようだ。故に彼は左手の盾に仕込んだ仕込み刀に素戔嗚命(スサノオノミコト)の力を宿して解き放つ。が、それでも。スーマルには届かない。


「ほぅ……良い一撃だ」

「マジすか」


 どうやら威力そのものは凄まじいの一言で間違いなく、スーマルも流石に防御に回らざるを得なかったらしい。彼も右手に力を込めて、<<嵐神の一撃(スサノオ)>>の一撃を防いでいた。が、ここまではソラの読み通りだった。故に彼は僅かな驚きから一転、笑みを浮かべた。


「じゃぁ、もう一発どうっすか?」

「なに?」

「<<太陽神の一撃(アマテラス)>>!」


 目を見開くスーマルに対して、ソラは右手の<<偉大なる太陽(ソル・グランデ)>>を握りしめたまま拳の先に魔力の杭を生じさせる。

 そうして、次の瞬間。ソラに宿っていた太陽の力を媒体として、日本人の総氏神としての縁を利用して天照大神(アマテラスオオカミ)の力を杭に装填。容赦なくそれを解き放った。


「ぐっ!」

「どうだ! 俺の新技!」

『昔からあった技を少し組み直しただけだろう』

「うるせぇ」


 閃光と共に解き放たれた一撃に打たれ飛んでいったスーマルに向けて、ソラは会心の笑みを浮かべる。これが直撃したのはやはり、彼がカイトや<<無冠の部隊(ノーオーダーズ)>>の面々と模擬戦を何度もしていたからだろう。

 どうしても彼らのような格上の存在が演習や模擬戦をしてくれると、相手はこちらの手札を切らせてやろうという老婆心とでも言うべき心情が働くのだ。それは彼らの実力に対する絶対の自信の顕れでもあったが、それを理解していたソラはもう一枚通用する可能性がある手札を用意しておいたのである。


「……ふむ。見事ではあったな。今のは中々に効いた」

「……いや、どこがっすか?」

「」


 今度は演技やらが滲んだものではなかったらしい。ソラは思わず素で聞き返していた。無論流石にスーマルも直撃なのでノーダメージとはいかなかったらしいが、それでもダメージと呼んで良いかは微妙な程度だ。敢えて言えば転けて擦りむいた方がダメージが大きいかも。その程度である。


「ここらが地面に激突した際に擦りむけた」

「それ、俺の一撃じゃないっすよね!?」

「いや、それは許せ。咄嗟に僅かに本気になった」

『っ! まさか、御身は……』


 本気。そう言うと同時に僅かに漂う神気に、<<偉大なる太陽(ソル・グランデ)>>が何かに気が付いたようだ。驚きの様子を見せる。


「シャムロック様から噂には聞いていた。会えて光栄だ、<<偉大なる太陽(ソル・グランデ)>>」

『こちらこそ光栄です』

「え? 知り合い?」

『いや、違う……が、彼のお父君かお母君は知っている』

「どういうことだ?」


 どこか敬うような様子を見せた<<偉大なる太陽(ソル・グランデ)>>に対して、ソラは困惑気味に問いかける。これに、<<偉大なる太陽(ソル・グランデ)>>が教えてくれた。


『小僧……あの方は正真正銘半神半人の英雄だ。炎神に連なる者だ』

「父の名は炎神アイリブ。その一子だ」

『アイリブ神の……確かに思えばその(かんばせ)にはアイリブ神の色が』

「あまり似ていないと言われるがな」

「マジかよ……」


 どうやら自分は知らず半神半人の英雄と戦わされていたらしい。ソラは<<偉大なる太陽(ソル・グランデ)>>とスーマルの会話でそれを理解する。


『気合を入れろよ、小僧。アイリブ神の御子であるのなら、あの実力も納得だ』

「これ以上入れられねぇわ……」


 元々英雄相手に戦うつもりでやっていたのに、この上半神半人という属性まで付いたのだ。ソラはかなり辟易していた。とはいえ流石にここで逃げ出せるわけもなく、ソラは仕方がなく更にスーマルとの戦いに臨む事になるのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

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