第2715話 合同演習編 ――小休止――
皇帝レオンハルト主導で行われていた合同演習三日目。そこでカイトは当初は重特機を駆りながら八大ギルドの一角である<<天駆ける大鳳>>戦っていたものの、重特機をパージしてからは大型魔導鎧の戦団と戦う事となる。
というわけで途中で合流したアベル率いるブランシェット家の獣人機の戦団と共にハイゼンベルグ家とアストレア家の大型魔導鎧による戦団と戦っていたわけであるが、それも暫くして趨勢が定まっていた。
「マスター。これ以上手出しは無用かと」
「うん?」
「全体的に見て、趨勢は決しました。おおよそこちら陣営が優位かと」
「そうか……頑張った甲斐がある」
先にアイギスが指摘していたが、ブランシェット家の獣人機だけだと防衛側の戦力に若干足りず負ける可能性は高かったらしい。
が、そこにカイトというか魔導機が加わった事により、趨勢は攻略側に傾いたというわけであった。と、どうやら防衛側もそれを理解したのだろう。交戦していた大型魔導鎧の一機から、閃光弾が放たれる。
「……閃光弾か。目眩ましか」
「イエス……まぁ、魔導機には意味がありませんが」
「ほんと、魔導機様々というべきかね」
閃光弾による目眩ましをコクピット周りに施された防御機構の力で半ば無力化しながら、カイトは一瞬だけどうするか考える。が、ここで深追いするのは得策ではない、と判断したようだ。ライフルを腰の所へと架橋する。
「追撃はしかけないのですか?」
「流石に、これ以上突っ込んでも良い事は無いだろう。何より、そろそろヤバそうだ」
「……イエス。そうですね。そろそろ開始から三時間近く……想定ではそろそろ、防衛側の増援が到着してもおかしくない頃です。一度小休止を挟む事を提案します」
重特機を使って更にその後は魔導機で戦い続けていたのだ。ここから先で防衛側の増援、即ちレジスタンスの猛者達と戦わねばならない事を考えるのなら、カイトも小休止を挟んでおく方が得策と言えただろう。とはいえ、流石にそれでもこの場ではいさよなら、は言えない。なので一応アベルに確認を取っておく事にした。
「アベル。大丈夫か?」
『問題はない。これでも軍の准将だ。鍛えている』
「そうか……オレは一旦ここらで引こうと思う。暫くは前線を預けても良いか?」
『問題はない。流石に公ほど進行速度に影響は与えられんとは思うが、こちらとて公爵の一角。それも軍事を専門にしているんだ。何があってもなんとかはしてみせよう』
「なら、任せる」
アベルの返答にカイトはそれなら引いても大丈夫か、と判断。獣人機を筆頭にしたブランシェット家の艦隊から背を向ける。そうして虚空を蹴って飛び出して、彼は後方に待機していた空母型飛空艇に着艦した。するとすぐに、整備兵が彼を出迎えてくれた。
「お疲れ様です。相変わらず凄まじい戦果ですね」
「ありがとう……が、流石に少し疲れた」
「逆に疲れなかったらおかしいですよ」
カイトの正体を知らない整備兵が、カイトの言葉に笑う。というわけで、魔導機の整備を彼らに任せるとカイトはアイギスらと共に整備の邪魔にならない様に魔導機を降りてパイロット用の休憩スペースで休ませて貰う事にする。
「はぁ……ティナ。現状の報告を頼む」
『うむ……まずは一発説教からで良いか?』
「内容はわかってる……が、あれ以上重特機は使えないだろ」
『それは余も理解しておるが、手荒に扱うでないわ』
カイトの言葉は正論だったし、さりとてティナの言う事もまた正論だ。単に彼女も手荒に扱わず持って帰ってこいと言いたいだけであった。
「そりゃ、悪かったとは思うが……あそこでああやるのが一番だった。実際、おかげで更に後ろに控えていた大型の集団はオレに注力する事になり前線まで出てこなかっただろ?」
『それは否定はせぬよ。おかげでブランシェット家が大きく切り込めた。暫くはあちらを主軸として戦線を押し進められようて』
結果論だったのかもしれないが、兎にも角にもカイトのおかげで防衛側の大型魔導鎧の主力部隊は後方で足止め。前線を支える事が出来ず、結果その他マクダウェル家や諸侯達の艦隊は大型魔導鎧に邪魔される事なく防衛側の艦隊を撃破していく事が出来ていた。結果オーライという所だろう。
「だろう? まぁ、今回は結果オーライって所で一つ」
『……まぁ、しゃーないか。時間も無いしのう』
そろそろ増援が到着してもおかしくない頃合いなのだ。あまり下手に雑談に時間を掛けすぎた場合、満足に休息も取れていない状況でレジスタンスの面々を相手にしなければならなくなるのだ。
それはカイトとしてもごめんだったし、ティナもその厄介さはわかっている。ここらで今回は切り上げる事にしたようだ。
『とりあえず現状じゃが、まぁ見ての通り<<天駆ける大鳳>>とは相変わらず交戦中。向こうも艦隊戦にもつれ込んだはもつれ込んだんじゃが……』
「何かあったか?」
『流石に八大の飛空艇は性能が高い。ま、それでも余が直々に設計したこの艦隊には負けるがの。問題はそこより内部の冒険者じゃのう。流石にこればかりは如何ともし難い差が存在しておるのでのう』
「攻め込むに攻め込めないのか」
ティナの発言から得られた情報を基にして、カイトはマクダウェル家側が攻め手に欠ける事を理解する。まぁ、それは本来カイトだったりティナだったりするわけであるが、ここでその二人が動けないのだ。なので基本は従者達がやっているが、こちらも数に欠ける。結局、どちらも決め手に欠ける展開になってしまっていた。
『まぁ、そうじゃな。そりゃ、従者勢でも中枢の奴ら連れて来れば話は早いが』
「流石に演習でウチが総戦力出すってのもな」
『そういうわけじゃのう……いや、そんな事を言ってしまえば八大に匹敵する貴族ってなんじゃ、って話になるんじゃが』
「まー、ウチだし、って言えば全部が納得されるのが悲しい所」
今頃観覧の大使達はさすがはマクダウェル家と褒めそやしている所だろう。カイトはそう思う。勿論、そんな戦果をマクダウェル家以外が挙げられるわけもないし、挙げられるのはマクダウェル家だけだからこその称賛だ。それをおかしいと思わないのは中々に異常事態だろう。
「ま、良いや。兎にも角にも流石にウチはここで足止めか」
『足止めというかなんというか……どちらかといえば余らが足止めしてるようなもんじゃが』
「あいよ……とりあえず、クズハ達の身の安全を最優先にしておいてくれ。あの二人がやられたらその時点で終了だからな」
『わかっておるよ。そのために色々と手は打っておるからのう』
「それなら結構」
今回の演習において、総大将の撃破は問答無用の敗北条件に指定されている。なので本来はマクダウェル艦隊もブランシェット艦隊も後ろに下げておきたいのだが、如何せんこの二つの戦力は馬鹿にならない。防衛側が全戦力を防衛に投じられる以上、出すしかなかった。
「ふぅ……で、諸侯は?」
『まぁ、流石に皇帝の御前試合とも言える状況で手抜きはしておらんよ。分相応の戦果と言う所かのう』
「ここらで目覚ましい活躍をしてくれる所が一つ二つあっても良い所だが……」
『多少は目覚ましい戦果を挙げておる所はあるよ。が、それも想定の範疇を大きく逸脱するわけでもない。敢えて言えば麒麟児や伏龍と呼ばれておった者達が相応の場を得て頭角を現した、という所じゃ』
「めぼしい所があれば、後でリストアップしておいてくれ。接触したい所もあるかもだからな」
ティナの返答にカイトは後で全体的に見て判断するかと決める。
『それで良かろう。そのために余も後ろで控えておるしのう』
「助かるよ」
『もっと褒めて良いぞ?』
「あはは」
少しだけ冗談めかした様子で告げるティナに、カイトは笑う。そうして少しの間休憩を取ったカイトであるが、そんな彼が問いかける。
「そういえばティナ。ウチ……冒険部側は?」
『そちらなら先ごろトリンより報告が入った。定刻通りには出撃できそうとのことじゃ』
「そうか……どうすっかね」
『まぁ、お主はどちらでもよかろう。このまま魔導機を動かしても良いし、冒険者として個別に動いても良い』
現状、引いたタイミングも相まって冒険部が前線に出る頃合いにはカイトも丁度再出撃が可能になりそうではあった。ならタイミングを合わせて合流するのも手だろうし、逆に敢えて別れ魔導機を駆って突破口を切り開くのも手だろう。
「……そうだ。そういえばホタル」
『なんでしょう』
「お前、確かオレの代わりに魔導機使えるんだったな?」
『可能です。基本、動作確認は私が代行していますし』
当然だがカイトとていつでも予定が空けられるわけではない。なので時と場合に応じては魔導機の試験をホタルが代行している事もあり、カイト以外にも彼女も動かせる様になっていた。
「だったよな……この後もそれで頼めるか?」
『了解です』
『なんじゃ。冒険者として出るのか』
「最終日も少しは活躍している所を見せておかないとな」
『む……そういや、今日はお主としては一つも活躍しておらんのか』
「まぁな……流石に鳴り物入りで喧伝されている身としちゃ、三両日ともどっかで活躍はしておきたいのよ」
『政治じゃのう』
カイト個人の全体で見ればこの二日でかなりの活躍はしているが、その中の幾らかは例えば神使としてだったり今日の魔導機のパイロットだったりと『天音カイト』ではない存在として動いている事も多かった。なのでここらでもう少し『天音カイト』としての評判を稼いでおくかと考えたらしい。
「政治だ……面倒だが」
『ま、それならそれで良かろう。こちらがやる事に変わりはないじゃろうからな』
「任せる……っし。やりますか」
そうと決まればここでのんびりもしていられない。カイトは一つ気合を入れ直すと立ち上がる。とはいえ、このまま直行というわけではなかった。
「とりあえず飯食ってから、だな」
『そうせい……が、あまりガッツリとは食わん様にな。後悔するぞ』
「したくねぇなぁ」
後悔するような相手はもうレジスタンスの面々しかいない。それとの交戦は可能ならば避けたい所だった。というわけで、カイトはため息を吐きながらも空母型飛空艇の食堂へと向かって、軽めの昼食を摂って冒険部に合流する事にするのだった。
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